モブ死神に憑依したみたいです   作:神話オタク

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千年血戦篇も、これが最終話です。


VANARGAND(4)-WELCOME TO NEW WORLD-

 ユーハバッハにとって、未来は変えられるものだ。眼に映る未来全てを掌握できるユーハバッハにとって未来を変えることは容易いことだ。藍染惣右介との戦いでもそれは変わらない。彼の力である「全知全能(ジ・オールマイティ)」にとって「鏡花水月」など恐るるに足らない些事でしかない。

 

「随分と早い到着だ……視えていたぞ、お前達が来ることも、その剣が元に戻っていることも、そして──それが再び折れている事も」

 

 だが、それは罅が入るだけで卍解を披露した時のような折られ方はされなかった。驚きの表情をする一護を見て天満と市丸はその戦いに介入する。する必要はなさそうではあったが、今回一度も対峙してこなかった敵のボスという存在に対して天満は多少の興味があったというのが本音だった。

 

「稲火狩天満……市丸ギン、貴様らのことも視えているぞ!」

「そうかよ……炎輝天麟!」

「だが貴様らが来たところで未来は変えられん!」

 

 黒の奔流が()()を呑み込んでいく。弾かれ、天満は能力をフルで発動して漸く吹き飛ばされる範囲を狭めるのみだった。たった一撃で市丸も天満も傷だらけで、恋次は吹き飛ばされ、一護もフラフラの状態で刀を構える。満身創痍、その言葉がピッタリだった。一護も恋次も、マトモに動けるはずがない程の傷、だがそれでも未来を護るために戦う意思は消えない。

 

「瀕死だな一護、見るに耐えん」

「一護くん!」

「稲火狩天満、貴様も同じだ……矮小な神の残滓よ」

「なん……!?」

「その傷、随分とリジェにやられたようだな……何故そんな傷で戦う、誰が来たところで未来は何も変わりはしないというのに」

 

 見るといつの間にやら自分の身体が傷だらけになっていた。おそらく天満が卍解しない理由をリジェによって痛めつけられ、()()()()()()だと判別したようだ。

 仮に無理やり卍解したところで、その輪を砕けばいいだけだ。ユーハバッハにとって稲火狩天満はもはや脅威にも値しない。

 

「射殺せ──神鎗」

「卍解、双王蛇尾丸!」

「貴様らもだ、市丸ギン、恋次!」

「グ、クソ……!」

「まだ理解できんか、始解だろうが卍解だろうが役に立たん、全て未来に於いて既に砕かれている」

 

 市丸の「神鎗」も恋次の「双王蛇尾丸」も全て砕かれ、折られる。それは対策だとか理解だとかいう範疇を越えた、概念や理に近い能力、連続性のない未来すらも引き寄せ、そしてそれを選択する。運命を選ぶ能力、まさに全知であり全能の能力といえた。一護と恋次、天満と市丸、そして藍染がいたとしても到底、勝てる見込みすらない。

 黒の奔流が恋次と市丸を襲おうとするところで、それを弾くのは藍染惣右介だった。

 

「藍染! お前が二人を庇うか!」

「──破道の九十九、五龍転滅」

 

 藍染が放つ最強の鬼道、地脈のエネルギーを可視化し、そのパワーで敵を粉砕する技だがそれもまたユーハバッハには通用しない。

 そこで藍染が直接攻撃に出て、そこに天満が寸分の狂いなく合わせて同時攻撃に派生していく。だがそんな攻撃に対してユーハバッハは叫ぶ。全てが無駄なのだと。

 

「貴様らの刀も全て……既に折れているぞ!」

 

 藍染の「鏡花水月」にも、そして天満の右手の長刀も左手の小太刀からなる「炎輝天麟」も、同じように罅が入っていた。だがそんなことはお構いなしと突貫した天満と藍染は黒の奔流を纏った掌底により吹き飛ばされてしまう。地面に背を付け、転がっていく天満が、藍染を見るとそこにはもう既に彼はおらず、瞬歩で何処かへ移動していた。

 

「──無駄だ、それも視えているぞ一護」

 

 腕を失った一護の一撃、だがそれもユーハバッハは看破していた。恋次と一護の入れ替えによる渾身の一撃はユーハバッハに防がれ「天鎖斬月」に致命的な程の罅が広がり、そして全てが砕け散っていった。そして、そのまま一護の身体をユーハバッハの腕が貫いていく。

 

「……さらばだ一護、お前の抵抗は心地良かった、せめて尸魂界と共に滅べ」

 

 明らかな致命傷、そして一護の瞳から光が失われ、彼の腕で腸を貫かれたまま刀から手を放した。市丸と天満は満身創痍で倒れ伏して動けない。誰も、もう負けが確定したのだ。ユーハバッハはそう確信した。

 そして一護の右腕がユーハバッハの腕に置かれ、その言葉を放った。

 

「……そうか、黒崎一護に視えているか」

「──?」

 

 一瞬の虚、ユーハバッハは目の前で起きたことが理解できなかった。その隙が全てを決した。

 市丸も天満も催眠に掛かってはいるものの、天満は原作を識っているが故にその瞬間のみ、ユーハバッハの「全知全能」による未来視を凌駕していた。ユーハバッハも視えなかったのだ、彼らがいる状態で、彼らが催眠下にあることを解った上で()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ということに。

 

「月牙、天衝ッ!」

 

 今度こそ、一護の渾身の「月牙天衝」がユーハバッハの身体を両断する。その刀は罅すらも入っておらず、そして天満が手許を見れば、そこには僅かながら罅の入った左手に長刀が、右手に小太刀が握られていた。何も言わなかったのに、意図を理解したことへの恐ろしさを感じつつも、天満は作戦の成功を確信した。

 

「──まずまずだ、よく私の鏡花水月に瞬時に対応できたな」

「……尸魂界(こっち)に来る途中から違和感を感じてた。あんたがみんなに鏡花水月をかけた時の感覚だ」

 

 藍染惣右介が「鏡花水月」を発動したのは椅子から解放されてすぐのことだった。そうして彼は一人三役をこなしていったのだ。本来「鏡花水月」は在るものを無いように、無いものを在るように見せる能力はない。故に彼は恋次と一護が早々に到着したように装うために霊圧知覚を錯覚させ一護、恋次、そして本人の全てを自分で成り立たせていた。

 そして天満の傷と左右を反転させていたのを元に戻すという細かな変化を用いて未来視による斬魄刀の完全破壊を免れていた。

 

「流石だな、稲火狩天満」

「言ってないで、まだですよ」

「何……藍染、天満さん!」

 

 地面を埋め尽くすように溢れ出した黒と夥しい眼に覆われ、藍染は今度こそ苦悶の表情を見せる。そして天満は回避しようとしたものの未来視の能力故か、全く予想だにしなかった場所からの黒によって同じように呑まれていく。

 そして一護がたった今、両断した場所から再度、ユーハバッハのようなものが溢れ出し、口を開いた。

 

「……鏡花水月が解けたな、慢心か限界か……なあ一護、あんなもので私に死を与えられると思ったか?」

 

 一護もまた攻撃を行おうとするが、突如として「天鎖斬月」を弾き飛ばされる。ボロボロになったそれを拾いに行こうとするものの、黒い奔流に阻まれ、侵食されていく。そのまま黒い影は瀞霊廷を覆い尽くし、遮魂膜を破壊し、流魂街や現世にも影響を与え始める。今度こそ終わりか、手詰まりかという時、ユーハバッハの影法師を銀色の矢が貫いた。

 

「──なんだ、これは」

 

 石田雨竜が放ったその鏃は「静止の銀」と呼ばれる「聖別」によって選ばれなかった滅却師の心臓に出来る銀の血栓を集めて造られたものだった。静止の銀は「聖別」を発動したものの血、つまりはユーハバッハの血と混ざることで、撃ち込まれた全ての能力を一瞬だけ無にすることが出来るというものだった。

 それに貫かれたユーハバッハは、一瞬、ほんの一瞬だけ何も持たぬ只の滅却師になった。

 

「黒崎!」

「一瞬……私の力を止めたから何だ!」

 

 だが再び、ユーハバッハは「全知全能」の力を取り戻しつつある。それが、天満の識っているよりも()()()()()ということも。まさか、ここで改変の影響かと、静止の銀の鏃によって黒の海から脱した天満は身を引きずり、このままでは未来が変わり、()()()()()()()()()()()()()()がやってくるのかと一護の死を感じた。

 自分の改変のせいで、霊王の意思が失われた? 一護を生かすという運命が変わってしまった? だがそんな疑問よりも最初に天満の口から出た言葉が存在した。

 

「ご免、炎輝、天麟──卍解、炎輝天麟星皇創世ノ嘶」

「……なに? 未来が……!?」

「ああ……成る程な、()()()()()()()()()()()()

「稲火狩天満──ッ!」

 

 天満の卍解「炎輝天麟星皇創世ノ嘶」にはほんの一部しか知り得ない隠された最後の能力が存在する。即ち「運命を零にする能力」だ。運命という重力を伴った流れをその卍解を発動している間、無重力状態にすることで天満が望む創世を叶える。それが彼の卍解の能力であり、それは過去を改変する「ブック・オブ・ジ・エンド」や既に起こったことを逆転させる「完全反立(アンチサーシス)」、そして現在を誤認させる「鏡花水月」と同じようにユーハバッハの「全知全能」に対して有効となる。天満の卍解の中にいるユーハバッハの視た未来など、何処にもない、一寸先には闇だけが広がっていた。

 

「──間に合ったな」

 

 手を伸ばし、ギリギリで「天鎖斬月」が砕けたと思った。だがそこには「真の斬月」が眠っており、その刀身が姿を現した。鞘と刀を一つにする卍解、それが一護の「天鎖斬月」ならば、鞘の下には「斬月」が在る。そして、その斬月こそが、ユーハバッハの視た未来に起きたことそのものだった。

 ユーハバッハが両断されたタイミングで、天満も霊圧的な限界のため卍解はすぐに解除され、彼の傍に斬魄刀が転がり、そして砕け散った。

 

「……有り難う」

 

 そこで、稲火狩天満の意識は閉ざされた。

 だがユーハバッハの最期は天満の識るものと全く同じだという確信だけは胸の中にあった。

 大戦の集結、それは、またもや英雄黒崎一護の一刀によって幕を引かれることとなり、そして天満が目を覚ましたのはそれから二日経った頃のことだった。

 

「よっ、おはよう天満……穂華! 天満が目を覚ましたぞ」

「あ、て、てん……天満さん!」

「穂華……業平」

 

 最後の戦いは人的被害こそ無く終わったが、その分瀞霊廷にも尸魂界にも甚大な被害が出た。

 特に藍染惣右介が放った「五龍転滅」とユーハバッハの力の奔流、この二つは建物どころか大地も、瀞霊壁すらも破壊し、到底ヒトが住んでいた場所とは思えない程の破壊をしていた。

 

「救護舎は無事だったんだな……」

「ああ、鉄裁さんが禁術相当の結界を張ってくれたんだ」

「な、成る程な……」

 

 天満は立ち上がり、状況を伝え聞かされた。今回重傷として救護舎のお世話になったメンバーは一護、恋次、織姫、ルキア、そして天満と市丸という状況だった。上で死闘を繰り広げた隊長たち、特に腕を失う怪我をした剣八はもう既にくっつけられて元気に十一番隊の指揮を取っている。彼だけは第一次侵攻時に復隊すら困難と言われた怪我から復活し卯ノ花と殺し合い、その後グレミィとの戦いで内臓に重篤なダメージを受けても檜佐木や一角たちと同様にほぼ完治しそしてペルニダとの戦いで全身の骨や肉がぐちゃぐちゃになったというのにジェラルドとの戦いに参戦、そして腕を失う怪我をしたというのに、天満より軽傷扱いだった。

 

「隊長ってのは、どいつも化け物だな、本当に」

「全くだ」

「動いても大丈夫なんですか?」

「ああ、問題なさそうだ」

 

 そして、情報を整理し終わった瞬間に、天満の脳裏に別の情報、記憶が流れ込んでいく。それはまるで斬魄刀を通じての零番隊からの情報共有のようにも思えて苦い顔をする。

 終結から二日経ったということは「真世界城」に塗り替えられた零番隊離殿も元に戻ったということでもあり、それはほぼ不死身である彼らが復活したということでもあって、火事場泥棒が発覚した頃でもあった。

 

「そういえば、藍染は?」

「いや知らないが、おそらく別室で封印されてると思うな」

「まだ無間に収監する準備すら整ってないやろ」

「……市丸さんも丈夫ですね」

「自分でもびっくりしとるよ」

 

 つまりは藍染の収監よりも先に目覚めてしまったということは、京楽に呼び出されることが決定したんだなぁと思う瞬間でもあった。とはいえ、一言どころか言いたいことは死ぬほど、山程あるため呼び出されたならば断る理由もないが。

 そこで、天満は更に来客がやってきたことに気づき、力のない笑みで迎えた。

 

「どうも、浦原さん」

「……天満サン、どうやらご無事なようで」

「井上さんと四番隊の力があれば、死にぞこないくらいの治療なんてワケないって信じてますからね」

「率直に言います、今回の結末を天満サンは目指していたんスか?」

 

 浦原の顔は、どうやら見舞いに来たというわけではないことは理解できた。彼の瞳にあるのは最初に出会った時のような不信感がありありと籠められていた。だがそれも仕方ないことだ。全ての先を知っていたのは市丸と業平のみ、おそらく藍染にはその観察眼によって見抜かれているが、浦原には今回の結末は全て伏せていたのだから。

 

「だって、浦原さんはそうでもしないと()()()()を認めないでしょう?」

「……今の、ってそういえば、霊王様は亡くなられたんじゃ……」

「それはまた説明するよ」

()()を納得してるんスか?」

「一護くんよりはマシでしょう。それか銀城空吾の寝首でも掻けばよかったんですか?」

「──ッ! まさか、そんなところまで」

「ええ、まぁ原作(マンガ)じゃ明かされなかった部分でもありますけどね」

 

 霊王は死んだのにどうやって世界が維持されているのか、一護の力とは、銀城と一護が特別な理由とは。その全てが明かされるのは原作の「BLEACH」ではなくスピンオフのノベライズだとはぐらかすように答える。

 浦原が訊ねたいことはどうして、というものだった。どうしてあんなものを代替品にするという未来を選んだのかと。霊王を護ればよかったのではないのかと。

 

「そうすれば浮竹隊長は死ななかった?」

「……そうです、それに、ユーハバッハが霊王宮を乗っ取ることも、あの力を手に入れることもなかった、違いますか?」

()()()。時計は進めなくちゃいけないし、霊王の正体を京楽隊長や他の隊長達に知ってもらう必要があった」

「どうして?」

「腸を見せてこそ、清くて正しい世界ってのは回るもんでしょう?」

 

 微笑を浮かべた天満の瞳の色に、浦原はほぼ無意識に一歩下がっていた。

 本人も自称していたことを忘れていた。浦原はこの密度の濃い時間の中で天満と関わる上で忘れていたことがあったことを思い出した。

 ──眼の前に居る彼の魂魄はなにかを間違えれば藍染惣右介以上の危険因子なのだと。そして今のこの世界が、元は紡がれるはずだった世界を識り尽くした稲火狩天満が創り変えた世界だということを。

 この世界で本当に「神殺し(ヴァナルガンド)」を成し遂げ新しい世界を創り出したのは、一体誰だったのかと。

 

 

 




ユーハバッハ討伐!

実は天満って名前に古来から信仰された神格を有しているんですよね。
古今東西に神格を持つ「神鳴り」から転じた言葉である「雷」と人間の繁栄の原点である「火」
後は彼の「星」もまた、古くからの信仰対象でしたね。


ということで次回!「Can't Fear Your Own World 」の異聞篇が始まりますよ!
同タイトルの小説版を読んだことが無い方は、割りとちょいちょいしてきましたけど、ここから先はむしろネタバレじゃない箇所が無くなるのでご注意願います!
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