モブ死神に憑依したみたいです 作:神話オタク
だから恋に堕としていく。
腕に包まれ、赤錆に塗れていった女が醜く縋る姿がこの世で最も美しい。
穂華の斬魄刀であり彼女の母の斬魄刀でもあった「五色燕凰」の本来の姿は金色の転輪を頭に浮かべ、五色に輝く、様々な鳥類を複合したような姿をしている。そして穂華の卍解はその「五色燕凰」をまるで身に降ろしたかのような姿に変化していた。瞳は金色に変わり、倒壊した建物の基礎から身体を出すキャンディスを睥睨する。
「卍解──極煌聖凰飛翼ノ熾臣」
「ちょっと姿が変わったからってチョーシ乗ってんじゃ、ねぇ!」
すかさずキャンディスは完聖体となり背中の羽を投げつける。彼女曰く小ワザの「ガルヴァノ・ジャベリン」は、彼女が手を払ったその熱風で消し飛ぶ。
それに驚いた一瞬の隙に、既に穂華は拳を彼女の頬に叩き込んでいた。先程の卍解する前の「刻燕」よりも勝る程の威力で吹き飛ばされ、建物を幾つか貫通して叩きつけられたキャンディスは激昂する。
「クソがぁあああ!」
「無駄です」
次は神聖矢による連撃だったがそれを彼女は自分の周囲に霊圧による乱回転した風を起こすことでそれを弾いていく。次は手すらも使わず、弾いていったことに対してキャンディスのプライドは音を立てて崩れ、同時に眼の前で冷えた目をして常に此方を見下ろしてくる穂華に対して、強い怒りを宿していた。
「おい稲火狩天満、これを予想してたか?」
「いいや、してない……アイツは本当に天才なんだな……たった数週間でもう自分の卍解を完全に操ってる」
「いい評価だな、ありゃ並の完聖体は越えてるぜ」
「よし、三十秒したら卍解して止める。巻き込まれたくないならミニーニャ・マカロンと、戦ってる筈の業平にも伝えといてくれ」
「うまいもん食わせてくれた礼だ、頼まれてやるよ」
そんな衝突の余波を防御しながら、リルトットは天満に問いかけ、姿を消した。天満はリルトットが去った後に立ち止まりその感情が荒れ狂う二つの霊圧に身震いをする。二人を同時に止めるにはそれこそ卍解してもギリギリ、もしくはもう手遅れかも知れないとすら感じていた。
「なんかキャンディちゃんとあっちのヒト、ヤバい感じじゃないですかぁ?」
「あーあ、こうなると……天満が止めるだろうな」
「業平クン、ここだと巻き込まれちゃうかもよ?」
「そうだな」
リルトットが飛廉脚で移動しつつミニーニャを目視で見つけるが、戦闘しておらずミニーニャが無理やり椅子にしただろう瓦礫の山に二人仲良く並んで座っているというその異様な光景に目を疑った。同時に彼女の脳裏に既に稲火狩天満によって消滅させられたぺぺ・ワキャブラーダの能力がかすめた。精神支配系の能力者、そんな警戒をしつつ彼女は二人の前にやってきた。
「おいミニー……ってなんで敵と一緒に呑気に見物してるんだよ」
「リルか、天満に言われてきたのか?」
「気安く呼ぶんじゃねえ……食われてぇのか」
「卍解するんだろ……俺なら安全圏が解る、こっちだミニー、リルも」
「うん」
「何がどうなってるんだよ……説明してくれるんだろうな
「勿論だ」
業平は確認されていない滅却師の四人がグレミィを倒したもののボロボロになるである剣八の息の根を確実に止めるために姿を現すと天満から聞かされた時点でこの作戦を伝えていた。それは彼女たち四人のうち三人を
「
「ああ、この血だって戦争の、親友の役に立つなら使ってやる。その覚悟が卍解まで導いてくれたんだ」
「そうか……魅了したなら、殺さないでくれ。彼女たちはやってもらわないといけないことがある」
「おう……織姫さんが治してくれて助かった、これで卍解の二つ目の使い方が出来る」
「頼むぞ親友」
「アテにしていてくれよ、友よ」
──リルトットは気付いてすらいなかったが、ミニーニャと業平がいた瓦礫の下には既に
「誰かが戦ってる──ってこれは天満さんの卍解!?」
そうして二人を魅了し引き剥がしただろうと信じ、三十秒後に卍解をし始めた際に天満にとって幸運であろうことが起こった。
天満が卍解したその範囲内に丁度黒崎一護が巻き込まれていた。それを感じ取った天満は自らが星に乗ることで光の速さで一護の元へと向かう。
「一護くん」
「天満さん! 悪い、遅くなって」
「それはいい、降りてきていきなりだけど手伝ってほしい」
「ああ、なんでも言ってくれ!」
「あの二人を止めてほしい」
「あの二人?」
一護が首を傾げたのと同時に恐ろしいまでの霊圧のぶつかり合いに天満の宇宙空間内が震えるような感覚がする。
穂華とキャンディスは二人の空間が天満によって区切られたこともお構いなしに攻撃をぶつけ合っていく。プライドを傷つけられた怒りと彼を生死の境へ追い込んだことへの怒り、それはもはや滅却師と死神であること、戦争であることを忘れる程にお互いへの殺気で埋め尽くしていく。
「ガルヴァノ・ブラストッ!」
「睨越、そして穿鶴!」
天満が親指で差し示した先で戦う二人の衝突に一護は非常に嫌そうな、面倒なことにいきなり巻き込まれたなという顔を露骨にみせた。だが天満的には本来全員を相手にするところを一人だけにしてるんだからという気持ちで、あっさりとあの二人はお互いを殺すまで止まらなさそうなんだよ、と口にした。
「……あれを止めろってのか?」
「出来るでしょう、今のキミなら」
「じゃあ自分の仲間を止めてくれよ、俺は滅却師の方を止める」
「そのつもりだよ」
その言葉を放った瞬間、一護の姿が天満の視界内から消え、キャンディスが「ガルヴァノ・ジャベリン」で刺突しようと突進しているその手首を掴んで天満の創り出した小惑星のような星に向かって投げ飛ばした。
穂華がその突然の横入りに驚き止まった瞬間にその眼の前に天満がやってくる。眼の前に彼がやってきたことで怒りが急激に冷えていき、穂華は元の彼女の雰囲気に戻っていった。
「あ、天満さん……?」
「穂華、もういい……お前の怒りを知れて俺は嬉しかったよ、有り難う」
「……は、はいっ!」
「そんな風にスグ止まってくれる相手なのかよ、あいつ」
「まさか」
一護の問い掛けに天満が答えた瞬間、一護の頭があった場所に神聖矢が通り過ぎていく。それを首の動きで回避した彼は仕方ないとばかりに背中の刀を右手に持って土煙の中からキャンディスが出てくるのを待ち構えた。
「──ンだテメェッ! 突然出てきやがって!」
「俺は黒崎一護だ!」
「誰だよ!」
「……なぁ天満さん」
「ああいう子が、ユーハバッハのだからって相手の情報とかイチイチ覚えてると思う?」
「そうかよ」
天満が言うには自分は「特記戦力」として和尚や浦原等と共に数えられる人物の一人だった筈だがフルネームですら反応しないという事実にそれが嘘だった可能性を背中越しに伝えるが、そもそも今戦っていたメンバーの中で一護の名前を出して反応するのはリルトットくらいなのだから仕方のないことである。更木剣八が作戦なんざ知るか! と断じたのと同じ理屈と考えればまだ納得は出来るか。
「天満さん、仕方ないからもうちょい卍解維持しててくれるか?」
「勿論、思う存分暴れてくれ」
「……ああ!」
そんな一護を見送った穂華がゆっくりと卍解を解除していく。翼が剥がれ落ち、光輪が溶けて消え、彼女の姿が元に戻ると同時に手の中に小太刀程度の刀身の斬魄刀へと戻っていった。
元に戻った穂華に対して天満は何を言おうか少し迷ったものの原作でルキアの「白霞罸」を褒めた白哉を参考にさせてもらうことにした。
「凄い卍解だったな」
「……有り難う御座います! この卍解があれば、天満さんのこの空間でも戦えると市丸さんにお墨付きもいただきました!」
「成る程……それは、俺にとっても有り難いことだ」
天満はその卍解の特性上味方を呼び込むことはできない。星の操作は出来るが技の規模として他者に気を遣えるような技が少なく、天満自身も卍解状態の重力渦の防御に身を任せている状態なのだから。結局霊王宮での鍛錬で卍解のコントロールではなくその渦の操作を身につけることで天満は爆発的に攻撃力を増加させているのだが。
「けど、まだ鍛錬不足だ」
「解っています、この卍解を天満さんのお傍で存分に振るえるよう、精進します!」
「そうしてくれ」
「天満さん、もういいぜ!」
どうやら決着がついたらしく、天満が卍解を解除する。藍染はそんな天満の卍解を内部で観察し、以前よりも格段に領域維持による霊力消費が抑制されており、また本人の防御も強くなっていることを理解していた。その重力渦があり一対一の空間ならば間違いなく自分と戦うことすら可能だろうと彼は天満の力の伸びが既に護廷十三隊隊長のソレを凌駕していることに気付いていた。
「……業平、その話マジかよ」
「ああ、天満からの話だ。今の内に
「ミニー」
「じゃあ、またねえ」
「おう……ご苦労様、清龍」
気絶したキャンディスを回収しに向かったミニーニャとリルトットと別れ、業平もまた卍解を解除する。錆が浮いた斬魄刀を納めた。穂華の卍解の影響も終わり、再び雨が降り始めた空を見上げて、敵であるユーハバッハの悪辣さと天満がどうあろうとあの男だけは殺すつもりで動いている二つの理由のうちの一つを理解して、遣る瀬ないなと呟いた。
「──黒崎一護」
「……なんだ?」
そして、その瞬間ユーハバッハの声が聞こえる。天満はその天へと昇る一筋の光を見て、この戦争の第二幕が始まることを確信した。
一護が降りてきたことこそがユーハバッハが霊王宮へと侵入するための経路になっているということ、そして霊王宮へと侵攻することを告げた。
「どうやらキミの視た未来の通りになるようだね」
「なってくれなきゃ困ります……まぁ幾つか時系列が前後していることもありますが」
例えばジゼルと涅マユリの戦いは既に終わっているが本来ならばユーハバッハが上へと侵攻した後に行われる戦闘であるし、そもそも藍染惣右介が無間から上がってくるのはそれよりも更に後なのだから。
そして一護が尸魂界へとやってきたのも少し早いし、そうすればユーハバッハが上に行く時間も少しだけ早い。彼の眼が開く時間がどうなるかは知らないが、和尚の運命は変わらないと確信も出来る。
「おや……石田雨竜、彼はユーハバッハの側近になっているようだね」
「滅却師ですからね」
「すると彼……いや彼の父親が最後のピースというわけか」
「なんで解るんですか」
「彼のこともまた、黒崎一護を観察する上では欠かせない要素だったからね」
「その辺は、運命の流れに身を任せておけばいいんですよ」
「ふむ……」
藍染にとってそれは酷く退屈なことではあったが、有意義な思考を得る機会でもあった。もし自分がこの後、解放されたとしても霊王宮に興味などないし、それをユーハバッハが乗っ取って支配するというならもっと上に行く理由がない。
だが自分は最後にユーハバッハと戦うという役目、あるいは運命を背負っているのなら彼はまた此処に帰ってくるのか、それは何故なのか。未だ不確定な要素が多く分析する時間を有していた。
「……その様子だとヒントは野暮ですね」
「ああ、勿論だとも」
これで天満としては最初の段階をクリアしたことになる。負傷者は多く、結局血気盛んだった十一番隊の隊士たちはその多くが犠牲になった。だがそれを取り上げるのは最強の戦闘集団たる更木隊にとっては侮辱でしかないだろう。
犠牲になった隊長、副隊長は狛村左陣、そして剣八の名を受け継ぐための必然だった卯ノ花烈の二名にとどまった。
「業平、どうする?」
「清龍ももうちょっと暴れたいって言ってるからな、なんとか織姫さんに頼んでみるよ」
「穂華」
「私は、天満さんと共に在ります」
「じゃあ、俺たちは最後の仕事が残ってる……聖兵の掃除だ」
「ボクも手伝うわ」
彼が最後に選んだのは華々しい前線ではなく、未だ危機が訪れるであろう四番隊救護詰所などの防衛だった。
地味ではあるが、本来の役割をこなせることに少しだけ期待している自分がいることを自覚しているのだった。
次回から聖戦の後編が始まります!
色々解説です。
丹塗矢穂華の卍解「極煌聖凰飛翼ノ熾臣」
「五色燕凰」を纏う感覚、スリットのある刑軍装束とチャイナドレスの間の子みたいな蒼と紅の装束に身を包み、黒と白の羽を六対、そして金色の眼と転輪を背負う。
能力は五色炎舞を身体と羽で放つという単純なもの。走と打が格段に上昇する。イメージ的には超強化された瞬閧が卍解みたいな。
使うことはできなかったが天満の卍解の技を完全無効化する能力が存在する。ある意味天満メタ。
業平の魅了
水を体内に侵食させることで催眠的に業平の「魅了」への耐性を強制的に下げる外、体内の霊圧操作を乱すことも簡単に出来る。ブルートがメイン武装の滅却師には最悪の能力。
オリキャラ組の元ネタ。
天満:菅原道真の「火雷神」から斬魄刀の基礎ができて、本人の名前も稲火狩天満となった。
業平:ずっと言ってるけど在原業平、菅原道真とは友人関係だった。
穂華:丹塗矢伝説+ほのいかづちの音と稲穂から名前は取ってる。元々は島田宣来子(道真の妻)の要素もあったけど削除。