パルデアでアイドルを目指す   作:ゾネサー

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Shall we dance?

「今日はわたしが大好きなお買い物をテーマに数字をお勉強していきましょう!」

 

 にこやかに笑いながらタイム先生が語り掛ける。数学の時間が始まった。アカデミーに入学してから算数が数学になったのが気分を大人にさせてくれる。

 

「——それじゃあみなさん一緒に考えてみましょう! 二百円のモンスターボールを二千円で買えるだけ買うと最大でいくつボールが手に入るかしら?」

 

 机を合わせての話し合い。見たところネモさんは既に答えが分かっているけど、泳がせている様子。けど今は私も大人の気分。答えもすんなり当ててみせるわ。

 

「これは引っ掛け問題ね。十個じゃないわ」

 

「おっ!」

 

「ずばり植木算よ」

 

「えっ。植木算って……ある距離に一定間隔で植えると木の本数は何本かってやつだよ?」

 

「そう。かつて私が引っ掛かって屈辱を味わった問題よ」

 

「割と些細なことでも受けちゃうんだね」

 

「つまり二百円毎に間に置くと置き換えて、答えは九個よ!」

 

「ミラってクイズ番組で深読みして間違えそうなタイプだよね〜」

 

 そう言ってネモさんは白いボールを見せてくれる。プレミアボールと言ってモンスターボール系統を十個買うとおまけに一つ付いてくる記念品らしい。思わず数学の問題じゃないと言ってしまった。けど数学は計算だけじゃなく、そういった注意力を問うものが多くて、それが勝負にも生きるのだとか。言われてみて初めて、モンスターボールを買う問題なのに、手に入るボールをモンスターボールに限定していないことに気付いた。知識が足りなくて答えを出せずとも、その違和感に気付くことは出来たのかもしれない。何が植木算よ。

 

「……ん? どうしてネモさんがプレミアボールを持っているの?」

 

「もちろんボールを十個買ったの!」

 

「買ったボールは?」

 

「やだなーミラってば。ゲットするに決まってるじゃん! 買った数だけ!」

 

「え……。ゲットしたポケモンは……」

 

「当然全員戦えるようにするよね!」

 

 つまりポケモンを同時に連れ歩ける最大数の六匹を優に超えて、連携の呼吸が違うそれぞれのポケモンと息を合わせているってこと……? クワッスとウパーだけであれだけ大変だったのに。改めてネモさんという人物を思い知らされたような気がしたわ。……いや、気後れしている場合ではないわね。私も頑張ると決めたんだから。放課後いつものバトルが終わった後にコツを聞いておきましょう。

 やがて授業の終わりを告げるチャイムが響き渡った。教室が喧騒に包まれる中、私は質問に向かう。授業のことはネモさんのフォローもあって良く分かった。それとは別に気になることを耳にしたからだ。

 

「タイム先生。個人的に聞きたいことが……」

 

「あら。何かしら?」

 

「以前、フリッジタウンのジムリーダーを担っていたというのは本当ですか?」

 

「ええ。本当よ」

 

「その……どうして引退されたのか聞いても良いですか?」

 

 フリッジタウンはテーブルシティからは離れた町。ポケモンリーグの視察が厳しいと聞いた場所だ。実際に視察がどういった基準で行われているか、よく分かっていない。そういった事情が関連しているのであれば、知っておきたい。

 

「ううん。質問に質問で返してごめんなさいね。知りたい理由を教えてもらってから決めても良いかしら?」

 

「私、ジムリーダーを目指していて。アイドルと兼業しようとしているんです」

 

「まあ」

 

「だからもし厳しい現実があるのなら、予め覚悟しておきたいの……」

 

「よく分かったわ。やめた理由はね。もっと先生に集中したかったからなの。ジムリーダーが嫌だったりしてやめたわけじゃないから……安心してね」

 

「そうだったんですか……」

 

 どうやらジムリーダー側じゃなく、先生側の事情らしい。こうして見るとジムリーダーと兼業している人は多いんだなと思った。集中したかったからか……。お母さんも『ムクロジ』に拘ったことでもう一方の夢を諦めていた。事情は異なるのでしょうけど……両方を欲張るなら、相応のビジョンを持つ必要性を感じたわ。

 

「アイドルね。うふふっ」

 

「……?」

 

「ああ、ごめんなさいね。妹のライムがプロのラッパーで、それでいて今はジムリーダーをこなしてくれているから。つい重ねてしまったの」

 

「……!? ラッパーとジムリーダーを兼業……! も、もう少し詳しく聞かせてもらえますか!?」

 

「ええ。もちろんよ」

 

 そこからは自分でもビックリするくらい話を聞き込んでしまった。アイドルとラッパーにはライブという共通項がある。実際ライムさんはライブ会場をバトルコートとしていて、ポケモンバトルだけでなくライブやラップバトルを行なっているらしい。タイム先生が特等席から観た時の写真も見せてもらった。そこにはステージ上で先生とよく似た女性が熱く歌っている姿が写し出されていた。重ねられたスポットライトが朧げだったビジョンを照らしてくれているようだった。

 

「お役に立てたかしら?」

 

「とっても……!」

 

「うふふ。キラキラ熱視線ね。わたしは今、先生が一番楽しいの。あなたも自分が楽しいと思える道に進んでね」

 

「はい! ありがとうございました!」

 

 夢中になるあまり時間を考えずに聞きすぎてしまったわ。次の授業の準備で忙しいでしょうに、タイム先生は親身になって聞いてくれた。アカデミーのパンフレットには生徒を尊重して……といったありふれた文言が書かれていたけど。ここの先生は本当にそうしてくれる。考えを一蹴せずに聞いてくれるから、話しているうちに自分がやりたいことが段々分かってくる。それがすごくありがたかった。

 放課後。私はバトルコートで待っていた。ネモさんは生徒会長の用事で遅れるらしい。だいぶ申し訳なさそうにしていたけど、あくまで申し込んでいるのは私なのだから構わないわ。それに一年生ながら選挙で堂々と立候補していく姿は格好良かった。そのまま本当になっちゃうんだもの。凄いことよ。

 

「ねえ。クワッス、ウパー。ちょっといい?」

 

「チルッ」

 

「うーぱっ」

 

 アカデミー内は物を壊してしまうことがあるため、一部を除きポケモンを出すことは校則違反とされている。折角なのでこの待ち時間で伝えることにしたわ。

 

「シャルウィダンス?」

 

「……?」

 

「ふふっ。セイジ先生の言語学で習ったの。意味は……」

 

 先程の写真で写っていたのはライムさんだけじゃなかった。ボチというポケモンがDJをしていたことに気付いたの。意外だったわ。それに聞くところによるとハカドッグにパフォーマンスを手伝ってもらうらしい。私は今までソロデビュー以外の選択肢が浮かんでなかった。けど少し注意してみれば、他の選択肢があったのよ。

 

「私と一緒に踊って欲しいな」

 

 だって今の私は、一人ではないのだから。

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