美人クラス委員長が俺の終わった高校生活を変えようとしてくる 作:Brahma
「ひとつ聞いていいか?」
「はい?」
「お前が知らない花見辻のことを俺が知っていることをどう思う?」
角谷はあごに手を当てて考え込んだ。しかし間もなく返事をしてきた。
「まあ、少しはムかつきます。でもわたしは空についてこれだけ知っているとか知識マウントとりたいわけじゃないんです。知ってる部分もあれば知らないことがあっても当然だと思います。だれだって時と場合で話したくないことあるじゃないですか」
「わかった。ありがとう。」
「それより、空のこと頼んでもいいですか?」
「まあ、やれるだけのことはするよ。申し訳ないが俺はみてのとおり人間関係っていうのは得意なほうじゃないんだ。だから過大には期待しないでくれ。」
始業式まであと数日を控えた日曜日、俺はいきつけの書店街をはしごして駅へ帰ろうとすると交差点の反対側に金髪ツインテと見知った顔があるのに気が付いた。
花見辻と星ヶ崎だ。
俺は二人を避けて回り道をしようとしたが、
「もしかして七村?」という声がかかってしまった。
「へええ、七村君が休日にここまでくるなんて、今日はお祭りでもあるの?」
「あのなあ花見辻、俺はお祭りなんて絶対行かないぞ。そもそも人混みが嫌いなんだから。」
「珍しいね。こんなところで会うとか?買い物?」
次に声をかけてきたのは星ヶ崎。
「ちょっとラノベを見に来ただけだ。それじゃな」
星ヶ崎がにやりと笑みを浮かべて、ばっと両手を広げて立ちふさがる。
「なんでそうやって会話をきりあげようとするの?」
「いや二人の楽しい時間を邪魔するわけにはいかないかな~と思っただけだ。」
「わたしたちは全然大丈夫だよね。空ちゃん」
「ええ、何の問題もないわ。」
星ヶ崎はほんとうに嬉しそうに右手のこぶしをつきだす。
金髪ツインテの星ヶ崎がそんな恰好をすると、『冴えない女子のプロデュース法(冴えジョ)』の谷村英美梨が自慢げに右手でペンを突き出すポーズを思い出す。
「よ~し、これからみんなで行けば楽しく買い物できる場所へ行こう!」
そして三人で行った場所は、さっきまで俺が買物していた書店街だ。
そのうちでも星ヶ崎が行きつけであろうこの店は女性客が多い。
「どうしてここなんだよ。」
「七村も空ちゃんも好きでしょ。こういうの」
「でもな、俺さっき買い物したばっかだし。」
「わたし、今買うものないから」
「大丈夫、大丈夫、見てるだけで楽しいじゃん」
「なんか...すごい場所ね。」小声で花見辻が話しかけてくる。
「まあ、おれも時々しかはいらないがこの店は女子や子どもも入りやすいところだと思うぞ?」
オタク系の書店でも客層が微妙にすみ分けている。俺はどの店でもはいるが、この店は嫌いではないがなんとなく足が向かない、ただしラブコメを書く身としては、掘り出し物があるから見逃せない店なので時々入るのだ。
星ヶ崎は、新刊が山積みされている台の上で立ち止まって、真剣な表情で物色する。
「今月の新刊もラブコメ多いよね。ラブコメ戦国時代って感じ。」
「ねえねえ、七村、これめっちゃ表紙良くない?」
「ああ、これなにかのSNSでみたな、このイラストレーターさん。」
まるでラノベに興味のない花見辻は、
「目がチカチカするわね。」
とつぶやく。
「まあ、ある意味まんがより派手かもしれないな。」
「見分けがつかないわね。」
「ラブコメが多いと美少女キャラは必須だからどうしても似通るな。俺も表紙が似ている作品を間違えて買ったことがあるくらいだからな。」
「でもよかったわ。」
ラノベを物色している星ヶ崎の姿をみて、花見辻は、笑みを浮かべる。
「そうだな...。」
「ねえねえ、空ちゃんどれ買ったらいいと思う?」
「星ヶ崎、これが最近のおすすめだな。」
この手の話題はさっぱりわからない花見辻をフォローして俺がおすすめを話す。
「なるほど~ありがとう。」
「七村君はその審美眼を執筆に生かせればいいのにね。」
「あたし、休みの日だけ恋人役しようか?お兄ちゃんも七村のこと気に入ってるみたいだし。「圧倒的に経験値が足りない」って言われたんでしょ?」
「うるせ~よ」
三人で談笑して、俺も追加で数冊買ってしまった。場の空気にあてられたというやつだろう。
花見辻は、白峰も読んでいる『俺アリエン』の比企八旗が俺に似ているから、『冴えジョ』の谷村英美梨が星ヶ崎に似ているからと最初の巻を買ったようだった。
そのあと、俺たちはチェーン店の安いコーヒーショップに入る。
俺たちは運良く見つけたボックス席にすわる。
「今日は楽しかった。七村にも会えたし。」
星ヶ崎は晴れ晴れとした表情でアイスラテのグラスに口をつける。
「俺に会えてなんかいいことあるか?」
「おおありだよ。ラノベのこと話せる数少ない友達だよ。それに休日に友達に会えるのはやっぱりうれしいよ。」
しばらく取り留めもない雑談をしていたが星ヶ崎が何かたべたいなぁとつぶやく。
メニューみながら
「このもものミニケーキよさそう。二人はなにか食べたいものある?」
「とくにないな。」
「私も今はいいわ。」
「了解」ショーケースのあるレジに向かっていく星ヶ崎の後姿を見て花見辻がぽつりとつぶやく。
「よかったわ。星ヶ崎さんが楽しそうで。」
「花見辻っていいやつだな。」
「何よ、改まって。何も出ないわよ。」
「星ヶ崎をさそったのは、文実のときの暗い顔が気になったのか?」
「それもあるけど、星ヶ崎さんとは遊びたいと思っていたのよ。今は期末も終わって夏休み前だからちょっとしたお出かけにはピッタリだし。」
「この先なにか考えているのか?」
「星ヶ崎さんが良ければ、うちのクラスの友達とも一緒にあそぶ日程組もうかなって。ほら日向とも知り合いになったでしょ。」
「なるほどな。お前すごいなあ」
花見辻は、先日「できる限りのことがしたい」と書き込んだように、星ヶ崎が柊たちのグループに居られなくなっても寂しい想いをしないように友人で居続けようと考えている、彼女なりの答えの出し方ということなんだなと感じた。
「七村君は、なにもしないつもり?」
「...どうなんだろうな...前にも言ったけど人間関係は難しすぎる。」
考えながら話す。
「そもそも俺がよかれと手を出したのが柊たちとの人間関係を狂わせる遠因にもなっているし、かえって迷惑になるかもしれない。もうラノベの主人公気取りをやめようと思う。」
花見辻は大きなため息をついた。そして俺をにらみつける視線になる。
「七村君は勘違いしてるわよ。」
なぜか説教するような口調になっている。
作中作解説
〇『冴えない女子のプロデュ―ス法(冴えジョ)』
(1)広島倫夫
主人公。いわゆる消費系オタクだが、桜吹雪の舞う季節に坂の上にいた藤平恵子の姿をみてから、ひらめくものがあり、乙女ゲーサークルを立ち上げる。
(2)谷村スペンス英美梨
倫夫の幼馴染。金髪ツインテ、ツンデレ。イギリス大使とオタクな美人の母親のハーフ。イラストレーターとして倫夫のゲーム制作に協力。
(3)霜ヶ岡詩子
倫夫の一つ上の上級生で、売れっ子ラノベ作家。倫夫のゲームシナリオに協力。
(4)藤平恵子
倫夫のクラスメート。よくみれば整った顔の美少女だが表情の変化がすくなく「~だね」が口癖のフラットで目立たない少女。乙女ゲームのヒロインのモデル。
〇『俺の青春ラブコメはありえないはずだ(俺アリエン)』
(1)比企八旗
主人公。三白眼、死んだような魚の目といわれ、本作中七村によく似ているとされる。ぼっちを貫こうとしているが、担任教師から二人の女子ともに『スケット部』をつくって活動するよう指示される。人間関係が苦手だが事態を改善するため時によって自分を犠牲にする行動にでて、あとの二人の女子に心配される。妹の米子のことは大切に想っている。
(2)比企米子
中学生。八重歯のかわいい黒髪のボブヘアの美少女。兄の八旗のことを「ごみいちゃん」とか皮肉るものの、何かと心配しており、実はかなりのブラコン。
(3)油井唯
赤みがかったボブヘアの明るく元気な女子。かわいいのでファンが多い。クラスのトップカーストにいる。「やっはろ~」というあいさつをする。母親とも瓜二つで母子と言うより姉妹のよう。『スケット部』の活動を通じて八旗にひかれていく。
(4)雪下沙雪
黒髪ロングの美女で口数がすくなく、人づきあいも得意ではないが鋭い人間観察眼をもつ。学業成績はトップクラス。実家は金持ちで母親は町内会長をつとめる。『スケット部』の活動を通じて八旗にひかれていく。
(5)色葉もみじ
1年生で生徒会長になった。後輩妹系。聡明でかけひきが上手く「あざとい」と八旗に言われる。八旗の世代の卒業パーティのプロムを企画した。米子のことは「おこめちゃん」「おこめ」と呼んでいる。