モブ死神に憑依したみたいです 作:神話オタク
金色に輝く霊圧を纏った拳が空を切ると、星がその生命を終える。その爆発の中からまるで何事も起きなかったかのように翼をはためかせて煙を払う穂華に対して、僅か上空にいた炎輝天麟が弾丸すらその速度を表現する言葉ではないと思える程の流星を後方から出現させ向けていく。
瞬歩での回避は不可能かと思われるその流星に向けて、穂華は掌底を突き出した。
「破ッ!」
『──砕いたというのですか、星を』
「私にとってこの程度、天満さんの道を阻む石ころでしかありません──石ころは全て砕かせていただきます」
『ならば、砕けぬ刃ならばどうですか!』
白星が全て刀の姿に変わり穂華へと降り注いでいく。その一撃一撃が「重斥突」の威力を帯びた超高速の刺突だったが、穂華はそれを見切り、ギリギリで身体を回転させて回避したと同時に射出された刀の柄を後ろから捕まえ、速度に逆らわないように再び半回転して投げ返す。
まっすぐに向かってくる刀の制御をすることも出来ず、炎輝天麟は星を周囲に創り圧し潰すようにして防御する。
『くっ、なんという……!』
「やっぱり、重斥突ならその渦も突破出来るんですね!」
『だからどうしたと言うのですか』
「貴女の能力は把握しておきたかったので、こうして本気で戦えるのは助かります!」
『巫山戯たことを!』
苛立ちの籠もった燃える流星は穂華の身体をすり抜けていく。一度の「鶯囀」で一つのものや自分自身の存在を零に出来る時間は限界まで引き伸ばして数秒程、つまり密度の高い攻撃を繰り出せば回避はしきれなくなっていく。穂華はその弱点を突こうとする炎輝天麟が創り出した光速の礫を躱すのではなく「刻燕」で相殺していった。
「……穂華の奴、いつの間にあれほどの力を」
「色々、ありましてね」
「天満、応急処置しか出来ておらぬのだ、まだ横になっていろ」
隊長格同士の衝突と言われても信じてしまうような戦いの霊圧を遠くで感じつつ、ルキアは天満を介抱していた。穂華が卍解に至る程に強くなっていること、天満と炎輝天麟の会話にあった謎の単語と戦争の話、聞きたいことは山程あるのだが、今のルキアに出来ることは見守ることしか出来なかった。
──自身の半身「袖白雪」を失っていなければ、と悔しい気持ちになる。死神は斬魄刀に頼りすぎていた。失って初めて気付くことだった。
「搏凰!」
『──炎風の羽撃きを推進力に!? ですが、些か直線的ではありませんか?』
「狙い撃ちをするつもりですか!」
『鶯囀で回避して一撃を叩き込む腹積もりのようですが……その技は未だ未完成だということを知らぬ私達ではありませんよ』
「この、大きさは……!?」
穂華は見上げた先にとんでもない大きさの、それ一つを瀞霊廷に落とせばどれだけの被害が出るだろうかという程、グレミィが出現させたものと恐らく質量が同じくらいの星が創造されていた。
時間という概念を圧縮し、一瞬で星を創り出してしまう能力とはいえ、その質量に見合った霊圧が消費される。
「ちょ、ちょっと待ってください、霊圧が無くなると存在が維持出来ないのでは!?」
『それでも、貴女を止める為に惜しむものなどありはしません!』
「──なら、私はそれすらも、止めてみせます!」
圧倒的質量を見上げても穂華は迷わない。それどころかもう一度熱風を翼から発生させて速度を上げる。
遠くで見守っていたルキアは星の大きさに驚くと共に、その下を走る金色の流星を見つけて、不安そうな顔からやや微笑みに変わった。そのまっすぐ迷わない一筋の光は、穂華の心そのものであり決して誰にも曲げられぬことのない信念だと感じたからであった。
『この質量を前に、存在を一瞬だけ無としても、効果はありません……これで、詰みです!』
「いいえ、私と五色燕凰の力、そしてお母様から受け継いだ五色炎舞はこんなことでは折れません!」
『炸裂しなさい、膨張爆星!』
穂華を圧し潰すように降り注いだ巨星は炎輝天麟のその言葉と共に星の表面に亀裂が走り、内側から白色に変わった超高温の炎が溢れ出し、それが星の核そのものを燃やして周囲全てを吹き飛ばす。質量で圧し潰し、技の使用者ですら重力渦と六対の星でなんとか防御をする程の爆発を前にして、存在を零にするのでは間に合わない。これで勝ったと確信を抱いた炎輝天麟は、右後方から飛んできた穂華の回し蹴りをマトモに受けて吹き飛んだ。
『な、なぜ……確かに吹き飛んだ筈!』
「五色炎舞、
『何──ッ!』
彼女は星に潰されるより前にギリギリまで炎輝天麟に近づき瞬歩を使った。その瞬間に霊圧と一緒に陽炎を置いていったため、炎輝天麟に自分は爆発に巻き込まれたと錯覚させることが出来ていた。
対炎輝天麟の切り札たる「鶯囀」を最大限警戒させることが出来たからこそ成り立った読み合いに穂華は息を吐いて近づいていく。
「私達は、天満さんと同罪です」
『……そうでしょうね』
「そして私達は天満さんによって与えられました。未来と、自分の運命の選択権を」
『貴女は……主に聴かされていなかったような気がしましたが』
「阿久津さんの受け売りです、私も詳しいことは正直解っていませんけど」
『いずれ知ることになります、そのまっすぐさがあれば……きっと』
「──正気に戻ったんですね」
穂華の言葉に炎輝天麟は頷いた。霊圧も残り少ない状態で、立ち上がることも儘ならない彼女に対して穂華は和解しようとばかりに笑みを浮かべて手を差し伸べる。
だが、炎輝天麟がその手を取ることはなかった。代わりに深々と黒い刀が腹部に突き刺さり、穂華は苦悶の表情で二歩、三歩後ろへよろめき、星空の中へと落ちていった。
「どう……して……」
「ほ、穂華!」
『正気であってもそうでなくても、目的を、果たすまで……』
「……炎輝天麟」
『貴方様は、もう刃を握る必要など……ないのです』
「いや……それは違う」
「天満……よせ」
「俺は、例えお前が戦うなと言っても……一人の死神として、戦い続ける。ユーハバッハがいなくなっても、ずっと……!」
『何故です、貴方様の救世は、そんな大きなものでは無い筈』
「大きくないから、背伸びしたいんだよ……」
天満の言葉に炎輝天麟はゆっくりと頷き、卍解を解除していく。だが炎輝天麟は融合したまま肩を上下に動かしていたがゆっくりと地面に着地する。
落下していた穂華を天満は抱え、ルキアに任せる。そして、四番隊舎の前で二人は再び向き合った。
「明け灯すは棚引く煙羅」
『昏く浮かぶは手招く桂雲』
「……炎輝天麟」
右手が痛むのか、始解した瞬間に天満の顔が苦痛に呻いた。その姿に炎輝天麟の顔に主を案ずるような仕草が見られたが、天満はそれを知ってか知らずか、表情を戻し、痛む右腕を上げ、その手に握られた長刀の切っ先を炎輝天麟へと向ける。
護廷十三隊としては、これから村正の目的を阻止する為に奔走することになるのだろう、だが──天満達にとっては此処がクライマックスと言っても過言ではなかった。
「どうして穂華を刺した」
『敵を、倒すことに……理由がいりますか?』
「いいや……お前達の言うことも解ってきた。けど、俺は歩みを止めるわけにはいかないんだ」
『それで貴方様が傷ついていくとしても?』
「突き立てた刃の報いを受けるとしても、俺は俺が捻じ曲げた運命と向き合わなくっちゃいけない」
市丸を生かすために死にかけても我武者羅に手を伸ばした、望実を生かす為に自分の中の孤独と向き合った。いつも支えてくれる二人を、そして沢山の死んでいく運命だった死神を生かす為に自分の知識と命の全てを費やした。その行動に天満は後悔していない訳じゃない。物語としては自分の知っている運命が美しかったのではないかと問いかけることもある。
「それが、俺がお前と一緒にこの世界にやってきて運命を引っ掻き回した責任って奴だ」
「……そうですか」
「そして、誰より運命を歪めてしまった俺に対する責任でもある」
「そうですね」
「だから……お前達は和解ではなくて、俺が直接屈服させる」
『では、私達は全力で貴方様が戦いを止められる身体にして差し上げます』
天満が構え、炎輝天麟は無形の位、構えることなく切っ先を地面に向けた自然体で待ち構える。僅かな静寂の後、やはりというべきか、動き出したのは天満だった。左手に持った小太刀で空間ごと斬り裂くように三度、黒い刃が小太刀のリーチを越えて重力、引力の伴った斬撃として周囲のものを引き寄せた。
「──重引斬」
『白星よ、吹き飛ばしなさい』
「まだだ!」
『幾ら解放し、見せかけの二刀流を気取ったところで、貴方様の右腕は長刀を触れる筈がありません!』
「うるせぇ……右腕を貫いただけで、止められると思うな!」
『……くっ!』
「重斥突ッ!」
重力の斬撃は白星の斥力によって粉砕されたが、その合間を縫って天満が右腕を引き、長刀で平突きを見舞う。じわりと右腕の包帯から血が滲むのもお構いなしに今出せる最大の握力を以て、最大の筋力を以て、激痛に耐えた汗すらも吹き飛ばす程の斥力を伴った突きは残り霊圧もほとんどなかった炎輝天麟の防御を砕き、その身体に深々と刃を突き立てた。
『お、お見事……です、我らが主』
「……俺は全部抱えるつもりなんてない。元々、一護くんのようになんでも背負えて、抱えきれるような男じゃなくて、俺はただの
『……はい』
「だからお前達も、俺を信じてくれ……絶対にこの記憶に、この力に、この過去に振り回されないからな」
『はい』
最後は笑顔と共に、炎輝天麟は一つの斬魄刀へと姿を変えた。
天満はその刀を拾い上げ、ほっと一息吐くと同時にその場に腰を降ろした。
そんな彼に柔和な笑みを浮かべながら、
「どうやら、無事に解決したようですね?」
「う、卯ノ花隊長……お陰様で」
「ええ、幸い他の被害は出ませんでしたが、屋根がごっそりなくなってしまいました」
「……ヒェッ、あ、あの……申し訳ありませんでした」
「それは後で追求するとして」
「赦してくれないんですね、いやまぁ当然でしょうけど」
「ひとまずは二人とも、治療を受けてもらいます──文句は言わせません」
「了解しました、行くぞ天満」
「はい……大丈夫か穂華」
「本気じゃなかったみたいなので、平気です……ッたたぁ」
四番隊舎へと運ばれた二人をよそにルキアは村正の計画を阻止する為に空座町への穿界門を開けて現世へと移動する。そして、天満と穂華、そして業平が治療を受けたり、刀を修復したりしている間に村正は消滅したことを伝えられた。
斬魄刀異聞篇を解決するのは一護と白哉と隊長格の役割だからな、ヨシ!