艦隊これくしょん短編集   作:タクヤカスミ

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茄子の花

海上で活躍する艦娘ってのは、花に例えるとするなら、庭師が育てた真っ赤な薔薇とか、梅雨時に咲く紫陽花とか、川の堤防に並ぶソメイヨシノだよね。誰もが振り向く美しさ。華やかで、煌びやかで、輝いている。

 

でもおなじ艦娘でもアタシはそんなたいそうなもんじゃないんだよ。そんなのに例えられるなんて恐れ多い。でも自分のことを『雑草』と呼べるほど自虐的じゃないんだよ。

 

うーん……そうだね、茄子の花くらいじゃないかな。アタシの存在感ってのはさ。

 

あなたは茄子の花、見たことある?

 

――ない? まあそうだよねぇ。ないよね。

 

きれいなんだよ。

 

でも、どんなにきれいでも人に見られることはほとんどないんだ。畑の片隅でひっそりと咲いて、散る。茄子がみんなの目に留まるのは実をつけはじめてからだよね。でも花が咲くのは、その前だから。

 

でもあたしは思うんだ。もしも茄子の花が薔薇や紫陽花や桜に勝るとも劣らない華やかなものだったら、きっとたくさんの人に見られただろうし、っていうことは畑はきっと踏み荒らされちゃう。茄子自身が困るのはもちろん、育ててる農家の人だって困っちゃう。

 

だからさ、茄子の花っていうのは必要以上の華やかさはいらなくって、、それでいて育ててる人の目に留まればそれでいいんだよ。きっと。その人が見てくれれば『いい花だ。これはきっといい実をつけてくれるだろう。楽しみだ』って言ってくれる。想ってくれる。それでいいんだよ。

 

そりゃ、あたしだって海の上で華麗に舞いたかったよ。でも、だめだったんだ。艦娘にはなれるけど、そこまでの適正はなかったんだって。

 

だからこうして内地で艤装の完成検査をしてるってわけ。それが悔しくないかっていえばそんなことはなくって、もちろん悔しい。艦娘としての本分は果たせないわけだからね。

 

でも、いいんだ。内地で、工場で、茄子の花を咲かせるんだ。

 

艤装は艦娘にしか扱えない。だから試運転も艦娘が行わなきゃならない。アタシは工場の敷地の一角に用意した疑似的な海の上で、艤装を駆る。華々しい成果はない。ただただ、この身に感じる違和感を拾い上げて報告するだけ。

 

でも、ここに誇りがある。海の上で戦うのと同じように、これも艦娘にしかできないことなんだから。アタシが御墨を付けた艤装で、本チャンの艦娘たちが海上を蝶のように舞い、深海棲艦の蜂のように刺す。撃ち抜く。これってつまり、アタシが深海棲艦を倒したに等しいじゃない? アタシがいなきゃ、艤装は出荷できなくて、その艦娘も戦えないんだからさ。

 

わかってるよ。こんなのは強がりだって。でも、本音だよ。適材適所。ヒトはあるべき場所にたどり着く。そういうことでしょ。

 

ここはアタシを必要としてくれる。アタシはそれに応える。艦娘として生きる理由はそれで十分。

 

アタシが見つけた戦うべき場所は、誰にも譲らないからね。 

 

たとえ戦艦大和が目の前に現れようとも、アタシは引かないよ。

 

アタシの戦場は、ここだ。誰にも邪魔はさせないよ。

 

 

 

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