艦隊これくしょん the last aegis 作:明日をユメミル
伊168と伊8の動きを逐一監視しているホワイトシャークからの情報によりクリスは2人に対する攻撃のタイミングを考えていた。
「やっぱり不安なの?」
白露がそう声を掛けてくる。
「あぁ。どうにも背中がむず痒くてな………」
「どうするんだい?」
「考えはある。皆、速度を10ノットまで落としてくれ。それと、何時でも攻撃できるように準備だ」
船と言うのは航行中はやはり雑音が発生する。それを減らすには速度を落とすか停止させる必要がある。曳航式ソナーのパッシブモードの能力を生かすには雑音は邪魔になるためクリスは速度を落とすように指示し、皆は速度を徐々に落としていく。
「…………」
ソナーと連動しているヘッドセットから耳に入ってくる音を集中しながら聞き分ける。
「ん?」
ふと、一瞬だけであったがスクリューが回転した時に起きるバッフルズのような音がほんの僅かだが聞こえてきた。
「皆、やっぱり予想は当たってたみたいだ」
親指で後ろを指差し、後方に敵潜が潜んでいる事を示す。
「どうするんだい?攻撃する?」
「慌てるなグレ。2目標への同時攻撃をする」
クリスはMk32短魚雷発射管を後方に向ける。
「皆、ピンをを打つ。俺が合図したら機関出力最大で速度を上げろ」
「了解」
「分かった」
「はい」
クリスは伊8と伊168を監視しているホワイトシャークに攻撃準備の指示を送り、バウソナーをアクティブモードに変えて、ピンガーを打つ準備とMk54短魚雷への諸元入力を開始する。
「行くぞ。5、4、3、2、1!」
5秒のカウントの後、ピンガーを最大出力で放つ。
そして直ぐに反応が返ってきた。
「捕捉した!全艦、機関出力最大!!」
合図で時雨、春雨、白露、最上は出力を上げて速度を上げる。クリスも曳航式ソナーを切り離し、攻撃準備を整える。
「fire!」
Mk32短魚雷発射管から3本のMk54短魚雷が空気圧の力で押し出され海面に着水。同時に目標が居る方向へ向けて突き進んでいく。
「取り舵一杯!」
魚雷を撃ち終わると、直ぐに回避航行で魚雷攻撃に備える。
「各艦、見張を厳重に!」
突然の動きに、後ろから攻撃の機会を伺っていた伊13と伊14は驚いた。
「探信音!?気付かれた!」
「13、どうする!」
「急速潜航!」
2人は爆雷攻撃に備えて深深度へ逃れるため一気に潜航を始める。
しかし潜航開始の直前にクリスがMk54を放っており、Mk54は弾頭部のアクティブソナーによる捜索モードで探信音を放ちながら2人へ迫る。
「魚雷が追いかけてくる!?」
自身を追いかけてくる魚雷に驚きながらも、必死に潜航を続ける2人。しかし、原子力潜水艦への攻撃を想定したMk54の速度は2人の潜航速度を遥かに上回っており、最早逃げられる術はなかった。
「やられる!」
「14!」
直後、3本の水柱が海上に上がった。
その頃、伊168と伊8は船団の進路上に展開し船団に対して右側から攻撃出来る位置に就いていた。
「そろそろ見える頃だけど」
水中から船団のエンジンとスクリュー音に聞き耳を立てながら、何時でも魚雷を撃てるように準備する。
チャボン!チャボン!
その時、2人の頭上で何かが落ちてきたような音が聞こえてきた。
「何っ!?」
上を見ると、2本の魚雷が向かってくるのが見えた。
「魚雷!?8、急速潜航よ!!」
「りょ~か~い!」
2人は急いで潜航を開始する。
しかし2人が潜航を開始したと同時に、Mk50魚雷は2人を捕捉しており、高速で迫ってくる。
「あ」
「やられたね……」
直後、海中に2回の爆発が起き、海上に2本の水柱が上がった。
「こちらホワイトシャーク、海上に爆発を確認。これより戦果確認を実施する」
低空を飛行していたホワイトシャークは水柱が収まるのを待ってから戦果確認を行う。
「目標、急速浮上中の模様。今浮上します」
海面に伊168と伊8が浮き上がってきた。
「あぁ~………あれにやられたっぽいね」
伊8はホバリングしているホワイトシャークを見上げて、敗因を知った。
「悔しいな………まぁでも良い経験にはなったね」
伊168は自称『海のスナイパー』と言うだけあって今回の訓練も良い結果に持ち込めるか期待していただけに、悔しさがあったが、今回の敗北は良い経験になったと割り切り敗北を認めた。
「哨戒機が2隻を撃沈した。此処に居る2人を含めて4人から撃沈判定を取れたな」
既に撃沈判定を受けていた伊13と14の2人は、心底悔しそうな感じであった。
徹夜で考えた戦術をあっさり見抜かれて、尚且つ攻撃する間も無く撃沈判定を取られては悔しがるなと言うのが無理な話である。
「えぇと、伊13と伊14で良かったかな?」
「うん……」
「君たちがダクトに居て、そこから俺たちを監視してたのは見事だった。あそこならソナーの探知能力が落ちるからな」
「えぇ。それを知ってたから、行けるかなとおもったんだけど」
「攻撃するタイミングが少し遅すぎたな。今度からは攻撃するタイミングには注意しろよ」
クリスは伊13と14にそうアドバイスをする。
「さて、判定はどうかな?」
訓練を監督していた足柄達はクリスの戦闘能力に舌を巻いていた。
「成る程。対空戦闘特化だと思っていたが、私達の予想が外れたみたいだ」
「そうね。正直、艤装の性能に助けられてるだけかもと思ってたけど、全然そんな事はなかったわね」
「はい。先程の魚雷攻撃と回避のタイミング、攻撃指揮ともに優秀でした」
那智、足柄、羽黒の3人は改めてクリスが只者ではない事を思い知った。
そして午後の訓練も消化しきったため、夕方にはすべての訓練が終了した。
「お疲れ様ー!!」
訓練を終えて艤装を工廠へ戻した後、駆逐艦達は宿舎に戻るなり、自主練をするなりして各々過ごしている中、クリス、時雨、白露、春雨の4人はクリスの部屋に集まっていた。
「いやー、今日の訓練は最高だったね!良いものが見えたよ」
「本当に……クリスって凄いんだね」
「どうしたらそんなに強くなれるんですか?」
白露型3人の質問に缶コーラを片手にピザを食べているクリス。
「練習だな。何事も練習や訓練の積み重ねさ」
「ありきたりだね~……もっと他に秘訣とか無いの?」
「強いて言うならイメトレだな。自分の装備の性能を把握して、頭の中で徹底的にシミュレートする、これが一番だ」
「一番なら私でも出来そう!今日から私もイメトレしてみようかな?」
一番にこだわりを持つ白露は一番という言葉に反応し、自分も同じようにイメトレをしてみようかと本気で考える。
そんな会話で盛り上がる中、クリスは物思いに耽っていた。
(こんな感じ………悪くないな)
人間のような姿となり、尚且つ記憶もない彼にとって、この時間はとても有意義に感じていた。
(なんだか懐かしい……)
こう言う交流をした記憶が無い筈のクリスには何故か懐かしい感情を抱く。
(前にもあったような………)
続く
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