モブ死神に憑依したみたいです 作:神話オタク
思いつきの設定だったのがこうして連載できるのも反応があってこそです!
日間も最高で5位くらいにいたみたいで、嬉しい限りです!
夏が来て、朽木ルキアの発見という報を受けて、天満は思考する。藍染は自分を試した、始解の能力を観察したかったということは恐らく主人公である黒崎一護育成計画に組み込むかという試験でもあったのだろう。そして自分は恐らく
原因としては彼がまだ死神として対人戦に慣れていない状態で、分類してしまえば鬼道系である天満の斬魄刀とは相性がよくないからだと。ならば今後の動きは、とシミュレーションを行っていく。
想定としては一護、志波岩鷲は十一番隊舎がある付近に落ちるため狙わない限りぶつかることはない。茶渡泰虎は八番隊舎前で隊長の京楽と戦闘し早々に戦線離脱する。ここまでは判っていることだった。
不明なのは七番隊四席である一貫坂慈楼坊と戦闘し、後に十二番隊の死覇装を奪い九番隊に紛れ込んだ井上織姫と石田雨竜の二人、そして引率の四楓院夜一だ。
「……まぁ、ここは十三番隊配属に感謝だな」
十三番隊はそれほど旅禍の騒動に関わってはこない。自分から行動を起こさない限りは平気だろう。あって黒猫探しに奔走する程度のことだ。ならばある程度は自由に行動できるということでもある。
──だが天満にとってできることは多くない。藍染を止めることはまずできない。各方面で展開される戦いについていけるかどうかで言うとそうでもない。そして犠牲者も慈楼坊が二度と死神として業務をこなすことができないくらいだろう。
だが自分が何の役に立つだろうか、何を救えるだろうか、漫画の内容が高速で流れていく中で、自分が介入する余地がないことに落胆する。だが落胆の中で、せめて自分の気持ちに従おうと決めたのだった。
「あ、天満さん!」
「どうも花太郎さん、丁度会いたいと思ってたので、嬉しい限りです」
「あ、あはは……敬語とさん付けはちょっと、むず痒いですよ」
「席次も年功的にも俺が下なんで、むしろ山田七席とお呼びするのが正しいんですから」
「それは、そうなんだけど……やっぱりむず痒い、ぼく、こんなのだから割とイジメられっ子ですし」
「十一番隊は基本四番隊には当たり強いですからね」
天満と花太郎の出逢いは十六年前に遡る。偶然ではあったが、彼は鍛錬で骨を折る程の怪我をしてしまい、その際に処置をしてくれたのが花太郎だったのだ。その後は十一番隊に絡まれているところをやんわりと収めたことで、こうして私的な交流が続いていた。
とはいえ、会いたいと思っていたという言葉に疑問を感じた花太郎は首を傾げる。
「それで、どういう用事ですか?」
「いや……少し、花太郎さんの癒やしを受けようと」
「怪我ですか? それとも病気?」
「ああいやいや、精神的な話です」
「……?」
不安はもちろんある。物語として完全に部外者としてこの旅禍の騒動に出くわすわけではないのだ、自分の影響がどれほどあるのか、自分が動くことで、居るだけで何が変わるのかが不安であることは真実であった。
だがソレ以上に彼は、救いたいという気持ちが多かった。ほんの僅かでいい。失われる命を救うほど大きなことでなくていい。
──ただ共に歩くことで、相手の心を救いたい。それが尸魂界編と呼ばれる一連の事件の中で天満がしたいことであった。
「朽木さんが、発見されて……しかも現世の子どもに霊力を譲渡していたみたいで」
「霊力の譲渡って……重罪じゃないですか!」
「だから捜索から保護じゃなくて、捕縛命令に変わるみたいなんです。六番隊隊長副隊長両名によって」
「──お、大事ですね」
「大事です。行方不明になったってだけでも胃がおかしくなりそうだったのに捕縛って」
花太郎に愚痴を吐露するように情報を開示していく。十席には本来知り得ないことまで把握している天満だが事実として彼は事前に市丸にこっそり聞かされているため、これを天満自身が知っていることに対する言い訳は簡単であった。尤も花太郎はそれを疑問に思うことはあっても訊くことはしないが。
「天満さんは悩んでいるんですね」
「……ええ、まぁ」
「もしこれでその朽木さんって方が霊力剥奪、現世追放とかの刑になったらって」
「そりゃあもう、心配です」
「いいえ、あなたは心配しているのではなく……
「──驚きました。四番隊って
その花太郎の指摘に本心の驚きを天満は向けた。そこまで見切る花太郎の冷静さに、そして意思の強さのようなものに眩さすら感じつつ、天満はゆっくりと頷いてみせた。
自由に動けるならその時は、尸魂界すらも裏切ってしまおうか……彼が考えているのはその一点だった。打算ではなく、何か大きな流れを変えることができないのならせめて、自分の心に従おうかどうか、共に研鑽を積んだ朽木ルキアを助けたいかどうか。
「そこまで見抜かれているなら、回りくどい言い方はやめましょうか……俺は、朽木さんを助ける嘆願をしようと思っています」
「嘆願が……聞き届けられなかったら?」
「……霊力を譲渡されたであろう子どもを手引きするのも、視野には」
「──っ! それは、可能なんでしょうか」
「わかりません、全てが不確実ですから、出来る可能性を模索している段階です」
「それを、何故ぼくに?」
「花太郎さんなら、言いつけることなく最後まで聞いてくれそうでしたから」
それだけを言って、最後に天満はありがとうございましたと傾聴してくれた花太郎に感謝を伝えてその場を去っていった。
ほどなくして、朽木ルキアの捕縛完了の報が彼の元に届いた。現在勾留中で罪状は霊力の無断貸与及び喪失、そして滞在超過だ。本来ならば追放か、地下大監獄へ投獄か、というところだが四十六室が出した決定は瀞霊廷に困惑を与えることとなった。
──極刑、二十五日後に双殛にて貫かれる。それが四十六室が降した異例中の異例、その他にも様々な憶測を呼ぶ命令を出したことでこの処刑自体に疑問を声にする死神もいた。だが四十六室に口を出せる死神など居るはずがない。恐らく只一人それを叫ぶことができる朽木白哉は沈黙を続けている状況だった。
そんな眠れぬような夜の日、天満は部下や友人を交えた飲みの帰り、火照りを冷ますために夜風に当たっているところで、まるで花のような香りと共に派手な着物を羽織った男が暗闇から歩いてくる。
「や、確かキミは〜」
「はい、十三番隊第十席、稲火狩天満であります」
「
「京楽隊長に覚えていただけるとは、光栄であります」
京楽春水、上級貴族京楽家の次男坊で真央霊術院卒業生で初の隊長になった男。加えて比較的入れ替わりの激しい護廷十三隊隊長の中では古参と呼べる任期の長さを持つ。
そして彼の最も恐るるべきはその真実を見抜く目にあった。そして朽木ルキアの処刑が決定したタイミングでの接触、天満は一気に身体から
「おんや、酔い覚ましに歩いてるかと思ったんだけど、違ったかい?」
「流石に道端で隊長にお会いしても我を忘れるほどではありませんよ」
「そうかい? 」
「それよりも京楽隊長は無類の女性好きと聞き及んでいましたが、まさか私のような男子の名を覚えていただけるとは」
「……成る程、確かに酔ってはいないみたいだ」
牽制として放ちつつ本題を促すために天満が用意していた言葉。男の子の名前は中々覚えられないと自称する彼に向けるには満点と言っていい言葉でもあった。
京楽は少しだけ真剣味を帯びた表情に変化する。自分がただ偶々出くわしたのではないと看破した相手を、京楽はゆっくりと観察する。
「キミは市丸隊長と仲がいいみたいだね」
「ええ、有り難くも正直迷惑はしています」
「はは、彼、他隊の子にも意地悪しちゃうからね」
「本当に」
「──そしてキミは朽木ルキアちゃんとも、仲がいい」
「そうですね、虚退治をきっかけに共に鍛錬していました」
「ふむ……」
考え込むように顎にたくわえた無精髭を指で撫でる。京楽は今の言葉に嘘はないことを理解していた。だが同時に彼は嘘を吐かずに真実を隠すことが上手な男だと、まるで雲のように掴み所を持たせない男であるとも理解した。
天満にも判っていることは、京楽が問いたいのは瀞霊廷にとって、護廷十三隊にとって、尸魂界にとって敵であるか味方であるかという一点であり、彼もまた答えを用意していた。
「単刀直入に行こう、どっちだい?」
「それは朽木さんの処刑に対してでしょうか、それとも最終的な話でしょうか」
「──参ったね、どうも」
編笠で顔を隠し、京楽春水はその問い返しこそが彼の答えであり彼が全ての顛末を予測しているということを実感させるには十分過ぎるものだった。一方の天満の思考は、市丸との語らいによって回りくどい、言外で語るという技術を習得していたため核心を突くような単語を出すことなく京楽に言いたいことを伝えることが出来たという実感に対して僅かながら感謝を送っていた。
「成る程……キミは、そうか……だから彼は」
その時、彼は僅かであるが確実に、今度は明確に
やはり京楽隊長は知恵者の風格がある。梟のように、見通せる目を持っている。天満にとって京楽は憧れる存在でもあり、また総隊長となっての辣腕は武力はともかくとして政治という分野に於いては現総隊長よりも上だと考えているほどに買っている存在でもあった。
「では、私はこれにて失礼させていただきます」
「ん、引き留めてご免よ」
「いえ、お話できて嬉しかったです……では」
「……お話できて嬉しかった、ね」
振り返ることなく立ち去り、闇夜に消えていく天満の後ろ姿を見送った京楽はポツリと呟いた。
幾ら京楽と浮竹の仲が特別いいと言っても他隊の十席が八番隊隊長と会話が出来る機会はないと言っていい。故に天満の最後に発した謝辞は正しい意味で話しかけてもらってよかったというものである。それは同時に待っていたという言葉の裏返しでもあり、天満の曖昧な言葉たちは京楽に会った時のために前以て用意されていたものだった。
『──思ったよりもあっさりしておりましたね』
「うわぉ……びっくりした、勝手に出てこないでもらえるかな、
『幽霊かと思うじゃないか、と?』
「身体が霊子なんだからほぼ俺も幽霊みたいなもんだよ」
煙のようにゆらゆらと揺れている
びっくりした、と天満は言葉にしたが、心の何処かで話しかけてくるんじゃないかと予感していたため、声を大きくすることもなく己の斬魄刀の言葉に耳を傾けていた。
『曖昧になるのはお止めになりましたか?』
「うん、京楽さんと話してて腹が決まった。俺は朽木さんを助けに動く」
『無意味であると判りながら』
「ああ無意味さ。俺が居ても居なくても結果は変わらない──でもやる。だって俺がそうしたいから」
『そうしてください天満、あなたは利己主義を貫けばよいのです』
「手を貸してもらうよ、
『──どうでしょう』
「……
ざぁ、と風が哭き、突如として曖昧な答えに変わる。繊細だった話し口調も、丁寧だった物腰も全てが霧散し風に溶け、変わりに月明かりを遮るような、だがやはり掴み所のない。天満は最近になって漸く区別がついてきた
「どうでしょうとかお茶濁しても決定事項なんだよ、これは」
『啖呵を切っておいて、私を屈服させることさえ出来てないあなたが?』
「……お前ほんとにムカつくな。お前を見てるとなんか無性に腹立つんだけど」
『ふふ、そうでしょう。私はあなたが捨ててしまったあなたなのだから』
「……俺が捨てた」
その言葉に対して真っ先に浮かんだのは地下大監獄、その最下層「無間」に囚われた虚を憎み、そのために無辜の命すらも冒涜しようとする大悪党──痣城双也。彼の斬魄刀である「雨露柘榴」も同じようなことを言っていた。自分は双也が捨てた無駄なものを全て持ってると。同じようなものなのか、判別がつかなかった天満は一つだけ訊ねた。
「捨ててしまったものを、お前は持ってると?」
『捨ててないものも持っていますが』
「……どっちだよ」
『どっちもかもしれないし、どっちでもないかもしれませんね』
「炎輝」
『──はい、如何致しましたか?』
再び風が哭き、口調がガラリと変わり、元に戻る。ざっくばらんであやふやな「天麟」の人格では話にならないが、ひょっとしたら「炎輝」の人格なら教えてくれるかもしれない。そんな縋るような思いで名を呼んだ彼だったが、炎輝は逆に質問をしても沈黙をひたすらに貫く。
丁寧で細やかな人格である彼女も語らないというのは、その捨てたものに屈服のヒントがあるのではとすら思えてしまった。
『それは否定させていだきます』
「……そうか」
『あなたが思い描いた男も、既に屈服させていたかと』
「そっか、悪いことを考えてしまった」
『いえ』
だが自分が自分である後に捨てたものは、感情や記憶などは──と考えたところで彼は答えに行き当たった感覚がした。
炎輝の人格なら丁寧で細やかである以上にはっきりと白と黒を別けてくれる。自分の魂を鏡に映したものなのにも関わらず繊細な面もある彼女が何故自分の斬魄刀なのか、実は考えなかったわけではなかった。
「炎輝……お前は、
『……はい』
「なら天麟が持ってるのは……そうか、だからか」
『──どうでしょうか、さて、それはあなたの予想でしかないかもしれませんよ?』
「都合が悪くなると良くしゃべるなぁ、いやそれも俺なのか」
天満と性格が近い、本質が近いのは天麟の方だ。だがそれはあくまで
炎輝が司るのは本来は彼女を聞くことも出来ぬままに死神として過ごすはずだった稲火狩天満の記憶と感情や人格であり、天麟が司るのはこの世界を『BLEACH』という創作として愛した只の人間だったはずが稲火狩天満になってしまった男の記憶と感情、そして人格なのだ。
「良く判った、漸くお前たちの実像を掴んだぞ」
『それはめでたいのでしょうか? まぁ、祝って差し上げないこともございませんが』
『それはおめでとうございます。私たちから祝いの言葉をお送り致します』
雲が切れ、冷たくも暖かい月灯りによって照らされた道の先には天満に向かって礼をする二人の美女がいた。
どちらも銭湯宿の若女将という出で立ちで遊雲を象った模様の紫の着物と湯煙を象った模様の紅の着物をそれぞれ着た、顔のよく似通った双子の若女将は顔を上げてそう、微笑んだ。
彼が何年経ってもBLEACHの知識を忘れないのは斬魄刀ちゃんが憶えていてくれてるから。
姿を、己の実像を掴みひとつステップアップをした天満くんでした。