艦隊これくしょん the last aegis   作:明日をユメミル

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第70話

本格的に稼働を開始した父島鎮守府は来るべき反抗作戦に於いては重要な立ち位置となる。そのためにこの鎮守府に所属している父島分遣隊には日々の訓練が欠かせない。

 

 

 

父島の北にある演習海域では父島分遣隊が訓練を行っていた。

 

 

 

「fire!」

 

 

クリスはESSMを打ち上げて標的機を次々と撃ち落としていく。

先の小笠原諸島奪還作戦で手痛い損傷を受けたクリスは、あれから戦術の見直し等を行い、その戦術の有用性を試すため標的機を使い当時とほぼ同じ状況を作り上げ、万が一の事態を想定した訓練を行っていた。

 

 

「左舷に敵水雷戦隊発見!白露、クリスを援護するよ!」

 

「了解ぃ!」

 

 

クリスとタッグを組んでいる白露と時雨はクリスを守るように展開する。

イ級とロ級を再現した小型無人艇に向けて白露と時雨は左右に分かれ、側面に回り込む。

 

 

「魚雷斉射!」

 

 

2人はほぼ同時に魚雷を放ち、14隻の無人艇のうち半分の7隻を仕留めた。

 

 

「次、砲雷撃戦!」

 

「新装備の力、見せてあげる!」

 

 

魚雷を使い果たすと、今度は砲撃を仕掛ける。

今回2人は新たに開発された新型の127ミリ単装速射砲を装備しており、単装砲ではあるが自動装填装置により従来の連装砲よりも高い発射レートを誇り、新開発の射撃管制装置との組み合わせによる命中精度向上、砲身の冷却に水冷式を採用した事により加熱による砲身損傷のリスクを減らしているのが特徴である。

欠点として自動装填装置の構造の複雑さから来る整備性の悪さと、発射速度向上による弾薬庫の拡大による重量増加が欠点だが実戦経験と充分な訓練を受けている艦娘なら大した欠点にはならない。

 

 

 

「撃て!」

 

 

クリスのMk45と同じピストル型となっている速射砲のグリップを握りトリガーに指を掛けると、トリガーに内蔵されたセンサーが射撃管制装置を起動させる。砲は射撃管制装置との連動で完全自動式砲となっているため時雨と白露はただ引き金を引けばよく、放たれた砲弾は無人艇に1発で命中した。

 

 

「次!」

 

 

発射速度の向上に加えて射撃管制装置による自動照準により砲撃してからの照準の修正に掛ける手間が省かれた事により無人艇は次々と破壊されていく。

 

 

 

「便利だねこれ!いちいち修正しなくて良いから!」

 

 

白露は速射砲の性能に大いに満足している様子で、時雨は口にはあまり出さないが内心は白露と同意であった。

 

 

「それに、この新型エンジンも凄いね!ボイラーみたいに全然もたつかないから!」

 

「ちょっとうるさいけどね」

 

 

 

艦娘には基本的が両足に履いている靴には動力となる主機関と推進力を生み出すスクリューが一体となった航行ユニットが外付けで装備されている。今回2人は武器だけではなく、その航行ユニットも新型の物に交換されていた。

動力である主機関は基本的には重油を燃料とするボイラーエンジンが使用されているが、新型にはより小型で軽量なガスタービンエンジンが採用されている。ガスタービンエンジンはボイラーに比べて即応性が高く半日前から蒸気圧を上げるための作業を必要とせず、また使える燃料は灯油と軽油とLNG等と幅も広い。そして高出力のため加速力にも優れているのが特徴である。

これらガスタービンエンジンの恩恵により白露と時雨は以前より早い動きによる機動戦術が取れるようになっており、前述の速射砲と射撃管制装置を含めた大改装により最早、白露型どころかそれ以上の高性能艦にパワーアップしている。

 

 

これらの技術はクリスが提供した技術が大いに役立っており、その技術を見事に実現させた明石や妖精達の努力の結晶と言っても過言ではなく、これらの技術による大改装を受けた2人はその能力を遺憾なく発揮し、当初の予定よりも一時間早く演習を終わらせてしまった。

 

 

「ふぅ……凄い」

 

「本当に………クリス、どうして僕達にこんな技術を?」

 

 

技術を提供した本人であるクリスに時雨が問いかける。

 

 

「前にも言ったが、俺はたとえ世界が違っても自分がやるべき事には全力を注ぐ。そのためには多少のリスクがあっても、それを達成するための手段の構築が出来るなら情報でも技術でも何でも利用にするさ」

 

「だとしても、これだけの技術は僕達にとっては未知なんだよ」

 

「お前達なら良い事に使ってくれると俺は信じてる。俺とお前達はもう仲間だろ?」

 

 

 

クリスの言葉に時雨は笑みを浮かべ、もうそれ以上の事は聞かなかった。

 

 

 

「おいおい、俺を忘れてくれるな」

 

 

 

そこへ海中からアリゲーターガーが出てきた。

 

 

「さっき2人が使ってた魚雷だって俺のお陰で射程距離と命中精度が上がってるんだぜ」

 

 

 

アリゲーターガーは自身のMk48魚雷を見せながら言う。

 

 

 

「そうだったね。アリーもありがとう」

 

「礼なんていらねぇぜ。クリスが皆を信じてるみたいに俺も皆を信じてるぜ」

 

 

 

そう言いながらアリゲーターガーは笑みを浮かべる。

 

 

「さて、此処までは順調だ。後は何処まで実戦で通用するかだが」

 

「そんなアナタ達にピッタリの任務があるわよ」

 

 

そこへ、訓練を監督していた伊勢がやって来た。

 

 

「どう言う事だ?」

 

「明日、イギリスからウチへお客様を出迎えるの」

 

「お客様?」

 

「誰が来るの?」

 

「アメリカ海軍第7艦隊直属の戦艦アイオワ、空母ホーネットね」

 

 

その名前を聞いてクリスとアリゲーターガーの表情が変わった。

 

 

(よりによってアメリカからか)

 

(おいおい………)

 

 

いきなり大問題に当たってしまった2人。

 

 

「どうしたの?」

 

 

2人の様子に伊勢は疑問符を浮かべる。

2人の表情を見て何かを察した時雨は「訓練で疲れてるんだよ。僕が2人を寮まで送るよ」と2人の背中を押すようにその場を後にする。

暫く歩いて、普段は誰も居ない寮の裏庭にやって来ると、2人は頭を抱えた。

 

 

「おいクリス、マジでどうするんだ?」

 

「参ったな。まさかこんなに早く………」

 

 

2人の境遇と秘密を知っている時雨は掛ける声が見つからず心配そうな加尾で2人を見つめるしかない。

 

 

「俺たちの存在はこの世界には殆ど知られてないんだ……もしこの世界のアメリカが俺たちの存在を知ったら」

 

「考えたくは無いが………同じ合衆国でもこの世界の合衆国は敵で無ければ味方でもない。どんな手を使ってくるか分からん」

 

「今からでも取り消しなんて出来ないよな」

 

「無理だろ。恐らく政治的な問題も絡んでるから俺たちがどうこう言った処で何もできん」

 

 

2人は対策が思い付かなかった。

 

 

「しょうがない………長門に連絡をとってみるか?」

 

「だな。俺たちの処遇は長門に一任してるからな」

 

「でも連絡なんてどうやってとるの?鎮守府へ連絡するなら秘匿無線か何かを使わないと」

 

 

時雨の指摘にクリスは工廠へと向かった。

 

 

「これを使う」

 

 

 

擬装の中から通信端末を取り出した。

 

 

 

「無線機?」

 

「衛星無線機、まぁ自動車電話みたいなものだ。暗号化されてるから解読される事はない」

 

 

 

そう言うとクリスは端末のボタンを操作して周波数を合わせるとコールを鳴らし、ヘッドセットの片方を右耳に当てる。

 

 

『私だ』

 

 

ヘッドセットから長門の声が聞こえてきた。

 

 

「俺だ。どうして無線でアンタに話し掛けたか分かるか?」

 

『あぁ。アメリカからのお客様の件だろう?』

 

「そうだ。どういう言う事なんだ?」

 

『すまない。私も提督に上申して国防省に掛け合ったんだが、どうやら高度な政治判断らしくて受け入れられなかったんだ』

 

「やっぱりか……で、何故今さらアメリカから?」

 

『それは分からない。特に米国との作戦がある訳では無いし、ましてやこっちがアメリカから目を付けられる様な事はしていない筈だが』

 

 

長門の話からクリスはある考えが浮かんだ。

 

 

「もしかして俺たちの存在を此の世界の合衆国が察知している?」

 

『有り得るな。私が言うのもアレだが、アメリカはこう言う事に関しては地獄耳だからな』

 

「こればかりは俺も同意だ。我が故郷ながら恐ろしい………話は戻るが、今回派遣されてくる2人の艦娘の目的は俺に関する情報収集だろう。どんな手を使ってくるか分からない。長門、アイオワとホーネットに関する情報をくれないか?」

 

『勿論だ。少し待っててくれ』

 

 

それから数分の後、長門はアイオワとホーネットに関する情報を全て話した。

 

 

「成る程……事の発端はアイオワか」

 

 

長門から教えられたアイオワことアイオワ級戦艦1番艦『アイオワ』は此の世界のアメリカ海軍に於ける象徴の1つに数えられており、艦娘でありながら大佐の階級を持ち、しかも上院や下院に国防総省とCIAに至るまで幅広い人脈とパイプを持っているとの事だった。

 

 

「こりゃとんでもない大物だ。大統領すら動かせる実力を持ってやがる」

 

 

アリゲーターガーはアイオワの経歴に驚く。

 

 

『アイオワだけじゃない、彼女の補佐に就いているホーネットも中々だ。スタンフォード大学を首席で卒業した後に合衆国海軍に志願した制服組からの叩き上げだ。シルバースターやバトルスタークロスを何個を獲得、アイオワと共に様々な軍事作戦に参加している強者だ』

 

「まさに英雄だな」

 

『おまけにアメリカの軍事関連企業や不動産、資産家、FBIや地元の州警察とも太いパイプを持っているらしい。そっちの言葉で言うならパーフェクトウーマンと言った処か?』

 

「違いない。2人揃ってまるで大統領だな」

 

『2人ともあまり政治に興味が無いらしいがな。私も2人とは友人だが性格的に悪どい事はしないだろうから、そう警戒する事は無いと思うが……』

 

「それでも、一応警戒しておく」

 

『分かった』

 

 

通話を終えてヘッドセットを外して艤装に端末を仕舞い込む。

 

 

「聞いての通りだ。取り敢えず警戒はしておく必要があるな」

 

「あぁ。俺たちの艤装は取り敢えず24時間態勢で警戒に就かせよう」

 

 

クリスとアリゲーターガーは自身の妖精に警戒を指示し、24時間態勢での警備を開始し、2人も身の回りの物に関しては最低限の物以外は部屋から艤装内に移す等、徹底して防諜対策を取った。

 

 

 

 

此処で時系列は数日程、遡る。

 

 

 

アメリカの東海岸にあるバージニア州ノーフォークにある合衆国海軍ノーフォーク基地内の艦娘の運用を行う部署のオフィスの一角では……

 

 

「admiral、来週日本に行くから」

 

 

合衆国の国旗がデザインされたニーソックスに金髪で長身の艦娘『アイオワ』は自身の上司にいきなりそう言い放つ。

 

 

「なんだ急に?」

 

「実はねMeの友達が面白い話を持ってきてくれてね、それを見に行きたいからなの」

 

「またラングレー友達か?」

 

「今回はDEAの友達よ。詳しい事はadmiralでもちょっと言えないけど、興味が沸いちゃってね」

 

「日本に行くのは構わんが、くれぐれも無茶な事はするなよ。お前は我が国の英雄の一人なんだから」

 

「OK。じゃあね」

 

 

アイオワはオフィスから出ると、先程よりも明るい表情に変わった。

 

 

「クリス・カイルとアリゲーターガー…………バミューダトライアングルでの最大の神隠し………楽しみね」

 

 

 

 

続く




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