ちくしょう、あと少しだったのに。
殆ど動かせない身体に苛立ちながら悪態をつく。
探偵業の傍ら、かつての事件を追う中でやっと掴めたてがかり。
それを逃さないようにと、焦ったばかりに……。
重症も重症。爆発事故に巻き込まれた俺は、大火傷を負ったばかりか、内蔵もやられてしまった。四肢は殆ど動かせなくなり、呼吸も息苦しい。
医者にはなぜ生きているのかと言われたくらい、俺の状態は酷いらしい。
……確実に重い後遺症が残るという、少なくとも今後の生活で寝たきりは確定らしい。
ああ、くそったれ。
神様なんてもんがいるなら、この状況から救ってくれよ。
それか、俺の家族を殺した犯人を、ぶち殺してくれ。
やっと、俺を、赦せるかもしれねえってのに。
なぁ神様。
ーー15年前。
俺の家族は殺された。
華人系犯罪グループの犯行による連続バスジャック事件。
ジャックされたバスでその人質となった乗客として妻と息子は乗っていた。
事件が収束し、妻と息子は帰ってきた。
小さな骨の欠片となって。
バスジャック事件は、犯人の自爆という最悪の結末を迎えた。
乗客は解放されないまま、バスは文字通り爆発したのだ。
炎上するバスの映像は、今でも俺の脳裏に焼き付いている。
妻と子供は、損傷が激しかったらしく、僅かに残った体の一部だけを遺骨として拾うこととなった。
ああ、今でも覚えている。その憎しみを。
絶える事ない憎悪は、今なお俺の中で燃え続けている。
たとえ世間が事件を忘れようとも、俺は忘れないだろう。
――実行犯はたしかに捕まった。
しかし、何処からか圧力でもかかったのか、それ以上の捜査は行われなかった。証言も証拠も揃っていた。明らかに後ろに強大な組織の影が見て取れるのに、だ。
警察の端くれだった俺は当然上に反発したが、訴えが聞き入れられる事無く、それどころか僻地へと飛ばされた。大いに失望した俺は、職も何もかも捨てて、家族との思い入れのない場所へと渡った。
しかしそれでもやれることはやろうと、探偵事務所を立ち上げた。
そしてそんな俺についてきた、元部下の助手も一緒に。
そうしてやっと掴めたてがかりは、どうやら奴さんの罠だったようで。
その建物の爆発に巻き込まれた俺は、助手を突き飛ばした代わりに重傷を負ったって訳だ。
このまま、何も出来ずに俺は死ぬのか。
そんな悲観に暮れていると、扉のノック音が響く。
誰だ?
そう訝しげに睨んだまま、助手に個室の扉を開けさせる。
出てきたのは、スーツに身を包んではいるものの、いかにも神経質そうな研究者然とした若い男。
その両傍らには、生意気そうな小学生程の少女二人が立っている。
男は機巧研究者の西野と名乗り、こちらの事情についていくつか尋ねた後、
「……お困りのようで。動かせる身体が欲しいというのなら、義体はいかがでしょう?」
と提案をしてきた。
義体。
身体不自由者が、まるで自分の体のように動かすことの出来る第二の身体。サイボーグ化を意味する言葉。手足の各部分に使用される義肢、人工臓器、組織生体工学の技術がふんだんに使われ、まるで人間そのものだと持て囃されている最新技術の結晶でもあったはず。
しかし、それには莫大な費用がいるものでもあり、ましてや、今の義体など、実際には人間をよく真似た機械のような見た目でしかなく、完璧な人間とは程遠い。身体を動かすにしても、まだまだ課題の多い技術と言える。
金の無い、ましてや重症人になぜそんな提案を?
男が言うには、最新型の超高性能義体の試作品を動かせる演者を探しているのだという。
義体を動かすには演者がいる。それも、身体に欠陥を抱える人間でも動かせるようにあらゆるデータを取れるような。
勿論、試作品の演者ともなれば費用は払わないで良いとのこと。
「なルほド、そレデォれにてイあンを?」
「ええ。ちょうど良い演者なのでは、と」
身も蓋もない物言いに笑いが漏れる。呆気からんと言い放つ様に、悪意は感じられない。
どうせ、腐る未来があるだけだったのだ。助手にも迷惑をかけている。そして何より、仇を打つためにまだ終われない。
渡りに船とはまさにこの事。
「ああ、いいぜ。その提案、受けてやるよ」
「ありがとうございます、義体についてなんですが…」
「女性型なんですよ、その義体って」
「は?」