美人クラス委員長が俺の終わった高校生活を変えようとしてくる 作:Brahma
午後6時半、俺たちは会計して玄関から出た。
こういうときって誰かが声をかけないと解散できないのだが口火を切ったのは意外な人物だった。
「七村さん、すみませんでした。空、白峰さん、星ヶ崎さんありがとうございました。」
「俺のことは気にするな。それよりも期末少しでも何とかしろ」
「「角谷さん、ほんとに頑張ってね。」」
「日向...少しでも上乗せしないとね。」
「じゃあわたしたちはバス停行くから。」
白峰、花見辻、角谷は、手を振ってバス停へ向かう。
「あ、俺はチャリだから」
「ああ、うん...」
「星ヶ崎」
「うん?」
「さっきのことなんだが...なんでラノベのこと正直に角谷に話したんだ?」
星ヶ崎は、目をゆっくりとじる。
そして深く息をする。
両手を握って胸のあたりで重ねた。なにか決意をかためたかのようだった。
「ねえ七村、時間ある?もしよければ近くの公園で話さない?」
「ああ、わかった」
俺は聞こえるか聞こえないかの小声でつぶやいてうなづいた。
俺は自転車をつきながら、住宅街のあまり広くない道を星ヶ崎についていく。
やがて、街灯とまばらな木立のある薄暗い空間の前にたどりつく。
教室の二倍~三倍弱くらいだろうか、ベンチ、ブランコ、滑り台があって、わきにはさびしそうに自販機がある。ボタンの部分だけ赤く光っている。
「こんなところに公園があったんだな。」
「うん、子どものころはよく遊んだな...。」
俺たちは、すみの木の下にあるベンチに座る。
星ヶ崎は、緊張をほぐすようにふうっと息をはくと、空を見上げる。
俺もつられるように空を見上げる。
西の空は夕焼けでオレンジ色に染まっているが、天頂から東は暗くなっている。アニメならこれを暗い藍色で表現するのかもしれないな、などと一瞬考えていた時、
「え~っとさっきの話だよね」
という星ヶ崎の声が耳に入ってくる。
「ああそうだ。どうして角谷に本当のこと言う気になったんだ?黙ってくれるとは限らないのに」
「わたしって、子どものころは引っ込み思案だったと話したよね。」
「ああ。」
「そのかわりお兄ちゃんがああいうタイプだから引っ張ってもらっていたというか...。」
「中学へ入ってから社交的になって友達が自然にできて、成績もわるくなかったから東谷高校に入れたんだけど...。」
星ヶ崎は、靴で地面をこするように前後に軽くける。
小石がこすれてジャリっと音をたてた。
「坂戸さんとのことでもめたとき、七村がかばってくれたよね。あれはね、わたしにとってかなり大きな「事件」だったんだよ。」
俺は何ともいえない気分になる。もしタイムリープしなかったらスルーしていた、いや前回の「人生」では完全に他人事だった星ヶ崎の不登校。星ヶ崎を助けられたのにもかかわらず、前回の「人生」を後悔するという表現しがたい気持ちをはぐらかすように言葉を吐き出す。
「俺にとっても大変なことだったな。ぼっちをどうして貫かなかったのか...。」
「あはは、そうかもね」
「わたし、自分だったらあんな風にできないなと思った。」
「それからね、委員長もすごいよね。七村が遠足の班わけで浮いていたときに、すぐに声かけて自分の班に入れたじゃん。」
「ああ、たしかにあいつはただの優等生じゃない。遠足の班員たちがつぶやいていた。白峰以外にクラス委員長はつとまらないだろうって。」
星ヶ崎はうなずく。
「二人見て、ああ、わたしにはこんなことできないな~って思った。」
星ヶ崎が両手に力を入れて、自分の膝頭をぎゅっとつかんでいる様子が感じられた。
「でもさ、それだけじゃなくって少しでも二人のようになりたいって思ったんだ。」
その声はさっきよりもはっきりした口調で、まるで人に聞かせるよりも自分自身に言い聞かせているように聞こえた。
「それにさ、今日もわたしをかばおうとしてくれたよね?」
「結局、星ヶ崎が全部話しちゃったんだけどな」
星ヶ崎は、困ったように笑う。
「あの時たしかにうれしかったんだけど、いつまでもかばわれてばかりじゃいやだなと思ったんだよ。」
「星ヶ崎...。」
「七村はさっき、角谷さんを説得するために話がわたしのほうへいかないようにしてくれたじゃん。でももし話が核心に向かってきたらきっとまた自分を悪者にするだろうなと思ったの。」
「ぶっちゃけ、あの場面で俺には解決策が思いつかなかった。『俺アリエン』の比企八旗にならったのかもしれないな。」
「ぶちこわしだよ...っていっても比企八旗も凄いとはおもったけど。でさ、話し戻すけどまた七村が悪者になったら同じことの繰り返しで、わたしは変われないままなのかな、そのままはいやだなと強く思ったの。」
「それで角谷にほんとのことを言う気になったのか?」
「うん、自分でもびっくりするくらい強く思った。それで気が付いたら話していた。」
「ねえ七村」
「ん?」
「わたし、ちゃんと変われるかな?」
真剣な表情。ほんのり上気した顔。明るい場所であればほのかに赤らんでいるんだろう、
「ああ、星ヶ崎は、きっと変われると思うぞ。」
俺は、精いっぱいの誠実さで答える。
星ヶ崎の顔から緊張が抜けてほっとしたような笑みがこぼれる。
「そっか、よかった。」
「星ヶ崎は偉いな。」
「そんなことないって。ただ今まで通りじゃいやだなとは強く思うんだ。」
「そうか、応援する。役に立つかわからんが。」
「最後の一言はいらない。」
星ヶ崎が怒ったように言うが一瞬のことだった。
星ヶ崎はベンチから立ち上がり、数歩歩くとくるっと振り向いてきた。
「ありがとう、七村。その気持ちだけで頑張れる気がする。」
とにこっと微笑む。
夕日や街頭の光が少ないのにいやに星ヶ崎の笑顔をまぶしく感じて、俺は目を閉じた。
「じゃあね。」
「ああ。」
俺はチャリンコをこぎながら帰路を急ぎつつも、思いをめぐらす。
星ヶ崎の不登校をなんとかしたかったから「介入」した。帰宅部なのは変わらないが、前回の高校生活とは全く異なった展開になっている。そんなことを考えていると10m先の信号が赤に変わる。
俺はブレーキをかけて停まって考える。
「変わりたい」星ヶ崎は言った。
星ヶ崎は美少女であるが、決意をかためた表情は今まで見たどの表情よりもきれいだと感じた。
単純な顔かたちからだけでなく、内側からにじみ出るものがそう感じさせたんだろう。
あいつはきっと変われるだろう。
星ヶ崎に「変わりたい」と言われた時、雷に打たれた気分になったことを思い出す。
前回の「人生」でぼっちだったときには、相手の人格をあたかもゲームのNPCのように考えていてもなんの問題も感じなかった。特定のアクションを起こせば、条件付け、脊髄反射なのだろうか、同じ反応が返ってくるものとしか考えていなかったが、すでに俺は、白峰、星ヶ崎、花見辻と強く関わっていて何かが変わっているのを実感していた。
人間と言うものは、常に周囲から影響を受けて、揺れ動き変わる可能性があることをみとめなければならないと初めて考えた。
そんなことを考えているうちに信号が青に変わった。
全部がいい方向に変わってくれますようにと願ったが、そううまくはいかないと脳裏のどこかで考えている自分もいることも自覚させられていた。