ヲタク流、オラリオの生き方。   作:ケモミミ推し

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第十五話「鍛冶師、到来。」

酒場での小競り合いの翌日。

俺達は中層進出の準備のため、バベルの武器屋に訪れていた。

 

「ベル、今日もあの店か?」

「うん、前の鎧を買ったとこ。あの鎧使いやすかったから、同じ人のが買えるといいな。」

 

ベルが例の白い軽装鎧を買った店のことか。この感じだと、近いうちにヴェルフと出会う事になるか?

 

「右京は何買うの?」

「防具はまだ使えるし、肝心なのは武器かな。斧槍は粉々になっちまっ.........」

 

「?」

 

急に押し黙る青年に、少年が(いぶか)しむ。

 

 

「あ......あれ、誰かの形見だった気がするんだが...」

「...ァァァァァァ!!!」

 

(くだん)の斧槍_たしか銘は"アーモリー"だったか_は、あの時寂れた武器屋の店番をしていたドワーフが、息子の形見と言って売ってくれたものだったはずだ。

それをわずか一ヶ月でぶっ壊したとなると...

 

「...右京。僕、ポーションをいくつか買い忘れてたんだった。」

「いや、後から『青の薬舗』に用があるから、俺が行ってくる。」

「いいよそんな、悪いよ。」

「いやいや、気にすんなって。それよりほら、武器屋見てくんだろ?もう目の前だぞ。」

 

「......。」クルッ

「......。」ガッ

 

残像を刻みながら高速Uターンするベルと、絶対に逃がすまいと肩を掴む右京。

 

「いいだろ一緒に殴られろよ家族だろ!?」

「いや僕巻き添えだし!!それにもう殴られるって言っちゃってるじゃん!!!」

「うるせぇ!!二人で殴られれば痛みも半分だろ!!」

「開き直った!?」

 

店の目の前で取っ組み合いながら騒音を撒き散らす二人。その姿は、まるで『一緒に叱られてくれよ』と友情を盾にしていたずらに二次被害を広げようとする学生のソレ。

この場合の二次被害とは、叱られる人数を増やす愚かな所業のみならず、店に対する営業妨害も指す。

 

 

「...何やってんだ、坊主共。」

「げっ」

「ひょえぇ!?」

 

噂をすれば影ありと、騒ぎを聞きつけた件の店主が顔を出した。

 

「右京!僕あっちの店見てくるね!」

「あ、オイ待て...って速ッ!!」

 

突然の事に驚いて注意がそれた隙に、ベルは敏捷値の限りを尽くしたダッシュで離脱を図る。

青年が必死に伸ばした手も(くう)を切り、逃亡を許してしまう結果となった。

 

「この前ぶりだな、坊主。何の用だ?」

「あ、アハハハ......」

 

いよいよ、噓の付き方を思案しているところではなくなってきた訳だ。

 

 

 

 


 

 

 

 

「大変、申し訳ございませんでしたッッ!!!」

 

至る所に分厚い埃が積もり、奥まった立地の中でも特に寂れた店中に、青年の謝罪が木霊(こだま)する。

 

ドワーフは険しい表情を崩さず、微動だにしない。

 

 

(...絶対怒ってるじゃんコレさーーー!!!)

 

 

「お前...」

 

そこで、反射的に右京が動く。

 

「この度は、武器を壊した事の謝罪と新しい武器の購入のため伺いました!でも壊したと言っても正確には不可抗力だったといいますか、中層にも入ってないのにライガーファングに襲われまして、必死で抵抗しているうちに折れてしまった次第であります!つきましては深く謝罪を申し上げると共に、これ以降このような失態を起こさぬよう精進していきたいと考えております!!」

 

直角90度に腰を折り頭を下げ、超高速で言い訳を捲し立てる。

 

(どうだ?一応先手は取れたけど...!)

 

「...そうか。」

 

少し間が空き、ふと重々しく口を開いたかと思えば、やはりその雰囲気は恐ろしい。あまりの恐怖に子兎のように震えることしかできなかったが......

 

「そうか、折れたか。」

 

続いて出た言葉は意外にもあっさりとしたものだった。

 

「あの、怒って...いないんですか?」

 

存外柔らかいドワーフの反応に、青年は若干気の抜けた質問を投げかける。

 

「あぁ。元々、使い古した武器を仕立て直しただけだからな。元はそこそこの業物だったが、壊れちまっても不思議じゃない。強化種と戦ったのなら尚更な。」

「...!ご存知で?」

「あぁ。お前さん達、(ちまた)で噂になってるぞ。ライガーファングと...さっきの坊主はミノタウロスだって?」

 

たしか、ライガーファングの攻撃は上級冒険者でも致命傷になり得る、って聞いたことがあるな。

...なら良いのか?

 

「あれは長持ちしない筈だった。まさか一ヶ月足らずで壊すとは思わなかったがな。」

「うっ...本当に申し訳ない...」

 

「...そうだな。そこまで言うんなら、少しばかり俺の我儘を聞いて貰おうか。」

 

老人は丁度いいとばかりに、カウンターの下を漁り始める。

 

「おい坊主。」

「ハイ」

 

革布に包まれ、机上に重々しく置かれた()()は恐らく、とびきり大きい長柄武器。

 

「こいつを買え」

「ハイ?」

 

緊張も解けぬまま、話ばかりが進んでゆく。

しかし包みの正体を目にすると、些細な不信感など吹き飛んだ。

 

自分の身長を超え、2mに達するほどの長さ。

強靭さを威圧的に振り撒く、艶消しの黒鉄色。

刀身との対比(コントラスト)が映える金色(こんじき)の刃先。

 

そして何より、殺傷力に溢れる存在感を放つ刃。

方や無骨にして獰猛、叩き斬ることに特化した半月斧(バルディッシュ)

方や単純だが凶悪、有り余る破壊力と無類の突破力を秘めた重撃杭(スレッジハンマー)

本来は噛み合わない筈の2つを、奇跡的なT字のバランスを描く武器として高度に成立させている。

 

「おやっさん、これは...!」

「俺の新作だ。」

「...アンタ、鍛冶師だったのか。」

「応。つっても、随分前に引退したがな。この武器も、昔の弟子に手伝わせて打った物だ。」

 

いや、前の斧より数段...どころか格段に業物なんだが。

とてもブランクのある鍛冶師が打ったとは考えられない。

 

「...ちなみにおいくらで?」

「締めて1500万ヴァリス。」

「イ!! イッセンゴヒャ...」

 

ベルが隣にいたならば間違いなく卒倒するであろう値段に、右京は素っ頓狂な奇声を上げるだけで耐えた。

 

「もちろんツケでいいぞ。出世払いってヤツだ。」

「あの〜...ほんの少しだけでもマケて貰えたりとか...」

「何言ってる。コイツは材料費、加工費諸々で本来は3000万ヴァリスはする業物だぞ。マケにマケて半額まで落としてやってるんだから、文句言うんじゃねぇ。」

「うぐぐ...にしたって今の俺には手に余るんじゃ...」

 

諦め悪く反撃を試みるものの、既に負けは濃厚。

 

「何言ってる。さっきの坊主だって相当な得物を持ってたじゃねぇか。」

 

ドワーフが話題にしたのは、ベルが腰に差していた『ヘスティアナイフ』。彼は既に、鍛冶神の打った武器(二億円ナイフ)の価値に感づいていた。

 

「それにな。いくら形見とはいえ、万全でない武器を渡して死地に行かせるってのは、鍛冶師として失格だった。」

 

「だからこれは、不甲斐ない仕事をした俺への罰と、それに巻き込んだお前さんへの償いだ。どうか受け取っちゃくれねぇか。」

 

「そこまで言われちまったら、断れねぇよな。」

「お、だったら...」

 

「あぁ。ありがたく受け取っておくよ、おっちゃん。」

「よしきた、ローンはこの口座に振り込みな。なに、しばらくは搾り取りゃしねぇから安心しな。」

「...お手柔らかにな。」

 

どこか楽しげな老人の様子に歯噛みしつつも、相当な業物が手に入ったのも事実。

 

......もうヘスティア様のこと()()()()言えねぇな。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「...良かったのか?師匠。酷い赤字ではないか。」

 

終始騒がしい客が帰った直後。暖簾(のれん)の裏から顔を出した者がいた。

 

「構わん。久方(ひさかた)ぶりに()()()()()()()()()からな。」

「本当に...ワシの時といい、師匠も物好きな御方よ。」

「流石の俺もお前ほど変態ではないぞ、椿。」

 

物置(バックヤード)にて一部始終を立ち聞きしていた人物。

彼女こそ、「都市最高の鍛冶師」と名高い「椿・コルブランド」その人。

 

「にしても、師匠がワシを呼び出したときは驚きましたぞ。まぁ、ただ仕事を手伝わされただけでしたがな。」

「なんだ、稽古でもつけて欲しかったのか?」

 

天下の最上位鍛冶師(マスタースミス)を雑に扱うこの老人。

 

ヘファイストスファミリアの()()()である彼の名は、『ギムリ・トールキン』。

第一級冒険者(レベル5)でありながら鍛冶の道も歩み、下界で初めて不壊属性(デュランダル)を作り出した彼に付けられた二つ名は『不壊伝説(スプリガン)』。

数年前に酷く腰を痛めて隠居したものの、最盛期には『地上の鍛冶神』とまで謳われた本物の才人である。

 

「さて、奴はどこまで強くなるのか...楽しみだな。」

 

薄く開いた瞳に、歴戦の老兵(ロートル)とも見紛う鋭い光を灯した老人に、かの『単眼の巨匠(キュクロプス)』さえ肩をすくめることしかできずにいた。

 

...どうやら彼は、とんでもない人間に気に入られてしまったようだ。

 

 

 

 


 

 

 

 

【第一等級武装】に匹敵する業物を与えられた青年。

精々「丈夫そうな斧」程度にしか考えていない彼は今、革布に包まれた大戦斧(バトルアックス)を担ぎ、先ほど見事に脅威から逃げおおせた少年を探し歩いていた。

しかし...

 

「いない。」

 

以前、ベルが_確か兎鎧(ピョンキチ)とかいう銘の_軽装鎧を買った店も。

 

「...いない。」

 

同階、他階問わず虱潰しに回った店舗にも。

 

「...どこまで逃げやがったんだ?アイツ。」

 

かなり重い荷物を背負って歩いていたからか、いい加減疲れてきた。どこを探しても見つからないならとっとと帰ってしまおうかと思いつつ、バベル内の広場に通りかかった時。少し離れた位置で騒ぎ立てる謎の人だかりに遭遇した。

 

 

「なぁ『未完の少年(リトル・ルーキー)』!この短刀(ナイフ)買わねぇか?」

「いやいや、こっちの湾曲刀(ククリナイフ)のほうがよく斬れるぜ?」

「馬鹿、そんな変な武器誰も買わねぇよ!」

 

自分の武器を買わせて実績(ハク)をつけるために期待の新人に群がる有象無象達。さながら飯時の犬猫の如く、恥も外聞もなく声を張り上げている。物を売り込む立場としては立派なものなのだろうが...

 

「「プライドのねぇ奴らだな...」」

「「...ん?」」

 

全く同じタイミング。全く同じ言葉を吐き出した人物が立っていた。

燃えるように赤い髪、若々しくも厳つい顔に黒の着流しを身に着けた硬派な男。隣に立っていた彼は、奇しくもベルの次に探していた人物だった。

 

「あ!!」

「...お。」

 

加えて直後の反応も全く同じときたものだから面白い。

 

「お前、もしかして『虚空を歩む者(ヴォイド・ウォーカー)』か?」

「え、なになに俺って有名人?」

「オラリオでアンタの噂を聞かないのは、精々本人くらいなもんさ。」

 

...そう言われると悪い気はしないな。やっぱり二つ名はイタいけど。

 

「そういうアンタも有名だろ?」

「俺が?俺はただの鍛冶師で...」

「魔剣嫌いの鍛冶師、『ヴェルフ・クロッゾ』。その髪色でピンと来たぜ。」

 

そう言って青年は男の頭を指差す。燃え滾る炎にも似たその髪色を、彼が見間違えるはずもない。

 

「そこまで知ってるなら話は早いな。俺は頼まれても魔剣なんぞ打たねぇぞ。」

「知ってる。でもなぁ〜...」

 

面白くて仕方ないとばかりにニヤニヤと口角を釣り上げ、人混みの禍中に閉じ込められた人物に目を向ける。

 

「うちの団長様が、『ヴェルフ・クロッゾの防具が欲しい』って聞かなくてさぁ。アンタのこと探してたんだよ。」

「なに!?本当か!?」

「おう、ホントホント。」

 

『新進気鋭の有望株に、自分の作品が認められた』

終始不機嫌だった彼も、その事実を耳にしてからの勢いは凄まじかった。

 

「おーーい、ベルーーー!!」

 

されるがままに揉まれている少年に、輪の外から声をかけた。幸い声は届いたようで、窒息死寸前だった相棒は涙目になって手を振った。

 

「う、右京、助けてェェ〜!!」

「ったく、仕方ねぇなぁ。おらどけ有象無象共、こちとら今から商談の時間なんだ。とっとと道開け...

 

唐突に、ベルに押し寄せる職人達の勢いが半減した。その視線は、今まさに割り込んできた一人の男に注がれている。

 

「...黒髪黒目。」

「...背の高い男。」

「お、おい。なんだ急に...」

 

じわじわと、ベルに押し寄せていた波の向きが変わってゆく。...正確には正反対、つまり俺のいる方向に。

 

「...デカイ斧が得物で、」

「何よりその顔。」

「おい、顔が何だって?」

 

いや、確かに顔は微妙だけど。APP9とか言うんじゃねぇライン越えやぞ。

 

「...『虚空を歩む者(ヴォイド・ウォーカー)』か!?」

「すげぇ、本物だ!二人目の世界最速記録(ワールドレコード)だろ!?」

「なぁ『虚空を歩む者(ヴォイド・ウォーカー)』、その得物は斧だな!?もし良かったら研いでやろうか!?」

「いや待て、俺まで囲ってんじゃねぇ、やめろ、オイ、コノヤロ離せェェ!!」

 

まさかの"二人目"が参戦した事で完全にテンションが振り切れた職人共は、俺ごと人混みの中に取り込んでしまった。話題の人物、期待の新人が二人も集まった結果、遂には囲われるどころかゾンビの如く手足を引かれ、所謂"引っ張りだこ"状態にされてしまったのである。

 

可愛いケモミミ美少女達にすり寄られるなら大歓迎だが、むさ苦しい上に半分鍛冶オタク気味な職人共にベタベタと触られるのは、生理的に受け入れ難いものがあった。

 

「やめ、ヤメロォォォォォ!!!」

「うぐぐ...右京、僕もう駄目かも...こんな所で死ぬなんて...」

「ハッ!おいベル!気を...気をしっかり持てッ!」

 

押し潰されるあまり、遂に首が締まりかけて意識を落とす寸前のベルと、必死の形相で相棒に手を伸ばす右京。

さながらダンジョンに追い詰められた冒険者達の決死行のような光景だが、ここは天下の往来。

 

「...何やってんだ、あいつら。」

 

冷静な人間が(はた)から見ている分には、非常にシュールな光景であったことだろう。

 

 

 

 

 

 

 




本当に一ヶ月ぶりの投稿になりましたね。どうも、投稿者です。そろそろ大学の夏休みも明け、単位という現実を目の当たりにすることとなりました。ちなみにフル単は無理でした。

ところで、皆さんはパソコンorスマホorタブレット、どのような媒体で小説を読んでいますか?少しでも読みやすい物語を執筆するために、ご意見があれば是非コメントしてください。
素人ながら精進させて頂きますので、気が向いた時にでも読んで貰えれば幸いです。
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