モブ死神に憑依したみたいです   作:神話オタク

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投稿時間ミスってました、遅れてすみません


SOUL RELEASE(4)

 轟音と霊圧の響く瀞霊廷、更木剣八は複数の斬魄刀を相手取っていた頃、天満と業平も己の斬魄刀と激闘を繰り広げていた。

 お互いに不利な状況ながら、卍解を封じ、そして穂華と五色燕凰の力を借りることでなんとか保っていると言っていい状態だった。

 剣戟が響き、数秒前に壁だった瓦礫が宙を舞う。炎輝天麟の流れるような連携攻撃が天満と穂華に襲いかかる。

 

「刻燕!」

「では……黒星」

「ぜ、全部吸収された……!?」

「風が重力に抗う術はありません……白星」

「チッ──破道の五十四、廃炎!」

 

 天満が長刀から鬼道を放ち、白星を暴発させることでなんとか躱す。穂華の「五色炎舞」は全てが風と熱を操る技であり、それは重力という能力を前にしては容易く方向を変えられてしまう。だからと言って直接攻撃をしようとも二人の阿吽の連携の前には刃が届くことはない。

 

「どうしてですか、炎輝天麟! 貴女達は天満さんの、彼の何が不満だったと言うのですか!」

「貴女には関わりのないことです」

「貴女が口を出すようなことではない、とは考えませんでしたか?」

「傷つける程、憎んでいるとでも……?」

「そう、だと言ったら信じていただけるのでしょうか」

「そうだと言っても貴女は信じることはしないでしょう?」

「もういい、穂華……どうあれ、刃を向けて来てるってことだけが唯一解ってることだ」

「その通りで御座います」

 

 天満の言葉に炎輝に対し、天麟が僅かに不満げな顔をのぞかせ、穂華が悲痛の感情のまま眉根を寄せた。

 犠牲者は決して少なくはない。今も隊長格以外の斬魄刀達がその主やそうではない死神達に刃を向けて、その生命を奪っている。個人として斬魄刀と改めて対話する余裕は、今の天満にはないのだと穂華は感じ取っていた。

 

「邪魔を、するのは……やめていただけませんか……五色燕凰」

「謹んでお断り致しますわ、清龍……いい加減正気に戻ってくださいませんこと?」

「清龍が……正気、ではないなどと……」

「お、おい五色燕凰」

「千早、振れ──!」

「壱舞・搏凰」

 

 周囲の建物もお構いなしに切り刻むような水流カッターの乱舞を前に、五色燕凰は手に出現させた鉄扇を扇ぎ熱風でその水を一瞬で蒸発させてしまう。余裕を見せる五色燕凰のその態度に、清龍はあからさまに苛立ったような表情を見せ、同時に霊圧が高まっていく。

 挑発されると余計に面倒なことになるんじゃないかと懸念していた業平は、その霊圧の高まりに汗を流した。

 

「わたくし、これでも共に高め合って来た貴女のことを買っておりますわ……本来の貴女は主を前にして舌なめずりだなんてはしたないことは致しません」

「……乾くのです……主様から離れて、初めて気づいたのです……これほどまで、清龍は乾いていたのか……と」

「なら、戻ってきてくれ、俺とお前は共にあって初めて真価を発揮するものだろう?」

 

 業平は清龍へ手を伸ばすが、返ってくる言葉は無く、またその手を取ろうという所作もしない。その代わりに彼女は何処か恍惚の表情で自身の分身たる偃月刀「清龍」の刃を業平へと向けていく。

 その様子は正しく言葉通り、正気ではないという印象を二人に与えた。

 

「乾いて仕方がないから……清龍は、主様を殺したくて、血が欲しくて溜まらないのです……!」

「そういった性癖のお話は個々人の間でお話をすべきですわ」

「そういう話じゃないだろ、これは!」

 

 業平としても対話と同調、そして屈服という流れの中でたった一度たりともそういった狂気じみた片鱗すらも感じてこなかったため、焦りと困惑を表情に出す。そもそも具象化した際の姿が巨大な水の球体であるため雌雄という概念がないことも、自身の斬魄刀への距離感を掴みづらいと感じている要因でもあった。

 

「ああ、嗚呼もう……我慢出来ません……卍……?」

「短慮、だと断言します。ええ、この私が短慮だと断言しましょう……お止めなさい清龍」

「……天麟、様……!」

「時間切れ、で御座います……退きましょう清龍、天麟」

「……はい、解りました……主様、ではまた……」

 

 偃月刀を地面に突き刺し、その先端から水が吹き出し始めた段階で、天麟の待ったがかかる。時間切れ、というのは既に疋殺地蔵が卍解し瀞霊廷に毒をばら撒いており、既に生き残った斬魄刀達も白哉も目的を達成し撤退した後だったからという理由ともう一つは文字通り清龍が短慮を起こそうとした為であった。

 

「逃がすと思うのか?」

「阿久津殿も、我が主様も、既に戦うには足手まといの身……傷を癒やし、万全の状態でまた見えることを祈っています」

「それでも追いすがる、というのなら……どうなるのでしょうね? 少なくとも、命の保証はしかねますが」

 

 既に業平も肩の傷を始め重症、天満に至っては右手を貫かれた傷によってほとんど長刀を握れない状態になっている。

 この「時間切れ」という状況に於いて得をしているのは何方か、それは業平にも解っているところだった。

 既に夜明け前の状態、医療班も既に瀞霊廷中を駆け回っている、素直に見逃す方がお互いの為なのだと理解した。

 

「阿久津さん、大丈夫ですか……!?」

「山田七席……少し、痛みますが俺は」

「て、天満さんは……」

 

 花太郎のその言葉とほぼ同時に穂華が天満の肩を担ぎながら瞬歩でやってくる。その今にも泣きそうな表情から、彼もまたかなりの重傷を負っているということでもあった。

 右腕を貫かれた傷、その他にも炎輝天麟にやられたと思しき傷でボロボロになっており、逆に穂華が軽傷なことから、彼が庇ったのだろうとも予想出来た。

 

「花太郎さん……出迎え、感謝します」

「ああ、天満さん!」

「天満!」

「や、山田七席……天満さんを、よろしくお願いします……!」

「──大丈夫です、丹塗矢さん」

 

 花太郎の表情が張り詰めたものとなる。モブとしての運命を背負いつつも結局この世界のどの存在の意図もなくただこの世界の運命と行く末を識ってしまった男、稲火狩天満、生きるため、そして生かすために技を身に付け最終的にはユーハバッハにも挑んでみせた彼はそのまま気を失ってしまう。

 ──山田花太郎によれば命に別状こそないが、もう戦線に復帰するのは絶望的だろうと宣告された。

 

「随分無茶をしたようだな……天満」

「ルキアさん……しばらくは左利きらしいです」

「貴様は元々両利きだったであろう」

「ご飯食べる時は右手だったんですよ……だから匙を持つのが慣れませんね」

「たわけ」

 

 病院で見舞いに来たルキアとも話をするが天満は溜息を吐きつつも何処かで安堵したような表情をしていることにルキアは気付いていた。

 無茶をした、などと自分には言われたくないだろうがなとルキアは自嘲気味に笑ってみせ、天満はいえと少し畏まった口調で話す。

 

「……どうした、まるで上官に会ったようではないか」

「あー……すみません、なんとなく」

「まぁよい……一護達は山本総隊長が囚われている場所へ向かった」

「そうですか……総力戦ということですね」

「ああ、浮竹隊長や京楽隊長、更木隊長の三名の隊長に加えて案内役として夜一殿も向かった」

「裏を返せば……もう動ける人員がそれだけってことですか」

「……そうだな」

 

 砕蜂も己の斬魄刀である雀蜂との戦いで決して浅くない傷を負い、卯ノ花は救護の要であるため、涅マユリも研究の要であるため出陣不可、元より三名の隊長が空位という状況に加えて山本元柳斎重國が軟禁状態、白哉が離反、狛村、日番谷が戦闘不能という状態であり既に動ける隊長格は三名しかいないという圧倒的不利な戦況に天満も難しい顔をする。

 

「今、造反している隊長格の斬魄刀は?」

「雀蜂が正気に戻ったからな、残るは厳霊丸、肉雫唼、飛梅、千本桜、天譴、花天狂骨、灰猫、双魚理だ」

「──肉雫唼と、千本桜は恐らく戦闘には参加しないでしょうね、そうすると先日の戦闘時に一緒にいた厳霊丸と天譴が更木隊長、灰猫と飛梅が一護くんと夜一さん、花天狂骨と双魚理がそれぞれの持ち主、といったところですかね」

 

 原作知識がなく、予想の域は出ないがよほどのことがなければ斬魄刀は思い思いの戦いをしていると天満は感じていた。それぞれにそれぞれの狙いがあり、つるみたい斬魄刀同士でつるんでいる。そこに軍隊的なまとまりはないが、村正はそれも予想しているのならばと何か別の狙いがあるのではと天満はその戦況に違和感を憶えていた。

 

「一護くんを誘ってる……いや、でもなんでだ……?」

「どうした天満」

「いえ、ルキアさんのくれた情報と照らし合わせて、このシチュエーションだとどうしても一護くんが()()()()()()()()()()。肉雫唼が卍解でもするなら話は別ですが……()()()()()()()()()()

「……卯ノ花隊長の肉雫唼の卍解、どのような能力か天満は識っているのか……?」

「ええまぁ、ですが……ない、本来の流れならありえないです」

 

 どうして言い切れるのかとルキアは疑念を抱くが、その理由は自分の識っている知識に於いて「斬魄刀異聞篇」は時系列が今と同じ、つまり本筋ならば破面との戦いが佳境に差し掛かっている頃だ。そして卯ノ花烈が卍解を披露するのは「無間」にて更木剣八の覚醒を促す際の一度のみ、それを憶えていれば()()()()()()()()()()()()()()()()と断言出来るものだった。つまりは能力を明かせない肉雫唼が戦闘することはない。隊長格を止めるために使える手札を全て費やすと、千本桜は白哉にくっついているとするならば、そして村正の目的が五色燕凰に聞かされたように持ち主の封印を解くことだと言うのなら。

 

「すみません、少し……考え過ぎかもしれません」

「いいや、お前の妄想でも構わない、聞かせてくれ」

「五色燕凰曰く、村正は封印された主を求めているそうです……ならば地獄蝶の、管理室を狙った昨夜の事件も、山本総隊長の軟禁も、村正の目的の為ということになります」

「……ああ」

「死神が封印されたっていうと、地下監獄かと思いましたが、でも一番隊舎は破壊されたもののその地下にまで村正の手は伸びていません」

 

 更に地獄蝶を奪ったということは下手をすると現世に封印されている可能性が考えられると天満は集めた情報から村正の心理をトレースしていく。何故殺すのではなく封印だったのか、これは恐らく村正の能力故ではないかと考えれば封印したのも死神、同じ死神同士の揉め事であると予想され、それに当時から隊長をやっているとなると二名に絞ることが出来る。

 

「京楽隊長や浮竹隊長が隊長になる前のことだと言うのなら、山本総隊長が封印を識っている……もしくは関わっているというのはどうでしょう」

「だが解せぬ、それならば何故、総隊長殿を封じる必要があったのだ? あ奴は流刃若火が離反しなかったからだと言っていた」

「有り得ないですね、現に氷輪丸は記憶を奪ってまで離反させたのでしょう?」

「……矛盾、しておるな」

「ならば村正の言葉は嘘と断ずる他ないでしょう……流刃若火の、いや精神に干渉し記憶を抜き取れるのなら……当然、持ち主に関する記憶を欲しがるはずです」

「解せぬことが多い、派手に動き回ったと思ったら、アジトを掴まれているのだから」

「──逆、ではないでしょうか」

「何?」

「記憶を抜き取られないように、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

「た、確かにそれだと辻褄が合う。封印を破壊させるために、我々に総隊長殿を助けさせるために嘘を吐いたということか」

 

 ルキアの言葉に天満は頷いた。その封印を無理矢理破壊するために黒崎一護の力はお誂え向きだと天満もルキアも同時にその可能性に行き着いた。虚化することで莫大な霊圧を放つことの出来る一護、その「月牙天衝」が封印を破るために相応しい力だと言えるだろう。斬魄刀達にも嘘を吐き、洗脳し煽ることで話を大きくした目的も、全てが黒崎一護という存在をおびき寄せるための罠なのだとすれば、ルキアは焦り混じりに立ち上がった。

 

「こうしてはおれん、隊長達に伝えねば……!」

「天挺空羅は扱えますか?」

「いいや……だが、虎徹副隊長なら──!?」

「これは……まさかッ!」

 

 天満の予測は、間違いなく正しいものだった。村正の狙いも、その為の方法も全てを遅まきながら理解することが出来た。

 ──だが、それは一手遅れていた。そして天満は失念していたのだった。それは自分達というイレギュラーが存在するということ、斬魄刀側に卍解を扱える程に強大な力を持つものが二振り、存在しているということ。

 

「なんだ……これは、天満!」

「これは……()()()()

「何、一体……誰の」

()()()()()()()()()()──炎輝天麟の卍解です」

「……な、なんだと……天満、貴様……いつの間に卍解など」

「クソ、しまった……まさかルキアさんも知らないとは」

 

 既に空間は区切られていた。四番隊舎の一区画、窓際の天満の居た部屋がちょうど端となり、圧縮された無限の宇宙空間に天満とルキアは囚われてしまった。外から干渉するにはそれこそ大地すらも軽く砕く程の破壊力を必要とする天満自身の卍解に囚われ、そして天満は霊圧を固めて足場を作り、空中に浮くその人物を見上げた。

 

『お見事でした、貴方様……よもや記憶を失って尚、正解へと辿り着けるとは……勿論()()()()()()()()

「……だから来ましたってか」

『肯定致します、そのために我々がこうしてやってきたのですから』

 

 我々とは言うが、それは一人の女性だった。法衣を身に纏い、背に背負った輪が恒星の如き輝きを放ち後光で彼女を照らす。

 その瞳は赤と紫のオッドアイであり、周囲には十二の黒星と白星が剣の姿をして放射状に、まるで羽根のように展開していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




卍解すると融合する、というのをやってみたかったんです。というかその為に斬魄刀異聞篇やってるまである。

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