高校に入学してから一ヶ月が経った。
友達が出来ないまま一ヶ月が経ってしまった。
どうしよう。このままじゃ高校三年間も一人ぼっちだ。
とりあえずギターヒーローの新作動画のエンコードが終わったからアップしよう。
ギターヒーロー。
私がネットにギターの弾いてみた動画をアップする時の名前。
その由来はあの日出逢った鬼さんだ。
こうして動画をアップしてればもしかしたらあの鬼さんに見付かるかもしれない。なんて考えから始まった動画投稿はいつの間にか私の拠り所になっていた。
登録者二万九千人超え……こ、これは、もう人気動画投稿者と言って良いのでは?
そうだ。明日学校にギターを持って行こう。そしたら話しかけてもらえるかも!
うん。良い案だ。
「オオカミさんも、そう思うよね!」
ガゥゥゥゥンって、声が聞こえた気がした。
ーーー
奥多摩。
駆ける。駆ける。駆ける。
斜面を駆け、岩場を駆け、川を飛び越える。
「はーしるよ山を、川を、街を、きーたえろ身体っ、千里駆け……っと。ふぅ」
ヒビキさんの真似してメリーさんの羊の替歌を歌いながら走ってみたけど思ってたよりキツイなこれ。呼吸のペースが乱れる。
「おっ、タツマキくんおかえり~!」
ベースキャンプに戻ると焚き火台の前で飲んだくれているきくりがひらひらと手を振って迎えてくれた。
「ディスクたち、戻ってきてるよ〜」
きくりが指指した先には動物を模した色とりどりの
「おし、じゃあ早速聞いていきますか」
車からコルクボードに複数のピンで止めた地図とディスクアニマル用のケースをを取り出す。
地図はテーブルの上に置いて、ケースのフタを開ける。
パチンッと指を鳴らすと、ディスクアニマルたちは動物のようなアニマル形態からCDのようなディスク形態へと変形し、ケースの中に次々と飛び込んでいく。
ケースの中から一枚取り出して、左手のリストバンド。【変身鬼弦・音震】の内側にある突起にディスクをセットして回す。
キュルキュルキュル……
圧縮された音。数時間に渡る録音を数秒で聞いていく。
「タカの一番、外れ。次」
地図に刺してある1と書かれた赤いピンを外し、ケースから次のディスクを取る。
「いっつも思うけどさぁ、それ地味すぎない?」
「こういう地道な作業が化物退治に繋がるんだよ」
「ふーん。あっ、そういえば戻ってくる前、電話鳴ってたよ~。テントに置きっぱなしだったでしょ〜」
「え、マジで? それ早く言ってよ」
「えへへ〜ごめ〜ん」
地図から2と書かれた赤いピンを抜いて、スマホを取りにテントに向かう。
着信1件。きくりのバンドメンバーの岩下志麻さんだ。
とりあえず着信履歴から志麻さんの方にかけると、数コールで電話が繋がった。
「もしもし岩下さん? タツマキです。すみません電話頂いてたみたいで。今お時間大丈夫ですか?」
『大丈夫です。すみませんかけ直して貰っちゃって』
相変わらず、なんできくりと一緒にやってるんだってくらい礼儀正しい人だ。
「いえいえ。それで、何かありました?」
『うちの廣井知りませんか? あいつスマホこっちに忘れてて連絡繋がらないんすよ』
「きくりなら今一緒に奥多摩にいますよ。代わりますか?」
『え゛っ、何でそんなところに……いや、大丈夫です』
「そうですか?」
『どうせ言っても忘れるんで。廣井に伝えといて下さい。お前が居酒屋に忘れたベースたちばなに預けてるって』
ま た ベ ー ス 忘 れ た の か。
何度目だきくりがベース忘れて俺に連絡来たの。
「あぁ……またベース忘れたんですね」
『そんなんすよ……』
溜息が重なった。
『じゃあ、そう言うことなんで、よろしくお願いします』
「はい。あっ、次のライブ行けると思うんで、また搬入とか物販とか手伝いしますね」
『ありがとうございます。それじゃあ次のライブ、気合い入れて演奏しないとですね。
じゃあ、また次のライブで』
「はい。楽しみにしてますね」
電話を切る。
「きくりー! またベース忘れたんだって?」
「んー? あっ、本当だ!」
「岩下さんから、たちばなにベース預けてるってさ。化物退治したらたちばなに寄るからね」
「はーい!」
元気一杯の返事だけど、この様子だと明日の朝には頭からすっぽ抜けてるな?
とりあえずスマホにメモっとこう。
さ、仕事の続きだ。
次はタカの三番からだったかな。
ーーー
放課後。
私は、公園のブランコに腰掛けて一人ぼっち。
だ、誰も学校で話しかけてくれなかった……。
ギター持って、ライブTシャツ着て、カバンにはバンドの缶バッジ、手首には沢山のリストバンド!
どう見てもかっこいいバンド女子なのに!
鬼さんに貰った勇気出して頑張ったのに!
はっ! あ、あえて話しかけられなかった可能性とかは……ないないないないない! 精神崩壊するぅっ!
……この公園に集う人はみんな孤独を抱えてるんだ。
ほら、そこのベンチに座ってるくたびれたサラリーマンはきっと家庭内別居中で帰り辛いんだろうな……。
そこの鉄棒で腹筋してる人は周りに居場所が無くてこんなところで筋トレしてるんだろうな……。
「パパー!」
んぬっ!?!?
「あなた〜遅れてごめんなさいね~」
「パパお腹すいた〜!」
「よーし、飯食いに行くか〜!」
か、家族連れ! お子さんと奥さんを待っていただけ!
私なんかと一緒にしててすみませんでした!
「トドロキくぅーん!」
「あぁ! 日菜佳さん!」
はぅあっ!?!?
「お待たせー! 待ったー?」
「いえっ! 鍛えてたんで全然! あっ、荷物持ちますっ!」
「ありがとね、パパさん!」
妊婦さんとその旦那さんだったとは……っ!
しかも良い旦那さんっぽい!
私なんかと一緒にしててすみませんでしたぁ〜っ!!
ジャージのポケットから銀色のディスクを取り出す。
うぅ〜! オオカミさん、私を慰めて〜!
「…………?」
「トドロキくん早くー!」
「あぁっ! 今行きます!」
「あぁぁああああっ!!!」
ひぅっ! こ、今度は何!?
「ギターッ!!!」
金髪の女の子がこっちに駆け寄って、えっ? 私?
「それっ! ギターだよね! 弾けるのっ!?」
「……! アッ、エッ、ヴッ!」
こ、声が! 喋るの久し振りすぎて声が出ない……!
鬼さん! 私に勇気を下さい〜!
「ひ、弾けまスッ!」
こ、声が裏返った〜っ!?
折角声かけて貰ったのにかっこ悪い!
「あっ! いきなりごめんね! 私、下北沢高校二年の伊地知虹夏!」
「あっ、ご、後藤ひとりです……」
「私、バンド組んでるドラムやってるんだ! それで……そのぅ、ちょっと今困ってて無理だったら大丈夫なんだけど、大丈夫なんだけど困ってて……」
そわそわとした様子の伊地知虹夏さん。
あ、これ絶対だいじょばないやつだ。
「お願い! 今日だけでいいからサポートギターやってくれないかな! ギターの子が突然やめちゃって!」
ほら、やっぱりだいじょばないやつ。
…………えっ、今日!? 私がライブハウスでライブするの!?
「むっ、む」
無理。と言いかけて押しとどまる。
無理じゃない。怖気づいちゃダメだ。
こんなことの為にギターヒーローで売れ線バンドの曲を弾けるように頑張ってきたんだから。
銀色のディスクをぎゅっと握りしめる。
「が、ががが、頑張ります……」
「本当! いいの!? ありがとう〜っ!」
ゔぁっ! 笑顔が眩しい!
「それじゃあ早速ライブハウスへゴー!」
そのまま私は手を引かれて公園を後にした。
あっ、なんか緊張でお腹痛くなってきた……。
ーーー
「ラスト、カエルの十五番…………アタリ。
でもこれは童子と姫っぽいな。場所は……む、かなり上流の方」
地図に刺した15と書かれた薄緑色ピンをの場所を確認して、車から黒いギターケースを取り出して、開ける。
中にあるのはギター型の大剣。【
ギターケースから風斬を取り出し、ギターでいうボディ部分にあたる箇所を覆うストラップの付いた専用の革製カバーに移す。
スナップボタンを外せば簡単に取り出せる特別製だ。
零号ディスクは……相手が童子と姫だから陸上での機動力のあるルリオオカミとリョクオオザル。飛べるアサギワシの三枚にしよう。
「お、タツマキくん今から出るの?」
「はい」
「いってらっしゃ~い」
「行ってきます」
シュッ、とピースに親指を添えた右手を前へを出すオリジナルのハンドサインをして、ベースキャンプを後にした。
後藤ひとり
日常側の主人公。原作よりちょっと勇気がある分ちょっとマシになってちょっと自爆が多くなっている。
狂う思惑(ギター持って行ったら学校でちやほやされると思ったんだけどなー?)
タツマキ
酔いどれベーシストを養ってる系の鬼さん。
狂う思惑(バケガニ退治に来たのにアタリ全然出ないなー?)
廣井きくり
大自然の中で焚き火に当たりながら酒飲んで寝るのサイコー!
トドロキ
本作では準レギュラーくらいの立ち位置。
38歳。師匠の歳を超えても現役バリバリの一児のパパ。今度二人目が生まれる。
公園にいたピンクジャージに何か感じるところがあった様子。
戸田山日菜佳
旧姓は立花。いつも明るい32歳。
この世界で生きてます。