艦隊これくしょん the last aegis 作:明日をユメミル
鎮守府潜入から早くも2日が経過し、舞鶴の提督の捕縛と鎮守府制圧作戦が実行に移される日がやって来た。
既に作戦に向けて、駐屯地の制圧を担当する国防陸軍、福知山駐屯地の第7普通科連隊が宇治駐屯地で弾薬を受領の後、舞鶴鎮守府へ向けて移動している。無論、舞鶴鎮守府側に悟られないよう、有事が発生した際の緊急出動訓練と言う名目で動いている。
この他にも、舞鶴沖を航行中の海上保安庁第8管区所属の、てしお型巡視船2隻が支援のため待機しており、同じく海上保安庁航空隊のYS-11Aも現場周辺空域を警戒監視しており、万全の態勢が整えられていた。
一方で、舞鶴湾の沖合いにある「戸島」と呼ばれる島では、舞鶴鎮守府を監視しているクリス達の姿があった。
「動いたみたいだ」
深夜の2時を回る暗闇の中、ドローンを飛ばしながら舞鶴鎮守府を監視していたクリスのPCに、鎮守府の埠頭から照明も点けず密かに出港する1隻の漁船と、それに随伴する第4駆逐隊の4人の姿が映った。
「予定通りだね」
「あぁ。連中が島を通り越したら追尾するぞ」
「了解」
漁船と第4駆逐隊は低速を維持しながら舞鶴湾を航行。クリス達が潜んでいる戸島を通過していく。そして充分距離が離れたのを確認して、3人は追尾を開始した。
「気付かれた様子は無いな」
第4駆逐隊の目視とレーダー捜索圏ギリギリ外側を維持し、その行動をクリスと川内の対水上レーダーが捉え続け、レーダー波や無線通信もAN/SLQ-32電子戦装置がリアルタイムで捕捉している。
「アリーも気付かれてないみたいだな」
クリスと川内より先行して第4駆逐隊の少し後方をアリゲーターガーが音を立てる事なく張り付いている。
最新鋭のバージニア級の静粛性は元のシーウルフ級に近い性能を誇り、第4駆逐隊のソナーにアリゲーターガーのスクリュー音や航行音は捉えられていなかった。
逆にアリゲーターガーのパッシブソナーは第4駆逐隊と漁船の音を捉え、その音紋を解析して正確に聞き分けている。
追尾を開始してから一時間してから、状況が動き始めた。
「クリス、海保から連絡来たよ」
「内容は?」
「警戒機がEEZのギリギリの所で遊弋している不審船を捕捉したって」
「数は?」
「3隻。どれも大型の漁船みたい」
「武装は確認できるか?」
「ちょっと待って、聞いてみる」
川内は警戒機に確認を行う。
「ダメ。相手側に気付かれないように遠くから監視してるみたいで、確認は出来ないって」
「分かった。出たとこ勝負だな」
そう言うとクリスは再度、イージスシステムに組み込まれている火器管制システムのチェックを行い、万が一に備えて攻撃できる態勢を整える。
クリス達の後ろから着いてくる巡視船2隻も、何時でも動ける様に速度を上げた。
「よし。ここからは慎重に行動するぞ」
此処でクリスはスキャンイーグルを発進させる。
捕捉されないよう、低空飛行にて追尾をする。
右目のバイザーに表示されるスキャンイーグルからのサーモグラフィー映像には舞鶴の提督を乗せた漁船と第4駆逐隊の姿が映っている。
「そろそろだな」
間も無く、不審船が捕捉された位置に近づく。その時、電子戦装置が無線通信電波を捕捉した。
「来たか」
逆探により周波数を特定、自身の無線の周波数をそれに合わせて無線通信内容をヘッドセットで聞き耳を立てる。
「……………………日本語じゃないな。英語でも中国語でもない。これは…………ロシア語だな」
ヘッドセットから聞こえてきた無線交信は、ロシア語で行われていた。
クリスと川内はある可能性に行き着いた。
「ロシア語って事は………間違いないね」
「あぁ。ロシアンマフィアが関わっている可能性が出てきたな」
「何て言ってる?」
「所々だが……薬だとか、受け渡し量、合言葉のような事を言ってるな」
「どうする?」
「萩風からの合図を待とう」
クリスは萩風からの合図を待つ。
2日前に萩風本人にペン型の電波送信装置を手渡しているため、彼女が提督とロシアンマフィアが取り引きを行い品物を手渡した時点でその合図を送る手筈となっている。
「頼むぞ」
その頃、ロシアンマフィアと合流した舞鶴提督を守る様に展開している第4駆逐隊は、周囲を警戒しているフリをしながら視線を船の方に向けている。
「萩風、見える?」
「まだ。提督は彼等と話をしてるみたい」
艦娘は人間よりも遥かに高い視力と聴力を持っており、提督とロシアンマフィアとの会話は耳に入ってくる。
萩風はポケットに手を突っ込んだまま、ペンの蓋を何時でも外せる様にしている。
『では、約束の物を』
『……………良イ仕上ガリ。日本ノ金ノ加工技術ハ流石トシカ言イ様ガナイ』
『いえいえ。これも双方の利益のため』
『良イダロウ。デハ次ノ仕事ヲオ願イシヨウ』
片言の日本語を話すロシアンマフィアの幹部の部下が、金の鉱石が詰まった大量のドラム缶を次々と船倉から取り出して、提督の漁船に積み込んでいく。
「確認しました。また純度の高い鉱石ですな」
「我々ニハ独自ノルートガアル。コレクライ手ニ入レルノハ訳無イ」
「流石です。ではご依頼料を」
『アァ』
そう言うとマフィアの幹部の男は10個のアタッシュケースを手渡した。
提督はアタッシュケースの中を確認する。
「ちょうど1000億………確かに確認しました」
その瞬間を萩風は見逃さず、ポケットの中でペンの蓋を開けた。
「来た!行くぞ!」
ビーコンを受信したクリス達は一気に速度を上げて、現場に急行する。
その直後、萩風ら第4駆逐隊は船団を取り囲む様に動いた。
「提督!!手を上げてください!」
「な……何だ!?」
突然、砲口と魚雷を向けられた提督とロシアンマフィアは驚愕した。
「おい!何の真似だ萩風!」
「動かないでください!!動くと撃ちます!」
「今まで好き勝手してくれたなぁ!えぇっ!?提督!」
「私達はもう貴方の命令は受け付けません!」
「前の提督と皆をよくも今まで傷付けてくれたね!許さない!」
第4駆逐隊は溜まっていた思いを吐き出し、砲口を向ける。
「貴様ら!今自分達が何をしてるのか分かってるのか!俺の儲けを台無しにする気か?」
「そうです。こんな犯罪は許される事ではありません!ましてや軍人である貴方が外国の犯罪者達と手を組むなど!」
「うるさい!!今ならまだ間に合う!砲口と魚雷を下げろ!」
「聞く耳は持ちません!!貴方は私たちの尊厳や気持ちを踏みにじって……………あまつさえ物のように扱って!………私は元から」
「上官に逆らう事がどれだけ重罪なのか分かってるのか!」
提督のその言葉に萩風は大声で怒鳴る様に言い返した。
「元から貴方は私たち上官ではないんです!!私たちの上官は先代以外は有り得ません!」
萩風の意を決した言葉に提督は他の面々に視線を合わせると慌てた様子で話し掛ける。
「野分、嵐、舞風!コイツを始末しろ!急げ!これは命令だ!そうすればお前達に売り上げの半分はやる!どうだ?」
「アンタ、この状況でよくそんな事が言えるな!そんな命令とも言えない命令に従う義理はねぇ!」
「私も嵐と同感です!」
「今までの罰が当たったんだよ!この人でなし!」
最早、部下は誰も味方してくれないと悟った提督は懐からM1911を取り出すと、萩風に銃口を向ける。
「俺を裏切った事を後悔する事だな!この馬鹿者共が!」
直後、銃声が響いた。
しかし、第4駆逐隊は誰も倒れる事なく、代わりに提督が拳銃を持っていた右手から血を吹いてうめき声を上げる。
「グァァッ!!」
手を押さえながら蹲る提督。
「あ!」
後ろを振り返ると、そこにはグロック19を構えているクリスの姿があった。
「大丈夫か?」
クリスはグロックを構えたまま萩風達の元に近寄る。
「はい!」
「そうか。後は任せろ!」
『クソ!逃ゲルゾ!』
直後、ロシアンマフィアの船団はエンジンを全開にして逃げようとする。
「逃がすか!ホワイトシャーク発艦!」
クリスはシールズチームを乗せたMH-60Sを発艦させ、船団の制圧と追尾を実行に移す。
2機のMH-60Sは恐らく指揮船であろう大型の漁船に向けて低空で接近する。
『撃テ!撃テ!』
指揮船からマフィアの構成員らしき男達はAK47やSKSカービンを手に甲板に現れる。
「撃て!」
ガンナー妖精がGAU-19機関砲による援護射撃を開始し、甲板上の戦闘員達を凪払っていく。
「今だ!」
そのタイミングを見計らい、2人は指揮船の船尾から一気に飛び乗った。
同時に、MH-60Rが指揮船の左舷に横付けするように接近、ロープが降ろされるとシールズチームが次々と甲板へ降り立ち、瞬く間に甲板のマフィア達は取り押さえられていく。
「向こうはシールズに任せよう。さて」
クリスは漁船に上がると、手を押さえている提督に近寄ると、提督を這いつくばらせると両腕を結束バンドで縛り上げ、拘束する。
「アンタを拘束する」
「貴様………何者だ?」
「答える必要はない」
「クソ!だが、俺には強い親父が居るんだ!此処で捕まえた所で」
「あぁ……その事なんだが、それは期待しない方がいい
ぞ」
「何っ!?どう言う事だ?」
「じきに分かるさ」
その時、川内の無線機のコールが鳴り響く。
「クリス!陸軍から連絡来たよ!」
「結果は?」
「大成功!!制圧に1時間も掛からなかったって」
「制圧だと!?貴様らぁ!俺の城に何をしたぁ!!」
「困ってる艦娘を助けたいから手伝ってって陸軍にお願いしたら、快く協力してくれただけだよ」
川内がそう言うと提督は彼女の顔を見て、何かを察した。
「川内………と言う事は横須賀の提督が噛んでるな!」
「ウチの提督の事を知っているんだ?」
「クソッ!アイツかよ!アイツなのかよ!チクショウ!チクショウ!」
横須賀の提督と舞鶴の提督はどう言った関係なのかは不明であるが、何か因縁があるのは間違いなかった。
「さて、お喋りと弁解は後だ」
クリスはそう言うと提督に猿轡を咥えさせ黙らせた。
続く
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