心にAPP9の凡顔君を宿して書くのが右京君です
「十時の方向、ヘルハウンド2…いや、3体来ます!」
「右京!」
「応ッ!」
牙を剥く怪物の前に、二人の冒険者が身を投じる。
黒と赤の双短刀を閃かせたのは、白の軽装鎧の上から暗赤の
方や黒々とした大戦斧を叩きつけたのは、黒鉄色に鈍く光る軽装鎧を身に纏った黒髪黒目黒尽くめの青年。
「…ベル、避けろッ!」
双方のトドメを確認して視線を上げた先には、引いた位置で口に炎を溜めるヘルハウンド。『
「ありがとう、ラーマ!」
「は、はい!」
少年が礼を述べる方向には、身の丈を超える長弓を携え、真新しい胸当てを装備した獣人の少女が立つ。
無垢な少年の言葉に、頬を上気させピコピコと耳を揺らした。
「中層の初戦闘にしては、中々悪くなかったんじゃないか?」
中衛の位置で待機していた鍛冶師が、満足げに前衛の二人へ歩み寄ってきた。
しかし、いかんせん
「グルォォォォォ!!!」
側面、死角となる岩陰から虎の怪物『ライガーファング』の奇襲を喰らう。そこには慌てて矢をつがえる弓手と……とうに装填を済ませた
「甘いですッ!」
「ギャゥッ!?」
凶悪な威力を秘める
「ヴェルフ様、油断しないでください!」
「すまん、リリ助。気ぃ引き締めないとな。…あとよ、さっきから聞きたかったんだが…」
プンプンと怒りを露わにする少女の手には1
「…そんなもん、どこで手に入れたんだ?」
「ゴブニュ・ファミリアの店でな。少し手も加えてもらった」
中層進出に際して、リリの強化案として以前から考えていた新しいクロスボウを購入したのだ。
元々売ってあった物に弦を装填するための
リリのスキル『
これなら、本来ならリリがどうやっても引けないほど硬い弦をスキルの力値補正によって軽々引く事ができるという訳だ。ワザップかな?(小並感)
「これのおかげで、リリもラーマ様と同じく後衛として戦闘に参加できます。…まぁ、あまりお役に立てるかどうか分かりませんけど」
「そ、そんなことないですよ、リリさん!」
まだ少し卑屈なサポーターの少女を、弓手が慌てて励ます。
実際、パーティーの中で戦える者が一人増えたのだから、弓手の少女の
「そうだよリリ!リリは戦うだけじゃなくて、僕達のサポートや指揮までやってくれてるんだから!」
「まぁ、何も腕っぷしだけが冒険者じゃねぇからな」
「出来る事が増えるってのは良いことだろ」
弓手に加えて少年と鍛冶師、当の青年も褒め
...美少女の頬が恥ずかしげに熱く火照る様子というものは、中々そそるものがあるな。決して、フードの中でピコピコ跳ねるケモ耳の奥ゆかしさに心惹かれた訳ではない。違うぞ、別に変な意図はないからな!!
「…さ、さぁ!早く進みましょう!今日は中層の慣らしですからね、じゃんじゃん戦ってじゃんじゃん稼ぎましょう!!」
リリの年相応に可愛らしい様子を拝んだ所で、不意に襲ってきた一抹の不安を押さえつける。
…きっと問題ない。準備には金に糸目も付けず、万全を期した。まだ使うまでもないが、"魔法"も"秘密兵器"も持ってる。
死にはしない。大丈夫だ。
その後、中層探索は順調に進んだ。懸念事項だったヘルハウンドの
現に今、原作では窮地として描写されていたアルミラージの大量発生にも、十分に対応できている。
「このベル達、どんどん来るなぁ!!」
「ベル、中々手強いな!」
「ベル様達、随分と熱烈ですね!」
「ベルさん、危ないので全部撃ちますね。」
「皆ひどくない!?」
紅目の白兎、というモロ被りの特徴からあだ名を付けた青年に倣って、俊敏なその怪物の事を全員が口を揃えて『ベル』と呼ぶ。この扱いの酷さには本人から抗議の声が上がるが、それは、戦いの中であってなお余裕があるということを示している。
「大丈夫です、誤射はしませんから!」
「当たり前だよ!?」
この通り、冗談も言える。
(よし、この調子ならなんとか…!)
唯一これから起こるであろう危機に構えていた青年も、杞憂だったと気を緩め始めていた。
しかし、死神は身構えている時には来ないものだ。
「…こっちだ!こっちに通路が…何っ!?」
黒髪黒目、和風の装備に身を包んだ一団が、突如彼らと
…ヘルハウンド5体と、かなり厄介な群れを引き連れて。
「こっちだ!絶対に足を止めるなよ!」
和風の装束に身を包んだ彼らの一団は、多数の怪物に追われながら、上層へと繋がる連絡路へと急いでいた。
「すみません、桜花殿…Lv.2になったばかりなのに…!」
戦闘で指示を出す大男に背負われていたのは、直近で「絶✝影」なるイタい二つ名を与えられた少女。ライガーファングによる奇襲を受け、その背中は肩口から深々と抉られている。
なまじ怪我の範囲が広いせいか、最低限の止血しか施せていない様子が痛ましい。大怪我を治療できる程の高価なポーションも持ち合わせていないため、治療は地上の治療院で行うしかない。
「謝るのは俺の方だ!お前に負担をかけすぎた…!」
息を切らして懸命に駆けるものの、怪我人を抱えた状態ではどうしても速度が落ちる。
_このままではすぐに追いつかれる_
_Lv.2は自分のみ_
_一体どうすればいい_
思考が拡散し、リーダーとしての重責と重圧にいい加減耐えきれなくなった頃、ようやく連絡路へと繋がる
「…なにッ!?」
しかし、そこで待ち受けていたのは
短剣が、大刀が、戦斧が、矢が、かの恐ろしき
既に怪物と戦闘を始めていた同業者が、怪物共の視線を釘付けにしていた。今なら、ほとんど戦わずに連絡路まで逃げ切れるだろう。しかしその行動は、あのパーティーに後ろから迫る脅威を押し付けるということに他ならない。
ダンジョンに於いて、モンスターに追い詰められ逃げ惑うパーティーが同業者と遭遇した時に取る行動は2つ。
1つ目は、双方がその場で協力し、追手を撃退する事。しかし片方が既に追い詰められている以上、双方が合流したとしても現状を打開できる可能性は高くない。
だからこそ、
「くっ…行くぞ!」
「な、桜花!?」
隊長格らしき大男が、上層への連絡路を指して誘導する。
その指示に、少し遅れて追いついた少女が驚愕する。
2つ目の行動、それは"
相手方に怪物共を押し付け
「だ、駄目だよ桜花!それじゃ、あの人たちが…!」
原作と違い未だ健在の
「誰とも知れん奴らよりも、お前たちのほうがよっぽど大切だ!」
「でも…」
「
仲間の反対を押し切って、声を張り上げる。
しかしその目に映るのは、ひとえに仲間への思い。
どんなに
「…ッ!」
非常な選択を受け入れた極東の一団は、ある者は下を向き、ある者は歯噛みしながら、連絡路へと走り出した。
「ッ…押し付けられました!『
和風な装束に身を包んだパーティーが横を走り抜け、その後ろの通路からヘルハウンドが飛び出した時、真っ先にソレに気付いた指揮官が叫ぶ。
しかし、こちらとしてはその程度、想定通りなのである。
「おい、『
決死の覚悟で走り去る彼ら彼女らの耳に、張りのある声と共に何かが投げられる。
反射的に受け取った大男の手には、簡易的だが細工の施された小瓶が。透けて見える水色から
「
「何…!?一体なぜ…!」
「そいつ、怪我してるんだろ?明らかにヤバそうだ」
自分の背中を指差されハッと気付く。いつの間にか息が相当弱くなっている。
「引き受けてやるから早く行け!ただし、借りは三倍で返せよ!」
「な……いや、恩に着る!!」
一連の流れに驚愕したまま、大男は再度走り出す。
こちらの状況を瞬時に把握し、さらに貴重なポーションまで投げ渡したあの男に対して、背負った仲間の様子にすら気付けなかった先程の自分が、ひどく情けなく思えてきた。
「クソッ……ひとまず、安全な場所を確保するぞ!」
せめて情けないまま終わりはすまいと、一つづつ慎重に判断を重ねながら近場の
「…右京様〜?なーに勝手に引き受けてくれちゃってるんですか〜?」
一連のやり取りを見た小さな指揮官は、その体躯に見合わないほどドスの効いた声を吐きつつ、その目からは妖しく光る
「どうせ押し付けられる事は変わらん!なら少しでも恩を売っておいた方が良いだろ、多分!」
「そうだとしても場当たりが過ぎます!もう少し自重というものを…!」
「おいリリ助、言ってる場合じゃねぇぞ!」
口論も弾まぬ内に、前衛から鍛冶師の声が響く。
彼らが逃げてきた方向からは何匹もの獣の吠え声が、だんだん大きくなって聞こえてくる。
「ッ…撤退します!こちらへ!右京様は
「了解…って俺かよ!?」
「我儘はこれでチャラです!」
的確な指示が飛び、全員が駆け出す。
少し乱暴な"持ちつ持たれつ"を経て最後尾を走るが、吠え声はみるみる近づいてくる。
「…これ、どんどん増えてませんか?」
弓を携えた少女が、少し震えた声で指摘する。
実際、モンスターの集団は自分達に接近すると同時に周囲の仲間を巻き込み、より規模を大きくしていた。
「右京様、アレを!」
「応、次の曲がり角で
短い受け答えの後にブツを受け取り、全員を曲がり角の方に先行させる。こちらは後ろを走りながら仕込みを行う。
腰のポーチから"秘密兵器"を引き抜き、リリから受け取ったものも含め道の真ん中に広く間隔を開けて落としていく。
その数は5個、これでは
「これでよし……ヴェルフ、準備を!」
「あぁ!【燃え尽きろ、外法の
鍛冶師が己の魔法を起こし待機させた直後、モンスターの大群が濁流の如く押し寄せるのが確認できた。
その圧倒的な物量に怯むものの、一歩も下がらずに迎え撃つ。
十分に引き付けて…引き付けて……
「…今だ、ヴェルフ!」
「【ウィル・オ・ウィスプ】!」
詠唱の完了と共に、前に突き出した鍛冶師の掌から透明な光が放たれ、ヘルハウンドの
ヴェルフの"
ドゴォォォォォォォン!!!!!
爆発は加速度的に勢いを増し、壁越しにも関わらず途轍も無い音と振動が背中を打ち付けた。あらかじめ耳を塞いでいなければ鼓膜が無事でなかったかもしれない。
「さっきの、すごい威力でした…」
「ナァーザさん特製の火薬だからな…ちょっとビビった」
耳を抑えて唸るラーマを撫でつつ、あちこちにヒビが入った壁面を確認する。
秘密兵器とは、薬師であるナァーザさんに調合して頂いた黒色火薬を詰めた
"調合"アビリティの効力により効果が飛躍的に高まった火薬は、素人が教えた粗雑なレシピでも十二分な威力を発揮したようだ。
その爆発力は、恐らく火炎石にも全く劣らないだろう。
ちなみに、単体での起爆には魔石製品に使われる『撃鉄装置』を使用している。原作を知っている身からするといい気はしないが、この際問うまい。
「でも、こんなに高威力だとそうそう使えないね。階層に穴が空きそうで…」
「ハハッ、おいベルよ、あんまフラグ立てるもんじゃないぜ?マジで崩落でもしたら……しないよな?」
さて
身構えている時、死神は来ないと言うが。
ことダンジョンに於いて、その言葉には例外が生まれる。
ダンジョンは狡猾だ。
果実の薄皮を一枚一枚剥がすように冒険者を追い詰め、消耗しきったところを見計らい、満を持して牙を剥く。
しかし束の間の成功体験に安堵し、愚かにもそこが安全地帯であると思ってしまった場合、
「…?」
「ん、どうした、ラーマ?」
短い耳をピンと立てて動かない少女に、違和感を覚えた。
「なんだか…まだ揺れている気ようながして」
面倒な前置きのない、丸かじりである。
瞬間、床面に亀裂が走り、壁が傾くような錯覚を覚える。
何が起こっているか理解できた頃には、とうに平衡感覚が機能していなかった。
__縦穴が開いた!?
岩場を転がり落ちながら、なんとか近場にあった小さな頭を抱き締める。
全員の足が例外なく支えを失い、恐ろしいほどの勢いで落下していく。
それは、少なくとも先程の爆発が原因ではない。
その崩落が地滑りとも断層とも言えない特異な形であったからだ。
"地形の変更"
まるで、何かの意思が介在しているかのような妙手であった。