ヲタク流、オラリオの生き方。   作:ケモミミ推し

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第十三話「身命を賭す」

 

「...嘘...だろ?」

 

 

退路を塞ぐように現れたのは、本来は中層域から出現するはずの虎型のモンスター、「ライガーファング」だった。しかし目の前に佇むソレは、白い(はず)の体躯を黒い毛並みに包み、真紅の瞳を(ぎら)つかせている。

おまけに最大の武器である牙と爪は黄金色(こがね)に光り、そのサイズも明らかに巨大化しているときた。あれは間違いなく...

 

「『強化種』かよッ!」

 

毒を吐きながらも、ほとんど反射のような動きで、少女達の前に躍り出る。斧を構えた次の瞬間には、既に目と鼻の先に奴の爪が迫っていた。

 

_こいつ、早すぎッ...!_

 

白くなっていく頭をギリギリ保ちながら、

 

「オォォォォォッ!!!!!」

 

ほんの一瞬だけ捉えた爪の軌道を見定め、全霊の力を込めて斧槍を振るって何とか攻撃を弾く。

 

_よし、弾ける!!_

 

少なくとも今の一撃を防げるなら、大きくパワー負けしているわけではないだろう。

虎のスピードは圧倒的でも、これならギリギリ戦える...はずだ。ならば、ひたすら後手に回ってでも負傷を最小限にして、隙を見てラーマ達を逃がせば...

 

 

...逃がして、どうするんだ?

助けを呼んでもらう?今ならロキ・ファミリアが遠征のため降りてきているはずだから、このまま耐え切れば生き残ることができるかもしれない。しかし。

 

後ろからは、自分で立ち直ったベルが勇敢に戦っている。リリに助けられていた原作の時よりも強くなっているのだ。

 

彼は諦めていない。蛮勇でも、無謀でも、眼前に立ち塞がる怪物(モンスター)に立ち向かっている。

 

「あ、当たれぇぇぇっ!!!」

 

さらに、すぐ後ろから放たれる矢がライガーファングに迫る。

虎には難なく避けられてしまうものの、力強く踏み込んで斧槍を突き込み、その隙を狩る。

 

「いいぞ、ラーマ!」

「...はいっ!!」

 

そうだ。ベルもラーマも、まだ戦っている。

 

俺だけ尻尾巻いて逃げられるかよ...!

 

 

 

 

 

「...ラーマ様。」

「な、何でしょう?」

 

援護射撃の機会を伺うラーマは、目線はライガーファングから離さぬまま、リリの細い声に応える。

 

「私は、隙を見て上に救援を頼みに行きます。...リリは、それしかお役に立てそうにありません。」

「っ!それは...分かりました。援護しますね。」

 

自分を役立たずと罵るリリルカに言葉を上げつつも、ライガーファングに矢を放ち、右京と共に注意を引く。

 

「ありがとうございますッ!」

 

その後ろを、小さな身体ですり抜けて通路へと滑り込む。虎もそれに反応して後ろを向きかけるが、右京が割り込んでカバー。

 

「予備のナイフです!使ってください!」

「助かる!」

 

唇を噛みながらも、出来る限りの策を残して上層への階段へ走るサポーターを見届けながら、虎へと向き直る。

 

「さて、そろそろお前の相手してやらんとな。」

 

余裕しゃくしゃく、といった様子で構えたは良いものの、正直勝てる気はしていない。...最近こんなことばっかだな。

 

そもそも、素のステータスで負けている上に強化されており、能力の差は絶望的。牙や爪のリーチや切れ味も上がっているように見えるし......あれ、割と詰んでる?

 

と、思ったが。分かったのは悪い事だけではなかった。

奴はおそらく、ステータスは高くとも技量は大したことはない。

動きそのものは目で追えない程に早かったのに、動きを読んで対応できたのが何よりの証拠だ。であれば、つけ入る隙はある。

 

 

「さぁ、来いッ!!!」

 

威勢よく啖呵を切ると同時に、虎の爪牙(やいば)と青年の斧槍(えもの)が衝突し、勢い良く火花を散らした。

 

 

 

 


 

 

 

彼我の打ち合いは、まずはライガーファングの強襲(アタック)によって幕を開けた。

左前方から打ち出された神速の爪撃を、目の端に映った輪郭で捉えて斧槍の側面で受け止める。

 

続く攻撃も、次々に弾き、流し、いなし、受ける。単調で直線的な動きとはいえ、四方八方から繰り出される猛攻(ラッシュ)を的確に捌いているのは見事。

しかしながら、防ぐだけではジリ貧だ。

 

「くっ...!ヤバい、()()()...!」

 

相手は疲れ知らずのモンスターだが、こちらは脆弱なただの人間。体力の限界を迎えるのは、こちらのほうが早い。

疲労で鈍った体はゆっくりと、しかし着実に速度を落とし、遂にこちらの斧槍が弾かれた。

 

「しまっ...!」

 

右京は決定的な隙を晒し、虎はそれを見逃すわけもなかったが________動くことは無かった。

 

その原因は、彼我の間に躍り出た一人の少女。

 

「君、大丈夫ー?」

 

今までの緊張感に到底似合わない呑気な声をかけて振り返った華奢な少女の手には、大剣を二つ繋げたような頭の悪い武器_たしか大双刃(ウルガ)という名前だったか_が握られており、そのアンバランスな見た目からは彼女が絶対的な"強者"であることがありありと伝わってくる。。

 

「グル......」

「あー、ライガーファングかぁ。よし、アタシに任せといて!」

 

少女は双剣を横に構え、眼前の虎に刃を向ける。

彼女にとっては俺どころかこの虎ですら、吹けば飛ぶような矮小な存在でしかないのだ。

 

…そうだよな。雑魚なんて眼中にないよな。

 

だけどよ…

 

退()け」

「え?」

 

尊敬も物怖じの欠片もない物言い。

 

「あれは、俺の獲物だ。」

「ちょ、バカなの?死んじゃうよ!」

「うるせぇ、あんたも冒険者なら分かるだろ」

 

自棄のように吐き捨てる。

続いて眼前の弱者の叫びが、少女の耳朶を打つ。

 

()()()()()()()()()()ッッ!!」

「…ッ!」

「分かったら退いてくれ。俺より…」

 

視線は虎から外さず、親指をラーマのいる後方に向ける。

 

「あいつを守ってくれ」

「...うん、分かった。」

「右京さん!駄目です、私も一緒に...!」

「駄目だよ、猪人族(ボアズ)ちゃん。邪魔になっちゃう。」

「うぅ...」

 

 

青年の覚悟を見た弓の少女はそれ以上何も言わず、アマゾネスの少女に連れられて後ろに下がる。

 

「ティオネ〜、余計なお世話って言われちゃった〜。」

 

それを見ていたもう一人のアマゾネスは、側にいた小人族(パルゥム)の男に疑問を投げかける。

 

「団長。アレ、助けなくてもいいんですか?」

「…本当は、彼らが拒否しても助けるべきなんだろうけど」

 

「本人が自身の殻を破ろうとしているんだ。冒険者として、手を出すことはできない。」

 

無茶をしている彼らを救うことは、命を助けると同時に、成長の機会を奪うことにもなる。

 

「それに、アイズもそうするみたいだよ。」

 

離れた場所に居た白い少年も同じく、差し伸べられた手を払って一人で戦うという選択を取ったようだ。

 

彼らの行動は勝利を手にする大勇か、それとも地獄へと走る蛮勇か。それがどちらになるかは、誰にも分からない。

 

 

 

 


 

 

 

 

さて、彼らの戦いもいよいよ佳境に差し掛かってきた。一撃離脱を繰り返していたライガーファングは、獲物に動きを読まれている事に気づいてからは付かず離れずの間合いで爪牙を繰り出してくる。切り裂くというよりは動きを制限しているように見える連続攻撃(コンボ)に相対した青年は、虎の成長速度に驚きながらも耐え続け、機会を伺っていた。

 

...逆転の一手を打つために。

 

 

_まだだ。もっと引きつけろ!_

 

しかし無情にも、何度も盾代わりにされ爪牙を叩き付けられた斧槍は亀裂の走る甲高い音と共に、いよいよ根本からへし折れようとしている。

 

_おいおいマジかよッ!!_

 

その刹那、例の()()()を使うべく早口で詠唱を開始する。

 

「【法則(さく)を破りし】、グッ...【其の一歩】ッ!」

 

刃の根本が綺麗に折れたことで形を保った柄を、今にも体を噛み砕かんと迫った顎にねじ込み、つっかえ棒の要領で固定する。

 

「グォォッ!?」

 

さすがのライガーファングも奇策紛いの機転には驚いたのか、面食らった顔(?)で一瞬固まる。さらにダメ押しで、リリから受け取ったナイフを虎の前足に突き刺して踏みつけ、地面に縫い留める。

 

「【ブリンク】ッ!!」

 

それらの行動から得られた猶予は一瞬であったが、今は奴の動きさえ止められれば十分。座標を決定し、手にしていた斧槍の破片を()()()()()()()()()()

 

これが俺の奥の手、「体内転送」だ。『転送した物質は、転送先の物質を押しのけて転移する』という特性を活かし、相手の防御力を無視した一撃を叩き込む必殺技。しかし...

 

「グルゥァッッ!!!」

「はぁ!?ふざけてんなマジで...!!」

 

それも当たればの話だ。ライガーファングは、俺の詠唱が完成する寸前に危険を感じ取り、すぐにその場から飛び退いたのだ。

この技の弱点は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

まさか知っていたわけではあるまいが、恐ろしいのはその野生の勘。直前に光の粒子を纏った破片を()()()()避けてみせた。

おまけに、攻撃を回避しただけでなく魔法のタネも割れてしまった。もう同じ手は通じないと思ったほうが良い。

 

「ただでさえ手が付けられんってのに、これ以上物を覚えたら面倒になるな...!!」

 

相手は技を習っていないだけで、学ばないわけではない。先程から戦い方を変えたのがいい例で、強化種とはこちらが思っている以上に頭が良い。

加えて、今の武器はナイフ一本のみ。勿論「転送」を警戒しているから、相手は決して動きを止めようとしない。強襲(アタック)緩急(フェイント)連撃(ラッシュ)、ありとあらゆる手札を惜しみ無く使いながら、確実に俺の命を削ってくる。

 

そして、たった数撃防いだだけであっさりと均衡は崩れた。

 

ナイフは砕け、暴力的なまでに逞しい前足に両腕を押さえつけられる。もちろん腕はビクともしないどころか、ミシミシと骨にヒビが入る音さえ聞こえる。

 

虎は無駄な抵抗を繰り返す人間(エサ)を睨め付け、その肩口にサーベルタイガー以上に太長く伸びた口牙を突き立てた。

 

「ク......ッッそがァァァァァァァァ!!!」

 

痛みを追いやるために雄叫びを上げるものの、大した効果は見込めない。冷静さを欠いた状況の中、彼は熱に浮かされた頭を抑えつけながら必死に思考を巡らせていた。

 

 

(どうする、どうするどうするどうする!?この状況、武器も無い、腕も使えない、もちろん足も!!!魔法で逃げられたとしても、態勢は整えられない!ましてやここらに飛ばせる物なんて......)

 

 

__いや、ある。お前の直ぐ側、目の前に。触れずとも転移させられる克つ体積も大きく、文字通り一撃必殺となり得る物体が!__

 

 

おそらく非常に強力で、しかし限りなく危険な選択肢に気づいた彼は、ノータイムで詠唱を開始する。

尚も肩を穿たれる痛みに喘ぎながらも、掠れた声で言葉を絞り出す。

 

「【法則(さく)を】...【破】ッ【りし】、【その一歩】...」

 

やはり、この虎はまだまだ未熟だ。こいつが隻角のミノタウロスのようにオッタルに修行をつけられていたのなら、俺の勝率は砂粒程度にも満たなかっただろう。

こいつは、素手で組み伏せられている俺を前に、()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「お前...」

 

未知の行動への恐怖で脂汗を浮かせながら不敵に笑いかける。

 

「頭回るくせに、バカだよなぁ!!」

「【ブリンク】ッ!!!」

 

瞬間、虎が乗っていた人間の感触が消える。しかし困惑する前に、()()()()()()()()()()()()()()()()によって、明確な異変に気が付いた。

 

 

「......クボァァァァァァァァァァァッッッ!!!!!!!」

 

 

()()()()()()()()()

 

虎は、一瞬にして()()()()の殆どが失われた激痛に身を捩りながら、その感覚すらも急速に消えていく事を理解できずにいた。

 

...魔石は、とっくに体内から消え失せていたのだ。

 

「術者本人が腹の中に転移した」

 

その事実に辿り着く前に思考は色を失い、その身のほぼ全てを白く輝く灰に変えた。

 

 

 

 

「......何が起こった?」

「わ、わかんない。あの子の斧の破片がいきなり()()()ってだけでも意味分かんないのに、今度はライガーファングを即死させちゃうなんて..!」

 

右京の方に釘付けになっていたエルフとアマゾネスは、空間属性の特殊な魔法について全く理解できずにいた。神ですら飲み込めない超弩級の"未知"を、一介の人類風情が受け入れられるはずもない。

 

 

 

「......ファイアボルトォォォォォォォォォォォォォォォォッッッ!!!!!!!」

 

それとほぼ同時に、もう一人の冒険も終わったようだ。終始静かだった青年の戦いとは対象的に、少年の戦いは非常に眩しく、痛快で、ドラマチックであった。精も根も尽き果てて、立ったまま気絶してしまう程に。

 

 

命を燃やし尽くすような激闘に圧倒されたのか、ロキ・ファミリア一同はしばらく動けずにいた。

炎をミノタウロスの体内に直接お見舞いした少年と、自身の肉体そのものをライガーファングの腹にご馳走した青年。Lv.1の駆け出し冒険者である双方が成し遂げた偉業は、このオラリオでも全く類を見ないほどに異質だ。

 

 

「フィン、そっちの彼も終わったのか?」

「リヴェリア。凄かったよ、あの少年は。」

 

それもそのはず、神聖文字(ヒエログリフ)が読めるエルフが白髪の少年のステイタスを読んだところ、ほぼ全てのステイタスが軒並み900以上、魔力の数値すらも700を超えており、その異常な強さが分かる。

 

 

「アイズ、彼の名前は?」

「ベル。"ベル・クラネル"。」

「じゃあ、あっちの彼は?」

「...ごめん、あの子のことは知らない。」

 

獣の血に塗れて倒れ伏す彼の耳にその言葉が入ると、抗議の声と共にのそのそと起き上がる。

 

「......それはちょっと、酷くないですか...?」

 

屍人のように力無くズルリと起き上がる姿には、さすがのロキ・ファミリアの面々も驚愕した。

 

「き、君は…動けるのかい?」

「はい、何とか...。それより...」

 

 

滝のように出血している左肩を押さえながら、やつれた様子で声を上げる。

 

 

「あー…誰かポーション…持ってません?いい加減死にそうで…」

 

その他人事のような物言いに、堅物エルフが珍しくツッコミを入れる。

 

「そう思うのならば、動かないほうが賢明なのではないか…?」

 

 

 

 


 

 

 

 

その後、朦朧とする中で魔法による治療を受け、何とか歩けるようになった後。ロキ・ファミリアの方々の善意で、ティオナさんという方にギルドの治療施設まで送って頂けることになった。

 

 

フラフラと歩く俺とベルの腕に泣きながら抱きついて離れなかったラーマとリリルカには困らされたが、心配をかけてしまったからには甘んじて受け入れようと思う。

 

 

地上まで戻って速攻治療院に叩き込まれた俺とベルは、数秒で深い深い眠りについた。極度の疲労と魔力の激しい消費のダブルパンチで、それはそれは良く眠ることができた。

12時間も寝たからか、何故かいい夢も見れた気がするけど......駄目だ、よく思い出せない。

 

だが、起き抜け一番に神様から聞いた言葉だけは、鮮明に覚えている。

 

 

 

 

「おかえり、右京君。」

 

「おめでとう。......ランクアップだ。」

 




ドウモ、投稿者=デス。

試験週間のプレッシャーから逃れるためか、筆がノリノリのノリになってしまいました。テスト前に掃除したくなるアレですね。

次の投稿は2週間ほど先になるかも。それでは。
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