鬼とギターとヒーローと   作:ブレイアッ

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【下北沢のツチノコ】って魔化魍みたいな呼び名だなって。


一之巻 ギターの鬼

 小さい頃から、人と付き合うのが苦手な子だった。

 幼稚園の頃は、男の子が外で鬼ごっこをしたり、女の子がおままごとをしてて、そのどちらの輪にも入れず、先生とお絵かきしているような子だった。

 体育でペアを組む時は、いつも最後まで余ってるような子だった。

 

 いつも一人。一人ぼっち。

 

 ──でも、一度だけ、それで良かったって思えた事があった。

 

 それは小学校の頃、学校行事で登山に行った時の事。

 クラスの子や先生の背中を見ながら少し遅れて歩いていた時、急に足下の石が溶けて、それに足を滑らせて、安全の為の柵は何故か切れてて、私は声も出せず登山道のすぐ隣の斜面を転がり落ちた。

 

 落ちた先の川原にいたのは、見上げるほどの大きなカニのお化け。

 それに食べられそうになった時、助けてくれたのは、ギターを持った鬼さんだった。

 

「音撃斬・竜巻回廊」

 

 カニのお化けから、怖さで動けない私を抱えるように鬼さんがかばいながらギターを掻き鳴らす。

 激しくて、荒々しくて、なのにどこか清らかな音が、私の恐怖を和らげる。

 カニのお化けが吹き出した泡が川原の石を溶かすのなんか気にならなくて。

 

「大丈夫。必ず守る」

 

 そう言った、青い隈取の付いただけの真っ黒で無機質な、怖いはずの顔に安心して。

 

 カニのお化けが爆発して枯れ葉や土くれが飛び散る中。鬼さんの大きくてゴツゴツした手が、私の頭を撫でた。

 

「よく頑張ったな。えらいぞ」

 

 その後は鬼さんが出した瑠璃色の小さな狼が学校のみんなの所まで連れて行ってくれた。

 それからはカニのお化けも、鬼さんもいない日常に戻った。

 

 カニのお化けに襲われて、鬼に助けられる。なんて昔ばなしみたいで、夢みたいな体験だったけど、あれからずっとお守りにしている瑠璃色の小さな狼だった銀色のディスクが、私に本当の話だって伝えてくれる。

 

 

 中学に上がって、あのギターの鬼さん(ヒーロー)に憧れて(ちやほやされたいって下心も大いにあったけど)ギターを始めた。

 

 毎日六時間以上練習して、動画投稿サイトに動画をアップして、チャンネル登録者も増えて、コメントでもうまいって言われるようになって。

 

 学校でバンド組んだり、学園祭でライブしたりして、いつかあの鬼さんに再会した時に、自分はこんなにたくさんの友達が出来ました! って胸を張れるように

 

 

 

 …………なることなく、いつの間にか中学を卒業して、高校に入学してから一ヶ月経っていた。

 

 

 

 ………………あっれぇ……?

 

 

 

ーーー

 

 

 

「ハーックショイ!」

 

 奥多摩の山中にくしゃみが木霊する。

 誰か俺の噂でもしてるのかな?

 

「あっははー! 大きなくしゃみ! 鬼でも風邪ってひくんだね!」

 

 背後からゲラゲラと笑い声が聞こえてくる。

 

「ずびっ、あのねぇきくり。そこは心配するとこじゃないかな? てか何でいるの」

 

「酔っ払ってタツマキくんの車の中で寝てました!」

 

 そんなことだろうと思った。

 出発前に荷台をチェックしなかった俺も悪いかもしれないけどさ。

 と言うか、またウチに泊まる気だったなこの人。

 

「正直で大変よろしい。ほら、着いて来ちゃったんなら手伝って。ディスク出すだけでも良いから」

 

「おんや〜? 年上のお姉さんに対してそんな言葉遣いで良いのかな~?」

 

「車からディスクアニマル下ろすの手伝って下さい。廣井きくりさん」

 

「よっかろーう! 報酬はお酒で勘弁してやる! うはははは!」

 

 陽気に笑う年上酔いどれ天才ベーシストに溜息を付きながら、空を見上げる。

 澄み渡った快晴。気持ちのいい空気。

 うんっと背伸びを一つ。

 

「っし、今日もお仕事頑張りますか!」

 

「タツマキくーん! これどこに置いたらいいのー?」

 

 

 




後藤ひとり
原作主人公。
ギターを始めたきっかけに不純な動機以外の動機が加わった。

タツマキ
本作主人公。
ギターの鬼さん。

廣井きくり
タツマキのヒモ
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