艦隊これくしょん the last aegis   作:明日をユメミル

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第89話

潜入路と脱出路の確保に成功したクリスとアリゲーターガーの2人は、鎮守府への潜入に備えて準備を行っていた。

 

 

「潜入は公園裏のマンホールから行う。下水道から鎮守府内の倉庫へと出るルートだ」

 

 

拠点を構えてから一週間、2人は鎮守府への潜入と脱出ルートの確保と、ドローンを使った偵察、そして鎮守府へ出入りする人物の調査を行い、ようやく鎮守府への潜入に漕ぎ着けた。

 

 

「向こうが地下道の事を知ってるって可能性は?」

 

「その可能性は低いだろう。この前、ドローンを使って倉庫の周りの人の動きを調べてみたんだが、出口になってる倉庫は殆ど使われてないみたいだ。危険は無いだろう」

 

「じゃあいよいよ始めるのか?」

 

「あぁ。先ずは証拠を抑える事が先決だ。向こうが言い逃れ出来ないような確実な証拠がな。それに先週、鎮守府にやってきたあのスーツの男だ」

 

 

 

クリスは京都の到着当日にスキャンイーグルが捉えた例のスーツ姿の男の画像写真と情報を長門に送っており、その日のうちに長門からその男の正体が舞鶴鎮守府の提督の父親であり、現役の代議士であると言う事が伝えられていた。

 

 

 

「厄介だな。確かこの男って、タカ派の急先鋒だろ?」

 

「あぁ。国防省と強い繋がりがあって、去年の小笠原諸島奪還やMI作戦でかなり発言力を延ばしてるらしい。この男自体は政治家や性格的に問題は無いみたいだが………」

 

「不肖の息子って奴か」

 

 

 

代議士本人は人格者で常識も兼ね備えているとの評判だが、問題はその息子である舞鶴の提督であった。

長門からもたらされた情報から、舞鶴の提督は目上の人間に対しては上っ面が良く、自分より下と判断した人間には父親の名を借りて好き放題していたらしく、異例のスピードで今の役職に就いたのもそれが大きく影響しているらしい。

当の父親である代議士は息子のそんな姿を知ってか知らずか、息子のする事に対しては口出しや介入はしておらず、上手く言いくるめられている様子である。

 

 

 

「親バカなのかそれとも奴の口車が上手いのか……」

 

「少なくとも代議士はその事を知らないのは確実だろう。言い逃れできないような証拠さえ抑えれば……」

 

 

 

クリスは腕時計で時間を確認する。時計の針は午後23時を指している。

 

 

「時間だ」

 

「あぁ」

 

 

2人はその場で立ち上がると、潜入に必要な物を詰めたバックパックを背負い、廃工場から出ると、潜入路の入り口となる公園へと移動する。

徒歩数分の距離にある公園にたどり着くと、叢を掻き分けてマンホールの蓋を見つけると、錆ついて普通なら中々開ける事が出来ない蓋を人間を上回る筋力を持つ艦娘(艦息?)のパワーにより、僅かに力をかけただけで開いた。

 

 

「かなり深そうだな。それに暗い」

 

 

下を見れば真っ暗で、深夜も相まって下が全く見えない。クリスとアリゲーターガーはバックパックから潜入に使用するための装備を用意する。

ナイトビジョン付きのfastヘルメット、ベルトキットとMP7A1のマガジンが入ったチェストリグ、メインウェポンのMP7A1を取り出し、それらを手際よく装着していく。

潜入と情報収集という任務上、装備は身軽な軽装であり戦闘は殆ど想定していない装備であるが、マンホールや屋内などの狭い場所を移動するためこれ以上装備は増やせないのが現状である。

 

 

 

そんな状態の2人は梯子を伝ってマンホール内へ下りていく。

十数メートル下ると、広い下水道へとたどり着いた。

 

 

 

「酷い臭いだな……」

 

「下水道だからな。町中の下水が此処を流れてるらしい」

 

 

2人が使ってる単眼式のAN/PVS-18は両眼式のナイトビジョンに比べ視野は狭いが性能は優れており、目の前の水路を流れてる下水の流れをハッキリと視認できる。

 

 

「で、目的地の方向は?」

 

「こっちだ。行くぞ」

 

 

 

2人は鎮守府がある方向へと歩みを進めた。足元が苔でぬかるんでいる。走るのは無理なため早歩きで移動する。

 

 

「あれだ」

 

 

十数分歩くと、天井から上に昇る梯子があった。迷う事なく梯子に手と足をかけて上に昇る。そして直ぐにマンホールの蓋の真下にたどり着くと、ベルトキットのホルスターからMk27ことグロック19を取り出し、ウェポンライトを点灯させマンホールの蓋をゆっくりと持ち上げて、横にスライドさせる。

 

 

 

 

ゆっくりと頭を上げて周囲を確認する。

 

 

 

「誰も居ないな」

 

 

 

誰も居ない事を確認してマンホールから上がり、続けてアリゲーターガーも上がってきた。

2人がたどり着いたのは鎮守府内にある倉庫の中で、倉庫内には一通りの家具や電化製品等が中心であった。

 

 

 

「埃が凄いな」

 

 

床や箱に埃が堆積しており、長い期間使われていないのが分かる。

 

 

「おいクリス、これ見ろよ」

 

 

倉庫内を探索していたアリゲーターガーが何かを見つけた。どうやら倉庫の一番奥にシートが掛けられた木箱を見つけたらしく、蓋の中を指差す。

 

 

「これは!?」

 

 

中に入っていたのはジェラルミンのアタッシュケースが10個程入っており、そのうちの1個を取り出して蓋を開けると中には大量の札束が詰まっていた。

 

 

「1万円札か」

 

 

クリスはヘルメットに装着していた証拠を撮影するための小型ヘルメットカムの電源を入れて撮影を開始する。

 

 

「おい見ろよクリス」

 

 

アリゲーターが他のアタッシュケースを開けて中身をクリスに投げる。

 

 

「アメリカのドル札じゃないか」

 

「ポンド、マルク、ルーブル、フラン、ルピー、ペソ、リラにウォンまであるぞ。他にもあるぜ」

 

 

アタッシュケースから次々と出てくる世界中の紙幣にクリスは、これらが只の金ではないと直感する。

 

 

「こっちには金塊もあるぜ」

 

 

別の木箱のアタッシュケースからは金塊が詰まっていた。どれも純度が非常に高い金塊を持ち運びや保管しやすい様にインゴットに加工されている。

 

 

「どうやらこの件は裏が深いらしい。調べがいがありそうだ」

 

 

2人は取りあえずそれらを撮影しアタッシュケースに戻して、木箱の中に戻す。

 

 

「さて、どうするんだ?」

 

「先ずは倉庫から出て、手分けして証拠になりそうな物を探そう。俺は司令部がある庁舎、お前は工廠とかを探ってみてくれ」

 

「OK」

 

 

2人は鍵が空いてる窓から倉庫の外へ出ると、2手に分かれた。

クリスは事前に調べた鎮守府内の地理の記憶に従い、提督が居ると思われる本庁舎へと向かう。

 

 

無論、此処は軍基地であるため警備も厳重だが、そこも事前に下調べを行っており、ドローンによる偵察から此処の警備兵の動きは毎日ワンパターンであり、警備兵が見回りに来る時間を全て把握している。

あらゆる情報がインプットされているクリスは警備兵が来ないエリアを縫う様に動き、難なく本庁舎へとたどり着く。

 

 

「此処からだな」

 

 

流石に本庁舎の警備は厳重で、玄関口には当然警備兵や詰所が置かれている。近づくのは容易ではない。

しかし此処でもクリスは抜かりはなく、庁舎の裏手へと回り込み、警備が手薄な箇所へ移動する。

 

 

「予想通りだ」

 

 

たどり着いたのは、庁舎裏手にある小さな非常口だ。事前に入手していた庁舎の内部図では、その非常口は本庁舎内の廊下から外へ出る事が出来る。クリスはそこを侵入口として選択し非常口に設置されている誘導灯の光の中、ピッキングで鍵を解錠して扉を開けると庁舎内へ入った。

足音を立てない様にゆっくりと歩き、MP7を構えながら目的の場所である執務室へと向かう。

 

 

 

(気配を殆ど感じない)

 

 

ナイトビジョン越しに見える廊下は人の気配が少なく、そして異様な雰囲気が漂っている。

クリアリングの要領で壁伝いに移動し、階段を登り、そしてようやく目的地である執務室へとたどり着いた。

 

 

(!?)

 

 

しかし、執務室の扉が僅かに開いており、中から僅かながら気配が感じられた。

クリスはMP7からグロックへと持ち替えて、扉の前に立つと、音を立てない様にゆっくり扉を開けグロックの銃口を部屋の中に向けると同時にウェポンライトを点灯し中に居た人物に光を照らす。

 

 

「おっと、撃たないでね。敵とかじゃないから」

 

 

その言葉と共に中に居た人物の顔にクリスは見覚えがあった。

 

 

「まさか………川内なのか?」

 

 

 

其処に居たのは、クリスが横須賀鎮守府に入った日の歓迎会の時に夜戦の事について食い気味だった川内型軽巡洋艦の川内だった。

 

 

 

「当たり。覚えててくれたんだ」

 

「記憶力は良い方だからな。それよりどうして此処に?」

 

「長門と提督から密命を受けてね。2人を支援しろだってさ」

 

「そんな話、聞いてないが」

 

「だろうね。長門から情報が漏れない様に2人には内密で先に潜入してたんだ」

 

「………………そう言う事か」

 

 

クリスは此処でようやくある事に気がつく。舞鶴鎮守府の下調べの際に長門から軍事機密である筈の舞鶴鎮守府の見取り図な内部地図が既に用意されていた事と代議士についての情報が伝えられるのが異様に早かった事にほんの僅かな疑問を抱いていたのだった。

 

 

「その通り。長門から2人に与えられた情報の大半は私が調べてたヤツなんだ」

 

「驚いたな。お前の正体はNinjaか?」

 

「そこについては触れないでくれると助かるよ」

 

「分かった、もう聞くまい。それで、何か情報は掴んだのか?」

 

「まぁね。此処の提督、外じゃ上っ面良いけど、鎮守府内じゃまぁ横暴だね」

 

 

川内は懐から提督の鎮守府内に於ける所業の数々を撮影した写真を見せた。

 

 

「酷いな………」

 

 

そこには提督が艦娘に対する様々な暴力行為や人としての尊厳を踏みにじる行為などが刻名に記録されており、クリスは内心腹わたが煮えくり返る。

 

 

「特に第4駆逐隊の娘達なんて酷いモンだよ。資材収集担当なんだけど、提督が指示した量以下しか持ち帰れなかったら……」

 

「成る程、何となく分かった」

 

「まだあるよ。あの提督、瀬取りみたな事をしてるみたい」

 

 

瀬取りと聞き、クリスは嫌な予感がした。

 

 

「瀬取り……因みに何を取り引きさせてるんだ?」

 

 

川内はクリスに耳打ちする。

 

 

「金塊の取り引きだってさ」

 

「やっぱり。あの倉庫の金塊と金はそのための物か」

 

「うん。自分が乗る船を駆逐艦の娘達に守らせて、取り引きしてるみたい」

 

「たちが悪いな」

 

「言い逃れ出来ない証拠なら突っついたらもっと出てくるかも。さながら宝探しみたいだね」

 

「最悪の宝探しだな」

 

 

そう言うとクリスと川内は執務室内にある様々な証拠を探し始める。音を立てない様に机や棚の引き出しを開けて、詰まっている書類全てをカメラに納めていく。

 

 

「ねぇ、こっちに金庫があったよ」

 

 

川内が金庫を見つけた様だ。

 

 

「金庫か。何か重要な物が入ってそうだな。開けれそうか?」

 

「勿論。ダイヤルの番号はもう押さえてる」

 

 

すると川内は金庫のダイヤルを回し、あっさりと解錠した。重く分厚い扉を開けると、中には書類やら金塊やら札束やらが入っていた。

そこには金塊に関する取り引きや契約書のような物と、赤い点のような印が書かれた日本海の海図がある。共に出てきたインゴットは取り引き相手へのプレゼン用のサンプルで、紙幣は取り引きで得た金だった。

 

 

「次の取り引きの日時が書かれてる」

 

「この日付けは、明後日だな」

 

「どうする?これだけ証拠が揃ったから奴をしょっ引くのは簡単だよ」

 

「いや、下手に捕まえれば証拠隠滅をされる可能性がある。一番確実で証拠隠滅出来ない様にするには現行犯が良い」

 

「成る程。じゃあこの金の取り引き現場と此処を同時に抑えれば」

 

「あぁ」

 

 

 

 

 

 

 

続く




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