モブ死神に憑依したみたいです 作:神話オタク
ルキアが隊長代行ではなく隊長になることを決めたのは、天満が知っているよりも随分早く、大戦集結から六年半後、結婚から三年半経った頃のことだった。
天満はそれをルキアの覚悟が早かったからだと感じていたが、ルキアとしては天満をこれ以上五席として置いておくことへの限界を感じていたという事情もあった。主に娘の妊娠期間中、ルキア不在の際に仙太郎と天満が色々なことをやらかしたということなのだが。
「本当に俺が副隊長でいいんですか?」
「くどいぞ天満、何度目だ!」
「いやくどいくらい問いますよ、暗黒の三年間を過ごした隊士達の身にもなってくださいよ」
「原因は貴様だろうが!」
これに伴い公務の際は姓がそのままのため朽木ルキアが隊長へと就任、副隊長は前隊長浮竹十四郎の遺言にもあったように稲火狩天満が、そして三席は小椿仙太郎がそのまま、四席に可城丸秀朝、五席に阿久津業平、そして六席に丹塗矢穂華と人事異動がなされた。
京楽はルキアの早期復帰と最後の隊長就任に安堵を重ねていた。
「現世は今頃クリスマスという行事の準備で賑わっているそうですね」
「……俺達にそんな安息日はない」
「織姫ちゃんが一護さんとデートするって言ってましたよ」
「すまないが穂華、このたわけにそんな休暇は与えてやれん」
「隊長は悪くないです! 悪いのは暗黒の三年間に一度たりともプライベートの時間を過ごしてくれなかった副隊長です!」
とはいえ、本当に忙しかったのは事実であり、また尸魂界自体もこの数年間、細かいが様々な災害ともいうべき事態に見舞われた。それこそ隊長格が出張って卍解をするとまではいかないものの、郛外区での虚の出現頻度が「霊王護神大戦」前よりも増加していたり、些細なことで現世と尸魂界の魂魄のバランスが危うくなったりとすることが頻発しており、天満はそれを「霊王の意思」だという推論を隊長代行の代行として京楽に報告していた。
「
「とはいえ、本人はとっくに死んでますし、封印は強烈ですからね……都度対処できるものではありますがね」
ユーハバッハの意思、つまりは三界が溶け合い、生も死もない循環の止まった世界に成ろうとする意思でもあった。そして涅マユリの弾き出したデータに拠れば、今後五年以内にユーハバッハの力が高まる時期が出てくる可能性があり、下手をすれば一護に一度死した彼が復活したようにそれが意思を持って「ユーハバッハ」という個体を形づくる可能性も示唆された。
「最悪の場合は天満クンの卍解に頼ることになりそうだけど……許可を下ろすの大変なんだよね」
「まァ、四十六室の頭も随分柔らかくなったことだし、世界の危機とあらば保身の為の許可など、幾らでも出すだろうネ」
「瀞霊廷のど真ん中に出てこないことを祈るしかないですかね、流石に」
天満の卍解はその領域を区切る際に建物等を全て呑み込み削ってしまうという点とその範囲と、特性の問題からかつての刳屋敷剣八のように四十六室から直々に瀞霊廷内での卍解を禁じられていた。
それで不便になるような事件は起こってはいないが、涅マユリの示唆した可能性が天満の予期しないタイミングで起きるのは非常に面倒なことでもあった。
「おう、天満」
「阿散井副隊長」
「よせよ、お前ももう副隊長だぜ?」
「……ですね、恋次さん」
就任式に立ち会えるのは隊長と副隊長、そして天満は腕に巻かれた「待雪草」の腕章の重みを感じ取っていた。当初から意欲のあった出世の、思い描いていたほぼ最上位へと辿り着いたものの、天満はこの腕章に見合うだけの人物になれたのかという実感はあまりなかった。
「お前も緊張気味だな、稲火狩」
「檜佐木さん……俺もこれが副隊長としての初顔見せなんですから」
「気楽に構えてればいいよ、あくまで朽木十三番隊長の就任式なんだから」
「そうそう! アンタはどーんと構えてればいいのよ!」
「皆さんが、特に清音さんがいてくれるとほっとします」
恋次の言葉に重ねて檜佐木、吉良、清音に声を掛けられ天満は特に以前は同隊として、そして部下として仕事をしていたこともある清音の明るさに安堵の息を吐いた。
これから何十年もの間、安定した護廷十三隊の運営が続くのなら隊首会の際に控え室で会話をしていく面々なのだからこうして気楽に話せるというのは有り難いことでもあった。
「天満」
「はい?」
「先日空座町で妙な霊圧の痕跡があるという報告があって、その調査を頼みたい」
「うげ、空座町ってことは……ウチの管轄ですか」
「ああ、こっちではあまり調査は進んでいなくてな……だが浦原が何かを掴んでるだろう」
「了解しました、現地で浦原喜助に協力を依頼します」
「早く調査が終わればそのまま直帰してもいいぞ、就任祝いだ」
「有り難うございます」
とはいえ副隊長が出張るのだからその痕跡とやらが一般隊士の手に負えないレベルなのだと気を引き締めつつ、ならば現世でまだ放蕩している市丸や、望実にでも就任を直接伝えに行こうかと考えているとルキアは真新しい隊長羽織を翻しつつ、天満に指示し忘れていたことがあると語る。
天満も予想は出来ていたことではあったが一応は聞き返していた。
「なんです?」
「穂華も連れていけ」
「……夜までに終わるといいですけどね」
「お前たち二人を送って一日掛かるならそれこそ私が出る案件だ」
「そうですね、では穂華に声を掛けてすぐ出立します」
「頼んだ」
天満以外の二人もめでたく上位席官の仲間入りを果たしたが、一角と弓親のように天満たちは基本的に三人で活動出来るように体制を整えていた。穂華に声を掛け、事前に申請されていた十三番隊の穿界門をくぐり、実に半年振りとなる現世へと向かうこととなった。
──とはいえ、現世に向かうのが半年振りというだけで彼と顔を合わせるのは半年振りではないのだが。
「どーもぉーお二人さん、お待ちしておりました〜♪」
「こんにちは浦原さん!」
「ハイ! ささ、今お茶でも出しますんでのんびりしていってください」
「わぁ、美味しそうな茶菓子! 有り難うございま──」
「──任務中」
「あっ……そうだった」
「まぁまぁ、そう
「どういうことですか」
訊ねると浦原は二度目のお茶でも出しますんでのんびりしていってくださいという科白を吐き出し、天満は何かを察したように穂華を促して座った。テッサイが茶菓子に合いますのでと少しいい茶葉であろう緑茶を淹れたものを二人の前に出したタイミングで、天満が切り出していく。
「ただの厄介な能力持った巨大虚ってわけじゃあないんですね」
「ええ、恐らくは大虚、中級大虚だと推測されるものです」
「あ、中級大虚ですか!?」
穂華が驚くのも無理はない。大虚はその等級問わず、魂の濃度の問題でよほど急な接敵でなければ一度王族特務の管轄に預けられ、護廷十三隊へと指示が出される。それでも中級大虚となると三百年程前なら問答無用で隊長が複数人出張るものだったが、昨今ならば副隊長でも仕留めきれる。ノウハウの蓄積と研鑽の賜物だなと天満が思考しつつルキアへ即時報告、限定解除申請を出したのを横目で見ていた穂華が成る程と納得の声を上げた。
「天満さんが副隊長に成ったから、のんびりした方がいいと仰られたんですね」
「その通りッス」
天満は二人で一日掛かる案件だったじゃないかと心の中で毒づいた。報告によって大虚だと解ればルキアから総隊長へ、そして四十六室を経由して王族特務へと報告が上がり、対処が決定する。その対処によって限定解除がなされるかどうか、という判断が技術開発局に委ねられることになるため、天満が件の虚と戦うには非常に時間が掛かるのだ。
「副隊長もいいことばっかりじゃあないな」
「立場には責任が伴うッスから」
「それでのらりくらりと逃げてる人、何人か知ってるなぁ……」
「誰のことッスかねぇ」
「一人は確実にあんただよ」
浦原と一緒にコソコソやっていた事業で金が手に入ったらしく遂には海外旅行し始めた市丸ギンと護廷十三隊復帰が嫌で真央霊術院の特別講師という条件で手を打った四楓院夜一、そして外部技術顧問としての立場を以て責任ある立場というものから逃げ続けている浦原喜助、この三人は特にそうだと天満は指摘した。
「コッチも闇業者から足洗っちゃいましたからねぇ、流石にメノスを独自判断で討伐という訳にはいかないですから」
「その割には随分調査は進んでるみたいですが」
「そりゃあ、この街には便利ななんでも屋がありますからね」
「望実ちゃん……」
どうやら動くに動けない中でも外部勢力を駆使しての情報収集をしていたようで、穂華と天満は望実とひよ里の二人に感謝の気持ちを籠めて集まった情報を元に対策を立てていく。
基本としては中級大虚は同じ中級大虚と共食いをしなければ強くはならないため虚圏から出てくることもない。勿論、あくまで基本のため例外はあるが、他世界侵略を目論んでいた虚圏の王、バラガン・ルイゼンバーン亡き今、そんな過激派は虚圏には居ないはずなのだ。
「虚を食い漁っていて、巣を張る型の中級大虚……なんだか不気味ですね」
「触腕に触ったら斬魄刀が消えるとかないですよね」
「今のところ、隠れるのが上手ってだけッスかね」
突如現世に、空座町に現れた謎の中級大虚、天満も浦原も最悪の可能性は一致していた。
これが「霊王の意思」である可能性、命亡き新たな王が敷いたレールの行きつく先は、全てが混ざりあった混沌の世界。既にこの六年と半年という時間の中で幾度となく巻き込まれた
「主人公との因縁に決着付けてからにしてほしいな」
「黒崎サンはお仕事が忙しいみたいッス」
「……医者の息子が医者にならないってなんだよ」
だが彼としてはフットワークの軽い仕事の方が合うだろうなというのはなんとなく想像出来る。元々死神代行業に勤しみ過ぎるあまりに学校をサボりがちになってしまった男だ。じっとしている方が難しいのだろう。
──だからと言ってラスボスと主人公の因縁に何度も巻き込まれるというのはそろそろ霊王宮に乗り込んで文句を言ってもいいのではと考える程だ。
「では浦原さん、万が一の時の対応はお任せします」
「了解ッス……お気をつけて」
「行くぞ穂華」
「あ、待って天満さん!」
討伐していいという司令が出たことで、先に瞬歩で移動した天満と振り返ってお茶とお菓子、有り難うございましたと礼をしてから瞬歩で消えた穂華を見送って浦原は穏やかな微笑みを浮かべていた。
凍結された空間内で天満は限定解除をしてから様子を窺う。
「……この距離でも霊圧を感じない」
「隠れるのが上手なんだろうな、よっぽどの臆病者か、強者か」
「中級大虚なんだよね?」
「ああ、だけど中級大虚だからって最上級大虚より弱いって決まってるわけじゃないからな」
それこそ和尚によって名前を奪われ「
「始解はギリギリまでするなよ、霊圧を押し殺せ」
「了解……」
大きな常緑樹の上から件の大虚が姿を現すのを待っていると、やがてのそのそと重たい足取りで四足歩行型の虚が姿を見せた。その異形に天満も穂華も、冷たい汗が頬に伝うのが解った。
天満はそれを見た際にハリベルの従属官の腕を媒介によって造られる殺戮マシーンのような虚「アヨン」が頭に浮かんだ。
狒狒面の仮面、狼を思わせる胴体、四足は肉食の猫科を思わせる太い足から煙のようなものが立ち上っていた。尾は龍頭のようなものがついており、小さな翼は漆黒の鴉を思わせた。
「……なに、あれ」
「気色の悪い霊圧してやがるな……」
「天満さん……」
思わずと言ったように穂華が天満の腕を掴んだ。僅かに漏れ出た霊圧は異質と言葉にするのが正しい。底冷えをするような、重たいのではなく恐怖を煽るような霊圧、体長は通常の虚と変わらないが、その霊圧は確かに一般隊士が相手にするのはまず不可能というようなものだった。
『今日の餌は、いい匂いがするのう』
「……穂華、いけそうか」
「うん」
「だめそうなら、全速力で浦原さんのところまで撤退しろ」
「……撤退するなら、あなたも一緒だから」
「──解った、なら付いてこい」
「はい!」
その言葉に対して、キメラのような大虚はトラツグミに似た、笛のようでありまた不安を掻き立てるような音階の音で鳴き、霊圧を溢れ出させる。同時に背中の羽根から溢れるような黒色の、墨のような黒を溢れさせる。その光景と目の部分を黒で覆った大虚に対して天満は、愚痴をこぼす前に素早く抜刀しながら解号を吐き出した。
「明け灯すは棚引く煙羅、昏く浮かぶは手招く桂雲──炎輝天麟!」
『さぁ、妾と一つになろうぞ!』
「お断りさせてもらうよ、中級大虚!」
両手で構えた斬魄刀が解号と共に黒と白にブレ、両手を広げて解放する。地面を墨のようなもので塗りつぶしながら嫌な言葉を放つ大虚へ向けて天満が刀を振り下ろすが、足許から溢れていた黒い煙のようなものが敵の身体を持ち上げる。それと同時に尾になっている龍頭から炎が吐き出され、天満は斥力で防御の構えを取った。
「搏翼舞うは五色絢爛、五音囀り吉祥報せよ──五色燕凰!」
「穂華!」
「参舞にてお返し申し上げます!」
天満の眼前に迫った炎を解放した鉄扇で縦に斬り裂き、開いた扇が起こした風で巻き込み炎嵐の槍を造りそれを制御して大虚へと返していく。
──だが煙が晴れていくと、虚は無傷であり黒い墨に覆われたその頭部から無数の目を開きながら、異形の虚はトラツグミの鳴き声を上げる。その音圧と霊圧は先程とは比べ物にならないものだった。
ごめんなさい小椿三席……()
一応新体制まとめ
隊長:朽木ルキア(公務時は旧姓)
副隊長:稲火狩天満
三席:小椿仙太郎
四席:可城丸秀朝(暗黒の三年の際の功労者のため天満と仙太郎が推薦した)
五席:阿久津業平
六席:丹塗矢穂華(公務時は旧姓)
となっており、業平は天満直属から抜けていますが穂華は頑として部下で在り続けているため天満の公私共にの補佐をしている状態。
次回、本編最終話!