たとえその歩幅は小さくとも
用事を済ませた私はセルクルタウンを旅立った。アオイはこのままジムに挑むらしい。勝負を見て欲しそうにしていたけど、結果は火を見るよりも明らか……。代わりに再戦の約束をした。きっとまた会った時に彼女は今よりもっと強くなっているでしょう。私もそうでありたい。
道中では何人ものトレーナーと戦った。前より勝てるようになってきている。その中には以前戦った人もいた。みんなもまた少しずつ強くなっている……強さを追求するというのは追い抜かれて、追い越してを繰り返す追いかけっこのようなものなのかも。
「……追いかけっこは相手がいないと出来ないわよね」
少し日が経ち、私はボウルタウンの近くまでやってきていた。ただしばらくはその辺りで過ごしていたの。私の最終的な目標はジムリーダーの資格となるチャンピオンランク……。けど今は想像もつかないから。前にハッコウジムに挑んだ時のように手加減があるから何とでもなるみたいな慢心は捨てて。目の前のジム一つ一つを目標に、できることは全てやりたかった。
「ボウルジムのジムテストは……キマワリ集めです!」
準備も心構えも済ませ、私はボウルジムを訪れた。コルサさんの姿は見当たらず……創作中かしらね。ジムテストの内容は町中に散らばったキマワリを見つけて連れてくること。あっさり見つかる子もいれば、自然の迷路に紛れる子もいるよう。
「お願いね」
「ピーピー!」
私が繰り出したのは鳥ポケモンのオドリドリ。連携に自信ができたからこそ迎え入れられた新しい仲間よ。
「ジムテストクリアです!」
空からの案内を受けてキマワリを難なく集めることができた。そうして腕に降りてきたオドリドリを撫でている時だったわ。
「なるほどな。高所からはよく見える。キサマの姿もな!」
「えっ」
「とうっ!」
またコルサさんが高いところから降りてきたの。どうやら風車の上にいたらしい。
「ポケモンに協力してもらえば、こうして足を痛めることもないというわけだ」
「飛び降りなきゃいいじゃない」
「ふっ……ワタシの飛び降りがあることで作品は始まるのだ!!」
「相変わらずね」
そして勝負が始まったわ。私はウパーを、コルサさんはチュリネを送り出した。
「植物の恐ろしさを描くぞ! 『ねむりごな』をウパーに吸わせ、『メガドレイン』により栄養を吸い取るのだ!」
「眠いのね。なら眠りましょう。『あくび』を出して、ねんねんころりよ」
それぞれの技を浴びて互いに寝てしまったわ。けれど時間差があって、先に眠ってしまったウパーはかなりダメージを負ってしまう。
「ほう……? 随分とこの前とは様相が異なるな」
「貴方にとってのアートのように、私にも目指したいものがあるの」
「面白い。キサマの味! 匂い! それらを感じさせてみよ!!」
言葉だけでなく、バトルで語ってみせろと……。望むところよ。
先に起きたウパーの『ポイズンテール』が炸裂し、チュリネを倒した。やはり草タイプのジムだけあって、毒は弱点のようね。続くミニーブに倒されてしまったけど、『あくび』により夢の世界へと誘って……。えっ!?
「植物は太陽が昇れば目覚める。そう。『はやおき』なのだ!!」
『ねむり』が早く覚める特性という訳ね……。攻撃は間に合わない。
「シャルウィダンス? 一緒に踊りましょう」
「応じよう! 葉っぱを舞わせ、羽根とのコントラストを作り出すのだ!」
オドリドリが『フェザーダンス』を踊ると羽根がミニーブを包み込んでいったわ。これでこうげきががくっと下がった。『たいあたり』も、今放たれた『はっぱカッター』もぶつり技。躱せずともダメージは……!?
「鳥と植物は共存関係でもあり、同時に敵対関係でもある! 生存競争に卑怯の二文字はない!!」
急所を狙われた!? 相性の半減が無かったらやられてたわ……。やはり一筋縄ではいかないわね。
「裏切り者に『エアカッター』を。切られた痛みを教えてあげて」
「……! 『はっぱカッター』で斬り合おうぞ!」
「今のうちに実をついばんでしまいましょう」
「ぐぐ……!」
衝撃波と葉っぱが交錯したけど、『フェザーダンス』の影響もあってこちらの方がやや押していたわ。衝撃波を躱すことに必死だったミニーブを
最後のポケモンはウソッキー。この前と違ってテラスタルをしてこなかった。岩タイプとして飛行タイプに有利を取る立ち回りで残り少ない体力を削り切られてしまったわ。けれど『フェザーダンス』を一度挟めたのは小さくないわよ。
「行くわよ。クワッス」
「チルッ……!」
奇しくも前にやられた時と同じマッチアップ。でも全てが同じじゃない。テラスタルオーブを握り締め、私はそのことを強く自覚した。
「ワタシが描くアート! キサマの審美眼で捉えてみせよ!」
「言われなくとも!」
私がコルサさんを見ているように、コルサさんもわたしを見ている。見るということは相手の立場になって感じるということ。相手の一歩先を行こうとまさに追いかけっこをしているようだった。
コルサさんは『くさわけ』の指示と同時にオーブを解放してきた。私も応じるようにテラスタルさせた。あちらは岩のままではいられない以上、先に仕掛けてくるわよね。あとは肌で感じたものを信じる……!
「『ローキック』で崩しましょう——」
「……! 向き合うか!」
技同士が真っ向からぶつかり合ったわ。双方ダメージを負ったけど、『くさわけ』でスピードに乗ろうとしていたウソッキーの足を蹴りで払った。……まだよ。焦っちゃダメ!
「『ダブルアタック』で叩き付けて——」
「『いわおとし』だ! 生き延びてみせよ!! ……!?」
指示が同時に送られた。追撃に入ったクワッスの一撃目は岩をぶつけられて防がれたものの、放たれた二撃目のパンチでウソッキーが地面に叩き込まれる。
「——返す『つばさでうつ』のよ!」
「フッ……」
そしてターンして振られた翼が、地面にバウンドしたウソッキーの身体を吹っ飛ばした。弱点を突かれたウソッキーは起き上がることができなかった。やったわ……! 飛行技を打つタイミングを上手く見計らえた!
「歌うたいと、舞うポケモンか……。じつに……アヴァンギャルド!! キサマは見事足掻きを次に繋げてみせた!」
「……!」
「創造と破壊は表裏一体……。時にキサマのような思春期は心までも破壊されかねない」
私なりの解釈だけど。破壊は負けて現実を知ること。創造はその上で夢を見るだけでなく、広げること。夢は見るだけでは叶わない……。アカデミーの日々で私は色んなことを教えてもらった。だから夢の大きさがよく見えるようになって、これ以上広げては叶わないと創造をやめてしまった……。誰も分かるはずのない限界なんてものが見えた気になるなんてね。
「修復できたの。友達がいてくれたから」
「そうか……。……良き友を持ったな」
「ええ!」
ジムバッジを手渡すコルサさんの顔はいつになく優しげだった。
ポケモンセンターでの回復を待つほんの少しの時間。バッジが二つ収まったケースを見ながら先程の話を思い出す。纏っていた薄い自信の皮が剥がれてから、よく感じるようになった……。なんて弱いんだろうって。それはバトルの強さだけの話じゃなくて、心のこと。ポケモンや大人や友達……ひいてはこのジムバッジに至るまで、色んなものに支えられちゃってる。自分で立っているつもりでも、こんなに支えがなかったら少し押されただけで折れてしまう。そんな弱さが嫌になった時もあった。でも……。
「お待たせしました! みんな元気になりましたよ!」
「ありがとうございます」
受け取ったボールを腰のホルダーに付けると、なんだか力が湧いてくる気がした。強くなりたい……。いきなりは、難しくても。いつか支えられなくても大丈夫なようになりたい。まずはテーブルシティの近辺のジムから。その中でも一番近いハッコウシティの方向を見渡して、私はまず一歩踏み出してみた。