葉月葉一は観ている   作:東雲 烏兎

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スタンド名―「ドント・レット・ミー・ダウン」
本体―葉月葉一

破壊力―D スピード―A 射程距離―B
持続力―B 精密動作性―C 成長性―A

能力―触れた生物の「感覚」をコピーし、ストックする。ストックした「感覚」は自分や他人に貼り付けることができ、貼り付けられた者はその「感覚」を本人と同じように感じる。


葉月葉一! 東方仗助に会う

「クレイジー・ダイヤモンド!!」

 

 顕現する、ハートの戦士。

 見るだけで「強さ」が滲み出るヴィジョンに、流石の葉一も一歩引いた。

 

「オイてめー、さっきまでの威勢はどこ行きやがったよ? オレのクレイジー・(ダイヤモンド)を見てビビってんじゃあねーだろうな」

 

「……ああそうさ、正直言ってかなりビビっている! ハイキングをのんきに楽しんでいたら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()! だが同時に感動しているッ! まさかこの町で、ここまで闘争に向いていそうなスタンドに出会えるとは思わなかったからな……」

 

 ドント・レット・ミー・ダウンも負けじとファイティング・ポーズをとる。

 だが、同じ格好をしたせいで、スタンドの対格差が余計モロに出てしまった。

 

(つかず離れずだ……私は決して闘いに慣れているわけじゃあないッ! この町のスタンド使いは基本的に『闘争を目的にスタンドを使用しているわけではない』ことが多いからだッ! だからこそこの仗助とかいう高校生は危険だ……同時に未知の詰まった宝庫でもあるわけだが!)

 

「ドント・レット・ミー・ダウン!! 感覚を研ぎ澄ませェーッ!!」

 

UOORYYYAAA(ウオオリィィヤアアア)ーッ!!』

 

 D・L・M・D(ドント・レット・ミー・ダウン)が高速でラッシュを叩き込む。

 先ほどの『脅しのパンチ』とは違う、正真正銘本気の打撃。

 速度は時速350㎞を優に超え、空が弾ける音がする。

 

「私は誰を知るよりも先に自分を知っている……未知を探求するものが、自分を知らないのでは笑い話だからな。私のスタンドD・L・M・D(ドント・レット・ミー・ダウン)は、パワーは出ないがスピードには絶対の自信があるッ! そして高速で動く物体にはエネルギーが生まれる! いくらパワーの弱いこのスタンドでも、当たれば多少のダメージになるはずだッ!!」

 

 しかしクレイジー・(ダイヤモンド)はパンチを的確にさばいていく。

 それどころか、逆に右腕に強烈な手刀をお見舞いされてしまった。

 

「うげえぇッ!!」

 

「なまっちょろいぜ、D・L・M・D(ドント・レット・ミー・ダウン)! 速さだけご立派でもよォ~~、狙いがバレバレじゃあ当たる拳も当たらねーぜッ!」

 

 さらに一撃、二撃、三撃。

 クレイジー・(ダイヤモンド)の正確で重い拳が、葉一の肉体に叩き込まれていく。

 既に顔面へのダメージを食らっていた葉一は、堪え切れずに地面へ突っ伏した。

 

(まずい……こいつ、随分と戦い慣れているぞッ! これでは能力の全容を知る前に、私が再起不能になってしまう! それはまずいッ! ここは一旦引かなくては……。このまま戦いを続けても、私にメリットはない!)

 

「いや参った……勝てないな……。この勝負、君の勝ちでいい。だから君はそれを誇って、マッスグ家まで帰りたまえ」

 

 葉一は両手を挙げた。

 仗助は躊躇なく、その手を鷲掴みにする。

 

「寝ぼけたこと言ってんじゃあねーぜ、てめーがあの女を脅してたからぶちのめしてんだろうが! スタンド悪用してこの町を傷つける奴を見過ごすわけにはいかねぇからなあ~~ッ!!」

 

「それじゃあ無理にでも帰ってもらおう……D・L・M・D(ドント・レット・ミー・ダウン)

 

「なッ――」

 

 先ほどまでがっしりと掴まれていた両手は、なぜか独りでに剥がれていった。

 それどころか、無傷のはずの仗助が地面へと倒れこんでいる。

 

「何しやがった、てめえ……! 目が……回りやがる……」

 

「トラックの運転手の視覚をコピーしておいたんだ。それを君に貼り付けさせてもらった。唐突に視界が切り替わってさぞ混乱しているだろう。しかし、何事も用意は周到にしておいて損なことはないなァ~ッ。いい教訓になったよ。それでは、また会おう」

 

 葉一はなんとか体を支えると、よろつきながら逃げ出した。

 顔から滴る鮮血が、アスファルトを点々と染めていく。

 

「やれやれだな、追う側と追われる側、二つの立場をいっぺんに味わう羽目になるとは……。だが、あの青年と出会えたのは嬉しい誤算だったッ! やはりこの町のスタンド使いはひと味違うということか……。既に感覚のコピーは済ませた! 事務所に戻ってから、またゆっくりと調べ尽くしてやる……」

 

 腫れあがってこそいるが、葉一の表情は晴れやかだ。

 その背後で、頭を抱えた仗助が立ち上がろうとしていた。

 

「……クレイジー・(ダイヤモンド)

 

 グンンッ

 

「おめーが血をまき散らしてくれたおかげでよお~~、治せるぜ。ただし安心するなよ……。これからもっと痛い目を見てもらうために……治すんだからよォーッ!!」

 

「な……何ィィィーッ!!」

 

 葉一の肉体が、物凄い勢いでクレイジー・(ダイヤモンド)の拳へと引っ張られる。

 仗助の手の中には、大量の血が付着していた。

 

「な……なんだこれはッ! 『引っ張る』能力だと?! バカな、これでまるで……!!」

 

 言い切る前に、今度はしっかりと首元を掴まれた。

 仗助の焦点は安定しないままだが、感触ではっきりと認識されているようだ。

 

「おぇっ、気持ち悪ィ……立ち止まってても動いてるみてえな気分だぜ。だがよ~~ッ、おめーの位置は確実にわかった! あとは拳をぶち込むだけだぜ」

 

「そ……その手に握っているのが、人違いだったらどうする気だ……」

 

「ご心配には及ばねーぜ。オレのクレイジー・(ダイヤモンド)で『どうにでもなる』からよォ~~」

 

「なるほど……な……。とことん能力を隠すか……このクソガキ……」

 

 沈黙。

 ただ聞こえるのは、二人の呼吸音。

 

 やがてそれも聞こえなくなり、微かな心音すら響き始めた。

 

 血が一滴、垂れた。

 

「ドント・レッ――」

 

『ドララララララーッ!!』

 

 静寂は轟音に殴り壊され、声にもならない葉一の断末魔が漏れる。

 宣言通り、彼の顔面は先程とは比べ物にならないほど歪み、崩れた。

 

「キッチリ反省してもらうぜ。お灸が足りねぇってんなら、いくらでも据えてやるからよお~~ッ」

 

 葉一の意識は、その言葉を聞いた辺りで途切れた。

 

 

「なるほど、コイツがそのスタンド使いか。お手柄だったな、仗助」

 

「いやあ~、承太郎さんがネズミ探しの電話をくれたから! タマタマ、グウゼン! って感じっスよ~」

 

「電話越しじゃあ、大層メンドーそうにしてた気がするんだがな。まあいい、あとのことはSPW(スピードワゴン)財団が受け持つ。お前は帰っていいぞ」

 

(なんだ……誰だ……。そもそも、ここはどこだ――)

 

 うっすらとぼやけた視界は、だんだんと真っ白な天井になり、やがて無機質に光る蛍光灯が姿を現した。

 

「びょ……病院か……。ここは……」

 

 口を開くと、顔のいたるところに激痛が走る。

 葉一は思わず唸った。

 

「目を覚ましたか。どうやらスタンドで随分と好き放題やっていたようだが……色々と聞きたいことがあるのでな。簡易的だが、ここでしばらくの間監視させてもらう」

 

 2mはあろうかという白服の男が、覗き込むようにして話しかけてきた。

 

「誰だが知らないが……アンタもスタンド使いなんだな? 私にスタンドの話を持ち掛けてきたんだからな……。嬉しいなァ~ッ、こうも連続してスタンド使いに出会えるなんて、ハハ! 不幸と幸運は同時に舞い降りるということかッ」

 

「オイ仗助、コイツちっとも懲りていないぞ。もう少し徹底的にお灸を据えたほうがいいんじゃあないか」

 

 男は呆れたように指をさす。

 

「ま……待てッ! これ以上ケガを増やすのはまっぴらだッ! 分かった、知っていることは話す!」

 

葉一は慌てて叫んだ。

 

「なんだ……意外だな。随分あっさり折れるじゃあねえか」

 

「当然だッ! ここで意地を張っても私に得はない。それに、スタンド使いについて調査しているのなら私もぜひ関わりたいのだ。私の目的は、とどのつまり『それ』なのだからな」

 

「ほう……物好きなヤローもいたもんだ。しかし、どうするかはこちらが決めることだ。まずは洗いざらい、きさまの事を調べさせてもらう」

 

 それから数時間にわたり、葉一は情報を提供し続けた。

 探偵であること、あの女もスタンド使いであったということ、何より未知のスタンドを知ることに心血を注いでいるということ……。

 

 そして葉一も、彼が空条承太郎という男だということ、最近この町で、弓と矢というものを用いてスタンド使いが複数生み出されていること、彼らはその調査をしていることを知った。

 

「スタンド使いの探偵か……。健全に依頼がこなされるなら、これほど頼れるやつもいないだろうな」

 

「そッスけど承太郎さん、スタンド使い相手とはいえ女に手上げるようなヤツッスよ。本当に信用できるんですかね~~ッ。……あッ、そうだ」

 

 仗助は何かを思い出すと、突然葉一に詰め寄った。

 

「葉月葉一、オレから『依頼』させてもらう」

 

「……何だって?」

 

 葉一と承太郎は、同時に同じことを言った。

 

「おめーの大好きなスタンド使い絡み『かもしれない』依頼だぜ。オレのダチが前に相談してきたのを思い出したんだ。それをよーッ、もちろん『タダで』受けてもらう。ガクセーから金毟り取るような真似……この状況でするようなマヌケじゃあねーだろうからなーッ!」

 

 葉一の歯が、ガタガタと震えた。

 

 葉一の一番嫌いなこと。

 それは「期待外れ」である。

 

 それにこんな男でも、仕事に対するプライドは持っている。

 「タダ」で請け負うというのは、とどのつまり自分の仕事に「無価値」と言われているようなものなのだ。

 

「この……クソガキ……!」

 

「もちろんパーペキにこなしたなら、その時は信用してやるぜ。さあ、どうスんだ? おめーの返答次第だぜ、探偵サンよお~~ッ!」




今回もご覧いただきありがとうございます。
遂に見知ったキャラクターも登場し、ようやく「ダイヤモンドは砕けない」と物語が合流していきます。この先葉一たちがどのような運命をたどるか、見守って下さると幸いです。

次回「陽はまた昇る その1」

お楽しみに。
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