モブ死神に憑依したみたいです   作:神話オタク

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SOUL RELEASE(3)

 村正が現世に向かい、持ち主の封印を解く為に必要な地獄蝶──それを奪取するために朽木白哉と千本桜は六番隊舎に侵入していた。そこでルキアと恋次、そして蛇尾丸との戦闘が始まった。

 だが相手は隊長、そして強力無比な「千本桜景厳」の前に恋次と蛇尾丸は戦闘不能になってしまう。

 

「動くな!」

 

 幾人かの斬魄刀が集まったそのタイミングで、二番隊隊長砕蜂の声に合わせて隠密機動が取り囲み、一護や一角、弓親といった戦闘可能な席官が六番隊舎の周囲の包囲を完了していた。一振りたりとも逃さない、という包囲網を突破するために斬魄刀達は席官との戦いに挑んでいく。

 風死は吉良と、厳霊丸と天譴は砕蜂と、鬼灯丸と瑠璃色孔雀はそれぞれの持ち主と、そして千本桜が一護との戦いを始めた頃、射場、虎徹、雛森、松本の四人もまた灰猫、飛梅との戦いを始めていた。

 そしてまた、本来は居なかった筈の彼らも己の斬魄刀との戦いに身を投じていた。

 

「また会ったな、清龍」

「……清龍も、会いとうございました……主様」

「そうか……理由は、訊くまでもなさそうだな」

「はい……主様に、刃を向けられること……心より、()()()()()()()

「──千早振れ、清龍」

 

 神楽鈴が自身の分身たる偃月刀「清龍」へと変化させ、凛とした張り詰めた空気のような霊圧を放出する。業平も始解をし、全く同じタイミングで地面を蹴り、剣戟を繰り広げていく。まるで舞を踊るような滑らかな回転を伴う連撃を業平は受け止め、手首で偃月刀を回転させた勢いで水の刃を地面に叩きつけていく。

 

「なあ訊かせてくれないか、何故離反した? お前の本能とは何だ?」

「清龍の、本能は……貴方を斬りたい……貴方の血が、欲しい……そう叫んで、おります……」

「俺の、血か……やめとけよ、毒だ」

「……承知の上で、求めてやまない……それが、本能……!」

 

 瞬歩を見切り、上段からの水圧を伴った振り下ろしによって水煙を上げ視界を塞ぐ。そのまま、驚き立ち止まった清龍に向け、業平は連続して水流のカッターを九回、放っていく。

 渾身の攻撃であったが、それを舞踊のような動きで回避し、逆に業平の姿を捉えた「清龍」の刃が素早く彼の肩に迫っていった。

 

「……貴方様」

「炎輝天麟……袖白雪を朽木隊長が斬ったっていうのは、本当か」

「事実で御座います……そしてそれは、決まっていた流れで御座います」

「変えられたかと問われれば、出来たやもしれませんが、それは私の本能に反するものと判断してくださると幸いです」

「本能……些細な不満を広げて、暗示を掛けることで斬魄刀を実体化させ離反させる……それが村正の能力だな?」

「無鉤条誅村正、それが卍解した村正の能力で御座います」

 

 本来の「村正」の能力は斬魄刀を己でコントロールしその刃で同士討ちを狙う能力、そして卍解である「無鉤条誅村正」は「村正」そのものが実体化し、暗示を掛けることで斬魄刀を実体化、そして離反させる。始解の能力で操れるのはせいぜい自分よりも霊圧が下のものに限られるが、卍解し離反させることができれば始解をすることも叶わず、逆に自分の始解に殺されるという末路を辿る。また、暗示を掛けることで相手を動けなくしたり、記憶を読んだりすることも可能だ。

 

「……記憶、天麟の記憶は?」

「奪うことも、覗かれることもしていない……と考えています」

「でなければ朽木白哉を仲間に引き入れるという選択はしません」

「……朽木隊長にはやっぱり何か狙いがあるってことなのか」

「ええ、ですが……おしゃべりが過ぎましたね。その目的、狙いを知る必要はないのですよ……貴方様」

 

 炎輝と天麟は全く同じタイミングでそれぞれの手に斬魄刀を出現させる。炎輝が長刀を、天麟が小太刀を手に、まるで二刀流かのように同時に襲いかかってくる。天満は予め解放していた斬魄刀でそれぞれ応戦していく。長刀を振りかぶれば左手に小太刀を持った天麟が防御をし、逆に天満も右手に長刀を持った炎輝の攻撃は小太刀でいなしていく。時折小回りの利く天麟が刺突によって攻撃を繰り出すがそれも天満は読み切って回避に専念することでお互いの攻撃が一切当たらない状態が続いていく。

 

「俺に不満があるのはそうなんだろうな……けど、どうしてだ」

「本能に従うまでのことです」

「炎輝!」

「……私と天麟は、一対揃って一振りの斬魄刀……片方だけでは不完全です」

 

 その言葉を天満は炎輝も天麟も屈服して初めて、元に戻るのだと解釈した。

 天満の瞳から迷いが消える。元より、自分の斬魄刀を倒すことに対してデメリットは一切ない。それが如何に暴力による解決だとしてもそれは事実だった。

 

「破道の五十七、大地転踊」

「天麟、よいですね」

「……よいでしょう、全力を以て相手をします」

 

 黒星と白星を組み合わせて創った星核に鬼道によって巻き上げた瓦礫を集めていく。今の天満が使うことが出来る、最大にして最強の技である「流塵星」は炎輝天麟が再現するには時間が掛かるため不可能だ。

 元々の「流塵星」は星の核が自然に瓦礫を吸い込むのはあまりに遅いという欠点を抱えた能力だった。その遅効を対策するために天満は「大地転踊」を組み合わせている。同じ威力で相殺するには時間が足らない、そう判断しての技だったが炎輝と天麟の表情に動揺など何処にも存在しなかった。

 

「……チッ、くそ!」

「いつまで、逃げて……回るおつもり……ですか……?」

「この──破道の三十二、黄火閃!」

「無駄です……?」

 

 肩から血がとめどなく流れるその痛みを引きずったまま、業平は撤退しつつ鬼道の眩い光を使って隠れて清龍をやり過ごそうとする。全てを共に研鑽してきた斬魄刀だ。霊圧、歩法、白打、斬術、どれをとってもそれほど違いが出る訳ではない。だがこうも一方的に能力の差で押し負けるというその理由は、即ちその能力の元々の持ち主が斬魄刀側だという証明だ。

 

「……撒いたか?」

「いえ……霊圧は消せても、血の匂いは……消えませんので……」

「──ッ!」

「主様……さぁ、甘美なる血を、清龍に捧げて……くださいませ……清龍を、主様の血で、穢して──!?」

 

 少女のものとは到底思えない膂力で腕を掴まれ、肩口から溢れる血に向けて清龍がその口を開いた瞬間に、炎風の槍が瞬歩で消えた清龍の居た場所に突き刺さり、業平を吹き飛ばして無理矢理距離を開かせた。

 清龍が爬虫類のような縦に開いた瞳孔を細め、忌々しげに睨んだ先にいるのは見るも綺羅びやかな鉄扇で口元を隠す金髪の美女だった。

 

「参舞・穿鶴──阿久津さん、ご無事ですか?」

「ご、五色燕凰……!」

「はい、この五色燕凰、助太刀に参上致しましたわ!」

「……今頃に、なって……遅参、ですか……五色燕凰」

「睨まれましても、これも天満様の作戦故……それを讒謗なさるというのなら、天満様の策をそうなさっているとお思いなさいな」

 

 パチンと音を立てて鉄扇を閉じた五色燕凰は平時の残念さとはうってかわって自信に満ち溢れた強者の風格を漂わせる。思わぬ形で二体一になってしまった清龍だが、長く息を吐き出し、再び偃月刀を出現させ、霊圧が周囲を覆い尽くす。

 業平は戦闘不能と見ていい、ならば事実上の一対一だと彼女は五色燕凰にその刃を向けていく。

 

「星を衝突させて破壊するなんて……無茶なことをするな」

「無茶ではありません」

「我々の最大の力なら可能だとは思えませんか?」

「……厄介な」

 

 轟音が響き、天満が瞬歩で空中へと飛び上がる。それは斥力が生み出した重力の斬撃で、周囲の瓦礫を全て吹き飛ばしてしまうほどの威力が籠められており、天満は土煙を刀で払いながら地上を目視するが、既に天麟が彼の視界から失せており、警戒する間もなく右手の長刀がグン、と何かに腕を引かれたように空中で無防備に縫い留められ、その腕に刀が突き刺さった。

 

「っあ!?」

「因果天引……このまま右腕はいただきます」

「させるかよ……縛道の、三十……嘴突三閃」

 

 ──痛みに天満が右手の長刀を手放したと思った瞬間、天麟の身体が三本の光に貫かれ、壁に拘束される。その勢いで天麟が手に持っていた刀が腕から抜け、血が吹き出すが、構うことなく天満は回転させた小太刀から黒い星を創り出し、炎輝へと打ち出した。

 だが炎輝は長刀を身体の前に出し、斥力によって衝突を防ぎ、そのまま天麟の方へと弾き、逸らしてしまう。

 

「とんでもない目に遭った、と言わざるを得ません」

「助けたのですから、文句は言いっこなしですよ、天麟」

「まさか……ここまで実力に差があるとは思わなかった」

「我々に迷いはなく、貴方様の剣には迷いがある──その違いで御座います」

 

 その言葉と同時に再び波状攻撃を受ける。再びとは言うが一撃一撃が先程よりも素早く重く、小太刀しか持たず、腕を貫かれている天満は防戦一方のまま徐々に後退させられる。鬼道のために霊圧を練るタイミングも見測ることが出来ずに表情が焦りに変わる。

 二人の動きは別々でありながら完全に同期しており、視線を向け合うことなく連携を続けていく。

 

「くそ……ッ!」

「これで──」

「──詰みで御座います」

 

 重力の流れを読みきれずに蹈鞴を踏んでしまい、バランスを崩す。

 それを予期した二人の斬撃が寸分の狂いもなく同時に天満に襲いかかった。天満もこれには覚悟を抱き目を閉じてしまったが、その刀は熱風によって弾かれ、炎輝天麟は驚きに目を見開く。

 

「丹塗矢穂華、助太刀のため参上致しました!」

「……誘導にちょっと梃子摺った、助かったよ穂華」

「はい! 天満さんの為ならば、この身を修羅と致します!」

「どうやら、策を練られていたようですね」

「……はい、何やら清龍の霊圧のようなものを感じます」

「そりゃそうだ、お前らに卍解されたら……万が一にも勝ち目はないからな」

 

 既に炎輝天麟が卍解したならば清龍を巻き込むところまで誘導されていることに気づき、天満は予定よりも大怪我を負ったことによる汗を掻きながらも形成がひとまず不利からは脱出したということを確信した。

 ──同時に千本桜の卍解も影響を受けない範囲でゆっくりと戦うことが出来る場所へと誘導したことで天麟は更木剣八が出ようと、疋殺地蔵の卍解の猛毒の影響もない場所だということに気付いた。

 

「やってくれましたね……貴方様」

「あんまり舐めてもらったら困るよ……炎輝天麟」

「天満さんの元へと戻ってもらいます!」

「……この程度、些事で御座います」

 

 炎輝天麟に焦りはない。同様に天満の策に気付いていても、清龍にも焦りはない。

 遠くで剣八の霊圧が響き、戦いが激化していることが感じられる中、本来の流れに存在しない者たちは静かににらみ合っていた。

 己の本能のため、例え時空が自分たちの過ごした場所でなかったとしても瀞霊廷に生きる死神達の生命を護るために、手を取り合い戦ってきた、千年に渡る因縁にすらも立ち向かってきた死神と斬魄刀が己の霊圧を静かにぶつけ合っていた。

 

 

 

 




ちょっとヤバい巫女さん、それが清龍
彼女の本能は卍解に関連しています。

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