モブ死神に憑依したみたいです 作:神話オタク
アウラの信者たち、新興宗教「XCUTION」の信徒が持つ「柱」──転界結柱の術式が組み込まれていたチャームを解析し終えた檜佐木達はその転移先が空座町の空と叫谷と呼ばれる黒腔内にある霊子の空間であること、それを利用すれば逆に敵の本丸に乗り込むことが出来るということまで解析し終えていた。敵は浦原すらも丸め込んだ実力者、檜佐木はそれでも自分は死神だから行かなければならないと決意を固めていた。
「どうしますか檜佐木副隊長、俺たちは信用ないから置いていきますか? それとも信用できないから監視として連れていきますか?」
「……お前らはどうしたいんだ、自分の意思は?」
「俺は勿論、浦原さんには言いたいことが山程あるので連れて行ってくださると嬉しいですね」
「任務は天満の監視と制御、俺達は五席殿の我儘に付き合いますとも」
「はい、是非ご一緒させていただきたく思います!」
正直言えば、私怨の部分では未だ天満のことは信用していない。本当に連れて行って、突然後ろから刺されるという可能性も無くはない。もしそうならこの現世に置いておけばもっと大変なことになるのかも知れないが。自分の選択に世界の命運が握られているのかも知れない、敵の作戦が決まってしまうのかも知れないというプレッシャーに檜佐木は汗を拭った。
「迷ってる暇はありませぬぞ、檜佐木殿」
「解った……俺と一緒に来い」
「了解しました」
だがいつもなら頼るべき隊長は何処にもいない。拳西も、東仙も、今はもういない。自分で判断して沢山の命を背負わなくちゃいけない、時には世界を救わなくちゃいけない。そんな選択を与えられた檜佐木はそれでも死神として自分が成すべきことをと決意を固めた。
「離れとき、霊圧にアテられて死んでも知らへんで」
結界は死神の鬼道を警戒して造られたものであり、鬼道には対策は立てられているものの虚の力に対する対策は弱い。ひよ里が虚化することで虚の霊圧で道を無理やり抉じ開けるという手段を取ろうとしていた。
ミニチュアの柱を檜佐木と天満、そして穂華と業平の周囲に立て、テッサイが鬼道で虚化したひよ里の霊圧を制御する。
「ご免、望実……また終わったらゆっくり話をしよう」
「別にいい……ただ、無事だったかどうかくらいは連絡しろ」
「解った」
「無理矢理のため時間が数分から半刻単位でズレる可能性がありますが、できるだけ最小の差異になるよう調整致しましょう」
「よろしくお願いします」
「店長を、よろしくお願い致します」
それは必要があれば浦原を見捨てるという言葉を吐いた檜佐木にそれでも頭を下げたのか、或いは天満たちに頭を下げたのか、考える暇もなく檜佐木たちの身体は光に包まれ、世界が塗り替えられるように、その身体が景色の中へと溶け込んだ。
──これは檜佐木修兵が世界の真実、世界の罪、死神の業を知りて尚、自分が敬愛しその足跡を辿る死神としての矜持の為に刃を振るう物語である。
ならば自分の役割はなんなのか、天満は今日ばかりは運命のままに身を委ねることにしたのだった。
「……ここが……叫谷?」
転移した檜佐木が感じたのは正しくそんな感想だった。尸魂界の建造物にも見える周囲に戸惑い、まさか全く別の場所に転移したのかと焦った檜佐木に対して、天満はその豪華絢爛とも言うべき空中楼閣の中心部をぐるりと見渡して、業平と穂華に目線だけで合図して檜佐木から離れていく。
「そうですね、間違いなく座標は転移していますよ」
「あ、おい稲火狩!」
「空座町から出していただいて感謝しますよ、それではお気をつけて」
「待て──!」
檜佐木はその瞬歩に目を開いた。元から天満の方が全ての能力に於いて強いと檜佐木自身も認めていることだが、その側近とも言うべき二人、そのうちの丹塗矢穂華は元隠密機動ということで理解は出来るが、業平もまた天満と穂華の速度についていくことが出来るという事実に、少しだけショックを受けていた。
「……あの霊圧、なんなんですか……?」
「下の更木隊長のことか?」
「いえ……近くの方の霊圧です」
「産絹彦禰のことか……まぁ気にするな、アレとことを構える気はない」
戦闘をしたところで、天満と穂華が全力で挑んで消耗したところを業平がトドメを差すという流れになるだろう。最悪の場合は先に戦った二人は死んでいるということも有り得るのだ。敵はそれほどまでに強大で理不尽で、そしてそれ故に天満が戦うような相手ではないのだ。天満の目的は浦原喜助なのだから。
「さて……この辺でいいか、雪緒社長? 道羽根アウラさん? どっちでもいいんで出てきていただけますか?」
『──キミは、誰だっけ?』
「ああ初めまして雪緒社長、俺は護廷十三隊十三番隊第五席、稲火狩天満って言います」
『……驚いた、初対面の癖に顔だけで誰か解るんだ』
「そりゃもう」
隣では穂華が、思ってたよりずっと若い、というよりもまだ少年のようにしか見えないその金髪の彼を見つめて口を開けて驚いていた。雪緒としても、チェックしていた人物に該当しない三人組ということで警戒をするが、天満が口元を歪めて浦原さんのところまで案内してくださいよ、と交渉を始める。
『そう簡単にハイそうですか、って案内すると思うフツー』
「思わないからそう問うたんでしょう?」
『……キミは何なの?』
「いいんですよ、今ここで……貴方がどうやって道羽根アウラさんの提案を受け容れたのか、浦原さんを引き入れたのかをおしゃべりしても、あぁそれとも──どうやって
『いいね、キミは放置しとくと危険そうだ』
「害するつもりはないですよ、俺の役割はないですし、むしろ俺がいると浦原さんが可能性を考えるのに邪魔でしょうから」
業平はこの会話がもはや交渉ではなく脅迫に近いものだということに苦い顔をした。天満としても無視される可能性があるためこうして気を引くしかないことには心苦しく思うが、原作知識で予知めいた、あるいは策士ぶっていないと優れた頭脳を持つ彼や、浦原と渡り合ってなどいけないのだから。
『解った、キミ達を取り込めばいいんだね』
「今なら綱彌代も京楽隊長と遊んでいらっしゃる頃合いですからね」
そうして天満たちは黒が覆われていく感覚を受けて、次の瞬間には浦原が隠れているコントロール室の内部にいた。
何かを操作している浦原の背中が見え、そして穂華と業平はその精密機械の数々に恐る恐るといった様子で周囲を見渡している。
──天満はそんな後ろ姿に向かって、一言声を掛けた。
「……よくも俺を黒幕候補に入れましたね、おかげで此処まで来る羽目になりましたよ」
「おや、どの道アタシのところまで来るつもりじゃなかったんスか?」
「まぁ休暇が終わって、尸魂界側からコッチに向かう気はありましたよ」
「日付を読み間違えた……と」
「残念ながらね、半年という曖昧な情報しかなかったもんで」
勿論、可能性としては当日ということも在り得た為、浦原商店へと出向くつもりもあったのだが、タイミングが後手に回り過ぎてしまったことを後悔していた。
モニターに映し出された映像からは綱彌代が既に己の家が持っている宝剣「艶羅鏡典」を解放していた。
「……あれが全ての始解を操る斬魄刀、艶羅鏡典か」
「なんですって……全ての?」
「ええ、あの宝剣は全ての斬魄刀の始解を同時に操ることが出来るとかいう反則じみた斬魄刀です」
「全て、同時に……」
業平の独白に浦原が反応するものの天満は素知らぬ顔で、まるで敵キャラ扱いしたことへの嫌がらせのようにあっさりと今、死神も滅却師も破面もを相手取っている斬魄刀の恐るべき真の能力について語った。その反則故にとんでもないデメリットがあるため綱彌代の誰も触れたがらなかった呪いの斬魄刀でもある。
「全てって言うと凄いですね」
「卍解は操れないみたいだが、王悦が打った斬魄刀を全て遍く再現できる……勿論、俺たちの斬魄刀もな」
「それは……貴方の識っていた未来にはありましたか?」
「あるわけないでしょう。恐らくアレは所有者が能力を識るものしか無理でしょうからね」
そうでなくても斬魄刀の数など膨大に過ぎる。天満でさえもし手に入れたとしてもどう扱うかというのは難しいものだった。
浦原の問いかけの意味は理解できた。水流を操り敵を両断する「清龍」、炎を風に乗せて扱う上、一度たりとも使っていない
「元の煙気なんて能力だけで見るなら山本前総隊長殿の卍解である残火の太刀の下位互換の下位互換ですよ」
「しかし、あの場では有効打ッスよ」
「それより凶悪な始解があるでしょう」
「──やはり、鏡花水月ッスか」
強力な始解といえば他には大顎の化け物を呼び出し周囲を貪り喰らう刳屋敷剣八の「餓樂廻廊」や卍解状態の際に融合していた全ての霊子を圧縮して放つことの出来る「雨露柘榴」などが存在するが、前者は既に扱っており後者は前提条件を達成出来ないため使用は出来ない。とすれば、もう綱彌代に在る切り札と言えば藍染惣右介の扱う完全催眠の斬魄刀「鏡花水月」しかない。
「そこまで読んでて……いえ既に識っているのに、手は出さないんスか?」
「解っててそういうこと言うの、意地が悪いですよ浦原さん」
「そうです! 天満さんが集団戦なんてマトモに出来る訳ないじゃないですか!」
「実際その通りなんだが、加減をしてやってやれ、我が友は繊細なのだ」
天満がここでのんびりと綱彌代の戦いを見守っている理由は、そこが勢力入り乱れる集団戦となっているからだった。
現在戦闘しているのは死神勢力が総隊長京楽、サポートに七緒、平子と拳西、剣八に一角と弓親、更には夜一、破面側がグリムジョーとネリエルとハリベル、滅却師はバンビーズ、更には天満の介入で原作よりも顔ぶれが違うが破面と滅却師の混成部隊である涅骸部隊まで加わっているのだから。
そこに加わって、天満が出来ることは多くはない。彼の能力は始解の時からそこそこ敵味方関係なく巻き込みがちな能力なのだから。
「まぁ、此処で墨月暈とか村正なんて使われたら詰みですがね」
「……聞き慣れない斬魄刀ッスね」
「墨月暈は由嶌欧許の斬魄刀です。影狼佐の來空と望実の退紅時雨を足した能力ですね」
とはいえ大前提として識っている能力でなければならないとしたならばどちらの斬魄刀も天満の記憶にしかないため大丈夫なのだが。特に「村正」の能力は斬魄刀の操作であるため、対死神に於いては無類の力を発揮出来るため解号を唱えるだけで戦力の大半が削られることになってしまうのだから。
「もし、その村正という斬魄刀を彼が扱ったらアナタはどうしますか?」
「無論ですよ──俺が殺します」
稲火狩天満の横顔に対して、浦原は少しだけ安堵していた。此処まで観に回りつつも本拠地まで乗り込んでくるのは天満に於いても今までなかったことだ。故に、心の何処かではこの結末が死神側の勝利ではないのではなんという予感すらもしていた。
だが浦原の横でモニターを見つめる彼は万が一の保険として此処にいることを浦原に伝えていた。自分が存在することによる変更点、それが決め手で綱彌代に有利に運ぶことがあれば天満は遠慮なく斬魄刀を抜き、その首を獲って見せると。
「産絹彦禰サンを霊王にする気はないんスね、本当に」
「俺があんないたいけで綱彌代時灘の悦楽と悪意の為に存在する人形を王に据えようとすると? 冗談でしょう」
「失礼しました」
「……あの子はそんなものの為に生まれてきたんじゃあないんですよ」
「天満サン……」
天満にとって「産絹彦禰」は王としての価値はなく、だがアウラの生きる目的、すなわち「愛着」であり檜佐木にとって死神の矜持を今一度思い出し、彼が副隊長らしい副隊長などという評価を覆し「死神の中の死神」となる為に護り慈しむべき命であり産絹彦禰という一人の少年なのだから。
「それに、俺は檜佐木副隊長の矜持は結構好きですよ、カッコいいじゃないですか」
平等に命を慈しみ、命を尊び、またそのために命を浄化するために斬魄刀を振るう。それが檜佐木修兵という男であり、その在り方を形づくるのが死神の象徴である鎌の形状をした斬魄刀なのだから。
浦原はそんな言葉にそうッスか? と微笑みながら返答をしたのだった。