この一ヶ月、山に行ったり山に行ったりパルデアに行ったりドンブラロスになったりしてました!お久しぶりです!!
「よろしくね! 作詞大臣!」
虹夏ちゃんにそう言われてから、もうじき一週間が経とうとしていた。
私は今、部屋の中でギターを弾いている。
あ、いや、現実逃避とかそういう訳じゃなくて、なんかこう、ギターを弾いてれば何かパリピな歌詞が思いつくかもしれないし。
「………………」
リョウさんから貰ったデモ音源を耳コピして、まだ名前の無い曲を黙々と弾きながら、結束バンドのみんなを思い浮かべる。
虹夏ちゃん。
結束バンドの
いつも元気で褒め上手。
あの日、公園から結束バンドまで連れ出してくれた人。
リョウさん。
結束バンドの
あまり喋らない。草を食べる。コミュ障というわけではない。
作曲も出来て、たぶん今の結束バンドで一番楽器が上手い人。
喜多ちゃん。
結束バンド
明るくて、優しくて、かわいい。誰とでも話せる陽キャ。
ライブを前に逃げ出してしまうような弱いところがあって、それでも今は結束バンドの一員としてギターの練習を頑張ってる人。
私。
結束バンドの
コミュ障。陰キャ。以上。
「………………だめだぁ……」
私が書いた歌詞を歌うのは喜多ちゃんだ。
だから、明るくて陽キャな青春ソングな歌詞を作らないと。
なのに、うっぷ。
中学三年間はずっとこの部屋でギター弾いてた私は、青春なんて生まれてこの方経験した事なんて無い。
キラキラした青春ソングを聞いてると青春コンプレックスを刺激されて鬱々としてくる……おえ。
ダメだダメだ。
気持ちを切り替えよう。こんな時は……そうだ。
「──音撃斬・竜巻回廊」
あの鬼さんが弾いてたあの曲を弾こう。
「ひとりちゃーん。お客さんよー」
襖の向こう側からお母さんの声がしてピタリ、と手を止める。
「お客さん?」
あ、そういえばお母さんが知り合いの霊能力者にお祓いを頼んだとか言ってたような……?
「入ってもいい?」
「あ、うん」
咄嗟に頷いちゃったけど、えっ、今から知らない人を部屋に入れるの?
部屋が散らかって……は無いな。そもそも散らかす物が無いし。
見られて困るもの……も無い。壁と天井一面に貼った結束バンドのアー写は私の思い出だ。
襖が開く。
あ、ヤバい。なんか緊張してきた。
知らない人と顔合わせるの恐いし、真下向いとこう。
「うわっ」
聞き覚えのある声だった。
「タツマキさん……?」
「あれ、ひとりちゃん?」
顔を上げると、そこにはギターケースを持ったタツマキさんがいた。
===
ピンクの座布団に猫背で正座する私と、青い座布団の上で綺麗な正座をしたタツマキさんが向かい合う。
じっ、とタツマキさんが見つめてくる。
う、顔が良い。イケメンすぎて眩しい。目が潰れそう。
あれ? イケメンで年上のお兄さんを部屋に入れてるこの状況って、かなり陽キャレベル高いのでは? はっ、これはもしかして私も陽キャ入り……!?
「………………」
「………………はぁ」
小さくため息吐かれた!? あぁっ! ため息混じりに「マジかぁ……」って!
どうしよう。STARRY以外で会うのは初めてだ。いつも何話してたっけ?
うぅ、そういえばいつもタツマキさんから話しかけて貰ってた気がする。
えっと、えっとぉ、何か、何か話さないと……っ!
「あっ、あのっ!」
「ん?」
「その、タツマキさんは、霊能力者? なんですか……?」
「違うよ?」
「え、でもお母さんが知り合いの霊能力者って……」
「あぁ、それはお母様、こほん。俺のおふくろのことだね。
俺は霊感みたいなのはあるけど霊能力者って訳じゃないだ。
タツマキさん、お母さんの事をお母様って呼んでるんだ。
「さて、ひとりちゃん」
「は、はい」
「今から、ひとりちゃんからしたら変で、可笑しな事を聞く。けれどこれは真剣な事だから、正直に答えて欲しい。いい?」
ギターケースの外ポケットから手帳とペンを取り出して、真剣な表情を向けられる。
なんだか自分の内側を見透すような、そんな眼差しだ。
「は、ひゃいっ」
思わず声が上ずってしまった。
「まずは、今まで無意識に
「えと、あ、あります。お墓とか廃墟とかにいつの間にか行ってる事……」
「ふむ。じゃあ、今までに化物に襲われた事、ある?」
どきり、と心臓が跳ねた。
「あ、あります……」
「それはいつ? 何回かあった?」
「ご、五年前……その一回だけです」
ピタッと手帳に走らせていたペンが動きを止める。
「一回だけ? 本当に?」
「は、はい」
「…………ちょっと質問を変えようか。ギターはいつ頃始めたの?」
「中学に入ってからです」
「ギターは誰かに教わったの?」
「いえ、独学で……」
「練習はこの部屋で?」
「あ、はい」
「どれくらい練習してたの?」
「えっと、学校が終わったらすぐ家に帰ってずっとギターの練習してました」
「あぁ、だからか……」
「?」
「じゃあ最後の質問。鬼に会った事はある?」
「!」
鬼。ギターの鬼さん。私のヒーロー。
恩人で、憧れの人。ギターを始めるきっかけをくれた人。
もしかして、タツマキさんは、あの鬼さんの事を知ってる?
「ぇ……ぁ……」
どうしよう。言葉が出ない。
鬼さんの事を知ってるんですか? とか、どこに行ったら会えますか? とか、訊きたいことはあるのに、声が出てくれない。
「ありがとう。その反応で十分だ。
さ、これで質問コーナーはおしまい。変な事たくさん聞いてごめんね?」
首を横に振る。
「さて、これまでの質問で分かった事がある。心して聞いてほしい」
パタン、と手帳を閉じるタツマキさん。
「ひとりちゃん。生きてて偉い」
???
「ぁ……えっと……?」
褒められた?
「うん、本当に、今までよく生きてくれた。これからもギター頑張ってね」
「い、いやぁ……エヘヘ……」
それから暫くの間、私がデロデロに溶けるまでタツマキさんに褒められ続けた。
===
廊下のド真ん中で一升瓶を抱えてイビキをかいてる同居人。家賃を滞納しすぎて遂にアパートを追い出されてウチに転がり込んだ廣井きくりさんを跨いで、居間に向かう。
「ふぅ……」
手帳を開いて今日を振り返る。
後藤ひとり。
STARRYのバイトで、結束バンドっていうバンドでギターをやってる子。そして──
「魔を惹き寄せ、魔に惹き寄せられる。邪気を体に溜め込みやすい特大の呪われ体質」
昔からこういった体質の人間は何度か確認されている。
そして辿る運命は二つ。十四を迎える前に、惹き寄せられた魔化魍に喰われるか、溜め込みすぎた邪気によってその身を魔化魍と化してしまうかだ。
故に、見つけた時は大事に至る前に鬼の総本山である吉野から、【
言ってしまえばこの体質の子供を牛鬼という魔化魍として、
でも。
ひとりちゃんは体に邪気を溜め込んでいなかった。
それだけじゃない。あの子の部屋には、鬼の呪術である筈の音響結界が張られていた。
俺の魔化魍を閉じ込める物とは違う、魔を寄せ付けない強固な結界。
あの部屋は一種の聖域だ。並の魔化魍なら触れることすら難しいだろう。
目を閉じる。
まだ耳に残っている、ひとりちゃんに聞かせてもらったギターの音色を思い出す。
ただひたすらに弾き続け、鍛え続けてきたギターの音色。清めの音。
あの子は独学で、しかも普通のギターで清めの音を鳴らすまでに至り、己の体に溜め込んだ邪気を清め、強固な結界で魔を惹き寄せない環境を作り上げていた。
部屋に引き篭ってギターを弾き続ける限り、ひとりちゃんは魔化魍を惹き付ける事も、魔化魍と化す事も無い。
「……………………」
でも、それで良いんだろうか。
瞼の裏に、STARRYでバイトしているひとりちゃんが浮かぶ。
今日の、自分から頑張って話しかけてきたひとりちゃんが浮かぶ。
変わろうとしているあの子に、「引き篭ってギター弾いてろ」なんて言えるわけがない。
「どうするべきかなぁ……」
「どったの〜?」
「あ、きくり。おはよう」
「おはよ〜って、もう夜じゃん」
「夜だねぇ」
ソファの隣にきくりが座る。
とん、と右肩に頭が預けられた。
「なーんか悩んでる?」
「まあね。とある若者の未来について考えてた」
「鬼の話?」
「ん」
「弟子にするの?」
「え?」
弟子? ひとりちゃんを?
「そーゆー話じゃないの?」
「いや……あ、そっか」
そうだ。弟子にしちゃえば良いんだ。
既に邪気を溜め込む点は克服出来てるんだし、近くに鬼がいれば寄ってくる魔化魍から守れる。ひとりちゃん自身が魔化魍を撃退出来るようになれば言う事無しだ。
何よりもあの音撃の才能をそのままにするのは勿体無い。
「やっぱり、きくりは天才だ」
「えっへへ〜でっしょ〜?」
よしよしときくりの頭を撫でる。
脂でベタついていた。
「…………昨日、お風呂入った?」
「お? そういや入ってないかも」
「まったく、きくりはしょうがないなぁ。お風呂入ろっか。髪洗ったげる」
「へ〜い」
【
鬼遣らい。追儺とも書く。
節分の豆まきのこと。
後藤ひとり
魔化魍ホイホイな上に自分も魔化魍になる可能性のあるやべーやつ。
それを無自覚である程度克服してたさらにやべーやつ。
輪郭がブレたり顔のパーツが飛んだりツチノコになったり胞子になったりするのはきっと体質のせい。
鬼の関係者から見たら健康に生きてるのが奇跡みたいな存在。生きてて偉い。
タツマキ
ぼっちちゃん鬼の弟子化計画を企ててる人。
あの部屋にはちゃんと引いたけどそれよりもヤバい後藤ひとりのせいで部屋どころでなくなった。
廣井きくり
アパート追い出されてタツマキさん家の居候になった人。
丸二日ほど風呂に入ってない。