モブ死神に憑依したみたいです   作:神話オタク

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SOUL RELEASE(2)

 朽木ルキアを餌にして黒崎一護を尸魂界へと呼ぶこと、それが村正の計画の第二段階であった。その作戦が行使され、朽木邸に袖白雪が侵入、そして一護の精神世界に侵入することで村正は「斬月」を実体化させた。

 この際に実は真に「斬月」と呼ばれる斬魄刀の本体ではなく彼の中の滅却師の力を実体化させており、むしろ抑えていた力の枷を外していたという事実はさておき、それによって一護は爆発的な力を見せ、村正を一時撃退することが出来た。

 

「自らの斬魄刀を自らの力で倒すことで屈服……か」

「ああ、一護くんや阿散井副隊長によればそういうことだ」

 

 病室にて、傷もほとんど癒えた天満が業平の言葉を受けてその事実を自分が知らないということに対して不安な顔をする。

 業平は不安に覆われた彼の表情に少しだけ息を吐いて、一護が「斬月」との対話で得た情報によると村正は斬魄刀の抱いている僅かな不満などの心の隙間に入り込み、実体化させる際に洗脳をしているらしいと語った。

 

「当然と言えば当然だろうけどな」

「だが、攻略法が見つかったと言っても、他者が斬魄刀を斃した場合のリスクがあったはずだ」

「……そうなのか」

「詳しい内容は思い出せないけど……それに、護廷十三隊は正直ボロボロだ、しかも向こうはゲリラ戦を仕掛けてくる始末」

「瀞霊廷は難攻不落だが、一度内部に入られると恐ろしく脆いからな」

 

 それだけ、壁の内部に侵入することが困難ということでもあるが。天満は重軽傷様々な怪我人が運び込まれている救護詰所を見渡し、起き上がる。不安な表情をしていたが、天満は最初の戦闘時に()()()をしていた。その仕込みも半分どころか四分の一しか成功することはなかったため分の悪い賭けになってはいるのだが。

 

「京楽隊長と浮竹隊長が総指揮を取ってるんだったな」

「……行くのか?」

「勿論、知識ですら役立たずなのに、寝てばかりで皆を救えるもんか」

 

 天満が二人の隊長の元へと向かうと、その部屋には黒崎一護がいた。

 一護は彼を見ると少し驚いたような顔をされ、天満もなんとなく見慣れた一護よりも少し少年みのある彼を懐かしいような気持ちで微笑み掛けた。

 

「天満さん」

「一護くん、久しぶり……でもないかな?」

「そうだな、なのに一瞬別人かと思ったよ」

「鍛錬し続けてるからかな?」

 

 実際、恐らく一護が抱いている「稲火狩天満」と今の天満では差異があるのだろう、天満は曖昧に濁した返事をしておく。二年と言えばそれまでだが、彼はその間に霊王宮による修行によりそれまでとは別次元と言える強さを身に付けてしまった。それこそ今の十席という立場ではあまりにも不釣り合いで、アンバランスだ。

 

「もう怪我はいいのか、天満」

「はい、お陰様で服務に支障無いほどに快復しました」

「そりゃあよかった、それで天満くんは何か解ったことでもあるのかい?」

 

 京楽の眼が少し鋭く光ったような気がした。天満が京楽と別隊の隊長と隊士という関係以上の交流を持つのは「侵軍」の事件で共闘してからのものだ。まず間違いなく未だこの時は目を付けられてはいるだろうがそれまででしかない。故に、天満は一種の賭けに出た。

 一護がいなくなってから、天満は京楽と浮竹に向けて信じられないような報告をし始めた。

 

「俺たちは子細は違いますが、今より二年後の尸魂界よりやってきた別人です」

「……なんだって?」

「そりゃあ、俄かには信じられない話だ」

「此方としても同じ気持ちです。ですが断界に穴が空いて……脱出したら、という状態です」

「それがさ、例え真実だとしたら、ボクらにとって何か拙いことがあるんじゃないかな?」

「今回巻き込まれた俺含め三名の隊士は全員が卍解を扱える、ということです」

 

 浮竹と京楽は同時に目を見開き、そしてそのような力を持った斬魄刀が全て敵に回っているということの恐ろしさを実感した。天満達を襲った斬魄刀は四振りであり袖白雪、炎輝天麟、清龍、五色燕凰でありその全てが隊長格並の能力を有しているということでもあった。京楽は十三番隊の穿界門前で発見された天満達の雰囲気が余りにもかけ離れていることの合点がいったとその瞳を鋭くした。

 

「どうでしたか、天満さん」

「うん、一護くんと行動を共にせよってことになった」

「黒崎一護さんですか」

「穂華はあまり関わってなかったか、と言ってもこの時点での俺も似たようなものか」

「そうだな」

 

 天満としては敵対したことでギクシャクした関係だった時期があったためそうではないことへの安堵、業平はまぁ話してもう一度受け容れてもらえばいいという楽観、穂華はやや不安を抱いていく。天満としては彼と共に行動するのは虚圏の虚夜宮へ向かう時以来のことのため、懐かしいと感慨を抱く程だった。

 

「ルキアもまだ怪我が癒えきってねェし、助かるよ、よろしくな天満さん、阿久津さん、穂華でいいか?」

「ああ」

「頼むよ一護くん」

「構いません……よろしくお願いします、黒崎さん」

 

 丹塗矢は若干呼びにくい、という判断で呼び捨てにされた穂華はやや不満そうだったが、天満から我慢しろと視線で諭され、やや険のある口調のみで済ませることが出来た。

 ──そして夜になり、四人に一角が合流し見廻りをしていると霊圧を感じた一行は壁を破壊し、現場へと到着した。

 

「お前ら……手ェ出すんじゃねぇぞ」

一対一(サシ)の勝負だ」

 

 一角は鬼灯丸と、そして一護は五形頭との戦いを始め、天満たちも加勢しようかと刀を構えた瞬間に、熱を帯びた風の刃が荒れ狂う。

 三人が瞬歩で回避すると、そこにはきらびやかな中華服を見に纏った金髪の美女、五色燕凰が立ちはだかっていた。己の分身たる鉄扇を広げて顔の下半分を覆い隠すその姿は女王の風格すらも感じられる。

 

「明け灯すは棚引く煙羅、昏く浮かぶは手招く桂雲──炎輝天麟」

「搏翼舞うは五色絢爛、五音囀り吉祥報せよ──五色燕凰!」

「矢張り、袖白雪の技を貴女が防御したのね穂華」

「お陰様でね、死にかけましたよ」

「ふふふ、さて……少し本気で戦らせていただきましょうか」

「……おいおい、まさか」

「そのまさかですわ──()()、極煌聖凰飛翼ノ熾臣」

 

 あっさりとその言葉と同時に彼女の身体から十二枚の翼が生え、光輪が夜を照らしていく。天満も業平もその溢れる霊圧に素早く始解したものの、瞬間に業平が掌底によって遥か後方へと吹き飛ばされてしまった。

 一人一人挑むのは一瞬で全滅すると天満と穂華はアイコンタクトを交わし、一瞬で連携を組み立てていく。

 

「は、ふ、やぁ!」

「重斥突!」

「良い連携、けれど」

「縛道の六十三、鎖状鎖縛!」

「縛道の六十一、六杖光牢!」

「──なんと」

 

 穂華の連撃の隙間を埋めるように天満の長刀の刺突が入るがそれを瞬歩で回避する、それを二度繰り返した際に、五色燕凰が回避する直前に全く同じタイミングで天満の「鎖状鎖縛」と穂華の「六杖光牢」で動きを止める。だが、五色燕凰は焦ることなく微笑み、二人の攻撃は五色燕凰の身体をすり抜けていき、縛道もすり抜けた彼女は回し蹴りを放ち、天満と穂華を壁に激突させていく。

 

「……ッ、鶯囀!?」

「なんで、発動条件は……!」

「前以て炎輝天麟から幾らか霊圧を分けていただいたので、天満様の鎖状鎖縛と重斥突も万が一のことを思って受けていましたが」

「しまった……悪い油断してた……大丈夫か穂華」

「なんてことありません!」

「強がりを言っても無駄ですわ……ですが、まだ抗うのなら……?」

「月牙、天衝ッ!」

「激龍爪!」

 

 炎風を手に溜め、その手を持ち上げた瞬間に黒い霊圧の刃と水流の爪が同時に襲いかかり爆裂する。

 一護は既に卍解しており「天鎖斬月」の姿で空中におり、業平は口の端から血を滴らせながらも「清龍」を回転させながらやや獰猛な笑みを浮かべていた。

 

「大丈夫か、二人とも!」

「五形頭は?」

「とりあえず気絶させて……っぐあ!」

「一護くん!」

「業平、後ろだ!」

「ハッ……クソッ!」

 

 一護が地面に叩きつけられ、業平が咄嗟に防御するものの再び壁に激突するほどの蹴りを受けて呻く。

 捉えていたと思われていた不意打ちの牙と爪をどうやら五色燕凰はギリギリのところで躱しきったようで、肩で息をしつつその麗しい顔を怒りで歪めていた。

 

「不遜! 誰の許可を得てわたくしの邪魔をするのか死神ども!」

「邪魔……!? 答えて五色燕凰! 貴女の目的は何? どうして私から離れたの?」

「わたくしの本能に従ったまで」

「……本能?」

「そう、そしてわたくしの本能は唯一、貴女と天満様の障碍となること!」

「コイツ、何言ってんだ……?」

「邪魔をするというのなら、容赦しない」

 

 五色燕凰の金色の、威圧的な瞳が一護に突き刺さる。穂華の斬魄刀「五色燕凰」が卍解出来るということに対する疑問も全てが吹き飛んだ。同時に自分の斬月を屈服し直した時に感じていた焦りを見せつけられた。五形頭なら、卍解を取り戻した一護にとってはそこまで苦戦する相手ではない。だがそれが隊長格の斬魄刀ならばどうだろうか、例えば狛村左陣の「黒縄天譴明王」ならば、いやもっと言うならば一護の知らない卍解が、一撃必殺級だったならば。

 そんな最悪の想定をした一護は、視界の端に死覇装と首に纏った銀白風花(ぎんぱくかざはなの)(うすぎぬ)が映った気がした。同時に鬼灯丸が瞬歩で消えたのも視界に見た。

 

「一護くん、どうやら五色燕凰は穂華と天満に用事があるらしい」

「……けど!」

「黒崎さん、貴方の手を煩わせる程のことではありません……これは私の戦いです」

「穂華……お前」

「行け、一護くん!」

 

 天満のその言葉で一護が瞬歩で消え、五色燕凰は視線をそっちへと向けつつも追いかけるつもりもないかのように微笑みを浮かべた。

 穂華が閉じた鉄扇を上段に構え、天満もまた中段で二刀を構えた。業平は全てを察したのか屋根の上で行く末を見守っている。

 ──彼女は二対一を所望している。天満と穂華と二対一で戦うということが本能からの望みなのだとこの場にいる全員が気づき始めていた。

 

「鶯囀が使えるとなると、正攻法じゃ無理そうだな」

「そうですね、ですが! 押し通ります!」

「笑止千万、真正面からの攻撃で、始解しか出来ない貴女が卍解に勝てる道理など!」

「ならば無理を通してでも天満さんの道を造る、それが私の戦う理由だから!」

「善哉、来なさい穂華!」

「参ります、参舞・穿鶴」

「まさか忘れているわけではないわね穂華、五色炎舞は全て炎風を扱う技、その全てを操る熾鳳の前には無力だと!」

 

 渦巻く炎嵐の槍は五色燕凰が手を薙ぐことで全て形が崩れて彼女の味方をし始める。全ての風を操る「焉舞・熾鳳」の前には他の五色炎舞は全て通用しないどころか相手に力を与えることになってしまう。だが、それを解っていても穂華は再び「穿鶴」を放つ。解けて五色燕凰の周囲を舞う風になろうと構うことなく「穿鶴」を放ち続けた。

 

「──自棄を起こした、訳ではないわね。狙いは……?」

「教えると思う?」

「まさかわたくしの熾鳳を自分の熾鳳で覆そうと……いいえ、そんなことが出来ないことは解っている筈」

 

 同じ「熾鳳」によって風を操り相手の溜めた攻撃を全て浴びせるという作戦を一瞬だけ思いついたが、五色燕凰はすぐにそれが不可能であると首を横に振った。同じ技のぶつかり合いとなればものを言うのは霊圧となる。だが始解状態の穂華ではどう足掻いても卍解状態の「熾鳳」を覆すことは出来ないのだから。

 

「肆舞・刻燕!」

「何かを狙っていることが解れば、わざわざ待つ必要もないのよ!」

「そうだね、でも……少し遅いよ」

「何……ッ」

 

 五色燕凰が乱回転する炎風の球体に向けて手を翳し、それを解き槍に変えていくが、その中に()()()()()()があることに気付いた。球体が解けた中に入っていたのは黒い球体──天満が放った「天麟黒星」だった。

 このままでは自分の身体は重力でバラバラになると咄嗟に「鶯囀」で逃れた先で五色燕凰は暴れ川のような激流に飲み込まれてしまう。

 

「貴様、またわたくしの邪魔を……!」

「悪いな、最初から二対一のつもりなんてないんだよ、五色燕凰」

「そういうことだ、右肩をもらうよ……重斥突!」

「グゥ……ッ!」

 

 光輪を輝かせながら翼をはためかせ爆風を起こしたことで激流から抜け出したものの、その流れの中で斥力を使って身を潜めていた天満の渾身を籠めた刺突を受けて、右肩から先が吹っ飛び苦悶の声を出した。無理矢理回避しようとしたことでバランスを崩した五色燕凰は飛び上がり体勢を立て直そうとするが、そこに待ち構えていたように穂華が鉄扇を広げて周囲に炎嵐を巻き起こしていた。

 

「言った筈、()()()()()()()()!」

「成る程……貴女の愚直に、あの二人が……策を()()()()()ということ──」

「そう、私は信じただけ、あの二人ならきっと私が技を振り下ろす先に貴女を誘導してくれるって!」

「俺は業平や穂華が信じてくれるって識っているだけだ」

「──お見事」

 

 炎嵐が五色燕凰へと襲いかかり、彼女の身体を切り刻んでいく。そして、その暴風が止む頃には夜闇に閉じた鉄扇が一つ、置かれているだけだった。

 ──これで屈服した、ということなのだろうと天満と業平、そして穂華は安堵に息を吐き出した。

 

「やりましたね」

「お疲れ様、穂華、よく頑張ってくれた」

「──はい」

 

 天満が五色燕凰を拾いあげ、手渡したことで穂華は花が咲くような笑顔を浮かべた。

 その後「千本桜」の妨害を受け、鬼灯丸を逃した一護と合流し、五形頭を砕蜂が技術開発局へと連行したことで夜の出来事は一旦の落ち着きを取り戻したのだった。

 

「戻って参りませんね、五色燕凰」

「恐らく返り討ちに合ったのではないでしょうか、戻ってきてもいませんし、或いはどこかで迷子にでもなっているかもしれませんが」

「十中八九、返り討ちです」

「……そうですか」

「大丈夫、ですか……袖白雪……?」

 

 袖白雪の表情には明らかな憂いがあった。彼女はただ、少し自由に生きてみたかっただけだった。刀としてではなく一つの命として、自分の足で立ち、世界を見ていたかっただけだった。決して、本当なら朽木ルキアを憎むなどあるはずもなかった。

 ──そして、その自由の代償は五色燕凰が証明した。そしてそれをこともなげに語り合う清龍と炎輝天麟にも何かのズレのようなものを感じ取っていた。

 

「ええ、貴女達の持ち主だった死神達は、中々厄介なようですね」

「一対一に、持ち込めば……それほど脅威には、成りえませんが……」

「三人集まると……いえ、二人でも集まると厄介です」

「でしたら、清龍……丹塗矢穂華の相手をお任せしてもよろしいですか?」

「……はい……お任せ、ください」

「五色燕凰が独断したのは予想していましたが、あの能力は相手にしたくありませんからね……それよりも、袖白雪」

「……ど、どうかしましたか?」

「──いえ、すみません。中々、考え事をしていらしたようなので」

 

 天麟の言葉に袖白雪は怪訝な表情をした。曖昧で芯を感じない物言いをする天麟だが、彼女は意味のない言葉は吐かない。その全ての未来を見ているような、けれど何処か過去を見つめているような瞳に自分がどのように映っているのか、袖白雪はそればかりが頭の中に浮かぶのだった。

 

 

 

 

 




お互い呼び捨てですが一応炎輝が姉、天麟が妹、という設定になっています。出自的に当然といえば当然ですが。
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