艦娘が戦う理由?
もちろん平和のためたよ。深海棲艦に奪われた海を取り戻して、失われていたものを再び手にする。それだけだよ。
ま、なにが失われているのか、なにを取り戻せるのか、それは私たち艦娘の領分じゃないからわからないけどさ、なにはどうあれ、深海棲艦を追い払わなくちゃなんにもならないってことは間違いない。そしてそれができるのは私たち艦娘だけ。だから戦う。平和のために、艦娘を必要としてくれる人たちのために、私たちは戦う。それが戦う理由。
どう? ばっちり?
オッケーなのね。そう、ならいいいんだ。
で、私がいま言った言葉をどうするの? また新聞に載せるの? この間も似たような記事作ってたじゃん……私のインタビュー記事は評判がいいから頻繁に依頼される? あっそう……なんでもいいけど、仕事熱心なことだねぇ。
きみ、この鎮守府の担当記者になってどれくらいだっけ。
今月で三年……もうそんなになるんだねぇ。
なんでもないよ。聞いてみただけ。
次は写真を撮りたい? なに、とうとう一面でカラーをもらえた? すごいねぇ。出世したねぇ。はじめのころは紙面の隅っこにちっさく載ってるだけだったのにさ。
なんで知ってるのかって? 私はね、こう見えてもきちんと新聞読んでるんだよ。自分たちの記事ともなればそりゃ穴が空くほど読むさ。もちろん、きみの記事もはじめっから読んでたよ。
面白くて好きだよ、きみの記事。私たちのことをきちんと見て、いいトコロを切り取ってくれていて。おためごかしじゃなくて、本当に思ったことを書いてくれてるんだよね。
おっと、写真か。はいはい、かわいく撮ってね
――ん、ありがと。
これが記事になるのは……一週間後くらい? 楽しみにしてるよ。
あ、ちょっと待って。まだ行かないで。
ちがうちがう、インタビュー内容を訂正したいわけじゃない。ただ、ちょっと世間話みたいなものをしたくってさ。記者としてのきみじゃなくて、きみ自身とね、話がしたいんだ。
つまりはオフレコってことかって?
ちがうよ。言ったじゃんか、記者じゃないきみと話がしたいんだって。だからオンもオフもないんだよ。いいでしょ? 記者は時間を自由にできていいんだってきみがこないだ言ってたじゃない。だからさ、暇つぶしついでに私の話に付き合ってよ。
――ありがと。じゃあ、きみに、きみだけに、特別に艦娘じゃない私自身を聞かせてあげる。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
ぶっちゃけるとさ、私はべつに平和のために戦ってるだなんてちっとも思ってないんだ。あくまでも『私は』だよ。他の子はどうか知らないよ。そこは区別してよね。
だってさあ、名前も顔も知らない人のために命は賭けられないよ。申し訳ないけどね。もちろん深海棲艦にたくさんの人が迷惑を被ってるのは知ってるよ。でも、それは理屈であって感情じゃないんだ。戦いってのは、感情だよ。
私が戦うのは見知った顔のため。鎮守府で働く整備士さんや事務さんたち、搬入のおっちゃん、食堂のおばちゃん、そして、提督。もしも私たちが負けて、深海棲艦が鎮守府に迫ってきたら、きっとその人たちは殺されちゃう。みんな頑張って抵抗するだろうけども、あいつらに生身の人間が敵うわけがない。だからさ、その人たちの命は私たちの肩にかかってる。それが実感できる。だから私は命を張れる。
あとは……そうだね、同僚のため、かなぁ。共に戦う艦娘たちのため。
こっちはもっとシンプルだよ。だってさ、毎日顔を合わせて、毎日一緒に戦ってるんだもん。やらなきゃ、やられる。自分がみんなを守ってるだなんて大それたことは言えないけどさ、いざ海の上に立てば『私がヒーローになれる。みんなを守るんだ』って自分を奮い立たせてる。仲間であり、友人であり、姉妹であり、人によっては恋人でもある同僚たち。誰も沈まなければ、それはつまり私たちの勝ちってことだよね。だからまあ、勝つために戦うというか、生きるために戦うというか、どちらにせよそれが戦う大きな理由であるんだよ。
あとはね、もうひとつ、いちばん大きな戦う理由は、それは私自身のためだよ。
だってさ、考えてもみてよ。艦娘の存在意義ってなに? 教えてよ、ねえ。
――そうだね、『戦う』ことだよね。深海棲艦と戦って、勝つ。それが艦娘の存在意義であり、勝ち続けているからこそ私たちは鎮守府でただ飯を食らい続けられている。
ううん、いいよ、慰めてくれなくて。本当のことだからさ。
私はほかになにもできないもん。戦うだけしかできなかった。
ねえ、もしもこの戦いが終わったら、艦娘ってどうなるのかな? ヒトとして生きていくのかな? それとも……きみはどう思う?
『ヒトとして生きていけたらいいんじゃないかな』って? ありがと。やさしいんだね。私もそうなりたい。ヒトとして生きてみたい。戦い以外のことを知りたい。そのためには、戦って、勝って、勝って、勝ち続けて、勝つ。けっきょくは私は私自身のために戦ってるってことなんだよね。
やっと話が戻ってきた。それが私が戦う本当の理由。自分のために戦う。それだけ。誰かのためとか、平和のためとか、そんなの全部タテマエなんだよ。
がっかりした? きみが想像していたよりも自分勝手で独りよがりな理由だったんじゃないかな。
――なに、親近感が湧いた? やっと人間っぽいところを見せてくれてホッとした? なに、きみは私のことをいったいなんだと思って取材してたのさ。人間の形をした兵器だと思ってたの?
ごめんごめん、意地悪なこと言っちゃったね。私はわかってるよ、きみがちゃんと私のことを見てくれてるっていうのはさ、わかってるよ。三年間も見てくれてればね、どう見られてるかはわかるし、どう見られたいかもわかる。だからさこそ、こうして記者じゃないきみと話したかったんだ。
ふう、聞いてくれてありがと。
ずーっと胸の中につかえてもやもやしてたんだ。でも、誰にもこんなこと言えないからさ、ようやく吐き出せて楽になったよ。
どうだろうね、私以外の艦娘は、どう思ってるのかなぁ。まあどう思っていても必死に戦ってることは間違いないからさ、あんまりヘンな目で他の子を見ないでやってよね。今のはあくまでも私のキモチだからさ。
――なに? 今のを記事にしてもいいかって?
バカ。
きみに、記者でないきみに話すって前置きしたじゃんか。忘れたの?
まあ、記事にしてもべつにいいけどさ、そんなことしたら私もきみもただじゃすまないよ。いやまあ死にはしないだろうけどさ、お互い今の立ち位置はガラっと崩れることになるだろうね。職無しの一文無しまっしぐらだ。
そうなったらどうしてくれんのさ。私は戦うこと以外知らないってさっき言ったじゃんか。なにもできない、世間知らずの私が、鎮守府から放り出されたらどうなるかわからないわけじゃないでしょ?
まあでも、戦いから離れて、海からも離れて、どっかの田舎の農村でいびつな野菜を作りながらのんびり過ごすのもいいかもね。身体だけは人一倍に頑丈だからさ、畑仕事はどんと来いだよ。そうしてさ、誰も殺さず、誰も生かさず、好きな人とでもいっしょに老いて、ひっそりと死ぬんだ。いいでしょ?
――冗談だよ、冗談。
さ、会社に帰んな。上司が君の原稿を手ぐすね引いて待ってるよ。腕のいい記者の原稿をさ。
いい記事書いてね。とびっきりかわいく映った写真を選んでね。
じゃあね。
また。