モブ死神に憑依したみたいです   作:神話オタク

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SOUL RELEASE(3)

 鬼灯丸とそして千本桜を追いかけた一護はその後、氷輪丸と日番谷の一騎打ちに立ち会い、そして飛梅と灰猫の襲撃を受けた後に雛森桃と松本乱菊と合流した際、朽木白哉が斬魄刀達の、なにより村正の味方をしているという衝撃的な事実を知り戻ってきた。その情報は少なからず護廷十三隊に動揺を与え始めていた。

 ──その頃、持ち主である穂華によって屈服され、村正の洗脳から解き放たれたとはいえ、まだ実体化可能な──独立した状態の五色燕凰から話が聞けると判断した天満達三人は早速、事情聴取を彼女に行うことにした。

 炎輝天麟と清龍、そして袖白雪と行動を共にしていた彼女なら或いは全て識っているのではないかという期待を籠めた聴取だったが、彼女はあっけらかんと言い放ったのだった。

 

「村正の目的は天麟から聴かされました」

「……大当たりだな」

「無茶してでも三人で倒した甲斐があるというもんだ」

「教えて五色燕凰、村正の目的って……?」

「ええ、語りましょう……ズバリ、封印された持ち主の解放ですわ──!」

「おお、してその持ち主とは誰?」

「……も、持ち主は持ち主、ですわ!」

「ん? もしや、名前は明かされていない?」

「ええ!」

「……おい穂華、キャラ変わってないかコイツ」

 

 明らかな残念な子オーラを纏わせる金髪金目の中華風美女は満面の笑みでそこまで聴かされていないということを自信満々に頷いてみせた。戦闘中、もっと言うならば洗脳されている際とのギャップに天満は風邪を引きそうだと身震いをする。隣で話を聞いていた穂華もプルプルと震えており、そして──なんと爆発した。

 

「それって、天麟からどうせ言っても解らないからいいかって思われてるってことじゃない!?」

「そんなはずは……え、もしかしてわたくし、ハブられました……?」

「だろうな、普段天満が穂華に肝心な情報は言っても無駄かって教えないのと同じだな」

「持ち主と斬魄刀ってのはそういうもんだ」

「天満さん!?」

「天満様、それではまるでわたくしが最初から独断専行して負けることを予測されたようではありませんか!」

「……そう言ってると思うぜ、天満は」

 

 どうやら全く思い至らなかったようで、五色燕凰は自身の持ち主とその仲間に刃を向けた謝意と誠意を情報によって示そうとしていたためあからさまに落ち込んでしまった。

 持ち主の穂華も、もう少し戦闘経験を積み、落ち着きを伴えるようになればアイコンタクトで連携を行うことも可能ではあろうが、今の穂華にそれを求めるのは酷というものだった。

 

「けど、これで間違いなく次に炎輝天麟と清龍は俺達と穂華を分断させに来るだろうな」

「ああ、それをなんとか出来るかが鍵だ」

「どうしてですか?」

「二振りの卍解はお互いに味方が邪魔になる。そして特に卍解を取り戻した穂華は炎輝天麟には強く出られるからな」

「成る程、ですからわたくしと穂華を清龍が、天満様と阿久津さんを炎輝天麟が相手をするということになるのですね」

 

 炎輝天麟の卍解「炎輝天麟星皇創世ノ嘶」と清龍の卍解「天星濁龍御射軍神」は穂華の卍解程小回りが利かない。だがその分、破壊力の面を考えると卍解されてから対処を考えるのでは手遅れと言わざるを得ない。

 顎に手を当てて考えこんでいた業平が天満に訊ねていく。

 

「どうする、実際分断されるとキツいだろ」

「まさか自分で自分の卍解の対策を考えないといけない日が来るとはな……」

「黒崎さんにも助力を願いますか?」

「一護くんか……そうだな、一応一緒にいるようにって京楽隊長にも言われているしな」

 

 自分の知識が使えないが確実なことは黒崎一護は常に渦中にいるということだった。その知識を有している天麟によってある程度の改変はされている可能性があるのだが、それでも指針となるのは彼の行動だということもあり天満は一護と行動を共にすることに決めた。そんな作戦会議の様子に自分が出来ることはないと判断した五色燕凰は庭で日の光を浴びていた。

 

「なぁえっと……」

「五色燕凰ですわ、黒崎一護」

「悪ィ、アンタはなんで卍解を使えるんだ?」

 

 その疑問はごもっともだと五色燕凰はどう伝えたらいいものかと考える。一護としても恋次や自分が例外のようなものであり本来は隊長格でないと扱うことも出来ない斬魄刀戦術の最終奥義、卍解を一般隊士に過ぎない穂華が扱えるということに疑問を抱く。そして同時にその能力に驚くことなく、斬魄刀が離反しても始解を扱える天満と業平にも疑問は尽きない。

 

「そこはわたくしから語ることは出来ませんわ」

「そうか……いや、隠してるんならそういうことだよな」

「ええ、時に黒崎一護、貴方は天満様をどのような人物だとお考えですの?」

「え、天満さん……? いや、なんつーか、浦原さんみてぇな人だなとは思うんだよな」

「浦原喜助と?」

「……ああ」

 

 持ち主である穂華ではなく天満のことを訊ねられたことで少し困惑しながら一護は素直に感じたことを話した。

 最初に稲火狩天満という人物を知った時、それは恋次との戦いで重症を負った自分が花太郎の治療を受けて地下水道に潜伏していた時だった。花太郎もそうだが、とても強そうとは、強者のような雰囲気を纏わない十席と名乗った彼に一護は志を同じくしたものが瀞霊廷にもいるんだな、という程度の認識しかしていなかった。

 ──だが彼が日番谷先遣隊として選ばれて、現世にやってきた時、少なくとも一角や弓親と同程度の実力者だという風に認識を改めた。そして茶渡の修行の手伝いをしていたこと、卍解を扱えること、知れば知る程、浦原喜助の正体を尸魂界に突入してから知った時のような感覚がしたのをよく憶えていた。

 

「つか、なんで天満さん?」

「そんなもの、穂華の未来の伴侶だからに決まっていますわ!」

「……はん、え?」

「今は違いますが、必ずや二人で手を取り合い、将来を共にする、それが穂華と天満様の輝かしい未来ですわ──!」

「は?」

「穂華は穂華で一歩踏み出す勇気が持てずに不器用な好意を伝えるのみ、天満様はそれに気付いて愛おしく思っておいでなのに記憶という枷に縛られて穂華の手を取れないじれったい関係、それを、わたくしがなんとか出来たらと何度考えたことか!」

「……まさか、それで?」

「そのまさか、ですわ!」

 

 一護は斬魄刀からそのような人間模様を聴かされ、言葉が出なくなってしまう。そして昨晩、業平と自分が加勢した際に突如として激昂した意味をおぼろげながら察してしまったのだった。

 ──彼女は障碍として立ちはだかることが本能と言っていた。つまりは天満と穂華の関係を進めたいという気持ちが村正によって増幅し()()()()となることを選んだということだったのだ。

 

「お前、それ絶対に二人に言わない方がいいと思うぜ」

「そんなもの、とっくに承知しておりましてよ」

 

 自信満々な五色燕凰に溜息を吐いたタイミングで業平が一護に声を掛ける。

 急にどうしたんだと疑問に思う間もなく、業平は一護に五色燕凰が言ったことを二人には明かすなと念を押され、一護はもう一度溜息を吐くことになった。

 

「朽木白哉……!」

「なんでコイツがここに……」

「どうなってんの!?」

「村正さん、これ一体どういうこと!?」

 

 同刻、斬魄刀達の潜伏場所では村正が白哉を連れてきたことに対して不信感、動揺、驚き、そんな感情が渦巻いていく。

 その疑問と疑念に対して、まるで斬魄刀達の言葉を代弁するように千本桜が声を発する。何故、死神達を裏切って自分達の味方をするのかと。

 

「死神を敵に回すだァ?」

「ボク達に味方するってこと?」

「──私は、自分の誇りに従って行動している」

「ハッ! 何が誇りだ! そんなもん信じられっかよ」

 

 そこに拘束されていたところを救助された飛梅が声を上げたことで、疑念が困惑に変わっていく。徐々に非難の声が収まったタイミングで再び千本桜が詰め寄って、ダメ押しとばかりに「洗礼」を受けさせようと画策する。信頼を勝ち取るために、死神を裏切ったという証明に使われるのは、彼の最愛の義妹、朽木ルキアの斬魄刀である袖白雪だった。

 

「貴様の義妹の斬魄刀、袖白雪を今此処で斬ってみせろ!」

「あっ!?」

 

 その一連の茶番を冷めた目で見ていたのは袖白雪と行動を共にしていた炎輝天麟と清龍だった。特に炎輝と天麟は朽木白哉が斬魄刀側に寝返ることもその目的も、そしてこの全ての流れも千本桜の真意も全てを識っていた上で、黙って見ていた。

 他人に斬られた斬魄刀は二度と元には戻らない、その言葉に反応して斬魄刀達は()()()()()()()()()()()()と刀を構えていく。勿論、彼女達も同様に──だが、白哉の答えは至ってシンプルなものだった。

 

「斬れ、と申すのだな」

 

 そう言ったと思えば既に袖白雪に刃を向ける。

 そこに躊躇いなど何もない。本気で彼女に刃を向けることに対して、全員が驚きのあまりに固まってしまう。清龍がその様子にチラリと天麟を窺うが、彼女は目を閉じて今にも飛び出そうとする自分を抑えているようにも感じた。

 

「……天麟」

「何も、言わずに居てください清龍……今は、何も……」

 

 袖白雪は人柱だ。このまま斬られることも、いずれは元に戻ることも、それによって村正の野望を阻止出来るということも解っている。理解してはいるが、短い間でも共に歩んだ斬魄刀を、何より未来では共に研鑽し隊長代行と、次の副隊長という立場にある朽木ルキアの斬魄刀を、袖白雪を一時とはいえ犠牲にすることへの怒りが彼女の本能を揺さぶる。

 

「大丈夫ですよ天麟、この怒りはいずれぶつける相手が来る──そうでしょう?」

「……どうでしょうね」

「ともかく……あの子を、独断専行させたのは……ある意味、正解、だったのかも……しれませんね……」

「五色燕凰でしたら耐え切れずに飛び出したでしょうね」

 

 白哉の「六杖光牢」を受け、拘束されての斬撃によって完全に折れてしまった「袖白雪」に千本桜が瞬歩で駆け寄るが、此処まで全てが計画通りだということに気付いているのはこの場では炎輝天麟と清龍の二振りのみだった。他の人物は、疑いつつもそこまでの覚悟を受けて、何かを言うことすらも赦されない雰囲気に包まれてしまっていた。

 

「さて、次は全員出撃ですから漸く出番がもらえそうですね清龍」

「……はい、主様と……一度くらい、刃を交えたい……ですから」

「より良い救世と未来の為に……という感じで」

「ええ、我々の救世を成しましょう天麟」

「清龍も……お供、致します」

 

 目指す先は六番隊舎、その中にある地獄蝶を管理する部屋だ。山本元柳斎重國の封印に注力している肉雫唼、花天狂骨、双魚理の三振りを除いた全ての斬魄刀、隊長副隊長クラスの斬魄刀が一斉に襲いかかる大規模戦闘が始まろうとしていた。それを五色燕凰にも事前に知らせていたため、きっとその場に持ち主達がやってくると清龍と炎輝天麟は頷きあっていた。

 

「……はて、何かを伝え忘れているような……きっと気のせいですわね」

「気のせいじゃなかったら穂華の許可を得ずに叩き折っていいかな?」

「大丈夫です天満さん、斬魄刀の不始末は私が責任を負います、つまり折るのは私です」

「物騒なこと言ってんな二人して……」

「本人が若干嬉しそうなのが一番救えないけどな」

 

 気のせいではないため折られることがさり気なく確定していることなどお構いなしにこの斬魄刀の叛乱に於いて瀞霊廷内で起きた最も大規模な戦闘まで、もう幾許もない程にまで迫っていた。

 

 

 

 

 




五色燕凰
イメージとしてはポンコツお嬢様、卍解の具象化状態の時は母親の似姿であるため落ち着いていたが持ち主が持ち主のためコッチが本来の性格。
袖白雪、炎輝天麟、清龍と四振りで行動すると末っ子状態。特に清龍には呆れる程脳筋でバカだと思われている。正解ですわ。


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