ウマ娘~プロキオン狂騒曲~   作:カニ漁船

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実は本編でも言及のなかったハダルのトレーナーが判明する。


ハダルのトレーナー

 ──トレセン学園のチームの1つ、〈チーム・ハダル〉。

 古くからリギルと双璧を成してきた古豪と呼ばれるチームで、チーフトレーナーの見事な手腕によってこれまで結果を残し続けてきた。ただ、人気を集めているウマ娘にばかり勝ってきた……例を挙げると、ハイセイコーに対して大舞台でずっと負かし続けたタケホープが所属していることからも分かる通り、ハダルにはヒールと呼ばれるウマ娘が集まる傾向にある。ただ、本人達は勝利のために真面目に走っていることだけは分かっていただきたい。

 そんなハダルとまとめ上げるチーフトレーナーだが、寄る年波には勝てず代替わりをしたのは記憶に新しい。

 そんなハダルの新しいチーフトレーナーの名前は三國 葵(みくに あおい)。若き女性トレーナーである。

 

 

「はーい!じゃあみんな練習始めるよー!」

 

 

「「「はい!」」」

 

 

 普段はおっとりとしているのだが、ウマ娘に対する情熱は人一倍ある。それは先代のトレーナーのお墨付きだ。故に、ハダルに所属するウマ娘も彼女には信頼を置いている。

 

 

「はいはい、タケホープ?後輩を弄るのはそこまでにしようね?怖がっちゃってるじゃん」

 

 

「別に弄ってるつもりはないんだけどねぇ」

 

 

「カイザー!ペースが落ちてきてるよ!もうへばったの!?」

 

 

「……ッいえ、問題ありません!」

 

 

「よしよし、ペースが戻ってきたね!その調子でもう1周行こうか!」

 

 

 練習も、一人一人のウマ娘をしっかりと見ている。

 

 

「ライスちゃんもタイム上がって来たね。それじゃあそろそろ休憩しようか!」

 

 

「で、でも大丈夫かな?お姉さま。ライスまだまだいけるよ?」

 

 

「ダメダメ。休憩はしっかり取らないと!ホラ、休んだ休んだ!」

 

 

「うん!分かったよお姉さま」

 

 

 緩む時は緩める、締める時は締める。

 

 

「ぷ~れ~ちゃ~ん?コレは何かな~?」

 

 

「はい!これはですね……私のイメージアップのためにウマスタ用の動画を撮ろうかと思いまして!そのための機材です!」

 

 

「……邪魔だから撤去!」

 

 

「あぁ!?そんなご無体な!?」

 

 

 ウマ娘思いの良いトレーナーである。

 無論、周りからの評価も高い。

 

 

「三國トレーナーの手腕は前ハダルのチーフにも劣らないかと。頑張っていると思いますよ」

 

 

「彼女の育てるウマ娘は警戒しているわ。ここぞという場面で力を発揮するウマ娘ばかりだもの」

 

 

「普段はおっとりしているけど、ここぞという時は決める。そんなトレーナーかな?」

 

 

「ウマ娘に対するメンタルケアが凄い人ですね。特にあのチームはヒールと呼ばれるウマ娘が多いので。彼女達のメンタルケアの手腕は見事という他ありません」

 

 

 そんな声が上がっている。

 だが、そんな三國トレーナーにもある悩みがあった。それは──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんで!私には結婚のけの字どころか彼氏すらできないんですかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

 

「飲みすぎですよ三國トレーナー。後大声出さないでください。周りの客に迷惑です」

 

 

 ……<チーム・ハダル>の若きチーフトレーナー、三國葵 2(ピー)歳。絶賛彼氏募集中である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 プロキオンの練習が終わり、三國トレーナーに飲みに誘われてきたは良いものの……。

 

 

「だぁって!おかしくないれすか神藤さん!」

 

 

「はいはい、何がです?」

 

 

「わらしぃ、ちゅーおーのとれーなーれすよぉ!?こー給取りなんですよぉ!?」

 

 

「そうですね、高給取りですね」

 

 

「だのになぁんで!私には彼氏の1人もできないんれすかぁ!?周りの同期達はみぃんなできてるのにぃ!」

 

 

「我が身を振り返ってみたらどうです?」

 

 

 さっきからずっとこんな調子だ。やれ彼氏ができないだの、周りの同期達はみんな結婚を前提にした彼氏がいるだの、それが羨ましいだの愚痴られている。別にいいのだが結婚してない俺にもダメージが来るので止めて欲しい。ちなみに中央のトレーナーなので高給取りなのは間違いない。それを消費する機会があるかと言われたら……三國トレーナーや俺のようなチームを持つトレーナーは微妙だ。まぁこうして飲みに来れるぐらいの暇はあるので時間はあるだろう。

 

 

「わがみぃ?……わらしがかわいくないって言うんれすかぁ!?」

 

 

「いやいや、三國トレーナーは美人じゃないですか。周りの人達みんな言ってますよ?」

 

 

「ほんろぉ?えへへぇ」

 

 

 実際三國トレーナーは美人だ。黒い髪をセミロングにしておっとりとした雰囲気のある優し気な女性。トゥインクル・シリーズのファンの間では【ハダルの新しいチーフトレーナーが美人過ぎる件について】なんて話題に上るぐらいには美人である。というか、実際美人。

 まぁそんな三國トレーナーの欠点を上げるとすれば……

 

 

「じゃーなんもなくないですぅ?こーんなゆーりょー物件他にありませんよぉ?」

 

 

「アンタ自分の部屋の惨状と手料理を見てもそんなこと言えるんですか?」

 

 

 この人は壊滅的に家事ができないという点だろう。後にも先にも手料理を振舞うと言われて木炭を出してきたのは彼女だけだろう。本人曰く肉だったものらしいが。部屋の惨状もまぁ酷いものである。一度だけ見に行ったことがあるが、足の踏み場がないくらいには物が散乱していた。

 

 

『あ、あれ?一週間前に掃除したばっかなんだけどなぁ……。アハハ……』

 

 

 そんな風に言っていたが、かなり汚い部屋だった。普段どうやって過ごしているのだろうかこの人?

 

 

「カイザーちゃんも酷いんれすよぉ!?」

 

 

「クライムカイザーですか?今度はなんて言われたんです?」

 

 

「わらしがちょぉっと意地悪したらぁ……あの子なんれ言ったと思いますぅ!?」

 

 

「なんて……」

 

 

「あの子!『そんなんだから彼氏できないんですよ行き遅れ』っていってきらんれすよぉ!?あぁんまりじゃないれすかぁ!?」

 

 

「……」

 

 

 言い切る前にそう言われた。言葉のナイフが鋭すぎるぞカイザー。とはいうものの、カイザーがそこまで変わった原因の一端はこの人にあるのでなんも言えない。何なら自業自得まである。

 

 

「昔はあんら子じゃなかったのにぃ……。あらしは悲しいですよぉ……」

 

 

「他人面してますけどカイザーが変わった原因の4割ぐらいはあなたにありますよ」

 

 

 真面目で優しかったカイザーが腹黒くなったのは当時チーフトレーナーからクライムカイザーの世話を任されていた三國トレーナーが原因でもある。最大の原因はタケホープにあるにしてもだ。

 

 

「あ~あ……そうらぁ!」

 

 

 突如三國トレーナーが目を輝かせて俺の方を見た。一体何だろうか?

 

 

「神藤トレーナーが私と付き合えば……いや、止めておきましょう」

 

 

「秒で振られましたね俺。さすがの俺でも傷つくんですよ?」

 

 

「いえ、そういうわけじゃないんですけど……実際神藤トレーナーって凄く良い人ですし。彼氏に欲しいなーって気持ちはあるんですよ」

 

 

 それは少し嬉しい。だが、三國トレーナーは次の瞬間身体を震わせていた。酔いも醒めるほどの恐怖を感じているのか、先程までの酔ったような口調はすでに無くなっていた。

 

 

「わ、私だって命が惜しいんですよ……ッ!て、テンポイントさん達になにをされるか……ッ!」

 

 

「なんでそこでテンポイントが出てくるんです?」

 

 

 確かにアイツとは仲良いが……それだけのはずだ。

 

 

「……知らない方が幸せってこともあるんですよ?神藤トレーナー」

 

 

「なんでそんな優しい目で俺を見てるんです?やめてくださいよ、本気で怖いんですけど!?」

 

 

 ただこの話はこれ以上続ける気はないようで。すぐに飲み直していた。

 

 

「私もなー、早いとこ彼氏欲しいんですけどねー」

 

 

「なんでそんなに彼氏欲しいんです?」

 

 

「決まってるじゃないですか、行き遅れたくないからですよ!」

 

 

「まぁそんなこったろうと思ってましたけど」

 

 

「このまま彼氏できなくてさみし~い老後を過ごすのはまっぴらゴメンですからね!だから早く私も彼氏がほしー!」

 

 

「本気で探せば見つかりそうですけどね。お相手」

 

 

「ホントにそう思ってますぅ?」

 

 

「思ってます思ってます」

 

 

 俺は三國トレーナーを適当にあしらっておく。三國トレーナーはまた酔ってきたようで上機嫌になっていた。

 

 

「それにしてもぉ、東条トレーナーって結婚しないんですかねぇ?」

 

 

「なんでおハナさんが?」

 

 

「だってぇ、お相手いそうなものなのにぃ彼氏のかの字もないじゃないですか。だからぁ、あの人どうするつもりなんだろうなぁって」

 

 

 おハナさんか……。まぁあの人は相手はいるだろう。その相手に気持ちが届いているかは別問題として。

 

 

「まぁでもぉ、東条トレーナーは仕事人間だからそーいうのできなさそーですねー!」

 

 

「また悪酔いしてきたなこの人」

 

 

 こうなると面倒なので周りを見渡す……あ、噂をすればおハナさんが入ってきた。沖野トレーナーも一緒だ。2人で飲みにでも来たのだろうか?向こうもこちらに気づいて近づいてくる……

 

 

「わらしもとーじょートレーナーみたいに行き遅れたくはないなぁ!」

 

 

「「あ」」

 

 

 瞬間、おハナさんの絶対零度の視線が俺と三國トレーナーに突き刺さる。悲しいかな、三國トレーナーはまだ気づいていない。

 

 

「あれぇ?ろうしたんれすぅしんどーさん。そんな鬼を見たような顔してぇ?らいすちゃんはぁここにいませんよぉ?」

 

 

「三國トレーナー、後ろを見てください。面白いものが見れますよ」

 

 

「後ろぉ?もしかしてぇ、素敵なだんせぇ……」

 

 

 後ろを振り向いて、三國トレーナーは顔を青ざめさせた。冷汗がダラダラと流れている。

 

 

「随分面白いことを言うのね?三國トレーナー」

 

 

「い、いやぁ……こ、これはですねぇ……」

 

 

「あなた、裏では私のことをそんな風に思ってたのね?」

 

 

「そんなわけないじゃないですか!た、ただ真っ先に思いついたのが東条トレーナーなだけで……」

 

 

「そう。……じゃあ、2人で飲みましょうか?素敵なお話沢山聞かせて頂戴?」

 

 

 三國トレーナーの顔がさらに青ざめる。とりあえず合掌しておこう。

 

 

「や、やだぁぁぁぁぁ!あ、謝ります!謝りますから!だから許して!助けてくださぁぁぁぁい!神藤とれぇぇぇぇぇなぁぁぁぁぁ!」

 

 

「諦めてください」

 

 

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

 

「おハナさん。一応三國トレーナーの名誉のために言っておきますが……普段はこんなこと口走りません。本当にたまたまです。何なら普段は東条トレーナーの仕事ぶりが羨ましいって言ってますよ」

 

 

「そう……けど、それとこれとは話が別よ」

 

 

「ですよねー」

 

 

 そのまま三國トレーナーはおハナさんに引きずられていった。俺と沖野さんだけが取り残される。

 

 

「……とりあえず男2人で飲みましょう沖野さん。奢りますよ」

 

 

「いや、俺も出すからな?別に金欠じゃねぇからな!?」

 

 

 そんなこんなでその日は飲んでいた。後日三國トレーナーはおハナさんにこっぴどく言われたのかそれ以降おハナさんのことについて言及することはなかった。しかし彼女か……。




本当に彼女は間が悪かっただけなんだ……ただ同じトレーナーの軽い愚痴の言い合いみたいなものだったんだ……。
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