モブ死神に憑依したみたいです 作:神話オタク
激闘が終わり、浦原商店の地下勉強部屋には空座町にいた戦力たるほぼ全てがそこに集結していた。店員である握菱鉄裁、紬屋雨、花刈ジン太の三名、そして空座町駐在任務の十三番隊隊士行木竜ノ介と斑目志乃、そして彼らを浦原商店まで連れてきた「仮面の軍勢」にして現在は「うなぎ屋」の見習いをしている猿柿ひよ里。そこに休暇中だった十三番隊五席稲火狩天満、その監視兼護衛も努める同隊十席の阿久津業平、十三席丹塗矢穂華、そして巻き込まれた九条望実。
そんな集まりを見つめ、檜佐木修兵は冷静に現状を整えていた。
「襲撃の日に呑気に望実ん家に居るわけがないでしょう?」
「……いやだが」
「天満さんが白と言っているのに疑う余地が……もしや檜佐木副隊長は敵に操られているのでは?」
「穂華、座ってた方がいいよ」
檜佐木は女性二人のやり取りを横目で見つつ気を取り直し、事態を頭の中でまとめる。浦原を襲った完現術者、道羽根アウラという人物、そして空間を区切った雪緒、そんな人間達を裏で操っているのが「産絹彦禰」という謎の存在に共通する四大貴族当主となる男、綱彌代時灘──彼が何をしようとしているのか檜佐木にはまだ完全に理解は出来ていないが、あの浦原から関与を疑われてる男、という時点で檜佐木の警戒は解けない。
「浦原さんって、胡散臭い癖に妙にこうやって信頼されますよね」
「ムカつくことにな」
「解りますか猿柿さん」
「……ってお前誰やねん」
「稲火狩天満です」
「──お前! アレやな、市丸とつるんどるヤツ!」
ひよ里の言葉に檜佐木も天満の交友、十三番隊所属外の人間関係を知ってる範囲で並べていく。彼は十席時代から、おそらくその以前から当時の三番隊隊長だった市丸ギンと何らかの交流があるが吉良は知らなかったと言っていた。だが乱菊が酒に酔って口を滑らせたことによると旅禍事件の際、隊長達の間で有耶無耶になってはいるが一護の味方をした挙げ句に市丸の手引きで脱獄し、その流れで雛森を護っている。その縁で十番隊の隊長である日番谷共々顔見知りであり、卯ノ花、虎徹勇音と共に清浄塔居林に隠れていた藍染惣右介と対峙したという話も乱菊から聞かされていた。
そして先遣隊がきっかけで一角や弓親、恋次と交流が出来、妹のルキア繋がりであり旅禍事件の際は刀を交えた白哉とも関わっていた。そして京楽との交流の最初期は檜佐木も把握出来ていないが、影狼佐による侵軍たちの反乱の際は卯ノ花、京楽、浮竹と共に行動をしており、京楽からの信頼も得ているのは彼の情報を元にあれこれと策を練っていたという前提から解ることだった。
「思い出したわ! 俺は下で滅却師の残党を尸魂界から追い出しますとかカッコつけたフリしてビビって下残っとったモブ男!」
「とんでもない印象付けられてますね!」
「モブ男だから印象付けられてないけどな」
「業平、どっちの味方だよ」
コントをBGMに檜佐木は恐ろしい事実に気が付き身震いをした。彼が隊長や副隊長と面識を広げて下準備をしていたことにではない。
何故だか知らないが檜佐木はこれまで避けられてきていたということに気付いたのだった。具体的に言えば檜佐木が彼をしっかりと認知し始めたのは東仙要が離反してから、それまでは徹底して九番隊の前に姿を現していないのだ。故にほぼ常に行動を共にしていた七番隊狛村ともあまり接点がない。そして雛森と交流が出来たのが平子が隊長として復帰してからということであり藍染との接点は持っていなかった。このことから、彼は
「浦原さんが攫われちゃったって言った時は焦ったけど、まさか稲火狩隊の方たちが居てくれるなんて……ラッキーでしたね!」
「稲火狩隊ィ? なにそれ」
「志乃さん同じ十三番隊なのに知らないんですか? 実体は五席を中心とした席官三人、隊士数名の部隊なんですよ?」
「あたしらが可城丸六席の部隊なのと同じってこと? なんでそんな名前が……」
「その稲火狩五席含めたこちらのお三方は連携もすごくって、しかも一人一人が大戦で活躍した隊長クラスなんですよ!」
キラキラとした竜ノ介の視線を受けて業平が苦い顔をする。中隊とか言いつついつも隊士置き去りで仕事任せてこうして三人で移動することが多いため、下の隊士たちからはそれほど尊敬されているわけではない。特に書類仕事となると唯一の救いが業平であり、机に向かうより鍛錬してる時間が圧倒的に多い天満、真面目だがやや事務仕事に不安の残る穂華の三人なのだから、虚退治ならいざしらず、日常において特に後者二人が尊敬される要素はほぼないに等しい。
「そんなんより、お前は……確か拳西んとこの副隊長やんけ。確かに市丸とつるんどるのは気に食わへんけど、なんでコイツを敵視してんねん」
「確証はねェけど……そいつは浦原さんを攫ったヤツと繋がってる可能性がある」
「だから──鉄裁さん」
「如何致しましたかな、稲火狩殿」
「どうやら檜佐木副隊長は俺が居ては動けないようなので、俺の四肢を
「……なんと」
押し問答になり始めていることを感じ取って天満は鉄裁が唱えることの出来る最強の縛道「禁」で自らの拘束を提案する。浦原が攫われてパニックなのは理解出来る、敵が自分の実力に対してあまりに強力なこともまた。だが今の彼の目は焦燥と混乱に濁っている。意味のない押し問答をしているのがいい証拠だと天満は鉄裁へと振り返り、そして顔だけを檜佐木へと向き直した。
「……言っておきますが、俺が今ここで卍解をすれば、全員と戦うことだって可能ですからね」
「舐められたもんだな」
「事実です……穂華が俺の敵に回らなければ、の仮定ですが。意味のない問いかけよりも手がかりを探す方が先ではありませんか?」
だが檜佐木は無意識に右手の震えを左手で抑えていた。霊圧というのは指紋や声紋などと同じでその個人個人で差異がある。霊圧知覚はその差異を曖昧ながらイメージで感じることが出来る。檜佐木は天満のそれほど漏れ出てはいないはずの霊圧に畏怖し始めていた。藍染のように圧倒的な黒が自分を覆い尽くすイメージではない。むしろ彼が抱く霊圧のイメージは光だった。だが、その光はあまりに鋭く、光そのものが命を奪う形をしているような感覚さえあるのだから。
「檜佐木殿」
「……すいません、稲火狩の言う通りですよね……何か手がかりを探さねェと」
そこで自分が私怨で天満を疑っていたことに気付かされた。東仙要を生かすのが救いではなかった、などという言葉を残していた彼を少なからずいい気持ちで見てはいなかった。その先入観が檜佐木の目を曇らせていたのだった。個人的感情で真実を追い求めるという気持ちを鈍らせるなんてジャーナリスト失格だと、檜佐木は漸く立ち直ることが出来たのであった。
「カッコつけといて、穂華がって保険かけたのなんなの?」
「いや、穂華の卍解な、俺の卍解と死ぬほど相性悪いんだよ」
「そうなんだ」
「何を言うんですか、相性最高ですよ!」
「何処が?」
「なにせ、天満さんがどれだけ暴れてもその中で私は戦えますから!」
「……ああ、そういうやつ」
檜佐木たちが地上へと手がかりを求めにいった間、天満たちは地下勉強部屋で大人しく雑談を始める。冷酷無比なまでに範囲内の敵味方関係なくその創星の力によって蹂躙してしまう天満の卍解だが、穂華の卍解には敵対されると勝てるかどうか危うくなる程の能力が存在していた。
「だいたい現世で気軽に卍解しようとしないでくれよ、五席殿」
「解ってるよ」
そんな天満達の気の抜けた談笑をしていると、何やら叫び声があがる。天満はそれを店のカウンターに置いてあったメッセージを伝えるための球体が置かれているのを発見したのかと僅かに目を向けた。
そこに書いてある文字は「アウラさんの信者を探して下さい。恐らく『柱』を持っています」というもので、かつて尸魂界へルキアを助けに行く一護達に向けて届けられた血のような文字が浮かび上がる球だった。
「なんかそれ……ダイイングメッセージみたいですね」
「……穂華、ちなむとなその球には定型文があるんだよ」
「定型文ですか?」
「P.S. 今、これを見てダイイングメッセージみたいとかありきたりなことを思った人は、ツッコミの才能がないです──だそうだ」
「どんまいだな、穂華」
「望実ちゃん……私、ツッコミの才能ないのかな」
「悪いけど穂華にあると思ってる人はいないと思う」
基本的に用件を簡潔に伝えることが出来る道具のため定型文である追伸の方が長くなる上に勝手に消えないという欠点が存在する。家の中で弾ければお手軽に惨劇現場の完成というアイテムでもあり、浦原らしい腹の立つ遊び心のあるものだ。
ともかく、これでアウラが創設した宗教団体「XCUTION」の信者たちが身に着けているチャームが必要となる。全国で七十万人、そのチャームのせいで霊圧が乱れているように感じる上、全員が一般人なため檜佐木や鉄裁、ひよ里達がいれば鹵獲──もとい拉致は容易だ。
「暇だから鍛錬でもするか業平」
「そう言うと思ったよ友よ」
「これ、結構ヤバい状況なのに呑気だね」
「そこはほら、天満さんと阿久津さんだから」
怪しまれているから大人しくしておく、という檜佐木との約束も忘れて天満と業平は剣戟を開始する。お互いの手の内を識って識り尽くしているからこそ、二人の戦いは穂華には美しい舞のように、望実には演目のように感じさせた。その後、檜佐木になんと言われるかということは想像に難くないことでもあった。
そもそも黒幕を疑ってると言うのに斬魄刀を取り上げない時点でなんだかなと望実は切羽詰まっているはずなのにこの状況がだんだん馬鹿らしく感じるようになっていた。
「天満クンたちも……そうかい、じゃあ彼らは関係ないってことだねェ」
「どーだかな、アイツの得体の知れなさは死神にとっても同じことだろーがよ」
「確かに、直接会ったことはないけれどチャドの記憶にあった彼は得体が知れないね」
同じ頃、滅却師、完現術者、破面、死神の四者が西郛外区一番の外れ、志波空鶴邸に集結していた。
空座町が封鎖されているという状況の際、死神側から九番隊副隊長檜佐木修兵、十三番隊五席稲火狩天満、十席阿久津業平、十三席丹塗矢穂華、駐在任務の隊士行木竜ノ介、斑目志乃が巻き込まれているという報告を受けていた。
そこで密かに安堵していた京楽だったが、天満と先の戦争で戦い、そして休戦したリルトットがその警戒心を顕にし茶渡の記憶を挟む際に気をつけようと考えていた月島がそこに賛同する。
「マァ、あの男は有害足り得ないとは思っているがネ」
「おんや、珍しいね」
「……開戦前に稲火狩天満の情報を精査したのは誰だったか忘れたのかネ、総隊長殿。あの男に策謀は不向きにも程がある。ましてや四大貴族と王に成り代わる気概はないヨ──今のところはネ」
「隠し事は苦手って言っとったからな、天満のヤツ」
「ハッ、あの芋顔が信用されてるんだ?」
「誰だろうがどうでもいいだろ、ソイツがいねぇし邪魔にならねぇってんならよ」
「同感だな、居ねぇヤツの話なんざどうだっていい」
今のところは、という言葉こそが涅マユリの最大限の警戒だった。あの男はドミノのようにふとした瞬間に世界の崩壊までの導火線の前に立っている。一瞬だけでも倒れれば、後は誰にもどうすることも出来るはずがない。たった一人の男のたった一つの行動で、護廷十三隊などちり紙程の価値もなく吹き飛ばされることも、彼は考えていた。
「まぁ王サマ創って好き放題しようとしとるヤツなんて、天満が一番嫌いな人種やろ」
「そうだね、うん……平子隊長の言う通りだね」
京楽の肯定に、同意するものは誰もいなかったがそれでもそれは確信に似た言葉だった。
あるとするならば、時灘という存在を炙り出し、利用し霊王という
──それは浮竹を犠牲にせざるを得なかった世界への小さな叛逆であり、天満の感傷でもあるようだと京楽は感じ取っていた。
「お前ら! 斬魄刀振り回して、無実を証明する気あるのかよ!」
「ないですね、めんどくさい」
「適当かよ!」
「檜佐木副隊長、これがウチの五席殿です」
「諦めた方がいいですよ檜佐木副隊長」
そんな身に余る評価を受けていることなど知らず、天満は綱彌代時灘の計画が目の前の男に潰されるという結末の訪れを待つことにするのだった。
尸魂界の土台にある百万年の宿業、それを断ち切る刃は凡庸であって然るべき。重力を操る二刀一対なんていう大仰で飾りのついた斬魄刀を持ち、神の視座を持つ稲火狩天満には、不釣り合いなのだから。