美人クラス委員長が俺の終わった高校生活を変えようとしてくる 作:Brahma
終業式を翌週に控えた雨の日だった。文実に招集がかけられた。これまで期末テストをはさんで何度か会議があったが、俺も星ヶ崎も皆勤賞だ。
俺が教室を出ていこうとするときに、星ヶ崎の声が聞こえてくる。
「ごめん、今日もちょっと...文実に行かないと...」
ちらりと視線を向けるとスクールバッグを背負った星ヶ崎が、柊たちに申し訳なさそうに手を合わせていた。
「そんなの七村に全部おしつけちゃえばいいじゃん。」
「立候補したのにそんなことできないよ。それに行かないと次の段取りがわからなくなっちゃうから...」
「あっそ。七村に100m以内に近づくなと言っておきながら、段取りを七村にきいたんじゃおかしいか...」
「それもそうだね。」
「んじゃ、がんばって。」
星ヶ崎の顔がいくらかゆがんだように見えた。
「うん、ありがと。それじゃね。」
星ヶ崎は、廊下を歩く俺をばたばた追いかけてきた。
「七村~どうして先に行っちゃうの?」
「文実の招集かかってるから行くんだよ。」
「わたしも文実なんだけど」
「それはわかっているが、俺のせいでぎくしゃくしてるから一緒に行動しないほうがよくないか?」
「うわ~七村、意外と私のこと見てるんだ。」
「仕方ないだろ。お前らのグループは声大きいほうだし、目立つんだよ。しかもこないだ俺に話した内容のこともあるし...ほんとうに大丈夫なのか?」
星ヶ崎は、ふるふると首をふってみせる。
「大丈夫だから...。」
「そうか...。」
窓の外の空模様は、空のかなり下のほうにわたぶとんのように薄灰色の乱層雲が敷き詰められている。その「わたぶとん」からしとしとと雨が降っている。
「うまくいかないな~」
とつぶやく星ヶ崎にかける言葉のない俺は黙っているしかない。
「七村のせいじゃないんだから、気にしないでよ」
「ああ...」
俺のせいじゃないというのは、俺が望んでいた言葉に違いなかったし、正直ほっとしたのも事実だった。しかし解決策はないのにそれでいいのかという気持ちだけは渦巻いていた。
「誰のせいでもない。わたしのせいなんだ。だから...。」
自問自答する星ヶ崎を見ながら、せめて晴れてくれれば違うんだろうかと考えるもののそれが気休めでしかないことも自覚していた。
その日の夜だった。
ぽこんとLEINの着信音がしたのでスマホをみると花見辻空だった。
(今日の星ヶ崎さん、暗い顔してたわね。)
廊下出る時には確かに暗い顔をしていたが、文実の会議の時にはそんなそぶりはなかったとおもったが、今の状況をわすれるためにことさらはつらつに発言していた合間の暗い顔をみていたのかもしれない。
(ああ、クラスの友人たちとうまくいってないようだ。)
(七村君と一緒に文実にはいったせい?)
(たしかにそれもあると思うが、先日角谷にラノベの件話しただろう。どう思った?)
(日向はある意味あかの他人で星ヶ崎さんがどんな趣味を持とうと関係ない。だから話しやすかった面もあるかもしれない。黙っててくれと言ったら黙ってくれるし、本人にはどうでもいい話だから忘れて終わりかもしれない。ただクラスの深い友人関係となるとそうはいかないよね。なんていうか七村にかばわれてばかりいる自分がいやでカラを破りたいみたいな感じがした。)
(さすがだな。そういうことだ。)
(どうすればいいと思う?)
(友人関係のこじれなんて俺にどうにかできると思うか?)
星ヶ崎のリュックの中身がこぼれたときはとっさの判断で比企八旗流になんとかした。しかし星ヶ崎の成長しようとする決意をどう応援すればいいか、柊とどう接触すればいいか全く思い浮かばない。しばらく花見辻からの書き込みはなかったが
(わたしは....できるかぎりのことがしたい)
と返ってきた。俺は、「勝手にしろ」と小声でつぶやき、既読スルーした。
翌日、始業ギリギリに登校する。それ自体はいつものことだが、その日は違っていた。教室の前に見覚えのある赤っぽい髪のポニーテールのスポーツ少女が仁王立ちしていた。F組の角谷だ。
「??どうしたんだ?」
「七村さん、おはようございます。」
「ああ、おはよう。」
「七村さんって始業ギリギリの人なんですね。」
「帰宅部が早く来てもしょうがないだろ。」
「私、けっこう前から待ちぼうけでした。」
「いや、約束してないだろうが。」
「ひとまずLEIN交換しましょう。時間ないし。」
「ああ」
「あ~もうこんなことなら先日のファミレスでしとくべきでした。」
LEINを交換しているうちにも始業のチャイムが鳴る。
角谷は、そそくさと自分のクラスへ帰っていった。
なんだったんだあれ?と思いながら教室に入ると近くにいた野球部の久野に声をかけられる。
「七村、さっきの女テニの角谷さんじゃね?」
「ああ、そうだが」
「知り合いなん?」
「う~ん、知りあいの知りあいみたいな感じだな。」
「ふ~ん、よくわからんけど意外に顔広いのな」
「いや、そういうわけじゃないんだが」
次に詮索されたらどう答えようかと考えていたら、ガラガラと教室の引き戸の音がした。
「朝のHRはじめるぞ」
先生の声がかかったせいか、それ以上の心配はなくなった。
あんのじょう昼休みにLEINが来て、角谷に中庭に呼び出される。
東谷高校の中庭は、よくあるようにリア充に占拠されているわけではなく、移動教室の近道に利用されるくらいで閑散としている。ただ周囲の校舎から丸見えなので、男女が会っているとなると変な噂がたちかねないので、俺と角谷は、上から見にくい木立の下へ移動する。
「なんの話だ?期末の成績なら俺のせいじゃないぞ」
「いえいえとんでもない。あの岩石の表ありがとうございました。世界史も。白峰さんと七村さんのおかげでかなりよかったです。」
「たいして面倒みたわけじゃないのに感謝されるのも微妙だが。」
「でも暗記科目はすぐ点につながりますから。」
「あのさあ、暗記科目じゃなくて大きな歴史の流れをつかむように先生にいわれてないか?」
「あはは...それはともかく今日の話は別件です。」
「別件って?」
「最近の空は、なんとなく暗い顔してることが多いんです。七村さんには心当たりありませんか?」
「ああその話か...ないわけじゃない」
「七村さんは知ってましたか、空が落ち込んでいる理由」
「まあな、ただ個人のプライバシーにかかわる話だからな」
「わかりました。じゃあ空が落ち込んでいる理由については詮索しないことにします。その代わり七村さん、空の悩み事を解決してあげてもらえませんか?」
「なんでそうなるんだ?」
「決まってるじゃないですか!空があんな暗い顔しているの嫌なんです。原因を知っている七村さんには空の悩みを解決する義務があります。」
「なんだよその義務。いつできたんだよ。」
「空が落ち込んでる理由をわたしに打ち明けない以上、わたしが勝手にしゃしゃり出てくるわけにはいかないでしょう。でもその理由を知っている七村さんには、空に手を貸すなり助けるなりしなければならないでしょう。」
そんな話をしながらも俺はふと思いついたことがあった。