艦隊これくしょん the last aegis   作:明日をユメミル

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第28話

時系列はクリスが第6駆逐隊との船団護衛任務を終え、横須賀へ帰還した日まで遡る。

 

 

日本から南へ約4800キロ遠く離れた東南アジア某国にある小さな小島がある。某国から更に南に位置するその島は地図では豆粒サイズで名前も記載されておらず、しかも人が住んでいる形跡が殆ど無い。まさに無人島と言っても差し支えないその島には、一般には知られていないが大勢の人間が住んでいる。

島は小さいながらアマゾンのような深い森林があり、その中の僅かな開けた土地に、この島に遥か昔から住む部族達が居た。

 

 

「族長!」

 

 

その部族達が住んでい唯一の村、名前は無いが、多くの家屋が軒を連ねる村の奥にある一際大きな家に1人の青年が駆け込んできた。

 

 

「どうした、我が息子よ」

 

「アリーが漁から帰ってきたよ!」

 

「そうか」

 

 

部族の長である族長は自分の息子の言葉に座っていた椅子から立ち上がり家から外へ出た。

族長と息子の目の前には、この村の人間とは違う白い肌に黒髪、そしてこの村では先ず着ている者も居らず誰も知る筈の無い黒一色のダイビングウェットスーツに身を包み、体を包み込むようなデザインの機械を身に付けた男が立っていた。男の片手には縄で束ねた大量の魚を持っている。

 

 

「族長、魚、持ってきた」

 

「うむ。客人よ、恩に切るぞ」

 

「気にしない、俺、客、恩を返す、当然の事」

 

 

何やら覚束ない喋り方をする男は族長に魚を手渡す。

 

 

「しかし客人よ。貴様がこの村にやって来て早くも1ヶ月が経とうとしている。お主にも家族や友人が居ろうに……」

 

「心配、要らない。俺、家族、友達、誰も居ない」

 

「そうなのか?では行く宛が無いのならこの村の民にならぬか?」

 

「俺、此処の民に?」

 

「そうだ。我々の言葉も喋れるようになり、我々の文化についても快く受け入れてくれている。それに、この村伝統の漁に関しては天性とも言える才能をもっておる。この村に住む資格は充分にある」

 

 

族長の提案に男は腕を組んで考える。

 

 

「心配は要らぬ。この話は村にある各家の長からも了解は得ている。後はお客人が一言、我々の民になると言えば我々は諸手をあげて歓迎するぞ」

 

「…………………………」

 

「どうした?」

 

「族長、俺、此処に帰ってくる前、北の悪魔の棲家の近く通った」

 

「なんと!?あの悪魔共の棲家の近くを通ったじゃと!?何故そのような所に」

 

「此処から北にずっと上がった場所、魚、沢山居た。皆に魚、持って帰ろうと思って、行った」

 

「そんな無茶な事を………しかし、何かあったのか?」

 

 

族長は彼の表情から、何かを感じ取った。

 

 

「何かを見たのか?」

 

「……………見た」

 

「何を?」

 

「俺の仲間」

 

「仲間………しかしお主は仲間など居らぬ筈では?」

 

「俺、別の国から来た。その国の仲間、悪魔の棲家を攻撃するの見た」

 

「とすると、同郷の者が悪魔と戦っていたのを見たと言う事か……」

 

「族長、俺、それに会いに行く。友達、戦ってるのを、見捨てられない」

 

 

その言葉に族長の幼い息子が彼に飛び付く。

 

 

「やだ!行かないで!」

 

「我が息子よ。やめぬか」

 

「せっかく仲良くなったのに……魚の捕り方や潜り方も教えてくれたのに、居なくなっちゃうなんて」

 

 

息子は彼の事をまるで実の兄のように慕っている様子で、彼を引き留める。

 

 

「居なくはならない」

 

「?」

 

「俺、此処が好き。余所者の俺、皆、見捨てなかった。俺もお前の事、弟、思ってる」

 

「だったら」

 

「でも、俺、大切な友達、見捨てたり、放っておく事、できない。お前も、そうだろう?」

 

 

彼の言葉に息子は静かになる。

 

 

「族長、俺、皆に感謝してる。だから、また此処に、必ず戻ってくる。だから………」

 

 

族長は彼の目を見る。族長は部族を率いる立場の人間であり人を見る目は誰よりもある。特に目を見れば、その人の決意や考えを読み取れる。

族長は彼の目を見て、決心は物凄く固く、そして友を思う心が本物だと理解する。

 

 

「そうか……なら行くがよい」

 

「族長、ありがとう」

 

「なに、お主はもうこの村の人間じゃ。此処がお主にとってのもう1つの故郷として思っててくれるならワシは何も言わん。しかし、これだけは覚えててくれ」

 

「?」

 

「決して命を投げ捨てるような事はするな、生きてこの村へと帰ってこい……」

 

 

族長の言葉に彼は黙り、そして頭を下げる。

 

 

「今日の夜、此処を出る」

 

「そうか。では村の人間の門出を祝い、今から村を挙げて祝いの儀じゃ!」

 

 

 

その日の夕方より村では彼を送り出すための儀式が開かれ、村人達は伝統儀式に習って彼の幸福を願いながら、深夜まで続いた。

 

 

 

そして…………

 

 

「族長、俺、行くよ」

 

「あぁ」

 

 

島の北にある砂浜にやって来ていた彼と、それを見送る村人。

 

 

「さようなら」

 

 

そう言うと彼は黒一色のゴム板が張り巡らされた機械を身に纏い、ゴーグルを着けて、潜望鏡のような形のシュノーケルから伸びるレギュレータを口に咥えると、ゆっくりと海へと入っていき、暗闇の海中へ潜っていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(さて、久々の機関始動だ。炉心が正常だと良いんだが)

 

 

体全体が完全に海に潜ると同時に彼はある事を始める。

 

 

(機関始動!)

 

 

そう念じると、彼が背中に背負っている機械から唸るような音が聞こえ、徐々に音が上がっていき、やがて静かになる。

 

 

(炉心内加圧正常!各動力、各兵装、システム、全て問題なし!オールグリーンだ!!)

 

 

全てのチェックを終えると、一瞬だけ目を閉じ、そして目を大きく見開く。

 

 

(SSN-812 "アリゲーターガー"、出港する!)

 

 

背中の機械の中から後ろ向きに装着されている7枚羽根のスクリューが回り出すと、水中に浮いている彼『アリゲーターガー』の身体がゆっくり動き出す。

 

 

(ダウントリム10、深度100、針路北へ微速前進)

 

 

アリゲーターガーはそのままゆっくりと海中へ姿を消していった。

 

 

(待ってろよ………兄弟!)

 

 

 

 

 

続く




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