「自己紹介できるかなあ?」
「アオイです! よろしくお願いしまーす!」
「ざわざわ……。元気がいい子だね」
ネモさんが戻ってきたと思ったら転入生を引き連れて来た。私と同い年くらいの三つ編みの女の子。
「——他に質問がある人はいますかねえ?」
「じゃあわたし! いいですか?」
元々げんきのかたまりのような彼女だけど、今日のネモさんはいつもより気分が高揚している気がしていた。その理由が分かるまで時間は掛からなかった。
「アオイ……さんは、この学校で勉強していって……将来何を目指したいですか?」
「すっごい強いトレーナーになりたいです!」
「……! 絶対なれる! なれるって! 一緒にいっぱい強くなろっ!」
返答を聞いたネモさんの嬉しそうな笑みを私は見逃さなかった。そして分かってしまった。ついに彼女は見つけたんだと。自分に本気を出させてくれるかもしれない……強くなることが好きで追求しきれる人を。
「あなたがミラさんですか! ネモさんから話聞きました!」
「ええ、そうよ。ミラでいいわ。多分同い年でしょう?」
「あ、そうですね! あたしもアオイで大丈夫です! 良かったー。年上の人ばかりに会ってたので緊張してたんですよ……」
「えー! そうだったの!?」
自己紹介の時間が終わったらネモさんが私のことを友人として紹介してくれたわ。アオイは思ったより背が小さくて、屈託なく笑っているのがどこか小動物っぽさを覚えさせる。
「だって初めてのポケモンバトルなのに、わたし負けちゃったんだよー!」
「あれはホゲータが、ネモさんのニャオハに相性抜群だったからですよー」
「それにテーブルシティの前でニ対ニで再戦した時も負けちゃったの! しかもわたしだけテラスタル使っちゃったのに!」
「テラスタル知らなかったからビックリしちゃいましたよ! たまたま変わったタイプの弱点を突ける技があって助かりました!」
……私が初めて戦った時なんて相性にすら理解が追いついてなかったわね。それにテラスタルの知識が無くても、テラスタイプを即座に理解して弱点を突けたということ。それに新しく捕まえたばかりのポケモンと早くも連携を取れてるみたいだし……今の話だけでアオイのポテンシャルの高さが窺えたわ。
その後ネモさんが職員室に呼び出されたから、良い機会ということでアオイと手合わせをしてみた。
「早速行くよー!」
「……! テラスタル……!?」
驚くことに彼女はオーブを手にしていた。……ネモさんが推薦したのかしら? とにかくオーブが片手で軽く放られるとホゲータの頭が燭台により灯された。
「『かみつく』! 咥えたらそのまま『やきつくす』をお願いね!」
「……! ターンして『ダブルアタック』よ!」
そして勝負が終盤に差し掛かった頃、どうにかしてタイプ相性の有利を突こうと前がかりになったところを躱され、背後を取られてしまったわ。なんとかクワッスが後ろに抜くように体重移動をして、反転しながらの蹴りを炸裂させてくれた。
「『みずでっぽう』!」
「まだ間に合うよ! 『やきつくす』!」
ターン直後のクワッスも蹴りで身体が宙に浮いたホゲータも左右への移動は難しかった。そこを狙って水を放つと、ホゲータは落ち着いてバランスを取り炎を放ってくる。追い込まれた時に特定のタイプの威力が上がる特性……! それがテラスタルと合わさり爆炎となってクワッスを包み込んだ。
「あちゃー……引き分けですね」
「そうね。まあ……私の負けみたいなものよ」
「どうしてですか?」
「さっき貴女も言っていたじゃない。相性が抜群だったから勝てたと」
「いやー……ホゲータは頑張ってくれましたけど。クワッスのテラスタイプが水だったらやられてたので!」
「……? 何故違うと知っているの?」
「元々のタイプとテラスタイプが同じだとタイプ一致の威力が五割増しから二倍になるってネモさんに聞いたんです! 弱点を突ける水なら使わない理由はないですし……ってことはこっちの炎技を半減できないテラスタイプだったから、使えなかったんじゃないかって!」
「……凄いわね」
確かに私はテラスタルを使わなかった。そしてそれを使えなかったのだとアオイは半ば確信していた……。これで今日初めてポケモンバトルをしたというのだから、堪ったものじゃないわね。
「あ! そうだ! 回復したらさっきの……ターン? の動きまた見せてくれませんか!」
「ええ。いいわよ」
再びターンの動きを見せたら、目を輝かせて自分でやってみたいと言い出した。好奇心旺盛な子ね……。折角だから彼女が校長室に呼び出されるまでは指導してみたわ。
その後自室に一人戻った私はベットに横になりながら、テラスタルオーブを掲げた。
「ネモさんに試験受かったよって言うタイミング逃しちゃったな……」
ただでさえアオイの世話を焼いている上に、生徒会長としても忙しいのだから。あっさりアオイが使いこなしているのに、わざわざ伝えに行くこともないわよね……。
その翌日。ペパーさんが部屋を訪ねてきた。
「どうしたの?」
「あー……その、なんだ。秘伝スパイスの話なんだけどさ……」
頬を掻いていてなんともバツが悪そうな表情をしていたのだけど、意を決したようにこちらを見つめてきた。
「秘伝スパイスを守るヌシポケモンってのがいるって話はしたよな?」
「ええ」
「最初はミラに協力を頼もうと思ってたんだけど。昨日色々あってな……。アオイに頼んだんだ。ミラに対してあやふやなままなのは失礼だと思ったからさ。伝えておこうと思って」
「……そう……。……うん。良かったじゃない」
「えっ?」
「アオイは強いもの。彼女に頼んだのも分かるわ」
「そ、そうか? そう言ってくれると助かるぜ。次の宝探し、お互いに頑張ろーな!」
「……ええ。頑張りましょう」
そうしてアオイがアカデミーに入学して日が経ち、冒険が始まる日がやってきた。
「宝探し中再会したらアオイとも戦わせてよね! ……そうだ! この前登録したジムの場所! 目的地に設定してみたら?」
「秘伝スパイスを守るヌシのすみか! 一緒に行くんだもんな! チャンピオンなってる暇ないぜ」
二度目の宝探しが始まった。階段を降りていくと何やら揉めている様子だった。どうやら板挟みにあっているよう。
「決めるのはアオイ自身……だったかな?」
スマホロトムを通す謎の人が言うように二人とも強制はしていない様子。あくまでアオイ自身の宝探しの旅と……甘いわね。二つの道なら頑張れば通れるかもしれないのに。
「あっ、ミラ! ネモさんもう西門に向かっちゃったよ!」
「いいの。貴女に頼みたいことがあって」
「ええーっ!? ミラも!? こりゃ大変だぞ〜」
「……? ああ、違うのよ。私がお願いしたいのは、私のことじゃなくて。二人の頼みをどちらも聞いて欲しいの」
「えっ?」
「無理を言っているのは分かってるの。それでも……あの二人にとってどうしても叶えたいことだと思うから」
「なんだー。ビックリしちゃいましたよ! 最初からそのつもりです!」
「……!? そ、そうなの」
「あとカシオペアさんのお願いもまだやるとは決めてませんが、話は聞いてみるつもりです!」
「ええと……大丈夫なの?」
「大丈夫です! みんな決めるのはあたし自身って言ってくれましたから! ってことは全部選んでもいいってことですよね!」
「……!」
全ての話が聞こえたわけじゃないけど。ペパーさんもやるならチャンピオンになっている暇は無いと言っていた。それなのに他の二人の頼み事も受けようとしているなんて。……どうして私はそう思えなかったんだろう。アイドル、そしてジムリーダーを目指すと決めて。光が射した楽しさを追求する道……その影になった強さを追求する道は選べなかった。あれだけ寄り道は大事だと、学んだはずなのに。現実を知った気になって、夢を見られなくなっていた……。
「……ふふふっ」
「……? おかしなこと言っちゃったかな?」
「そうね。おかしいわ」
「ええーっ!?」
「だから面白かったの。……貴女に道を進むエネルギーを分けてもらったわ」
「そっかー! なら良かったー!」
最近なんだか意識して笑うことが多かったような気がする。だからなのかしら。すごくスッキリしたの。
「あっ! ミラー!」
「ネモさん!? どうして出口に?」
「お母様が心配性だから一度帰ってから出発するって言ってたからさ! 西門で待ってれば来ると思ったんだ〜。最近、なんだかタイミング全然合わなかったし!」
「忙しそうだったんだもの」
「帰ってる間に溜まってた生徒会長の仕事、宝探しが始まるまでに終わって良かったよ! それでさ! ミラも再会したら戦わせてよね! 結局テラスタルも試せなかったし!」
「あら……? 試験の合否伝えてないわよね?」
「えっ! 受かったよね!?」
「え、ええ……」
「もー! ビックリさせないでよ! 作業してる時、どうテラスタルして戦うかで頭いっぱいだったんだから!」
「そうだったのね。……ごめんなさい」
「あー! 謝った! 友達でしょ? そういうのは無し!」
「……! ふふっ、そうだったわね。喜んで挑ませてもらうわ」
「うん。いいお返事! じゃ、二人とも再戦楽しみにして二十匹くらい育てとくからー!」
「は、はい! ……もう見えなくなっちゃった。いいなー。仲良しなんですね!」
「ええ。でももうネモさんは貴女のこと友達と思っているはずよ」
「そっかー! 嬉しいなー。……あ、そうだ! ペパー先輩も秘伝スパイス取れたらミラにも食わせてやるんだーって言ってましたよ!」
「……! ふふっ。そう……嬉しいわ」
「あたしも食べさせてもらえる予定なんです! 楽しみだなーサンドイッチ! あたし、あんまり上手に盛れなくて!」
「そうなの? 良かったら教えましょうか?」
「いいの!?」
「ええ。ちょうど料理する場所も予約してあるし」
「わーい! やったー!」
セルクルタウンに帰ってきたのはネモさんが言ったことに加えて、長旅に備えてポケモンが栄養を取れる料理のレパートリーをお母さんから学ぼうと思ったから。まだお母さんはシフト中だったし、その時間を使って教えることにしたわ。まずは自由に作ってもらってるけど、食材の切り方に問題はないわね。あとは盛り付けるだけ。大きな問題は……ん?
「ん〜。ここだー!」
「なんでそんな高さから!?」
「どうしたの?」
「こっちのセリフよ!?」
「えー? 楽しいじゃないですか!」
「もう……ふふっ。しょうがないわね」
アオイはそれはもう無邪気に食材やパンを高所から盛り付けていったわ。好奇心旺盛というのも困ったものね。おかげで色々と振り回されたわ。でもそんな彼女の心と共鳴するように、とても楽しい時間を過ごせたの。
これにて第二章完結となります。良いお年を〜。