「俺も彼女が欲しい」
「いきなり何言ってんだおめぇは」
あの飲み会明けの翌日。俺はトレーナー連中と昼飯を食っていた。
「いやさ、昨日三國トレーナーと飲んでたんだよ。それで彼氏彼女の話になってな。その話してたら俺も彼女欲しいなーって思ったわけ」
「あ~……なるほどな」
「普段は意識してなくても、そういう話になったら急に意識しだすよなー」
「そそ、そういうこと。だから俺もそろそろ彼女とか考えなきゃいけねぇな~って思ってたとこ」
他愛もない話題。だがアイツは真剣な目で俺を見ている。一体何だってんだ?
「……お前それはマジで言ってんのか?マジで彼女欲しいと思ってんのか?」
「そりゃそうだろ。このままだと独身コースまっしぐらだからな」
「大丈夫です。神藤さんが生涯独身になることは絶対にないので」
年下トレーナーである坂口がそう言うが、一体なんでだ?なんでそう言い切れるのだろうか?
「そうかそうか。神藤も彼女か……お前すでにいるだろ」
「は?何の話だ?」
「そうだな。すでに彼女いるよな神藤」
「あぁ。何なら妻まである」
「マジで何の話だお前ら。全然見えてこねぇぞ」
戸惑う俺に、そいつらは口を揃えてこう言った。
「「「お前にはテンポイント(ちゃん)がいるだろ」」」
「マジで何言ってんだお前ら!?」
テンポイントは俺の担当ウマ娘だぞ!?
「つってもなぁ……お前らだったらそうなってもおかしくないっていうか……」
「何なら学園中が認知してそうというか……」
「待って?俺そんな風に認知されてんの?教え子に手出しするクソ野郎じゃん」
「大丈夫だ、ほぼ公認みたいなもんだからな」
「うるせぇ!余計悪いわ!」
というかマジでそんな風に認知されてたら俺の評判地のどん底に落ちてたりしないだろうか?本気で心配になってきた。
「まぁ冗談はここまでにしといてだ」
「じ、冗談かよ……本当に良かった……」
「「「……」」」
「待って?無言にならないで?本気で心配するから、マジでそうだと思うじゃん!?冗談だって言ってくれよ!?」
「お前が彼女欲しいって話題に出したってことは、他に理由あるんじゃないか?三國トレーナーって飲んでる時はいつもそう言ってるし」
「そうですね。他にも理由あったりします?神藤さん」
どうやら俺の意見は無視されるらしい。冗談だ、冗談だと思っておこう……。いや、別にテンポイントがそういう相手で嫌というわけじゃないけど……さすがに担当とトレーナーだから不味い。世間体的に。
「実は弟にも彼女ができたって報告が来てな。兄貴は結婚してるし、奥さんも彼女もいないのは俺だけなんだよ。だから肩身が狭い」
「あ~そりゃ肩身が狭いな」
「それにさ~……全然女の子とお近づきになれないからさ~。最早呪われてんじゃねぇの俺?あっはっは!」
「あ、あ~……うん。そ、そうだな」
「た、確かにそうだな。うん、呪われてるかもしれないな」
「……知らないって罪なんだな。テンポイントちゃん達が色々と」
「シッ!黙っておいた方が良いですよ!神藤さん知らないんですから!」
そいつらは納得したような表情を浮かべる。ただ、気になる言葉を言っていたが……生憎とよく分からないから追及するのは止めといた。
「親からも良い相手見つけろってせっつかれるしさぁ……この機会に良い相手見つけとかないとな~って感じ」
「そうかそうか。だったら俺から優良物件を紹介してやろう」
「お?奇遇だな。俺も紹介したい相手がいるんだよ。それもかなりの優良物件」
「そうだな。お前にピッタリの相手だ」
「そうですね。間違いなく気に入りますよ」
そんな相手がいるのか。しかも口ぶりから察するにみんな同じ相手を紹介しようとしているらしい……いや待て、この展開読めてきたぞ。
「……一応聞いておこう。その紹介したい相手ってのは誰だ?」
「「「テンポイント(ちゃん)」」」
「だと思ったよこんチクショウ!」
確かにそうだけども!
そんな会話があった後。俺はトレーナー室で書類仕事をしている。
「全くアイツらめ……」
「何かあったんですか?トレーナーさん」
部屋には現在オフトラとシービーがいる。他のメンバーはまだ来ていない。
「何。今日同期と話している時に結婚とか異性のパートナーの話になってな。それでからかわれた感じだ」
「トレーナーさんがからかわれるって珍しいですね。いつもからかう側なのに」
「まぁこの手の話はどうしてもな……」
生まれてこれまで彼女なんてできたことがないので仕方がない。というか、不思議な程女性が寄り付かない。それにしても……。
「俺も彼女欲しいなー……」
「自殺志願者だったりするのミスター?」
「ここに私達だけしかいなくてよかったですね。他のメンバー居たら間違いなく戦争が起きてましたよ」
「え?そんなレベルの発言なの?」
ただ彼女が欲しいって言っただけなのに?
「それにしても……ミスターは彼女が欲しいの?」
「そりゃあな。さすがにいつまでも仕事一筋ってわけにはいかないし、そういうパートナーを見つけとかないとってのはあるだろ」
「じゃあアタシが立候補しようかな~?」
「し、シービー先輩!?」
「いいじゃんオフトラ。誠司ってかなりの優良物件だし。アタシのやりたいことさせてくれてー家事炊事とか分担してくれてー。絶対困らないと思うけどなー?」
「はいはい。冗談はほどほどにしておけ」
「えー?これでも結構本気だよ?」
「分かった分かった」
俺が適当にあしらうとシービーは引き下がる。
「……ま、今はそう思っててもいいよ。そのうち……ね」
なんか悪寒を感じるが、気のせいだろう。気のせだと思うことにした。
それから待つことしばらく。他のメンバーも続々と入ってきた。
「おーっす、きたでーみんなー」
「まぁシービーとオフトラはいると思ったし」
「何の話してたんですか?シービー先輩、オフサイド」
「今日のツヨシは元気ですよー!練習頑張りましょー!」
「はー!今日も眼福眼福~。ウマ娘ちゃん達の絡みをたくさん見れましたよ~!」
「お兄ちゃーん!今日もウマスタ用の写真よろしくね~?」
さて、全員集まったことだし練習でも始めるか……
「いや、ミスターが彼女欲しいって言ってたから。その話をしてただけだよ」
「「「は?」」」
「ちょ!?シービー先輩!?」
だが、そうは問屋がおろさなかった。シービーの一言で部室は一触即発の空気になる。
「……ほーん、誠司は彼女が欲しいんか~。そうなんやな~」
「なんかあるのか?テンポイント」
「……ボクは君をそんなトレーナーに育てた覚えはないで!」
「何言ってんだお前」
「も~お兄ちゃんそんな相手が欲しいなら言ってくれればいいのに~。今ならカレンがいるよ?」
「お前も何言ってんだカレン」
「あ、あの。おれ、頑張りますから!」
「何をだミラクル?とりあえずさっさと練習の準備をしろ。時間は有限だぞ」
ギャーギャー言ってるチームメンバーを放置して俺は練習をするための準備を始める。今日は……学外に出てトレーニングか。
「ほら、さっさと行くぞお前ら」
「「「……はーい」」」
「はい!ツヨシ、気合入れて頑張ります!」
「あ~……戦争起きなくてよかった~……」
「それに近い状態にはなってるよデジタルさん……」
不承不承といった様子で納得している一部を除いたメンバーを引き連れて、プロキオンのトレーニングは今日も始まる。
まさか誠司が彼女を欲しがるようになるとは……。これはあかん状況やな。
「ボクというものがありながら……!」
「何言ってるのテンポイントさん。別にいいんじゃない?ミスターが彼女を作ろうがさ」
「そうはいかへん!」
「それに……ミスターに彼女が作れると思う?アタシ達が色々と手を回しているのに?」
「……それもそうやったな」
神藤誠司というトレーナーは何でもできる。誇張表現かと思うかもしれないが、実際ほぼ何でもできる。
人脈のパイプが太く、大企業の社長や土地の大地主、果てには海外遠征の結果から要人とも知り合っている。しかも、誠司の声があればみんな集まってくれるぐらいには信頼されている。
加えて誠司自身も大概のことは何でもできる。資格マニアと呼ばれているが、実際その通りで特殊な資格以外はほぼ全て網羅しているといっても過言ではない。しかも誠司自身家事炊事はお手の物だ。ボク達全員のお弁当を毎日作っているぐらいなのだから。しかも全員違うメニュー。本人は前日から仕込んでるからそこまで手間じゃないというが……実際かなり手間だろう。
そんな男性を、世の女性が放っておくだろうか?答えは断じて否。なら、どうして神藤誠司には女性が寄り付かないのか?その理由は……!
「カレン、昨日誠司に近寄ろうとしとった女性は何人おった?」
「そうだね~……昨日の三國トレーナーの飲みがあったぐらいかな~?」
「その時、三國トレーナーは神藤トレーナーと付き合いたいって言ってましたけど……即座に訂正してました、テンポイント先輩」
「そうかそうか。やったら……許したる。やけど誠司とサシで飲みいったんは許せへんな」
「代わりにリギルのトレーナーがこってり絞ってたし。だから問題ないし」
「ま、東条トレーナーがあのお店を選んだのは……アタシ達の手引きがあってのものだからね」
「せやせや。ようやったでシービー……これからもこの調子でいくで!みんな!」
「「「おー!」」」
「テンポイント先輩達、何のお話してるんでしょう?ツヨシも混ぜて……むぐっ!?」
「ツヨシは聞かない方がいいよ……私もあれくらい欲望に生きた方が良いのかなぁ?」
「これまーたデジたんトレーナーさんの写真要求されるやつですかね……まぁ別にいいんですけど。後オフトラさんまであっちに行ったらマジで収集つかなくなるんでやめてください。健全なあなたでいてください」
誠司が女性と出会わない理由。それはひとえにボクらが裏であれこれ手を回してるせいである。まぁ……それを誠司は知らないわけだが。
そして、当の本人はというと……。
「彼女つってもなぁ、今の仕事が楽しいし……ま、後回しでもいいか!」
結局は後回しにするらしい。ボクとしても一安心である。
※何度も言いますがギャグです。