モブ死神に憑依したみたいです 作:神話オタク
細かい整合性の話はスルーでお願いします。
DEPARTURE
霊王護神大戦が終わって数ヶ月後、尸魂界は後片付けと復興に追われていた。隊士たちを動員し、郛外区から物資を運び出していく。中心街も大きな被害を受けており、復興の概算は数十年という話まで出始めていたのであった。
天満たちもまた、戦いとは違う護廷十三隊としての責務を果たすため日々を慌ただしく過ごしていた。
「……って、忙しいって言ってたのにすぐ鍛錬なんですね」
「習慣だったからな、大事だろ」
「脅威は去っても、鍛錬をサボろうとは思わないな」
「素晴らしい心掛け、とは思いますが」
業平と天満が斬魄刀を解放し、戦う姿を穂華が見守る。慌ただしくとも日常の習慣を変えたくないという理由は確かに一つではあったが天満は霊王宮で、業平は市丸と激しい鍛錬をこなしている。その実力を確かめるという意味でも、解放しての鍛錬は欠かしてはならないものだった。
「九龍瀑布!」
「くっ、おおおお──因果、炎斥!」
「まだだ、荒れ狂え清龍!」
水流を九本の刃にして振り下ろすが、右手の長刀を振り上げ霊圧を上げた斥力によって弾き飛ばした。水飛沫が周囲に散らばるが、業平の言霊によってその動きを止め、全てがナイフのような形に変化し、天満の周囲を取り囲んだ。
業平が穂華の「五色炎舞」からヒントを得た「激龍」の派生技はそのナイフ状の水流が天満の周囲で高速回転し始め、さらに飛沫自体も天満を中心に回転し始める。思いもしなかった大技に穂華はもちろん天満も驚いたものの、天満は冷静に流れを見極めていく。
「……ここだ!」
「何!?」
叫び声と共に、刀身に強力な引力を纏わせた斬撃を放ち、その重力によって調和によって保たれていた刃の渦潮を斬り裂き、破壊する。そして同時に繰り出した長刀と偃月刀が打ち合い、その衝撃によって距離が空いたというところでふっと緊張感が霧散し、お互いに笑みを浮かべた。
「……まさか破られるとは思ってなかった」
「破れなかったらどうしてくれる。あれじゃみじん切りもいいところだ」
「いざとなれば止めるさ」
「本当か?」
悔しいとは思うが、霊王宮で和尚や他の死神と共に次元を異にする鍛錬を受けた今の天満はもはや並の隊長格を大きく逸脱していると業平は素直に感じていた。卍解を会得し、それからも敵が来るまで穂華や市丸と極限状態で鍛錬を続けてきたことで肩を並べて戦えるという自負と同時に、少なくとも始解状態では本気でやりあえば負けるのはどちらなのかを冷静に見極めていた。
「今のは熾鳳が基礎ですか?」
「お前みたいに周囲の大気まで巻き込めないから、九龍瀑布が出来る程に回転数を増やさないと使えない技だけどな」
「死ぬほど、いえ三度くらいは死ぬ寸前までギリギリの状態で習得した技をあっさり真似されたら私は阿久津さんを恨みますけどね」
「そんな無茶してたのか」
「そりゃもう、けど折れないのが穂華の愛故──」
「──阿久津さん?」
「おっと、失礼しましたお嬢様」
天満はそれを聞かなかった振りをし、今更ながら離れていた頃の話をする。天満は白哉や恋次、ルキア、なにより一護や和尚の相手をするのはしんどかったなと振り返った。恋次の真の卍解の火力は握力で天満の星を砕き「蛇牙鉄炮」の放つ霊圧は縮退恒星の引力に真っ向から抗えるものだ。白哉の千本桜も、最後は卍解せずに天満の創星と真っ向勝負をしていた、ルキアの極低温は相性の問題もあってあまり鍛錬していないが、残り二人とは二度と鍛錬でも手合わせしたくないと苦笑いをする。
「市丸さんの鍛錬も正直思い出したくないですが」
「あの人って他人にものを教えたり出来るんだな」
「いやあの人戦いの中で憶えろという手合だからな」
「卍解の鍛錬なんやからボクも卍解するわ、って言われた時は死ぬことを覚悟しました」
「……成る程な」
鍛錬には卍解をすることが最適というのはこの護廷十三隊に於いて実はそこそこ罷り通ってしまう理論でもある。死神の斬魄刀戦術における最強の手段であり、その霊圧の解放は否が応でも「戦い」と「死」を覚悟させるものだ。その実感はいずれ戦い方以上に強くならなければという本能を呼び覚まさせる。中には卍解そのものが味方に鍛錬だろうと気軽に見せていいものではないものもあることにはあるが。
「ただあの人の卍解、距離と速度がえげつないだろ」
「天満クンの流星の方が速いから、こんなん欠伸しとっても避けれるようにならんとって」
「厳しいな……」
彼の卍解による戦術を最も生かした技である「神殺鎗・舞踏」は天満も実際に相対して原作知識というものの有り難さを実感した技の一つだった。その知識によって救われた戦いは勿論ほとんどがそうではあるが、そうでなければ確実に死んでいただろうなという戦いはそう多くはないのだから。
ゆっくりと話す暇もなかったことを実感しつつ、天満たちが歩いていると、伝令神機に三人同時に隊長代行をしているルキアからの連絡を受け、副官室へと急ぎ足で向かっていく。
「失礼します」
「やはり三人一緒だったか」
「ええ」
「私たち三人、ということは天満さん……五席への指令ですか?」
「そうだ、ユーハバッハとの戦い以降、復興もそうだが現世と尸魂界のバランスも課題になっているのは、説明するまでもないな」
「……でしょうね、あれだけ派手なことしたんですから」
その影響だと思われる空間の歪みが各地で起きていることが現世側へと戻った浦原喜助と十二番隊隊長である涅マユリが尸魂界へ報告していた。そのエネルギーを利用して霊王宮までの門を造ったのだが、やはりその歪みというものに魂魄が入り込んでしまうと非常に厄介なことになりかねないというものだった。
「その調査と修復に人手が足りなくてな、各隊から席官を出さねばならん」
「……この復興が大変な状況で、というのは頭が痛いですね」
「特に
「故に、その空座町に天満を派遣することに決めた、そして」
「俺が出向くとなれば、二人も連れて行け……ですか」
「ああ」
原作知識を以てしても、十年間にどのような復興が行われていたのかという詳しい描写を識っているわけではない。そして確かにユーハバッハは一度三界全てを破壊しようとしていた。その影響が尾を引くことで別の問題が発生する可能性は大いに有り得るものであり、そして実際にこうして天満が駆り出されることになった。
「特務部隊、ということですね!」
「前向きな解釈有り難う穂華」
「境界の調整を任されてるだけ信頼はされてるよ」
「そうだな、一応俺もユーハバッハを斃した立役者って扱いらしいし」
「直接相対しているので当然といえば当然でしょう、黒崎一護さんは勿論市丸さんや石田雨竜さん、あの藍染ですら手を貸したという控えめながら名前が乗ったんですから」
「まぁ藍染の名前を挙げて天満だけナシってわけにはいかないよな」
二人の言葉に天満は苦笑いをする。自分が特別に何かしなくても勝てていたのが本筋だ。それを改変し続けた結果、自分が手を出さなくては一護がやられてしまうところだったのだ。それで喩え世界を救った英雄だなどと呼ばれたとしてもとんだマッチポンプだと素直に喜ぶことは出来ずにいた。
──だが次の瞬間、天満の苦笑いが怪訝な表情に変化する。
「……どうかしたか?」
「いや、なんか……違和感ないか?」
「断界に、ですか……そ、そういえば……なんだか」
業平や穂華もまた、同じように立ち止まって周囲を見渡す。些細なものだが、普段通っている断界とは何かが違うような気がしてならなかった。それは、天満は体験してはいないことだが、因幡影狼佐が断界の中の時間を意のままに操り副隊長や隊長たちを閉じ込め、自身の造り出した改造魂魄、即ち「侵軍」と入れ替えた際に、伊勢七緒や松本乱菊が感じていた違和感と同種のものなのかと天満は警戒を強めた。もう因幡影狼佐はいないはずだが、誰かが断界を操作しているとすれば、この状況は最悪に近い。
「……出口に向けて走るぞ、閉じ込められでもしたら最悪なことになる」
「は、はい!」
「おう!」
そう、天満が声を掛け、三人が一斉に駆け出した瞬間だった。
──
「て、天満さん、これどういう状況ですかぁ!?」
「まずいぞ天満、このまま絡め取られたら──!」
「……仕方ない、ひとまず卍解して凌ぐ!」
天満が斬魄刀を抜き、それを素早く輪の形に変えて三人を中心に宇宙空間を創り出す。断界で、拘流に襲いかかられてるという状態でどうなるかなどもはや誰にも予想がつくことではないが、空間を湾曲させ押し広げることで、外と中の距離を無限に近いものに変えることの出来る天満の卍解ならばという可能性に、三人は賭けるしかなかった。
「炎輝天麟星皇創世ノ嘶──よっと、大丈夫か二人とも」
「は、はい……天満さん」
「おい穂華、それはちょっとずるくないか……?」
卍解はしたものの足場を霊圧で固めることは危険と判断し、天満はちょうど前にいた穂華を抱え、業平には星を創ることで足場にしてもらうことになった。待遇の差に文句を言う業平にひとまずの脅威は去ったのだという安堵から二人は笑みを浮かべる余裕が出来たものの、どうしようもない状態だった。
「どうですか天満さん?」
「……卍解の領域自体が結構なスピードで下に落ちている、移動してるみたいだな」
「どうなるんだこれ……前代未聞だろう」
「だろうな、拘突に巻き込まれてとかなら前例はあるが断界に穴が空きました、は報告しても再現しきれずに調査打ち切りの未来が視えるよ」
「ユーハバッハも真っ青な未来予知だな、そりゃあ」
霊王宮での鍛錬を終えた天満は卍解の領域維持に息切れをすることはないが、それでも限界時間は存在する。その時間までに解決策が見つかる、もしくはここから脱出することが叶わなければ、結果は数分前と変わらなくなってしまう。
断界の中で永久に迷子という可能性もないわけではない。だが、その可能性は限りなく低いことが天満はやがて気付くことになる。
「……出口だな」
「え、本当ですか!?」
「でも待て、非正規の出口だ、恐ろしく過去とか未来に飛ばされる可能性もあるだろう」
「そうなったら身体がついていかずに死ぬ、だったか」
「そ、そうでした」
だが天満達に打つ手はもうない。せめてこのまま三人が無事に済むいい結果になるように祈ることしか出来なかった。業平も穂華も、そして天満も全く同じ祈りを込めて、卍解を解除した眼の前に広がるまばゆさに目を閉じた。
──そして穂華が目をあけると、十三番隊の穿界門の前で倒れ伏していることに気付いた。見知った場所にほっと安堵しつつも慌てて天満と業平を揺り起こす。
「天満さん、阿久津さん!」
「……おう、生きてるみたいだな」
「みたいです」
「有り難う穂華……それにしても、無事なら無事で、此処は何時の瀞霊廷なんだろうな」
天満は外の景色に目を向け、そしてそう零した。業平も穂華もその言葉に反応し、天満と同じ方へと目線を向け、そして驚きと戸惑いが二人の表情には浮かび上がっていく。
瀞霊廷は、天満もよく知る瀞霊廷だ。だがそうであってはいけないことも天満は知っていた。
「そんな……復興が終わってる、ってことですか?」
「若しくはまだ破壊されていないってことも有り得るよ」
「過去か、未来か……どっちなんだろうな」
瀞霊廷は滅却師との戦争なんてまるで存在していなかったかのように町並みも区画の石畳も全てが綺麗な状態だった。少なくとも天満達が穿界門に入っていた時間軸とはズレた地点に出てしまったのだということだけは、三人にとって明らかな事実であった。
それと同時に、天満は自分達の元に死神がやってきたことに気付いた。そしてその霊圧に、天満は少なくとも自分が過去にいるのだということを悟った。
「無事か、お前たち!」
「……嘘」
「おいおい、どうした丹塗矢、まるで死人を見たような顔だな」
穂華の驚きも、無理はなかった。長い白髪に白い隊長羽織、それは数ヶ月前に永劫の別れを告げた十三番隊隊長、浮竹十四郎なのだから。
その後ろには三席の小椿仙太郎、虎徹清音の二人も付き従っていることから、ルキアがまだ副隊長ではないのかも知れないということまで天満と業平は目線でやり取りをして確認し合った。それ故に天満はやや混乱することがあるのだが。
「出迎え有り難う御座います、浮竹隊長」
「ああ、だが少し報告してほしいこともある。悪いが、一番隊舎まで来てくれないか?」
「了解しました」
浮竹の後ろを歩きながら、清音と仙太郎に色々と問われる。その反応から天満は想定すらしていなかった一番最悪のパターンなのではないかという仮説を立てていた。
時間的矛盾、それに穂華も気づき始めており、業平は怪訝な顔を隠すことに必死だった。
それらの疑問を解決するため、天満は一番隊舎執務室、懐かしいとすら感じてしまうその部屋へと浮竹と共に入っていった。
始まります斬魄刀異聞篇!