「
小柄な体から、ぬるりと何かが宙へと這い出ていく。
金色の目を輝かせながら、泳ぐようにサンジェルメンへ侵入した。
『君のエコーズで、店内を巡らせてくれ。あえて見せびらかすように、さながら水族館で一番リッパな水槽に展示されている、馬鹿でかいマンタのようにだ。スタンドはスタンド使いにしか見えないからな。知らん顔する連中の中で、必ず警戒するそぶりを見せるやつがいる。そいつが犯人だ』
「葉一さんはああ言ったけど……正直、自信がゼンゼンないよ~ッ。すでにぼくのエコーズは、何回もこのサンジェルメンを偵察してるんだ。それに、この間はプロの葉一さんも一緒だったッ! それでも見つからなかったのに、今更エコーズを見せびらかしただけで、何か変わるかなぁーッ」
康一はじんわりと冷や汗をにじませている。
しかし、彼の心に浮き上がる一抹の不安など知る由もなく、悪意は既にすぐそこまで迫っていた。
「さて、今日は何がいいかな……。そろそろカツサンドも飽きてきたし、別のものに手を出してみるかァ~~ッ。店に入る前から、ンッンゥ~ゥン! 鼻の穴の奥の奥まで、『ウマソー』って脳に直接訴える旨味の香りがかぐってくるぜ~~ッ。生まれてこの方二十数年、仕事なんざしてこなかったからロクに縁のなかったサンジェルメンのこの匂いッ! 嗅ぐたびに腹を鳴らすだけだったこの俺が! 今やいくら食っても誰も文句を言わねえ! 素晴らしい人生になったもんだなァ~ッ」
男はサンジェルメンの店の前まで来ると、浮ついたその足をピタリと止めた。
注意深く店内を覗き込むと、ニタリと笑みをこぼす。
「あのガキ、また『探って』いるなァ~~ッ? 何度も何度も、学習しねぇガキだぜ。あの緑色の生き物が何なのかは分からねぇが、おそらく俺と同じ能力! あの男の言葉を借りるならば『スタンド』か! すでに俺は、てめぇのそのスッとろいスタンドを何度も見てるんだよ。始めはビビったが、俺がどんな反応を見せようが、スタンドの目の前で盗んでやろうが、てめぇがそれに気づくことは万に一つもないッ! 『ヒア・カム・ザ・サン』は俺を守ってくれる! しかもだ!」
男は店内に入ると、突如として自分のスタンドのビジョンを露わにした。
瞬間、鋭い拳がエコーズの胸部に打ち込まれる。
「ぐおあッ!!」
店の裏に隠れていた康一は、思わず血を吹き出しながら叫んだ。
もろに食らったので、アバラが一、二本砕けたらしい。
「こういう
ヒア・カム・ザ・サンはエコーズを無理矢理掴むと、店の外に出て思い切り地面へと投げつけた。
男はそれを横目に、店のレジへと手を突っ込む。
「オイ、店員さんよォ~~。この金、もらっていくぜ。それから、焼き立て、ラップに包む前のサンドイッチをくれよ。アツアツのやつだぜ。あぁ、あと……」
男はカウンターに尻を乗せ、唾を飛ばしながら要求をまくしたてていく。
しかし、店員が動じることはない。
「えぇ、エェ、どうぞどうぞ。ぜひ持って行ってください。パンもすぐにご用意いたしますよォーッ!
「あぁそうさ!
何度も地面にぶつけられ、ボロボロになったエコーズのダメージは、康一の体にも反映されていた。
「ぐ! 痛い……ッ! 歯も欠けてしまったッ! けど……これも偵察をしていたら
エコーズは再び店内へ戻ろうと、ヒア・カム・ザ・サンの手から逃れようとする。
しかし男は容赦なく、エコーズの腹部を踏みつけた。
「ギャアアーッ!!」
店の外から、康一の悲鳴が上がる。
平然としながら、男は提供されたサンドイッチを齧る。
「やっぱりィ、ここのサンドイッチはうめぇェ~なぁ~~ッ! 特にッ! こうやって人をイタブリながら喰うサンドイッチはよお~~!! ここ数日、こうやってムカつく奴は何人も殺してやったッ! 女も犯してやった! だが誰もかれも
突如、男の攻撃が止まった。
「何だ……? 今一瞬、何か聞こえたような……」
周囲を見渡す。
客はみな、彼の行為を
「気のせいか? まぁいい、このままコイツにとどめを……!」
――ギィィイイーン――
「ウゲッ!」
拳を振り上げた男の耳に、今度ははっきりと何かが聞こえた。
黒板を爪で引っ掻くような、不快で、甲高い音が、爆音で鼓膜に直撃する。
「何だッ、これはッ! うるせぇ! うるせぇぞッ!! 耳がイカレそうだッ! こいつの能力かッ?! だが、俺の『ヒア・カム・ザ・サン』は俺が行う全てを当たり前にする能力! こいつが自分への攻撃を認識できるはずがない! のに……なぜだッ?!」
「そりゃあ君、
そこに立っていたのは、どこからともなく現れた葉一であった。
「何だ、誰だお前ッ! 何で、俺を見つけられたんだあッ!? 俺がやることはすべて
「いいや、いだけるね。私がなぜ見せびらかすように店外から偵察させたか、気付かなかったのか!」
時は数分前にさかのぼる。
少し遅れて到着した葉一の目の前には、血まみれで転がる康一の姿があった。
「やはりな……思った通りだ。攻撃されたな?」
「よ……葉一さん……。気にしないでください……これは
葉一は手慣れた手つきで止血を済ますと、康一の様子を見てにやりと笑った。
「
再び、サンジェルメン店内へ舞台は戻る。
今の葉一の視界には、【ギィィイイーン】と体に大きく貼り付けられた男の姿がある。
「まさか! あの緑のスタンドは囮だったッ! そしてお前が命令したのかッ! 俺の影響を受けていないお前が! この音を!」
「そして、擬音が貼り付けられた男はこの店内に一人しかいない……。
葉一は
パワーがないせいで男の体が怯むことはなかったが、直後に男の様子が急変した。
「ぎッ……いぎゃあーーッ!!」
男は耳を抑え、叫び、のたうち回る。
先ほど貼り付けられた音が、爆音となって耳を貫いたのだ。
「さて……私は『感覚のコピー&ペースト』ができるわけだが。同じ相手に何度も感覚を貼り付けると、その感覚を倍化させていくことができる。今! 君の体に数十回は触れたかな……?」
「何だッ! なんなんだッ! 俺を裁く気か?! お前に……何の権利があって――」
「裁く? まさか、私は正義の執行人ではないッ!」
葉一は男の持っていたサンドイッチを奪い取ると、叫ぶ彼の口にねじ込んだ。
「君のスタンド能力は実に素晴らしい。 だからこそ、怒りがこみ上げてくるのさ。その能力をもってすれば、世界を支配することだってできたろう。だのに君が行ったのは、え? コソドロ行為に、殺人に、レイプ。ちっぽけなことしやがって……私はその能力をッ! 君が持ちえたことが我慢ならんのだッ!!」
「モ……モゴッ!」
まるで今までの仕返しとばかりに、サンドイッチは男の喉に詰まった。
そこに、葉一の怒りが雨あられと浴びせられる。
『
男の体はガラスを突き破り、店外に放り出された。
しかし、変わらず店内は平穏であった。
「
男はすでに、大量の不快音に耐え切れず気絶していた。
そしてその光景も、
更新が遅くなりました。
今月中にあと1話は上げたいんだけど、間に合うかな……?
次回、「万羽優子は東方仗助が好き!? その1」
お楽しみに。