モブ死神に憑依したみたいです   作:神話オタク

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出来なかった設定の補完とかの意味合いが大きいです、正直。


SOUL RELEASE(1)

 一番隊舎隊首執務室、そこに座っている人物に穂華は思わずといった形で肩を上げた。

 元々、彼女にとって総隊長とは関わりがなく、彼女の中での総隊長とは女好きで困ったところがあるものの切れ者といった雰囲気の強い京楽春水のことであり、名前や姿は知っていても直接相対するのはこれが初めてのことであったからだった。

 

「して……数日の霊圧消失による行方不明、その際に何があったのか訊かせてくれんかのう、稲火狩十席」

「……すみません、此方としても記憶の混濁があり……断界を通っていたところまでは憶えているのですが気付いたら穿界門の前で倒れていたという有様です」

 

 事前に仙太郎や清音からの話によると天満達は一週間程前、空座町に於いて車谷善之助から報告された不審な大虚のような霊圧の調査のために派遣されたものの、移動中に消息不明という事態に陥ってしまっていたらしい。

 そしてその言葉に天満は時間軸の矛盾を感じていた。天満の記憶ではこの時期は既に井上織姫が虚圏に拉致されており、黒崎一護達を追いかける形で天満はルキアと恋次と共に虚圏へと突入しているのだった。どうやら先遣隊そのものには選抜されたようだが、その後、藍染惣右介との戦争準備のため、先遣隊は帰還しているらしい。

 

「つまりお前たちにも何が起こっているのか解らない状態だと……?」

「ええそうなります」

「原因不明か……面倒な話だな」

「まぁまぁ、三人ともひとまず無事に帰ってきたんだからいいじゃないの?」

 

 同席していた日番谷と京楽の言葉もあり、また本当に原因も不明ならば三人の記憶もアテにならないということで、天満たち三人は解放され、その日は業平の家に集まって今ある情報から解ることを話し合うことにした。

 まず、穂華が抱いていた違和感と矛盾について、二人に投げかけていく。

 

「最初から私が十三番隊にいた感じになっていませんか?」

「なってるな」

「記録を見たけど、俺が十席で業平と穂華は席次なしだ。元二番隊だったはずの穂華が十三番隊になっていること以外は時間軸には合ってる」

「天満は副隊長……じゃないな今は、朽木さんや阿散井副隊長と虚圏で戦ってる頃だな」

「なんか……過去が変わっていますよね」

「そうだな……僅かに過去が変わってる」

 

 天満は今こうして過ごしている尸魂界は天満達がいた尸魂界とは時間だけでなく世界線が違う、と解釈していた。

 パラレルワールドはその実証などされてはいないが、天満の知る「BLEACH」と天満が過ごしてきた尸魂界の歴史が違うことからも状況証拠のようなものはある。断界によって、別の世界線へと紛れ込んでしまった、なんていう荒唐無稽な言葉も天満には呑み込めるだけの根拠を記憶にもっていた。

 

「此処で見つけるべきは帰る方法だ。元の俺たちがどうなったのか、っていうのはこの際置いといて、時間が掛かっても手段を探す」

「……不可能じゃないですよね」

「勿論だ、此処で過ごすのが運命だというなら……俺は意地でも帰ってやる」

 

 幸いなこととしては環境がほぼ変わっていないことが挙げられた。帰る方法を探す、そのためにはやはり浦原喜助に事情を説明してなんとか突破口を見つける他、方法はないだろうということも天満は考えていた。パラレルワールドとはいえ先遣隊の事実があれば天満と浦原は少なくとも顔見知りであることは確実なのだ、そして先遣隊に選ばれているということは旅禍事件の際に暴れ回っていることも確実であった。

 

「新しい仲間を紹介しよう」

「ほう、一気に五人も増えたな」

「……ケッ、女ばっかりじゃねぇか」

「……下品な……男」

「ンだとォ?」

「不必要に喧嘩を売らないでいただけますか」

「……ん」

「わたくしに同意を求めても無駄です」

 

 だが、その帰る方法を探すという目的は思わぬ敵によって阻まれることになった。

 天満達がやってきてから数日経った夜、ルキアを含め副官や隊長格が全員、総隊長命令により双殛の丘へと集められていることを知った。そうなれば緊急事態ということであり、天満達も帯刀した状態で夜の廷内に出ることになる。

 

「……誰だ!」

 

 鎮まり返る瀞霊廷内から突如として火の手が上がった。同時に、天満達の前にも一人の美しい女性が立っていた。髪も肌も、着物も全てが白で構成された姿が特徴的な、美人と称して余りあるだろう美しい女性、だが天満はそれが敵であることに気付いていた。突如廷内に出現した敵、それは天満にとって滅却師の時のような危機感を煽るものだった。

 

「業平、穂華、解放して三人で叩くぞ!」

「はい! 五色燕凰! って、え……?」

「清龍……?」

「……斬魄刀の霊圧が……消えてる……?」

 

 同時に白髪の女性の近くに別の女性が四人、瞬歩で近づいて来るのが解った。

 その姿に、天満は目を見開くことになる。穂華は僅かな予感に肌を粟立たせ、業平は予想もしなかったとばかりに目を細めた。

 一人は紅と蒼が炎のように混ざりあった中華(チャイナ)ドレスを身にまとった金髪を左右で黒と白の髪留めで団子にし、黄金の瞳を持つ長身の女性。

 一人は白と赤の巫女装束に艶のある赤みがかった黒髪を伸ばし、清らかな印象とは別に目許に鱗があり翡翠に輝く鋭い瞳を持つ女性。そして最後の二人は全く顔が同じだった。和服の色柄が違うだけで全く同じ黒髪黒目の双子の若女将という風体。

 

「なんだ……これは……!?」

「ど、どうなってるんですか……」

「しまった……!」

 

 天満は己の失敗を悟った。この現象については天満は知っている。だが詳細を語ることは出来なかった。

 これは斬魄刀が持ち主とは別の魂となって離れるというとある()()()()()()であること、そしてその能力を扱う斬魄刀の名前が「村正」であること。天満が解説出来るのはそれだけだった。

 

「……成る程、一応記憶していたということですか」

「ですが全ては記憶出来ていない、と思います」

「……()()()()

「あれが天満の斬魄刀だとすると、あっちのおみ足麗しいお嬢様が」

「私の斬魄刀にその解説は止めてください──ええ、五色燕凰で間違いないかと」

「肯定しますよ、穂華」

「すると、あっちの真っ白な方じゃなくて……巫女さんが清龍か」

「……はい、仰る……通りです」

 

 そして天満が記憶していることはもう一つあった。彼女らは、もはや自身の斬魄刀だったものであり、今は尸魂界、瀞霊廷を脅かす敵であると。

 天満は素早く、瞬歩で炎輝天麟──その内の赤と白の和服に炎煙の文様を浮かべる炎輝に体当たりをしつつ詠唱をする。

 

「縛道の七十三、倒山晶!」

「──!」

「なんと……!」

「縛道の六十二、百歩欄干!」

 

 炎輝を逆さの四角錐の結界に閉じ込め、天麟や白装束の女性が振り返った瞬間に頭上へと瞬歩で移動し光の杭を出現させて、その動きを縫い止めようとする。だが、天麟は袖の下から避雷針のようなものを取り出し周囲にバラまくことで「百歩欄干」の軌道を捻じ曲げ、白装束の女性は身体に触れた「百歩欄干」の杭を凍らせてしまう。

 

「縛道で捕らえようなどと甘いお考えですよ、天満様!」

「くっ」

「千早、振れ……!」

「天満さん! 」

 

 無防備な空中で五色燕凰の蹴りをなんとか腕で防御したものの、清龍が手に持った神楽鈴を振ったことで出現した澄んだ水の龍に呑まれてしまう。

 その瀑布の如き勢いに視界が煙った一瞬の隙に、純白の斬魄刀「袖白雪」が同じく純白の女性の手から出現し、その切っ先を二人に向けていた。

 

「次の舞──」

「おい、あの技……あの刀、まさか!」

「──白漣」

 

 清龍の放った瀑布もろとも、前方を圧倒的な霊圧で氷結させてしまう。

 卍解どころか始解すらも奪われた死神に、斬魄刀の能力そのものである彼らと戦う術はもはや持ち合わせていなかった。斬魄刀たちの突然の離反、その被害は甚大になりつつあった。

 

「……出遅れてしまいましたね」

「……無事、ですか……炎輝」

「問題ありません、時間は掛かってしまいましたが」

「……天満様」

「貴女の主は丹塗矢穂華──まぁ元なのでよいのですが、それでどうされますか、袖白雪」

「声の通り、本能に従えば良いのです……私達も本能のまま、行きましょう」

 

 この突如起きた反乱によって瀞霊廷は一夜にして大打撃を受けた。負傷者多数、その中には七番隊隊長狛村左陣、一番隊副隊長雀部長次郎といった隊長格も含まれ、総隊長山本元柳斎重國、六番隊隊長朽木白哉が行方不明という最悪の状態となった。

 建物にも多数の被害が出ており、一番隊舎も焼け落ち、マトモに拠点として成り立っているのは四番隊総合救護詰所と十二番隊技術開発局を残すのみとなった。

 

「……お目覚めですか、天満さん」

「う、卯ノ花隊長……ッ」

 

 天満が目覚めたのはそれから夜が明けた頃だった。目を開けると、天満にとっては懐かしいとすら感じてしまう顔に驚き、自分が何故救護詰所のベッドで寝ているのかを思い出した。

 身体を起こそうとするが、痛みに呻いてしまう。何があったのか、気絶する前の記憶をたどり、慌てて天満は周囲を見渡す。

 

「……お二人なら、無事です」

「本当ですか!?」

「ええ、凍傷はありましたが命に別状は無く、意識もすぐに回復しましたから」

 

 卯ノ花の報告にほっと息を吐く。斬魄刀が離れたことで始解すらも出来ない、とは言うものの斬魄刀と敵対する覚悟さえあれば始解をすることが出来る。穂華はあの瞬間に、天満を害するもの全てを排除するために己の斬魄刀すらも殺すという覚悟を決めた。そして「五色燕凰」の熱風で袖白雪の「白漣」を相殺したのだった。

 

「今は浮竹隊長の指示で警備にあたってもらっています」

「……そうですか」

「ええ」

 

 気になることが多すぎるがまだ痛む身体を引きずるわけにもいかず、天満は再び横になった。

 そのいつもとは違う迷いを帯びた霊圧に、卯ノ花は彼もまた斬魄刀を失い、心折れかけているのかと考察していた。実際はそれ以上のものを失っているのだが、その喪失感と焦燥は今の彼でなければ受け止められたかすら不安になるものだった。

 

「穂華」

「なんでしょうか、じゅ……阿久津さん」

「恐らく天満は、この斬魄刀との戦いがどういう結末を取るのか知らない」

「……そうですよね、本来ならこんなことは起きていませんから」

「いや、そうじゃない。俺は村正って斬魄刀に聞き覚えがある。前に天満が()()()()()()って言ってた名前に、それがあった」

「どういうことですか?」

 

 今の天満が理解していることは、この現象を起こした存在が主から別離した一振りの斬魄刀であること、そして死神から離れた斬魄刀は死神と敵対すること、()()()()だった。どうやったら再び死神から離反した斬魄刀を己の力と出来るのか、「村正」という斬魄刀の所有者は誰なのか、そして敵の情報もほとんどが天満の頭から抜け落ちていた。

 

「お前に直ぐ理解出来るように説明するのは難しいな」

「噛み砕かない説明でとりあえずお願いします」

「天満の記憶は天満自身が体験したものの他に、天満が今の天満になる前のものがあって、後者の記憶をアイツは自分の斬魄刀に預けていたんだ」

「……すみません、理解出来ませんでした」

 

 だろうなと業平は苦笑いをする。これは天満の中にとある地点以前の記憶が二つある、という前提を元にしなければ理解出来ることではない。理解しやすい例としては霊骸の時にもう一人の天満と呼ぶべき存在があったが、彼女はその時の、因幡影狼佐のことは直接関わっていないため、説明のしようがない。

 

「とにかく、この事件の動機と目的、そして結末の全てを知っているのは天満の斬魄刀、そのうちの天麟って呼ばれてた方なんだよ」

「それじゃあ今の天満さんは」

「ああ、能力以上に記憶を奪われてるって状態だ」

「そんな天満さんの元にいられないなんて……心配です」

 

 この時間軸でもう一つ解ったことは、天満が五席ではなく十席であり二人は席官ですらないため、二人を引き連れての中隊長という役割を担っていないということだった。指揮系統が違うため、こうして警備にあたり彼の傍にいられないことを穂華は気にしていたが、そもそも業平と穂華を天満の部下に付けた張本人が浮竹であることから業平はそれほど心配はしていなかった。調査任務にも本来なら天満一人でいいところをわざわざ三人で向かっていたということもそれを証明していた。

 

「──成る程、それが村正の目的ですか」

「……ならば、何故……貴女は主から……離れたのですか?」

「それは、大いなる考えでもあるし、小さな私の我儘でもありますね」

「曖昧な物言いは止めましょう、天麟」

「炎輝……まぁ村正の策に乗ることは確実です、それも含めて私の本能に従うまでのこと」

「ならばわたくしも本能に従うことにしましょうか」

「……わたしは、貴女方と共に、参ります」

 

 地下深くの斬魄刀達のアジトでは、この世界には本来存在しえなかった三振りの斬魄刀たち──即ち「炎輝天麟」、「清龍」、「五色燕凰」が村正の全ての計画を知った上で己の方針を決定した。実体化し、主とは別の魂となり、そして()()()()()()()()()()が天麟を説得したことによって語られた内容に斬魄刀達は用意された舞台で舞うことを決意したのであった。

 

 

 




女子四人で三振りとなりました。
ここで余談を言うと清龍は最初、青い龍の文様を背負う宮司だったんですが、確定女性の五色燕凰と炎輝天麟と合わせた時に黒一点なのが気になったので女体化しました。涅隊長は関係ないです()


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