モブ死神に憑依したみたいです 作:神話オタク
総隊長である京楽の元に向かったことで天満は現在の戦勝報告を知ることが出来ていた。
倒した聖文字を持つ滅却師はバンビエッタ・バスターバイン、だがこれは死体が発見されていないため恐らくゾンビ化したものと思われる。エス・ノト、蒼都、BG9、ぺぺ・ワキャブラーダ、マスク・ド・マスキュリン、シャズ・ドミノと七名という報告で天満は残りの地上にいる滅却師を挙げていく。
ハッシュヴァルト、ナックルヴァール、リルトット、バズビー、アキュトロン、ミニーニャ、キャンディス、ナナナ、グレミィ、ジゼルの九名、戦闘する気が一切ないハッシュヴァルトとナックルヴァールを除いて七名、うち交戦中の報告があるのがアキュトロンとグレミィ、バズビーの三名だった。
「やっぱり四人残りましたね」
「みんな女性だねぇ」
「彼女たちは一つのチームで動いていますからね、恐らくですがバンビエッタ・バスターバインの死体を持っていったのは彼女たちでしょう」
ジゼル・ジュエルは女性じゃないけど、とは言わずに天満はルキアと恋次のコンビと戦っているバズビーよりも、恐らくアキュトロンの方にナナナがいると予測していた。彼は前回の戦いでローズの観察を終えているだろう、卍解を使われたためその能力も理解しているはずだ。そうするならば危険なのはローズと拳西だろうと京楽へと進言する。
「ロバート・アキュトロンのところへは朽木隊長と平子隊長が向かってくれてるねぇ」
「なんというか……思ってたよりもあっけなく戦力が削れてきてるな」
そう思わずと言った様子で呟いたのは業平だった。幾らバズビーとはいえ霊王宮で本当の卍解を習得しマスキュリンを圧倒した恋次と戦うのは無事ではいられない。同様にアキュトロンもナナナも流石に隊長四人と戦うのは厳しいだろう。残りの雑兵狩りは涅マユリとゾンビとなった破面たちがやってくれるだろう。身構えた程ではない、と思うのが業平の率直な感想だった。
「阿久津業平、それは浅薄と言わざるを得ない」
「確かにこうやってると、楽勝だって感じちゃうだろうけどね」
「……親衛隊というのはそこまで厄介な相手なのか?」
「そりゃあ、親衛隊だからな」
零番隊が護廷十三隊総力よりも上だと言われているように、親衛隊の総力は地上にいる戦力を遥かに上回っている。
聖文字“X”「
聖文字“M”「
聖文字“C”「
聖文字“D”「
聖文字“B”「
この五名に加えて敵ではないと断言できるが恐らく向かえば敵対するだろう石田雨竜、そして残るWの聖文字を持つ「
「前述の五人……石田くん含めてですが、親衛隊に任命されたものたちの最も厄介な部分はその不死性にあります」
「不死性、ですか?」
「うん、まぁ俺の識ってる中で完全なる不死は藍染さんただ一人なんだけど」
「まだ完全には程遠いがね」
「そういうのいいんで、で……まぁ俺が全部語ると危ないこともあるんで伏せたんですが」
目を開くことで全てを貫通させるリジェ、端的に言うと傷つくと回復して更に強くなるジェラルド、ひたすらに分裂と成長を繰り返すペルニダ、完全致死量を操作しあらゆる死因を遠ざけるナックルヴァール、己の能力と「
「そりゃあ拙いねぇ」
「これ、ボクの卍解や藍染隊長でも倒せへんの?」
「……不意打ちなら市丸さんの卍解でペルニダくらいなら、多分」
細胞を溶かし殺し尽くす猛毒だ。分裂させる前ならばなんとかなるだろう。藍染は霊圧でなんでも出来るため防御力は高いだろうが。恐らくリジェの物理法則やら何やらを無視した「万物貫通」は藍染ですら撃ち抜かれるだろうと確信していた。そしてジェラルドに至っては倒せる光景が一切思い浮かばない。
「ならばキミの識る未来ではどう倒した?」
「ジェラルドとハッシュヴァルトは
「……なんだって、それじゃあ」
「ユーハバッハの乱心……としか今は言えないですが、その二人は聖別によって力と生命を吸い尽くされて死にます」
「ならあと三人、殺したヒトがおるってことやな」
「ええ──京楽隊長」
「ん? なんだい?」
「リジェは神の光を放つのが完聖体ということはお伝えしたと思います」
「……神の光、まさかそれを斃すのは」
そう言って京楽はチラリと七緒を見た。そして天満が自分の刀の中に別の刀があることを識っているということまで察した。俄には信じられないことだが、天満は敵味方問わずあらゆる情報を有している。それに違いはないのだと思い知らされた。
リジェを斃すには「神剣・八鏡剣」がいる。それを言葉にせずとも京楽は読み取り、そして藍染は
「ペルニダはその正体と特性を余すことなく涅隊長にネタバレしてるんで、まぁ大丈夫でしょう」
「それじゃあナックルヴァールってやつはどうするんですか?」
「それは」
「──アタシ、っスね?」
「これはこれは……浦原喜助」
「そうしてると違和感バリバリっスね、藍染サン」
そこにやってきたのは浦原喜助だった。どうやら幹部格の索敵が終了したらしく、その場にやってきた彼はそこまでの話の流れとしてあらゆる致死量を操るという特性を駆使しほぼ不死と化し、また領域を区切るという能力を識ってからそれを攻略するには数多の手段が必要だと判断していた。
「アタシは天満サンがもし、敵になった時の対応策を考えてましたから、領域を区切る相手を外から叩く方法もありますし」
「サラっと怖いこと言いましたね」
「またまたぁ、アタシの卍解を識ってるの、この中だと夜一サンと涅隊長、そして天満サンだけなんスから」
天満は苦笑いをする。浦原と本気で殺し合った場合のパターンは幾つか天満も考えてある。彼の卍解と自分の卍解は相性がいいようで悪い部分もある。距離が重要な浦原にとって距離を置いて強力な手段で天満は厄介だし、実は入るだけならば比較的簡単な天満の卍解に穴を空け外からの侵入経路を創れる時点で浦原は厄介だった。
──そんな頭の中での戦いの話は脇に置いた浦原は簡潔なこれまでとこれからの話を受けて一言だけ、確信を持って問うた。
「天満サンは、零番隊を囮にするつもりなんスね?」
「成る程、良い作戦だと私は考えるよ」
「なッ……零番隊を囮に!?」
「七緒ちゃん、落ち着いて」
「そもそも、零番隊を囮って、ユーハバッハは霊王宮へ向かうんですか? 敵の目的とはなんなんですか!?」
「此処で話さないとアナタの信頼は無くなりますよ、天満サン」
我慢できなくなったとばかりの七緒の叫びに、天満は少し悩んでいたが、浦原の言葉に頷いた。
ユーハバッハの目的、それはある意味では天満の横にいる藍染惣右介よりも巨悪と呼べるものだ。それは霊王を弑することで、世界そのものを破壊すること、生と死の循環を壊し、混沌の中に全てを沈めることだと天満は肝心な情報を明かさずに答えた。
「……賢明だな」
「零番隊は離殿さえ無事なら時間が経てば死んでも生き返るので」
「違う違う、七緒ちゃんはお世話になった和尚達に対してキミが余りにも薄情だって言ってるのよ」
その京楽の言葉は意地が悪いようでありながら、京楽自身も疑惑を真実にするための言葉だった。だが、これを話せば、胸の内を明かせばむしろ天満への不信感が募り兼ねないという不安もあった。
──明かすべきか否か、躊躇う天満の背中を二人の手が添えられ、振り返ればもうひとりが穏やかな笑みを浮かべていた。
「俺は生命を護るために、情報を共有しますが……世界のシステムに情なんて湧く程お人好しでもないんですよ」
「世界の、システム……?」
「稲火狩天満は
「言い方が悪いんとちゃいます?」
「フ……印象が悪化するか否かくらいの違いだろう」
悪化したら大問題なんだよと天満は藍染に僅かばかり視線を向ける。だが天満としても零番隊を人でなしと評することに変化はない。少なくとも天示郎と曳舟は血の通った感覚がしたが、残りの三名、そしてその総代とも言える和尚に至っては天満は霊王のメッセンジャーとして最低限の人格があるだけという評価を下していた。
「詳しい話はおいおい、この戦いが終わる頃には伊勢副隊長も識る事実となるでしょうから」
「……ってことは、ボクもかい?」
「京楽、白々しい言い回しはやめにしたほうがいい、キミはもう気づき始めているんだろう?」
京楽が長年の友である浮竹の身体について疑問に思わないわけがない。そこから様々に見聞きした情報と照らし合わせれば、答えは見えてくる。特に禁書に類するものも藍染惣右介離反の後に大霊書回廊の既読履歴の探索を行っていることからも真実に近づくことが出来る要因でもある。
「参ったねぇどうも……此処にいるみんなは識ってるのかい」
「穂華は知らないはずです、市丸さんと業平が教えていなければ」
「し、知りません!」
実のところあまり話に付いていけていなかった穂華がチャンスだとばかりに手を挙げる。それでも天満の迷いは察知して手を添えるのだから凄いなと業平は苦笑いをしていた。
何かしらのきっかけで真実を識った浦原と藍染、そして世界を読んでいる天満と天満から知識を授けられた業平と市丸、その全員が天満が語った残酷なまでの零番隊の在り方を否定しなかった。そのことについて京楽は真実に近いことに気付いていた。
「……なんだい?」
「な、なんですかあれ!」
「隕石、か……彼の想像力とはここまでか」
「想像力は無限大って言いますからね」
「ちょ、ちょっとちょっと……これは拙いんじゃあないの!?」
京楽が思考を打ち切り、そして藍染と天満が冷静に会話をしている中、七緒と穂華、業平が驚愕のまま空を見上げる。そこには超質量の火の玉が遮魂膜を無理やりこじ開けて瀞霊廷へと落下しようとしていた。これ程の質量のものが落下したならば瀞霊廷どころか流魂街も、そして見えざる帝国すらも吹き飛んで周囲がクレーターになること間違いなしという大きさだった。
「伊勢副隊長、結界をお願いします──穂華、業平、
「はい!」
「了解!」
「……ならボクも動くわ」
「戯れだ、私も私の世界を護るとしよう」
その言葉に七緒は意味が解らないとでも言うように口を開けており、京楽は大丈夫だよとその肩を叩いた。
天満はその隕石が途中で砕かれると識っている。今現在、グレミィと戦っている更木剣八がそれを成し遂げるのだと。浦原も技術開発局を通じて隕石の欠片の破壊に注力するようにとの指示を活動中の死神たちに出した。
「成す術が無い? そうだな、てめえにはもう無えだろうさ」
その頃、聖兵を蹴散らしながら隊長の元へと向かっていた十一番隊を率いる一角と弓親の傍にいた草鹿やちるが唐突に姿を消した。
彼女の名前を呼ぶ声、名前のなかった彼女の副官証と死覇装がとある十一番隊隊員の足元に落ちているのが発見されるのはその隕石が砕けてからしばらくしてからのことだった。
「呑め──野晒」
剣八の刀が大鉞へと変化し、その巨大な斧の一撃は大質量の星すらも斬り裂き、なんなく砕いて見せた。
流石のグレミィも驚愕する中、剣八は流星降る空間を威風堂々と立っていた。その姿はまさに、死神最強の称号に相応しい佇まいだと言えた。
──その流れを読んで、天満たちは死神に被害が出ないようにと破片の処理に当たっていく。
「破道の九十一、千手皎天汰炮」
「きゅ、九十番台の鬼道を詠唱破棄してあの威力……あれが藍染惣右介」
「穂華」
「はい、すみません──やぁああッ!」
「破片とはいえ拳で砕くのも十分凄いと思うけど、な!」
「──神鎗」
藍染は鬼道で纏めて打ち砕き、天満は黒星を創り欠片も残さず飲み込み、穂華は飛び上がりその拳を振るって破壊し、業平は水流を飛ばして斬り裂き、市丸は伸ばした斬魄刀で砕いていく。
そうしてしばらくするとせり上がった舞台が崩れ始める。隕石を想像した主、グレミィが斃されたのだろう。すると次に何が起こるのかは識っている。
「どうやら残りの四人とやらのお出ましだ」
「……穂華?」
残りの四人、一人を除いて女性の滅却師で組まれた五人のチームが更木剣八を確実に殺すためにやってくる。
そしてその雷鳴を見た穂華の表情に業平は、彼女が斬魄刀の具象化で何をしていたのかを思い出し、冷や汗を掻いていた。
キャンディス・キャットニップ、彼女は戦士でも暗殺者でもなくなった穂華にとって、唯一心の底から
さすがに霊王の欠片とは言えない。