モブ死神に憑依したみたいです   作:神話オタク

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体調不良含めて遅くなりました、申し訳ありません!


SOUL RELEASE(6)

 天満が真実へと辿り着こうとしている頃、浴衣姿の温泉宿の若女将、という出で立ちの二人の女性が四番隊舎前に立っていた。

 顔も瓜二つ、動作も瓜二つの双子という風体の彼女たちはその手に自らの分身たる刀を手に持っていた。長刀と小太刀、左側に立った小太刀を持つ彼女が短く息を吐く。

 

「……よろしいのですか炎輝、貴女は村正の暗示には掛かっていないのでしょう?」

「天麟、何度も答えた通りです……私達は異体同心、二振りで一つの斬魄刀です、故に貴女の意思は私の意思です」

「では、本能のままに……あの方を、主を折りましょう」

「ええ、本能のままに」

 

 その言葉と同時に二人がピッタリのタイミングで刀を水平にする左手の天麟が顔程の高さで構え、炎輝が胸より少し下の高さで構え、ちょうど二つの刀が漢数字の「二」の形を示す。

 刀は霊圧の高まりと共にお互いの引力と斥力で柄を持たずともそのままその場に留まっていく。

 

「卍」

「解」

 

 言葉に呼応するように刀が回転し始め、光輝く輪を作り出す。すると二人いた炎輝天麟は一人の姿へと融合していく。輪は空高く登り、太陽の如く輝きを放ちつつ周囲を宇宙空間で塗りつぶしていく。星空に浮かぶ蒼天の太陽、そして空間が見事に天満とルキアを巻き込んだところで膨張が止まり、対象を空間内に引きずり込むことに成功していた。

 

「う、卯ノ花隊長、大変です……!」

「……これは!」

 

 報告を受けた卯ノ花は目を見開き、四番隊舎上空に出現したその黒い球体を驚きの表情で見上げた。救護室の一部を呑み込んだその球体が以前報告にあった天満の卍解と特徴が一致するということから、その斬魄刀が主力が全員出張ったこのタイミングで襲撃を仕掛けてきたのだということ、炎輝天麟を村正が完全に制御出来ていないことを示しているのだと看破した。

 

「このタイミングで仕掛けてきたのか……」

「天満さん……!」

「主様は……ご自身の、心配をなされた方が……よろしいかと……」

「清龍、随分と早い再会だったな」

「……村正様の、計画も……大詰め故に……」

 

 四番隊舎から飛び出した業平と穂華が星が煌めく球体に目を向けていると、いつの間にかそこに静謐の巫女が頭を垂れていた。丁寧で敬意に溢れたその雅で清楚な姿、そしてその見えない瞳と霊圧に渦巻いている欲望がこれが最後の襲撃であることを指し示していた。

 その緊張感溢れる程の圧力を前に刀を抜いて構えた穂華に向けて業平は声を掛けた。

 

「穂華、鶯囀(オウテン)であの空間に入って天満のところまで行けるか?」

「あのですね阿久津さん、一応ですけど鶯囀は因果を零にする能力ですよ、天満さんのところまで光を越えて移動できるわけじゃあないんですから」

「距離があるから天満には届かないって因果は零に出来ないのか」

「……阿久津さんはお一人で大丈夫なんですか?」

「オイ……いや俺は一人じゃあないな」

「ではお構いなく、しばらくは時間稼ぎ兼、壁役になってあげますよ」

「助かる」

「五色燕凰!」

「はい、共に参りますわよ穂華!」

 

 穂華の呼びかけに傍に現れた五色燕凰の姿が光へと代わり、始解状態の「五色燕凰」が彼女の手に収まった。同時に穂華はその手に持つ鉄扇がやはり()()と感じるには十分すぎるものだった。今の今まで、自分は空っぽの斬魄刀を振るっていたのだ、これこそが真の意味での「五色燕凰」だという実感と共に、尊敬しそして共に彼を支えると誓いあった先達の斬魄刀と対峙した。

 

「邪魔を……しないで、ください……清龍は、主様と……主様の血をいただかないと……乾いて、枯れてしまう……」

「ならば枯れる前に、正気に戻してあげます!」

「……!」

 

 彼女の手に持った神楽鈴が鳴り、清龍の足許から溢れ出した半透明な水が幾重もの束となって穂華へと襲いかかっていく。

 清龍の水の流れは常に疾き暴れ龍、故にあらゆるものを砕き、斬り裂き、バラバラにしてしまう。その速度と威力に注意しながら穂華は回避と熱風による相殺を繰り返していくが九度に渡る攻防の末、間欠泉の如く下から噴き出した水柱を穂華は咄嗟に鉄扇を広げて防御するが強すぎる水圧に弾き飛ばされる。

 

「穂華!」

「主様が血を流すのは、彼女を殺した後……それまで、お待ちください……」

「クソッ……!」

「問題ありませんッ!」

 

 怒涛のような水の幕が突如業平と穂華の間に出現し、彼からは手出しが出来なくなってしまう。なんの躊躇いもなく「殺す」という言葉を使った己の斬魄刀を止めることも出来ずに拳を握った業平だったが、穂華はその激流の向こうで立ち上がり、構えを取る。それが鬼道の詠唱だということに気付いた清龍は、再び神楽鈴を鳴らし舞踊のような動きと共に彼女を取り囲むように水の柱をぶつけた。

 

「破道の六十三! 雷哮炮!」

「……ッ! まさか、倒れている間に……鬼道を練っていた、とは……ですが……終わりです」

「ガッ……グ」

「たっぷりと、飲ませて差し上げます……」

 

 穂華の鬼道によって少なくないダメージを受けた清龍だったが、その間に回転する水のドームが穂華を覆い尽くす。水の流れを自在に操れる清龍はそれによって彼女の溺死を狙っていた。

 一度気道に、肺に水が入ってしまえばもうその時点で、穂華は溺れるのを自分で止める術を失う。そうして酸素濃度が下がれば人体は勝手に呼吸を求めてしまい、より深く、多くの水を肺に取り込みさらに悪循環が起こる。もうそうなってしまえば清龍が何かをする必要もない。相手はゆっくりと死に至るのだから。

 

「……では、お次は主様を……?」

 

 勝利を確信し、後ろを振り向いた瞬間に水のドームが炸裂する。湯気を放ちその煙の中からは地面に手を突き、荒く息を吐き咳き込む穂華の姿があった。

 ──どうやって抜け出したか、それはその穂華を支える()()を見れば一目瞭然、明らかなことであった。

 

「──五色……燕凰!」

「ゲホッ……はぁ、はあ……間一髪、ギリギリだったけど……」

「全く、無茶のしすぎですわ……ですが」

「うん……条件は整った」

「まさか……! ()()()()()()()()()、とでも……ッ!?」

「そうでもしないと……短時間で、貴女の霊圧を受け止めることは出来ませんからね」

「さぁ参りますわよ穂華!」

「行くよ、五色燕凰……卍解!」

 

 五色燕凰の姿が五色の色鮮やかな鳥となって解け、穂華の周囲に集まっていく。そして六対十二枚の翼、光輪、中華風の服装、金色の眼、そして莫大な霊圧が周囲に展開していた水を全て蒸発させ、吹き飛ばした。空中で弾けた水が陽の光を浴びて虹を形成する。その姿に清龍は神々しいものを見たような表情をした。

 

「極煌聖凰飛翼ノ熾臣」

「でしたら、清龍も……卍解、するまでのこと……!」

「誰が貴女を相手すると言いましたか?」

「……行かせると、思いますか……?」

「止められませんよ、私が進むと行ったら進むんです」

「……何を!」

 

 だが、清龍の攻撃は届く前に全て()()()()()。驚きに霊圧の正体を探ろうと目を向けると、そこには碧髪に淡い水色の着物を身に着け、その顔に「✕」の形をした模様が特徴的な、氷のような男性が刀を振るっていた。そしてその横には「十」の白い隊長羽織を羽織る白髪の少年も。

 

「丹塗矢」

「……天満さんを助けに行きます」

「行け、ここは俺達がなんとかする」

「有難う御座います、日番谷隊長!」

「……十番隊隊長、日番谷冬獅郎……そして、氷輪丸」

「というわけだ、俺達の相手をしてもらうぜ」

 

 戦闘可能な主力は全て拠点へ向かったという情報だったがと清龍は思いなおすが、彼は直前まで氷輪丸を取り戻すために激闘を繰り広げ、この四番隊舎で治療を受けていたことを思い出し、僅かに穂華が向かっていった黒い球体をした宇宙空間を恨みと憎しみの籠もった視線で見上げた。

 ──そう、炎輝天麟は、彼女達は識っている筈なのだ。一護達の戦いの結果、流刃若火が村正の手に落ち、その炎から抜け出すために救援に現れるのが日番谷と氷輪丸なのだということに。

 

「時間を掛ければ掛けるほどお前には不利になる……此処には疋殺地蔵の毒にやられたり戦いで傷ついたものの治療している副隊長がどれだけいると思っていやがる」

「……そんなもの、全て、清龍が押し流すまで……!」

「待て、清龍!」

「──卍解」

 

 業平が叫ぶが清龍はもう止まらない。その言葉と共に偃月刀で自らの首を斬る。溢れ出る血液が偃月刀の先端に集まり、地面に突き刺すことで全てを汚染していく。清き水の流れは秋の紅葉が落葉するが如く紅に染まる。溢れ出る九本の水柱が集まり、天に赤い水の球体を生み出した。

 

「何だ……こりゃあ」

「──天地すら穢し、我が血で犯し尽せ、天星濁龍御射軍神」

「日番谷隊長、これは錆の水、強酸です! 絶対に受けないでください!」

「解った……行くぜ氷輪丸」

「承知した、我が主」

 

 その赤水に触れたもの全てを穢し尽くす猛毒の川、その代償と天満以上に周囲を巻き込みかねない状況からほとんど使用することのない「清龍」の卍解と対峙し、業平は身震いをした。同時にこの場に相性のいい日番谷が来ることも炎輝天麟は解っていて清龍を連れてきたのではと考えることも出来た。彼女達にはそれぞれの目的があるものの、純粋な敵とは言い難いのがあの斬魄刀なのだから。

 

「霜天に坐せ──」

「──氷輪丸!」

 

 解号と共に氷水の竜が清龍へと襲いかかる。だが彼女はそれをまるで意に介することなく、隊長格に立ち向かう一般隊士の斬魄刀とは思えない程に余裕そうな表情で微動だにすることもない。

 大口を開けた氷の竜に空に浮かぶ錆色の星から水の矢が降り、貫く。

 

「……主!」

「これは……」

「あの赤い水は侵食し特定の条件があれば自分のものにできます」

「成る程な、つまりは……」

 

 得心がいったと目を細めた日番谷に向けて赤く染まった氷水の竜が逆を向き再度大口を開ける。それを瞬歩で回避し、氷輪丸が同じ氷竜で相殺していく。

 侵食と支配、相手よりも強制的に自分が上に成ることの出来る能力、その能力を知った日番谷は素早く氷輪丸を呼び寄せ、霊圧を高めた。

 

「──卍解、大紅蓮氷輪丸!」

「行きなさい……呪恨の赤龍よ……」

「無駄だぜ」

「……!」

「どんなに猛毒の水だろうが、凍らせちまえばそれ以上侵攻することはねぇ」

「ですが()()()()()()()程度で……この水天球を全て凍らせることは、不可能です」

 

 清龍のその言葉に対して日番谷は警戒をしつつ思案する。彼女の言う通り日番谷が直接触れずにあの赤い星を止めるには「氷天百華葬」を使う必要がある。だがそれには「天相従臨」の能力で雪雲を呼ぶ必要があり、だがそれは同時に雨を降らせるリスクを負うことになる。それに僅かだが血液に程近い性質を持つ赤い水は凝固点が低く摂氏マイナス十九度、炎すらも一瞬で凍らせることが出来るとはいえ、触れたらアウトの戦いに関しては精神をすり減らすことになる。

 

「日番谷隊長」

「どうした阿久津」

「……あれは元とたどれば俺の卍解でもある……考えがあります」

「良し、言ってみろ」

 

 業平は笑みを浮かべてその作戦を、かつては天満と語り合っていたお互いの卍解の弱点という議論の中にあったヒントを参考に立てていく。その対策に日番谷は成る程、と同じように不敵な笑みを浮かべてみせた。

 シャン、シャンと舞踊を踊り、赤き水を操る清龍、だがその表情にも所作にも卍解以前にあった神々しさ、巫女という清浄さが失われており、その赤黒く煙る先には、呪詛のような音、笑い声を口から放ち、壊れた人形のように踊る血まみれの乙女が在った。

 

「ふふ、ふふふふ……ぜんぶ、ぜーんぶ……清龍の、もの……」

「悪いが、そうはならない……させないぜ清龍」

「止める、俺達の後ろにはその侵食の錆とやらは一滴だって通さねぇ」

「……これは……?」

「天相従臨……卍解状態じゃあ扱い切れる自信はなかったが……氷華が半分程散ったお陰で杞憂で済みそうだ」

 

 黒い雲が集まり、そこから急激に周囲の気温が下がっていく。あっという間に夏場の空気が氷点下にまでさがり、業平も身震いをする。雲の中から白い雪が舞い落ちて来るのを清龍は微笑みながら、まるで口が裂けたかのような濃淡のない笑みだったが、口元に弧を作り嘲るように日番谷を見た。

 

「その技ならば、清龍を、静止させられると……思っているの、ですね……ふふ、うふふふ……」

「知ってるような口だな……いや阿久津も識ってるから不思議じゃねェのか」

「……貴方のその技、今の完成度では……相手の表面しか……凍結させることは出来ません……よね」

 

 表面を凍らせても、水天球の内の錆が氷を侵食し溶かしてしまう。同様に清龍本体を狙おうとも水天球によって防御される。このままでは勝てない。だが日番谷はそれを承知で赤き水天球へと狙いを定めた。

 雪が舞い散り、水天球に氷の花が咲く。それが赤くなる前に更に花が咲き、覆い尽くしていく。

 

「──氷天百華葬」

「無駄だと、解っていて……尚、抗うということ、ですか……」

「そんなんじゃねぇよ」

「……?」

 

 疑問に思うまでもなく、美しい水色の花が赤く、血の色に染まっていく。じわりじわりと血の花へと変わり剥がれ落ちていく。息を吐くのも凍りそうな空気の中、時間を掛けて水天球は元の姿を現していった。

 シャン、と音が鳴り、清龍は微笑む。それは自分の勝利を確信した表情だった。

 

「徒労、でしたね……この赤い氷を使えば、これで……貴方達を犯し尽くすことができる……これで、終わり……」

「──あァ、これで終わりだ」

「……どういうこと、でしょうか……」

「群青氷柱」

「……何を、して……ッ!?」

 

 氷の矢を飛ばし、水天球がそれを呑み込んでいく。意味のない行動に怪訝な顔をして振り返った清龍はその光景に目を見開いた。

 ──それは「群青氷柱」が命中し、かき混ぜられた水がゆっくりとその動きを止め始めている光景だった。先程放った「氷天百華葬」を受けても凍ることのなかった水天球が、凍り、砕けていく姿は清龍の理解の外であった。

 一方で業平はその光景に、ユーハバッハとの戦いが終わってすぐに天満と語り合っていた時のことを思い出していた。

 

「やっぱり俺の卍解は日番谷隊長みたいな氷結系の能力とは相性が悪いよな」

「そうだな……急激に冷やされにくくするにはやっぱり水球が始解とは違って()()()()ってのがいいよな」

「そうなのか?」

「ああ、その状態なら凍結する温度になっても凍りにくいんだ……まぁ完全な卍解を習得した日番谷隊長だとか、問答無用で自分の体温を絶対零度にまで下げられる副隊長には無意味かもしれないけど」

「成る程な、静止状態なら凍りにくいか……」

「けどな、静止状態でも既に凍結してしまう温度は下回ってると、急に動かすことで安定状態じゃなくなって凍るんだよ」

「どういう理屈だ?」

「過冷却っていう理論なんだけどな──」

 

 業平が日番谷に伝えた作戦とは、静止した水は凍りにくいが凍結する温度を下回った上でその安定を崩すと凍る、過冷却状態にすることだった。そのために外部の気温を下げた上に「氷天百華葬」で覆ってみせた。冷蔵庫兼ボトルの役割を果たしたことで、水天球は内部まで凍結する条件が整っていた。

 

「そして凍りついた水は、お前には操れねぇ……そうだろ?」

「そ、そんな……清龍の、水を逆に操るなんて……!」

「いいな……阿久津」

「ええ……覚悟は出来ていますし……どうにかなりそうな気がしていますから」

「天満みてぇなことを言いやがる……もう一度言うぜ、これで……終わりだ!」

「あ、主様……!」

「──竜霰架」

 

 氷が砕け、そこに折れた偃月刀が転がる。そこに霊圧は無く、喪失感が胸を覆い尽くすが……業平には希望があった。

 それは数多くの斬魄刀、特に「袖白雪」が折れている状態だが、天満の憶えている未来の中にこの話の事後処理があるということだった。それに十二番隊の隊長である涅マユリが全力で研究を進めている。元に戻す方法は必ず存在するという確信に似た希望があった。

 

「俺達は黒崎達の救援に行く」

「はい、俺は清龍を技術開発局へ連れて行きます」

「ああ……悪いな」

「いえ」

 

 氷輪丸と共に一護達を助けに向かう日番谷を見送った業平は、球体の宇宙空間を見上げ、穂華に全てを託した。

 彼女達の、炎輝天麟の本能が自分の思う通りならば、彼女達の目的は天満に()()()()()()()()()だ。そしてそれは炎輝天麟にとっても望む選択肢ではない筈なのだから。何がなんでも止めなければと業平は祈るような表情で再び宇宙を見上げた。

 

 




日番谷VS業平、というか氷雪系の話は書きたかった話のひとつですので、やれてよかったです。
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