モブ死神に憑依したみたいです 作:神話オタク
大虚の霊圧が街に響いた。周囲には結界が張られているが、その霊圧と音は周囲に虚を呼び寄せていた。
まるで自らが贄となろうとするが如く、全てを溶け合わせるが如く。それだけで天満は目の前の中級大虚が只の虚ではないことを確信していた。なにより、頭部に覆われた黒から飛び出た無数の眼、それは直接相対したあの滅却師の王を想起させるには十分だった。
「肆舞・刻燕!」
「──因果天引」
『なんと……小癪な
穂華の放った熱風の刃を天満が引力を操り軌道を変化させ、足を斬り落とす。すぐさま超速再生をしたのを見た天満と穂華は、全く同時に頭に狙いを定めていく。大虚の尾が火を吹き、それらを妨害しようとするが、天満がその動きを先読みし穂華へとアイコンタクトを交わすことで一度目と同じように「五色燕凰」によってその火焔は風の流れに乗り、逆に吐いた龍頭へと迫る。
「縛道の九、崩輪!」
『──ッ!』
「
「まだだ、破道の七十八、斬華輪」
「参舞・穿鶴ッ!」
火を吐くことで相殺しようとした大虚は天満の縛道によって一瞬だけ口を塞がれて動きを止められてしまう。その一瞬が隙となり自身が放った火焔を穂華の炎嵐の霊圧が乗った状態で倍返しをされ、更に立て続け天満が詠唱破棄で放つことの出来る最大級の鬼道と穂華の炎嵐の槍が同時に叩き込まれていく。
「朽木隊長は待機となりまして、俺が代理で馳せ参じました」
「阿久津サンなら安心ッス、それじゃあ、お手伝いしてもらっても?」
「勿論、天満と穂華が戦ってるというなら、俺も戦います! 千早振れ──清龍!」
その頃、周囲に集まり始めた雑魚虚を倒すため、業平が尸魂界からの援軍としてやってきた。斬魄刀を抜き放ち、虚をまとめて複数体斬り捨てていく。
浦原やテッサイ、ウルルやジン太も参加し、この異常現象への対応に追われていく。
「クソ、大したことないが、数が多い……ッ!?」
囲まれ、前方の三体は斬ったものの後ろにいた虚への対応が遅れたと振り返った瞬間、その眼前を刃が通り抜けていった。
──虚の顔を貫通していったその刃が伸縮し、その男の手許に戻っていく時にはもう、業平はその援軍の頼もしさに明るい笑みを浮かべていた。
「いつかもありましたね、こんなこと」
「せやね、にしてもまァ、ちょうどええ時に帰ってきてしもたなあ」
「市丸サン!」
「旅行帰りやけどしゃあない、ボクも手伝うわ」
「有り難いッス!」
戦力の増強と、万が一の対応策も市丸が居れば大丈夫だろうと市丸ギンの登場に浦原は内心でやや安堵を浮かべていた。最悪の可能性に於いても天満が奥の手を使えるようには配慮しているため為す術無く、卍解を使うことなく死ぬということはないと浦原は断じつつ、何かしらの卍解を封じこめる、もしくは滅却師のメダリオンのように奪う手段がある可能性も含めて策を練っていた。
「天麟黒星」
『そのようなものは通用せぬ──!』
「破道の五十四、廃炎!」
『グ、グオォオオ!』
穂華が閉じた鉄扇から放たれた鬼道が黒星に衝突し、大爆発を起こす。だが苦悶のうめきを上げた虚は黒い翼が大きく形を蠢かせ、天満と穂華の身体を呑み込んでいく。その衝撃は凄まじく斬魄刀で防御するものの、天満も穂華も地面に倒れ伏してしまう。
中級大虚は僅かに崩れた仮面から、黒い液体状のものを滴らせながら、だがトラツグミの鳴き声で勝利の遠吠えを上げた。
「天満、さん……」
「今のは、痛かったけど……相手の能力は大体把握した」
そう言う天満は相手の能力とその恐ろしさを感じ取っていた。
相手は音を媒介にして対象の
『貴様等の技も全て通用せぬ、全てを無に戻し、我が身体に取り込んでくれる!』
「……なら、本当の悠久というものを見せてやる」
天満は息を吸ってからゆっくりと吐き出し、両手の斬魄刀を水平に構えて漢数字の「二」の形にする。二刀はやがて光を帯び、輪になり空に浮かび太陽の如く、空を照らしたと思えば、その輪の内部から黒い宇宙が広がっていく。やがてそれは山一つを覆い尽くし、天満と大虚、そして穂華を擬似的な宇宙空間、天満の創り出した世界へと誘った。
「卍解──炎輝天麟星皇創世ノ嘶」
空間を生み出し終えた輪は天満の背中へと移動し、光背として彼そのものをまるで輝かせるようだった。それと同時に天満も白い法衣を身に纏い、無重力のように浮いていた。
卍解と共に天満の霊圧も
「流塵星群……数億を越える星の寿命をどの程度削れるのか、見せてくれよ」
『……ッ!?』
光の如き速さで向かうその小さな星の雨を大虚は黒の奔流で受け止めようとするが、逆に貫かれ、胴体に二つ目の孔が開く。優れた超速再生によってすぐさま孔は塞がるが、中級大虚はその一手だけで「周囲の時間を加速させる」能力では対応出来ないことを悟った。ちなみに、その星の寿命を万が一削り切れたとしても、それは逆に大虚の目の前で爆発するだけだ。
『だが、その星を降らせるという能力に番を招いたのは失策だったな、死神!』
「まさか、俺が穂華を無策でこの空間に巻き込むわけがないだろ」
「ええ、ご覧に入れていただきましょうか……卍解! 」
『貴様も姿が変わるか!』
穂華は唱えると同時に鉄扇に描かれた五色五羽の鳥たちが飛び出し、彼女の身体へと集まっていく。紅と蒼が混じり合い、彼女の衣装へと変化し、黒と白がそれぞれの羽根を六枚に広げ、右に黒翼、左に白翼を広げた。そして最後の金色が彼女本人と重なり、瞳の色が金色に変化する。そして最後に鉄扇が光輪となり彼女の背に背負われた。
「──極煌聖凰飛翼ノ熾臣」
「穂華、受け取れ──炎輝白星・乱舞!」
『血迷ったか!』
「刻燕」
『自爆覚悟か、だが──?』
天満が穂華へと向けて六つの白星を打ち出し、穂華がそれを自分の傍で全て爆裂させる。その霊圧の勢いを周囲の時間を進めることで無効化した大虚は、その光景に理解が出来ないというように固まった。
──そこには無傷のまま佇む神の使いがいた。防御したわけでもなく、ただ平然とその場に立っていた。
「理解はできないでしょうね、それでいいです……ハッ!」
『グッ』
消えたと見紛う程の瞬歩で距離を詰め、熱風を纏った掌底を当てることで大虚を吹き飛ばしていく。
卍解した穂華は特殊な条件によって
「これが私の、私だけの五色炎舞──
「……えげつないよ、その能力」
「褒め言葉として受け取っておくね」
条件の一つとして自分以外の別の誰か一人の霊圧を一定時間受けることがあるため、最初は卍解を使うことなく戦っていたが、こうなってしまえば天満の攻撃はどうやっても当たらない。
しかも防御の要たる重力渦を全うに無効化出来る能力でもあるため、天満は相性の悪い卍解と、穂華は天満がどれほど暴れようとも全て「鶯囀」で回避しつつ連携が出来るため相性の良い卍解と称していた。
「行け、穂華! 炎星降雨」
「はい!」
『おのれ、死神どもぉおおお!』
炎を纏った流星が穂華を素通りしながら縦横無尽に降りしきり、大虚は怒りの咆哮と共にその背を裂いて、黒の滴る二足歩行の新たな虚が姿を現した。
狒狒頭の仮面は既にかの滅却師の王のような眼が無数に張り付いており、翼から溢れ出た黒い奔流が星に触れると星はその炎と速度を無くし、そして黒い雫へと変化していく。
「無、無駄よ、妾に、我は全てを一に還すもの、この程度は効かぬ、運命は既に、番ども、全てが一になると……決まっている!」
「運命が決まってる、か……なら!」
「その一とやらも、運命も、私たちが全て、全部零に戻す!」
天満が光背から黒星と白星と射出する。人型となった大虚はそれを黒の奔流に取り込もうと手を伸ばすが、次の瞬間それが刀の形に変化し、そして本来なら天満以外は触れることの出来ない重力を放つ二刀を穂華が掴み、黒刀を回転した遠心力で超加速させて腕に突き刺す。
「何……ッ!?」
「怯みましたね! 聖凰飛重斥突!」
穂華は右手に残した「白星刀」をまるで己の技のように操り、「穿鶴」と組み合わせた切っ先に触れたもの全てを吹き飛ばし、貫く程の突きを繰り出した。二人分の霊圧が籠もったそれは咄嗟に出した虚の黒い奔流すらも斥力と炎嵐で吹き飛ばし、「黒星刀」の引力に呑み込まれ掛けていた左肩を完全に吹き飛ばした。
「天満さん!」
「縮退極恒星──終わりだ残滓を取り込んだ、憐れな虚」
「おわ、終わり、未だ、まだ、終わらん!」
「いいえ、天満さんが終わりと言ったら、終わりなんです」
天満の頭上には圧縮され、その重力と圧力の前に崩壊する寸前の巨大な恒星が浮かんでいた。天満にとって死の寸前で時が止められているその星は一歩扱いを間違えれば、天満も穂華も一瞬で消し飛ばす程のエネルギーが籠もっている。
穂華が瞬歩で大虚の前から姿が消え、瞬間にその星の時が動き出しながら眼の前に移動した。
「穂華」
「
白と黒の十二枚の翼を大きく広げ、全ての炎嵐を操り巨大な竜巻を起こす、その霊圧に己の重力によって全てを呑み込もうとしていた恒星の核が傷つき、罅割れた。そして天満が六対の白星と黒星を光背から放ち、核に打ち込むことで全てを終わらせ、全てを創める程の光とエネルギーを宇宙空間内に無差別に放出した。
「──創星ノ息吹」
「貴様ら、貴様らァ……ッ!」
本来ならばこれほどの威力を出せば天満すらも防御することは出来ずに、生き残るかもしれないがまず一ヶ月は確実にマトモに身体を動かせる状態ではなくなる程の怪我を負う。だがその光の奔流は穂華が光輪を輝かせ光を放つことで相殺し、零に戻してしまう。
後に残されたものは静寂の宇宙空間と、不安そうに振り返る穂華の姿だけだった。
「終わり……だよね」
「これで復活してきたらもう俺にもお手上げだな」
天満の光背が背中から離れ、宇宙空間を輪の中に飲み込み一本の斬魄刀へと戻る。
それから穂華が周囲を警戒しつつも、目を閉じることで五色の鳥たちが彼女から離れると同時に元の死覇装へと姿が戻り同じように輪が斬魄刀の形へと戻り、鳥達はその刀身に吸いこまれていった。
「天満!」
「業平、来てたのか」
「ああ、応援でな……何分虚を呼び寄せ続けていたからな、へとへとだよ」
「救援感謝です、五席!」
「おう、揃って卍解するほどの強敵だったとはな、よく見たらボロボロじゃないか」
業平と合流したことで天満と穂華は息を吐き出した。途中で何もしていないのに急にその背を裂いて最上級大虚にも劣らない程の霊圧をした虚に進化したこと、バラガンとユーハバッハを雑に掛け合わせたような能力をしていたということ、そして言動の違和感、その報告をしたらまたしばらく慌ただしくなることは目に見えていた。
「どうやら無事に終わったようだな」
「た、隊長……!?」
「お越しになっていたんですか!」
「うむ、言ったであろう、一日で終わらぬのなら私が出る案件だとな」
「あはは……確かに終わりませんでしたね」
「穂華を連れて行く許可をいただかなければ、俺は死んでいましたから、隊長の判断は正しかったですよ」
既に夜は更けており、間もなく夜明けと言ったところだった。隊長であるルキアと、手伝ってくれた市丸に出迎えられた天満と穂華はそのまま浦原商店で応急処置を受けてから報告のために穿界門を開き帰っていく。その際、穂華が少しだけ名残惜しそうに振り返ったことに気づいたルキアと天満の目線が合った。
「……このまま総隊長殿の元へ報告に行く、天満と穂華、阿久津もな」
「はい」
「はい!」
「了解しました」
「事後処理が終われば近いうちに休暇をやらねばな、二人とも相当な激戦だったようだからな」
「有り難うございます隊長!」
「……穂華は元気そうだからいらないんじゃないか?」
「違いないな」
「天満さん、阿久津さん!」
天満は恐らく、自分が創ってきた歪みがああいった通常の法則に拠らないイレギュラーを生み出しているのだろうなという自覚はある。ここから三年半、大戦集結から十年間は本来は何事もなく平和だったのだから。天満が介入したことにより、一護の最後の一撃に天満の介入を運命が必要とした。そして死に際に天満の正体に気付いたユーハバッハはその呪いを世界にばらまき、霊王の意思として天満の創世を否定しようとしている。斃した虚の「全てを一にする」というのがまさにその通りなのだろう。全てが一つになるべきであるという残滓とは別に「本来の運命に戻す」という強い意思を霊王宮に安置されている遺骸は抱いたのだろう。
「ご免なさい
利己的な独り言と共に天満は一歩踏み出していく。これから先の未来なんてもう天満にも解らない。何が起こるのか、何が待っているのか、地獄からの使者が来訪し衝撃の事実を伝えようとも、西から魔術師が来訪しようとも天満はその結末を知らない。
──だが、だからこそ天満はその踏みしめる歩みに誇りを持つことが出来る。足を滑らせるようなこともあるかも知れないが、それでも立ち上がることが、天満にとっての幸福であり、生きるという意味であるからだ。
「あ、天満副隊長!」
「おう苺花……って死覇装ってことは」
「やっと死神見習いになれたんだ! これから
「そうか、今日は家内と一緒にいるから家……いやもしかしたら鍛錬場かも」
「解った、捜してみる!」
それから幾年かが経ち、慌ただしく去っていく少女の背中を見送って、天満はそういえばもうすぐ盆の季節であることと、ルキアの休暇が重なっている日があることに気付いた。
漸く、十三番隊舎のある地区の床材を張り替えが終わり、完全な復興ということで一区切りがつく。新しい世代もどんどんと入っていくということに天満は太陽を見上げて、ゆっくりと隊舎へと再び歩き始めた。
これにて本編は終了です。
一応、「斬魄刀異聞篇」は個人的にも書きたい気持ちがありますが、一週間前後お休みをいただきたいと思います。書き溜め出来ていないし、アニメをゆっくりと見て振り返る時間もなかったという個人的な理由です。すみません。