葉月葉一は観ている   作:東雲 烏兎

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万羽優子は東方仗助が好き!? その2

 走る。

 ただ走る。

 

 体育の授業で、体力測定の時にやった50m走。

 ちょっとカッコつけようと本気で走ったあの時の、おおよそ2倍の速さは出ている。

 

 東方仗助、人生最大の全力疾走。

 

 向かう先は待ち合わせスポットのアンジェロ岩。

 見やれば、もう既に優子がポツンと立っている。

 

「おーい! お待たせしましたァッ! 東方仗助、只今参りましたッ!」

 

 仗助の声は、息切れと照れに持ち上げられ若干うわずっている。

 

「待ってなんかいないわッ! こんな変な岩昔からあったかしらって、じっと眺めてたら時間なんてあっという間よ」

 

 本当は「オレが作ったんだけど」なんて言ってやりたかったが、そんなことを言ったところで信じてもらえるはずがない。

 

「ところで、その……返事は決まったかしら」

 

「あッ! へ、返事……ッスね……。その、ぶっちゃけ大歓迎、なんスけど……」

 

 仗助が言葉を続けようとしたのを待たず、優子は手をきつく握る。

 

「嬉しいッ! 勇気を出して声をかけて良かったわッ! あの時、あのクソッたれ探偵にいじめられていた時……。もうダメだと思ったのッ! でも、アナタが来てくれて……アタシ、本当に感謝しているんです!」

 

 女性に手をがっちりと握られる感覚。

 まだまだチェリーボーイの仗助には、激しすぎる感覚である。

 おかげで、心の中にまだほんのちょっとだけ残っている()()を、中々口に出せないでいた。

 

「ア、アノ……その、おれ……」

 

「あぁ、言わなくても分かるわッ! アナタがアタシを愛している気持ちッ! ひしひしと感じるわーッ!!」

 

「えッと……ハイ、ハイ……。ありゃっ、アリガトウゴザイマス……」

 

 

「ブアッハッハッハーッ!! 可笑しい、フフ、ンハハハ! 手が真っ赤じゃあないか仗助クン! 聴覚もペーストすればほら! こーんなに緊張で震えた声も聞こえるぞッ! 『ありゃっ』、『ありゃっ』だって? アッハッハッハ! ハラ痛い……!」

 

 そんな様子を、感覚を通して盗聴していた葉一たち。

 あまりの仗助の挙動不審ぶりに、葉一の腹筋は限界を迎えていた。

 

「葉一さん……ちょっと笑いすぎじゃあないですか? ぼくだって、女の子に告白されたらこれぐらいなりますって……ブフッ」

 

「しかし……本当にオレたちも向かわなくていいのか? あの女は普通じゃあねぇ、このままじゃマズいんじゃあねぇのか」

 

 なんだかんだ笑いをこらえ切れていない康一をよそに、承太郎は冷静に動向を見守っていた。

 

「あー笑った、笑った……。なぁに、心配ないさ。私ですら乗り切れた相手を、あの男がさばききれないとは思わん。さて仗助、その女が怖いのはここからだぞ。君はどう乗り越えるんだ? ぜひ観せてくれ」

 

 葉一は再び、その景色の中にのめり込んだ。

 

 

「えっとですね、そのォ……。つ、付き合う前にイッコだけ聞いておきたいことがあって……」

 

「なぁに?」

 

 少女マンガでもそうそう見ないような瞳に襲われ、仗助の喉が詰まる。

 

「そ、その……大変失礼なんスけど――ご、ご年齢は……? おれ一応未成年なんで、あんまり年上ってのは、チョット」

 

「27よ。何か問題あるの?」

 

「にっ……?!」

 

 想定よりかなり上の年齢に、仗助は思わず怯む。

 葉一は資料を手に持ちながら、ニヤリと笑んだ。

 

「ま、当然の反応だ。つまり30手前の万羽優子が、高校1ネンセーのお前に声をかけてきた時点でまず! 怪しいとかいう次元の話じゃあなかったわけだな」

 

「でも、かなりの美人ですよ……。ぼくでも、年齢を言わずに迫られたら、カン違いしちゃうかもなァ~ッ」

 

 仗助はショックから、足の力がすっかり抜けてしまった。

 へたりと座り込むと、弱弱しい声で優子に尋ねる。

 

「な……何考えてんスか……? じゅ、十個も上じゃあないですか……」

 

 期待の風船が、あっという間にしぼんでいく。

 かつて康一に感じたそれを、今度は自分が体験する羽目になってしまったのだ。

 

「……」

 

 一方の優子は、何も言わなかった。

 あまりに沈黙を貫き通すので、流石に仗助もしびれを切らして怒鳴った。

 

「ちょっと! 何か言ってくれてもいいんじゃあないッスか!? おれが高校生だって、制服みりゃあスグにわかったはず……」

 

 その時だった。

 涙ながらに振り上げた視線の先に、信じがたいものが映った。

 

 優子は、カッターナイフを自分の喉に突き刺そうとしていたのだ。

 

「出たぞ……これが彼女の『ヤバさ』だ」

 

 葉一は、さぞ楽しそうに呟く。

 

「な……何してんスかーッ!!」

 

 仗助が手を伸ばすより一手早く、切っ先が彼女の喉に触れる。

 すると突然、握りしめられていたはずのカッターナイフが消え去った。

 

「がッ――」

 

 その異常現象を認識するよりも先に。

 その切っ先は、仗助の首元に食い込んでいた。

 

「これが彼女の能力だ、仗助……。これが彼女の『バンド・オン・ザ・ラン』だ」

 

 *

 

「万羽優子。調査を始めた時はただのストーカー被害者だとばかり思っていたんだが、こいつが中々面白い女だった」

 

 時間は少し巻き戻り、葉一が資料を並べていたところへと着地する。

 

「年齢は27歳。結婚歴はなし。かつて彼氏と一軒家に住んでいたが、火災で全焼したことにより彼氏は死亡、独り身になる。その後、アパートにて一人暮らしを始める。新しく彼氏も作るが、ストーカー被害にあう。以降は、以前話した通りだな」

 

「なんか、ちょっと気の毒ですね……。報われて欲しいって思います。でも、ちょっと待ってください? 27歳って……仗助くんより十個以上年上じゃあないですかッ!」

 

 康一の反応が毎回いいので、葉一は嬉しそうに笑った。

 その横で、承太郎が鋭く睨む。

 

「つまり……仗助に接触してきた時点で、ハナからクロだったと。お前、気づいていて敢えて仗助をけしかけたな?」

 

「まっとうに警告したところで、どのみち止められなかっただろうよ。それより康一くん。君、この女に対して()()()と言ったね」

 

「え……は、ハイ」

 

 葉一はさらに資料を取り出すと、自分たちの目の前に勢いよく置いた。

 

「実は私にとっても、盲点だったことがあってね。探偵ってのは基本地味な役回りが多い仕事で、その中には『浮気調査』ってのがある。人のスカートの中どころか、パンツだって引っぺがして中をまさぐるような仕事だよ。私は、人間関係のいざこざを見るのは好きだったがね。そして数か月前、私がこの町に来たばかりの時。一人の男が、浮気調査を頼んできたんだ」

 

「で……それがどうかしたんですか?」

 

 康一には、まだ話のつながりがよく分からなかった。

 

「なんでも、『コンドームしてたのに恋人の腹がでっかくなってた』んだと言うんだ。そして案の定、恋人の女は絶賛浮気中。腹の中の子も、浮気相手のものだった」

 

「うえぇ……」

 

「当然、恋人も浮気相手も呼び出して、証拠もろとも突き付けてやったらしい。だが、その日の夜――」

 

 葉一は黒い笑いを浮かべて、ゆっくりと真実を告げた。

 

「その男の家は火事になった」

 

「――まさか」

 

「その家からは、男二人と、胎児の焼死体が見つかったそうだ。その恋人は――万羽優子は、彼ら全員を『自身への脅威』だと認識したのさ! だから彼女のスタンド能力『バンド・オン・ザ・ラン』は、彼ら全員を始末したのだッ! 彼女に罪悪感はない……むしろ自分の事を、どこまでも()()()な人間だと思い込んでいるッ! あの女は自分のスタンド能力にすら目を向けず被害者であり続けることで、都合の悪くなった相手を無自覚のうちに殺してきたのだッ!」 

 

 

「く、クレイジー・(ダイヤモンド)!!」

 

 首の血管が裂かれる直前、カッターナイフが地面へ叩きつけられる。

 

「アンタもアタシを裏切るのねッ! みんなどうしてアタシをいじめるのッ! アタシはッ! ただ幸せになりたいだけなのいィィィーッ!! 死んでやる……死んでやるわぁーッ!!」

 

「お、落ち着けッて! 何もアンタをいじめるつもりはねェよ! 死ぬなんて、そんな滅多なこと言うもんじゃあねぇ!」

 

 目の前の女から醸し出される異様な気配に、仗助は気圧されていた。

 山岸由花子とは、また違った形で厄介な相手である。

 

(どーしておれの周りにはこー……プッツンした女が多いんだッ!? ちくしょー、おれの青春がはかなく散っていくぜ……。こんなことなら……)

 

 悔し涙を流す仗助の脳裏に、数々の警告がよぎる。

 

『それによ、万が一にもまた山岸由花子みたいなプッツン女だったらよ……笑い話にもできねぇぜ』

 

『そもそもスタンド使いだということも、それを用いて殺人をしたことも話したはずだッ!』

 

「ち……ちっくしょーッ! おれの大馬鹿野郎! ああ言われて飛び出した手前、今更『タスケテ』なんて言えるわけが無ェじゃあねーかッ! やるしかねぇ……おれ一人で、切り抜けるしかねーッ!!」




正月パワーで、連日投稿です。
これで、12月末に投稿できなかったのはチャラってことで……。

いつも通り、感想と評価お待ちしております。
一個あるだけで、ドえらいパワーに繋がります。

次回、「万羽優子は東方仗助が好き!? その3」

お楽しみに。
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