モブ死神に憑依したみたいです   作:神話オタク

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CRUSADE(5)

 天満と業平、穂華に恋次と共にマスキュリンを倒した市丸が合流し、一番隊舎のあった方向へと走り出す。

 道中は、仕方がないとはいえ未だ聖兵がうろついており、四人はそのヒトの波をものともせずに突破していく。聖文字を持つものが出てくるかとも予測していたが、拍子抜けするほど雑兵しかいなかった。

 

「良し絶好調だ、さすがの能力だな織姫さん」

「ふぅ……敵はまだまだいますね」

「そうだな」

「けど、確実に近づいてるなァ」

 

 そして、指定された場所へとやってくるとそこにはまるでそこが王座であると言わんばかりの泰然自若の状態で椅子に縛り付けられている戒められた男、藍染惣右介がこれまた拘束されているとは思えない程に穏やかな表情で天満たち四人を見つめていた。どうやって移動したのか、元一番隊舎の外へと出てきており、天満たちは敵ではないと思いつつも警戒する。

 

「久しぶりだね稲火狩天満、私を捕らえたことで昇進したそうだね」

「お陰様で……京楽隊長と随分おしゃべりしていたようですね」

「ああ、彼と騎士団の団長と言うあの男との語らいも無間に囚われた後ならばそれなりに楽しめるものだ」

「……それで、京楽隊長を使ってまで俺を呼び出したのはどういう理由ですか?」

「力を貸そうと思ってね」

 

 その言葉に市丸が警戒を顕にする。彼もまた藍染惣右介という男を他よりは理解出来ている。泰然自若であり唯我独尊、まるで自身こそが天に立つことを宿命付けられたのだと周囲に知らしめるかのような態度、そんな男が一人の男に対して()()()()だなんて何の冗談だろうか。

 

「そう身構えなくていいよギン──元より私を不死にしてまで生かしたのはこのためだろう?」

「そうですけど、俺はあなたが協力してくれるだなんて思って生かしたわけじゃない」

「……ほう?」

「生かしておけば障碍たるユーハバッハを砕くために動く、その事実を識ってるだけですよ」

「キミは……やはり私の思った通りの男だ」

「失望しましたか?」

「まさか、私はこれでもキミのことを買っている。できれば敵に回したくないとね」

 

 天満への評価に市丸は眉を僅かに上げて驚きを表現した。

 敵に回したくはない。それは微細ではあるものの藍染惣右介が稲火狩天満を恐れているという事実であった。今の言葉の流れの何処にそれが現れているのかは解らないと首を傾げる穂華に藍染はほんの数秒視線を向けて、天満へと視線を戻した。

 

「中々優秀な部下を連れているようだね」

「まぁ俺のブレーキらしいんで、浮竹隊長曰く」

「賢明なことだ、キミも浮竹も」

 

 藍染もまた、天満のことを独りにするのは危険な存在だと認識していた。彼は守護者であり救世主としての性質を持ち合わせている。守護者としての性質は藍染が見守り、育てたと言っても過言ではない黒崎一護も持ち合わせているが、彼とは違うのは彼が主人公であり勇者であり、英雄であるということ。世界全てにその慈愛と勇気を広げていく稀有な才覚、藍染惣右介が黒崎一護を好む理由でもある。

 ──だが天満には世界への愛情がないわけではないとはいえ、それは人命の上に立っていない。世界のために犠牲になる人物がいるというなら犠牲が必要のない世界を創った方がいいという思想を有している。それをさせないため浮竹は制御装置として二人の部下を付けた。諫言を放つことのできる業平、そして慈しむべき、振り返るべき存在である穂華を。

 

「私と共に来れば、その戒めから解き放ってやろう」

「現在進行形で戒められてるヒトに言われても……」

「現行の歪んだ世界を私が破壊し、キミが新しい世界を創る、キミも心の底では望んでいることだろう?」

 

 天満はその言葉に拳を握り込んだ。藍染は自分が世界の理の破壊者であることを自覚してるし、天満としてもそう位置づけている。逆に言えば黒崎一護は維持を司るものであり、稲火狩天満は創造を司るもの。創造は破壊と表裏一体であり破壊を司る藍染とは相性がいいのである。

 

「……天満さん」

「天満」

「──すみません、どうやら俺にはそれは無理みたいです」

「そうだな……キミはそう言う男だ」

 

 だがその手を、藍染と共に世界を創り変えるということは、戒めを解き放つということは後ろにいる二人を殺すということである。

 そして制御装置とは、天満が神に成るための生贄でもあるのだから。浮竹がそれを想起していたわけではないが、その肺に住み憑いた異形が持つ「停止」の意思が、現行の不全の神に成り代わる可能性のある存在を押し留めているのかも知れないと藍染は思考した。

 ──その時、藍染の視界に新たな人物の姿があった。少年のような姿、だがその瞳は深淵のような底しれない色を持っていた。

 

「ふぅん、キミが藍染惣右介かぁ」

「おや、どうやらお客様のようだね」

「──ですね、市丸さん、みんな退()()()()()()()

 

 天満の言葉に全員が親衛隊以外の要注意人物の中で最も危険で、誰よりも天満本人が勝つことが不可能だと断じた人物だと気付かされた。それと同時に市丸を含めた三人が瞬歩で距離を空けていく。

 修正力で救護詰め所にでも現れるかと考えていたがまさか自分たちの前、つまりは「特記戦力」の前に姿を現すとは、と天満は汗を掻く。

 

「キミは僕のことも識ってるんだね稲火狩天満、陛下が想像もしてなかった敵……それに虚圏も尸魂界も現世も纏めて手に入れようとした藍染惣右介の二人……()()()()面白そうだ」

「彼は?」

「僕は聖文字“V”夢想家(ザ・ヴィジョナリィ)のグレミィ・トゥミュー」

「──能力は空想が現実になる、です」

「成る程、キミが警戒するのも頷ける」

 

 その瞬間、藍染惣右介の拘束具が外れる音がした。それには藍染も驚くしかない、椅子から立ち上がった彼はまるで()()()()()()()()()()とでも言うような表情をした後にその瞳に危険な色を宿らせる。

 原理なんて単純だった。天満は既にそれがどういうことなのかを判別していた。ただグレミィは想像した──藍染惣右介の拘束が既に外れているという想像をしてそれが現実になったというだけのこと。

 

「キミたちが二対一でも関係ないよ、指一本で相手にするなんてチャチなこと言わないよ──指一本だって使わない、()()()()()()キミ達を殺してみせるよ」

「面白い……破道の九十、黒棺」

「ちょ、俺まで巻き込むつもりですか!?」

 

 いきなり周囲に重力の奔流が溢れ出す。天満はそれを斥力を使うことでその黒き闇の中でも立っていたが、グレミィはどうなるんだろうと観察しているとどうやら天満と同じ結論に至ったようで何やら弾く力が働いており「黒棺」を回避するわけでもなく手をポケットに入れたまま笑っていた。

 

「重力の操作なんて想像したのは初めてだよ」

「それはいい体験をさせてあげたのだから、感謝してほしいところだ」

「有り難う、でいいかな?」

「炎輝白星!」

「わぁ、けどゴムボールみたいだね」

 

 天満が白星を飛ばすものの、それがグレミィに当たると地面を転がる。

 それが空想によってゴムボールにされたと理解した天満は、ナックルヴァールの言葉をそのまま引用したくなった。

 想像するだけでなんにも出来ないと笑われるけど、想像だけでなんでも出来る瞬間を見ると、想像が想像で収まっていることがどれだけ幸福なんだろうか。

 

「どうした稲火狩天満」

「アイツはあるものを別に想像してその通りにすることが出来ますが、それに意識を集中させる必要があります」

「……つまり集中をやめればあの戦場に不釣り合いな球体は再びキミの霊圧の塊となるわけだ」

「ええ」

 

 本来、白星と黒星はその質量が崩壊した影響以外で天満の肉体を傷つけることはないが、それは本来ならばの話だ。

 グレミィがその白星で天満諸共吹き飛ばすだなんて想像しようものなら自滅は必至だ。だがそれをものともしない男が隣にはいた。まるで天満の力など意に介さないとばかりに藍染はグレミィとの距離を詰めていく。

 

「彼の忠告を無視するなんて」

「生憎と私の霊圧は彼に負ける程貧弱ではなくてね」

「でもさ……これって破壊しちゃったらある意味()()()()()()()()()()って考えられないかな?」

「──ッ!?」

「藍染!」

 

 それはまさに天満が卍解することでやっと発動できる爆発のミニチュアサイズと言ったところだった。自身はしっかりと地面を隆起させて爆風を逸らしたグレミィはその隆起を解除しつつ笑みを浮かべていたが、その腕が斬り落とされたことに気づき目を見開いた。

 爆炎すらも斬り裂き、グレミィの肉体を易々と斬り落としてみせたその姿は、天満は市丸と戦っていたため目撃しなかったが、隊長格を一人、また一人と地面に落としたあの魔王然とした藍染を彷彿とさせた。

 

「頭の中で殺してみせるならば、その腕は必要あるまい?」

「あれ、もしかして気にしてた? 自分を前にして腕を仕舞ったままの敵がいるなんて想像してなかった?」

「確かにいい攻撃だったが……私を傷つける爆発足り得るには少し質量が足らない」

「そう、じゃあそっちの彼にもうちょっと大きいのを創ってもらえるように頼まないとね」

「……化け物どもめ」

 

 天満はそう毒づく。既にグレミィは腕が再生しており、再びポケットの中に仕舞われる。自称ではあるものの星十字騎士団最強と名乗るだけはある。間違いなく親衛隊を除けば一番強い。そしてその化け物を相手にして一振りで腕を切り落とす化け物が味方という事実にも天満は頭痛がしていた。

 

「俺、この戦いに入っていける気がしないんですけど」

「それはキミが援軍を待って卍解していないからだろう?」

「あんまり鋭いと俺にも理解されなくなりますよ」

「当ててみせようか」

「いいです、もう近くまで来てるんで」

 

 そう言った瞬間、グレミィが想像で生み出した刃の束が全て真っ二つに斬り裂かれた。

 恐らく刀で斬れる硬度だと想像すらしていなかったのだろう、驚きと共に建物の上から刀を構えたその男を見上げた。

 眼帯は既につけておらず、その霊圧は他の隊長をして隔絶している。まさに殺すために研がれた刀のような殺気と霊圧だった。

 

「久しぶりじゃあねぇか、藍染」

「キミとは現世でも会っていなかったね……更木剣八」

「更木隊長」

「暗闇で何処が何処だか解んねぇから出てきてみれば景色は全然変わっちまってやがるが、面白くなってんじゃねェか!」

「彼、強いですよ」

「だろうな、テメェと藍染が雁首揃えてその状態だ、見りゃ解る」

「更木剣八……更木から来た剣八で、更木剣八か──強そうだね」

 

 最強の名を振りかざしたものは同じく最強の名に惹かれる。星十字騎士団最強と自称するグレミィは、死神最強の称号である「剣八」を真の意味で継承した男に向かって、先程とは違う、愉しそうな顔で微笑んだ。

 それを見た藍染は刀を降ろし、皮肉げに笑ってみせた。

 

「どうやら運命の出逢いのようだ、逢瀬を邪魔するのは無粋か」

「そういうことです、では俺たちはこれで」

「あァ……周りでウロチョロされても迷惑だからな」

 

 だが、こうして剣八とグレミィが出会ったということはグレミィの役割もまた変わらないということだろうと天満は藍染と共に去っていく。すっかり夜が来ており、京楽の元へと戻るとハッシュヴァルトはいなくなっていた。

 京楽は藍染が椅子から解き放たれたという事実に驚き、拙いという顔をしていたがどうやら藍染は本当に死神側に立つらしいことを天満も市丸も、全員が感じていた。

 

「私は興味があるんだよ」

「興味、そりゃいいことだけど、それが死神の味方をするのとどういう関係があるわけ?」

「──彼の創る未来が見てみたい。霊王という運命の糸から逃れ、それでもこの世界を慈しむ彼が思う未来を」

「それがキミの期待する未来じゃなかったらどうするの?」

「決まっているさ、その時こそ世界の在り方を懸けて力をぶつけ合うだけだ」

 

 もとより、転輪背負い光背を輝かせる救世主は世界を終わらせ創り変えるものだ。天満は既に霊王の立ち位置に成らずともその創世を遂げていると言ってもいい。基礎はあれど、それを天満はサンプルから思うように積み木の色や形をほんの僅かにアレンジするように、世界に影響を与えている。ならば破壊の神たる藍染はその世界に点数を付け、気に入らないのなら天満と刃を交わすべきだと位置づけていた。

 

「キミも期待しているのだろう京楽」

「何がだい?」

「黒崎一護を生贄にせずとも良い世界へと、彼が導いてくれるのだと」

「……そうだねぇ、でもそれはきっと和尚や零番隊もそう思ってるよ」

 

 京楽の返しに藍染は何も言わずに口許で弧を描いてみせた。彼もまた天満の本質に気づき始めているのだと、そして世界の本質にも。

 もし黒崎一護が和尚の手によって殺され、楔となるという流れが確定しているのなら霊王宮は今頃どうなっているのか、そもそも天満が死神の味方をしているという保証すらないのだから。

 

 




解りにくかったので格戦闘員の動きを纏めてみました
京楽(with藍染)元一番隊舎執務室
砕蜂 BG9と交戦するも敗北、治療中
ローズ&拳西 アキュトロンと交戦中、ナナナが観察中
平子 卍解を使用し聖兵を一掃後、穂華と合流しバズビーと交戦、後に雛森を連れて救援へ 
白哉&ルキア 原作通りエス・ノトと交戦中
狛村 バンビエッタを撃破するも「人化の術」で戦闘継続不可能になる。
檜佐木&白 マスキュリンと交戦するが敗北、白が重傷
日番谷 蒼都と交戦し撃破、しかし疲弊
剣八 卯ノ花を殺し名を継承、グレミィとの交戦
マユリ 浦原に技術開発局の守護を押し付け……任せて骸部隊を率いて進軍中
浮竹 神掛なう
市丸&吉良 シャズを撃破後バズビーと交戦するかと思いきやバズビーが逃亡、後に市丸は天満と共に元一番隊舎へ
穂華 平子と共にバズビーと交戦するがほぼ敗北、現在は天満と一緒にいる
業平 BG9を撃破し離脱かと思いきや天満班として活動中
織姫&チャド グエナエル撃破後は再び救護詰め所の守護に回っている。
グリムジョー&ネリエル ハリベル救助のため暗躍中

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