昼下がりのカフェテリア。ボクはボーイ達と話していた。話題なんてものは特にない。各々が気になった話題を振るだけの他愛もない会話である。
茶髪のショートカット、ボーイッシュな雰囲気が漂うトウショウボーイが興奮気味に会話を切り出してきた。
「なぁなぁ!今年も沢山新入生が来たよな!みんなのとこはどうだ?新しく入ってきた子はいるか?」
どうやらボーイは新入生の様子が気になるらしい。
その言葉に真っ先に反応したのは黒色の長い髪を首のあたりで一つ結びにしたグリーングラスだ。グラスは嬉しそうに言う。
「待ってました~その話題~。なんと、スピカには早速新入部員の子がやってきたよ~」
「マジか!はえぇな!なんて子なんだ?」
「キタサンブラックちゃ~ん。テイオーちゃんに憧れてるんだって~」
「あぁ、あん子か」
「面識あるんですか?テンポイントさん」
ボクの言葉にグラスよりも深い黒色の髪をボブカットにしたクライムカイザーがそう質問してきた。ボクは首を横に振って答える。
「直接の面識はないで。やけど、誠司からそういう子がおるって話は聞いとったんよ」
「それに~学園のオープンキャンパスにもきてたしね~」
「そう言えば、オープンキャンパスはグラスさんのスピカが担当してたんでしたっけ?」
「そうだよ~。おきのんがくじでハズレ引いたからね~」
「毎度思うけどなんでハズレなんだろうな?」
「単純にトレーニングの時間が削られるからやないか?オープンキャンパスは朝から夕方までやっとるし」
「そういうもんかねぇ。オレは新入生の子と触れ合うの楽しみなんだけどな~」
気持ちは分からないでもない。ボクはボーイの言葉に頷く。
そんな時カイザーがボーイに質問する。
「ボーイさんのリギルはどうですか?新しい子、入りそうです?」
「う~ん……まだ分かんねぇなぁ。おハナさん次第な気がする。カイザーのとこは?」
「ハダルも分からないですね。ただ、意欲的ではありますよ」
「そうなんだ~。テンちゃんのとこは~?」
「今んとこそういう話は聞いとらんな。やけどなぁ……」
ボクが言い淀むと、ボーイが興味深そうに尋ねてきた。
「どうしたんだよテンさん?何か問題でもあるのか?」
「いや……。新規入部の子やったら、長距離走れる子がこんかな~って思っただけや」
プロキオンは長距離を走れるのがボクと、辛うじて走れるシービーしかいないのだ。長距離を走れる子が是非とも欲しいとボクは思っている。
ボクの言葉にみんな納得がいったような表情をしていた。
「そうだね~。プロキオンはウチと真逆だもんね~」
「グラスさんのスピカは、中距離と長距離が主戦場にしている子が多いですもんね」
「テンさんとこは短距離とマイル中心だもんな。そりゃステイヤーが欲しくなるわけだ」
「そういうことや。やから長距離走れる子こんかな~って思っとる」
そこからは新入生の話題で盛り上がる。授業が始まるまでの間、和気藹々とした時間を過ごしていた。
そんな時ふと、ボーイが思いついたようにその話題を切り出してきた。
「そういやさ、誠司さんの好みの女性像って何なんだろうな?」
「どうしたの~?急に~」
グラスの疑問はもっともだ。というか、そんなのボクに決まっているだろう。そう思っているとボーイが続ける。
「何となく気になったんだよ。誠司さんモテそうなのに全然そういう話聞かないじゃん?」
「そうですね。まぁ……何となく想像はつきますけど」
「おいカイザー。なんで今一瞬ボクを見たんや?」
「気のせいですよ。心当たりがあるんだったら自分の胸に聞いてみてください」
そんなものはない。
「まあ~単純に出会いがないんじゃないかな~?トレーナー職って激務らしいし~」
「やけど、最近は彼女や彼氏がおるっていうトレーナーも増えてきとるって噂もあるからな。出会いはないこともないんやないか?」
「まぁ神藤さんって友達には欲しいですけど彼氏に欲しいかと言われたら微妙なんじゃないですか?分かりませんけど」
「さらっとヒデェこと言うなカイザー……。誠司さん聞いたら泣くぞ……」
この面子でこういう話をするのは初めてかもしれない。少し楽しくなってきた。
「しかし、誠司さんの好みの女性像か……。全然予想つかねぇな」
「案外~胸の大きい子が好きだったりして~」
「それはないでしょう。そもそも、神藤さんは人を見た目で判断するような人じゃないですし」
「それもそっか~。じゃあ~どんな人なんだろうね~?」
ボクも考えてみる。だが、いかんせん想像がつかない。トレーナーの好み……。
(アカンな。全然想像つかへんわ)
考えこんでいると、ふと視線が集まっていることに気づく。ボーイ達がボクを見つめていた。思わずたじろぐ。
「な、何やボクんことをジーっと見て。なんかあったんか?」
みんな考えていることは一緒なのか、ボク以外の3人は顔を見合わせて頷く。代表してボーイがボクの疑問に答えた。
「いやさ、考えてみたら誠司さんの好みってテンさんなんじゃねぇかなって」
「……は?」
呆けているボクにグラス達が続けて反応する。
「神藤さんテンちゃんにはずっと甘いよね~」
「そうですね。付き合いも長いですし」
「う~ん……」
「どうしたんだよテンさん。もしかして恥ずかしいのか?」
ボーイがやたらニヤついた表情でボクを見ている。少しイラっとしたがボクは冷静に答える。
「いや、誠司がボクを好きなんて当たり前のこと言われると思うてへんかったからな。少し拍子抜けしただけや」
「とんでもねぇ自信だなおい」
「どっから湧いてくるの~?その自信~」
「軽くイラっとしますね」
3人がなんか言っているがこれは紛れもない事実だ。親愛にしろ恋愛にしろ、誠司がボクのことを好きなのは間違いない事実である。多分相棒的な感情の方が大きいだろうが。
ボクは声高に告げる。
「決まっとるやろ?誠司はボクに惚れとる言うとったんやで?」
「それ走りにだろ。ハイセイコー先輩が言ってたぞ」
「いつでもボクを励ましてくれとったし、負けたら慰めてくれるし」
「担当ウマ娘なら~誰にでもそうでしょ~神藤さんは~」
確かにそうだが。
「ま、お母様もお父様も、キングスも誠司んことは気に入っとるからな」
「なんでそこでキングス達のことが出てくんだ?」
「決まっとるやろ」
ボクは思わず笑みを零す。ボクの表情を見てボーイ達は青ざめていた。
「誠司さーん!今すぐ逃げろー!多分囲われてるぞー!」
「テンちゃん!流石にトレーナーと生徒でそれはまずいよ!?」
「そうですよ!せめて卒業してからにしてください!」
「「そういう問題じゃないだろ(でしょ)!?」」
ボクは3人の反応を見て思わず大笑いする。
「アッハッハッハ!冗談や冗談!お母様達が誠司んこと気に入っとるのは確かやけど!」
「質の悪い冗談は止めてくれよ……」
「本当だよ~。本気かと思ったじゃ~ん」
ボーイとグラスは胸をなでおろしていた。ただ1人、カイザーはボクを真剣な表情で見ている。
「……冗談、ですよね?テンポイントさん」
「……」
カイザーの質問に、ボクは笑みだけを浮かべた。
そんな時ふと、ボクのセンサーが働いた。これは……ッ!
「誠司が女の人と話しとる……ッ!」
「なんで分かんだよ!?こえぇよテンさん!」
「今すぐ行くでみんな!」
「え!?ちょ、ちょっと待ってよテンちゃん!」
ボクはみんなの返事を聞くことなく、誠司がいるであろう場所まで走っていった。
「ハックション!……うぅ、誰か俺の噂でもしてんのか?」
「神藤トレーナー?壁の補修は終わりそうですか?」
「あ、たづなさん。もう少しで終わりますよ」
「申し訳ありません。トレーナーとしてのお仕事もあるのにお手を煩わせてしまって……」
「いいんですよこれぐらい。いつでも頼ってください」
俺は空いてしまった壁の補修をしながらたづなさんと他愛もない会話をする。その時。
「……うおっ!?」
突如として強烈な悪寒が俺を襲った。い、一体なんだ!?
俺の様子をたづなさんは不思議そうな表情で見ていた。
「どうかされましたか?神藤さん」
「い、いえ。突如として強烈な悪寒が襲ってきまして……」
「風邪ですか?でしたらゆっくり休んだ方が……」
「大丈夫ですよ。多分、そういう類のものではないと思いますので……」
その悪寒の正体はついぞ分からなかったが、分からない方がいいのかもしれない。そう思うことにした。
どうやら誠司と話していたのはたづなさんだったらしい。ひとまず安心である。
だが……いくら何でも距離が近すぎやしないだろうか?思わず誠司を凝視する。あ、のけ反った。
後から追いついてきたボーイ達が驚いたような表情を浮かべてボクに問いかけてくる。
「ほ、本当に誠司さんいたよ……なんで分かったんだよ……」
「普通分かるやろ」
「ゴメン、テンちゃん。さすがに普通は分からないと思う」
「そうやろか?」
「そうですよ……」
まぁ誠司に悪い虫がついていないようで何よりだ。そろそろ授業が始まる時間だし、戻ることにしよう。
みんなにはお詫びとしてジュースを奢っておいた。
トウショウボーイ
身長:173cm
スリーサイズ:ボンキュッボン
茶髪のショートヘア。ボーイッシュな雰囲気が漂うウマ娘。テンポイントの親友にしてライバル。思ったことをそのまま口に出すタイプ。
グリーングラス
身長:178cm
スリーサイズ:出るとこは出てる
黒い髪のロングヘアを首のあたりで一つ結びにしているウマ娘。トウショウボーイ達と良くつるんでいる。何となくたづなさんに似ている。怒らせると怖い。後レース中も怖い。
クライムカイザー
身長:165cm
スリーサイズ:平均的
黒い髪のボブカットのウマ娘。トウショウボーイ達と良く一緒にいる。見た目こそ文学少女だがとある一件により腹黒くなった。普段は大人しい。