艦隊これくしょん the last aegis 作:明日をユメミル
朝食を終え、訓練のための諸々の準備のため工廠には訓練に参加する艦娘達が集まっていた。
午前中は駆逐艦が訓練を行う事になっているため、工廠に集まっていたのはほぼ全員が駆逐艦級の艦娘達だった。
(案の定、注目の的だな)
その中で異質とも言えるクリスは工廠の中で淡々と艤装の準備を行っている中、多くの艦娘達から注目されている。
「何やってるんだろう?なんか凄い集中してるけど」
「予習とか?」
「ギリギリまで勉強熱心だね」
端から見たら勉強熱心に見えるクリスは今、
イージス艦のコンピューターは非常に高性能だが、その分メンテナンスや調整作業が必要で、これを怠ると精度が落ちてしまう。
特にアーレイ・バーク級には艦隊防空の他にも様々な任務が付与されているため、より高度な調整が必須となる。
「艦長、システムにアクセス完了。調整作業に入ります。終了予定は30分後」
「了解」
コンピューター調整担当の妖精がクリスの艤装から引き出されたコードをPCに繋ぎ、システムの調整に入った。
「艦長、こちらも弾薬補給作業開始します」
武器担当の妖精達はMk45の砲身の掃除とMk15ファランクスの弾倉へ機関砲弾の補充作業を行う。
その間のクリスは、自身の相棒とも言えるくらいに手に馴染んでいるボルトアクション狙撃銃の手入れを行う。
「…………」
徹底的なカスタマイズが施されたその銃には大型のスコープが装着されており、マガジンには普通のライフル弾よりも遥かに大きい実包が装填されており、その威力の高さが伺える。
「大きい銃だね」
そこへ時雨が話し掛けてきた。
「俺にとっては相棒同然さ」
「でもこの大きさと長さだと使いにくくないかい?」
「まぁな。でも状況によっては強力な武器になる」
「今日の訓練に使う気?」
「まぁな」
クリスは余程自信があるのか、余裕の表情を浮かべる。
そして課業開始時間である午前10時となり、駆逐艦級の艦娘達が射撃場がある岸壁にやって来ていた。
駆逐艦の面々はそれぞれのグループに分かれ、グループ毎に教官役の巡洋艦級の艦娘が1人ついている。
「今回の訓練は射撃を中心だけど、移動目標に対する命中精度を見させて貰うわよ」
クリスが配されたグループの指導役の巡洋艦『足柄』が皆にそう説明する。
「じゃあ今日最初のトップバッターは……クリス!」
足柄は真っ先にクリスを指名する。
「了解」
艤装を装備し海上に出ると射撃位置に就く。
「先ずは基本的な射撃の精度を見させて貰うわ」
「照準はマニュアルか?それともオートか?」
「そうね………取り敢えず両方やってもらうわ」
「了解」
そう返すと、クリスは左足のホルスターから下部にピストルグリップとトリガーが付いたMk45mod4を両手で構える。
同時に海上に浮いていた6つの標的が移動を開始した。
「単純な横方向への移動か………簡単だな」
そう呟くとクリスは射撃モードをマニュアルに切り替え、トリガーを引いた。5インチ砲弾が1発放たれると、空薬莢が排出される。
「命中!」
砲弾は狂いもなく標的の真ん中を撃ち抜いた。
そこから各標的に向けて1発ずつ発射し、全ての標的を撃ち抜いた。
「簡単だな。あんな単純な動きだと予測射撃で充分だな」
「成る程………貴方にとっては小手調べな訳ね。良いわ!少し難易度を上げてあげる!」
足柄は標的の動きの設定を変更する。
すると、単純に左右に纏まって動いていた標的がその場でバラバラに動き始める。
「成る程……」
それに対しても特に慌てる様子を見せる事なく、目標の動きに合わせてクリス自身も動き出す。両足の推進装置であるガスタービンエンジンが金切り音をあげながらスクリューを回し強力な推進力を与える。加速したクリスは両足の推進装置に備えられているオートバランサーで体を安定させ、Mk45を各標的に1発ずつ発射する。そして難なく全てを破壊した。
「やるわね………じゃあこれはどうかしら?」
今度は標的の速度が上がり、より狙いにくくなった。
「今度はマニュアルじゃ難しいか………」
今まで手動にして射撃をしていたMk45にAN/SPS-67(V)3対水上レーダーをリンクさせる。
「fire!」
レーダーとリンクしたMk45のステルス形状の砲塔が標的に向けて砲身を上下させ、クリスが引き金を引く度に標的が破壊されていく。
「ふぅ」
瞬く間に標的を破壊するクリス。
「……………」
「足柄、もう少し難易度を上げてくれ」
「えぇ」
足柄は更に高難易度に設定した。
すると標的の速度が更に上がると同時に上下にジャンプしたり、急停止し始めたり、そこから更に加速して回避しようとするなどの複雑な動きを見せた。それに加えてペイント弾を打ち上げたりするなどの、本格的な実戦のような動きに変わる。
「これは面白そうだ!」
ようやく本気を出せそうだと思うクリスはガスタービンの出力を上げ、より強力な推進力を産み出させる。
「ふんっ!」
ガスタービンエンジンのパワーと優秀なスタビライザーの恩恵によりクリスの身体はブレる事なく標的を次々と確実に撃破していく。
「まぁこんなものだな」
弾切れのMk45をガンスピンしながらホルスターへ戻す。
「「「「おぉ~」」」」
一連の動きを見ていた同じグループの駆逐艦達は感嘆する。
「驚いた……夕立以外にあれだけの動きや射撃が出来るなんてね」
同じグループに居た時雨も驚いている様子だった。
「夕立……あぁ昨日の」
昨日、射撃訓練で銃の調整をした艦娘の事を思い出す。
「そう言えばグレと服が一緒だな」
「妹だよ。昨日、夕立がクリスの事を凄いって話してたよ」
「どんな事を話してた?」
「色々だよ………」
時雨は遠い目で明後日の方向を見る。
「と言う事は、尾ひれが8割と言った所か」
「多分ね………」
どんな事を話されたのかは考えないようにする。
「さて、俺の出番は終わりか?」
「えぇ……じゃあそこで休んでて。次っ!」
クリスに続き時雨や他の駆逐艦達も訓練に入ったが、正直クリスの動きや射撃の腕前に圧倒されたのか、あまり表情が優れない様子であった。
そして射撃訓練が終わり、次のプログラムである対空射撃訓練に移る。
「次は対空射撃訓練よ!先ずは単独行動中に航空攻撃を受けた事を想定したプログラムよ。今度は時雨が先行!」
最初に指名された時雨は海上に立つと上空を飛行している、黄色に塗装された無人標的機を見上げる。
「行くよ!」
そう言うとその場で時雨は加速する。標的機は時雨に向けて降下してくる。
「急降下爆撃だね!回避!」
標的機の動きから、急降下爆撃だと判断し回避行動に入った。
時雨の予想通り、標的機は時雨に向けて急降下で爆弾を投下して引き起こしを掛ける。投下された5発の模擬爆弾は海面に着水すると赤い塗料を撒き散らす。
「ふっ!」
時雨は爆弾を巧みに回避し塗料を浴びないようにする。
「対空戦闘!」
引き起こしを掛けて上昇している急降下爆撃機を無視すると、左からやってくる魚雷投下直前の雷撃機に向けて機銃による迎撃を実行する。
弾幕射撃に曝された3機の雷撃機は墜落した。
「やるな」
時雨の動きにクリスは感嘆する。その動きから彼女が相当な手練れだと推測する。
そして時雨の訓練が終わり岸壁に上がってきた。
「中々の腕だな」
「まだまださ」
「そんな事はない。回避のタイミングと判断の早さは凄かったと思う」
「ありがとう」
次にクリスの番がやって来る。岸壁から海上に出ると、直ぐに訓練が始まった。
「レーダーコンタクト」
AN/SPY-6(V)1レーダーが標的機を捉えた。HUDに表示されている標的機の数は30機、超音速ミサイルや弾道ミサイルも迎撃可能なイージスシステムからすればプロペラ機の標的機は止まっているハエに近い。
「レーダーロック、SM-6スタンバイ!」
スタンダードSM-2ミサイルの後継として開発されたスタンダードSM-6ミサイルは多数の目標に対して同時対処能力が高く、SM-2ではミサイル誘導用にイルミネーターレーダーを使用していたが、SM-6はAIM-120アムラームの誘導システムを改良したものが搭載されているため、セミアクティブホーミングとアクティブホーミングの2つの誘導モードにより自艦による誘導の必要が殆どない。
しかもSM-6は爆破破砕弾頭と呼ばれる、所謂破片を撒き散らして複数の目標を破壊するため今回のようなシチュエーションにはもってこいのミサイルだった。
「SM-6、fire!」
Mk45VLSから4発のSM-6が噴射炎を吐き出しながら一斉射で放たれた。
続く
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