ちょっと寄り道しすぎたかしら。夜になってしまったけれど、ハッコウシティに辿り着いたわ。昼と大差ない灯りに照らされて、街は活気付いている。懐かしい……。
「おはこんハロチャオー! ……って、ええ!? ミラ〜!?」
「おはこんハロチャオ。久しぶりね……。会いたかったわ」
またこうしてナンジャモさんと会える日が来るなんて。嬉しくて仕方なかった。
「ボクもだけど! 聞いてないよ〜!? どうしてまたジムテストに!?」
事前に連絡を入れなかったのには理由があった。ナンジャモさんに知ってほしかったの。寄り道をしたおかげで、変われたことを。別れてからの経緯を話したくもあったけど。それは後でも良かった。今の私を知ってもらうために、ポケモンバトルを通して肌で感じて欲しかった。彼女がそうしてくれたように。
「説明すると長くなっちゃうわ。今は、貴女に見届けて欲しい」
「むむー……分かった! ジムテストは前のと同じにする?」
「他のチャレンジャーと同じにしてもらえるかしら」
「りょーかい!」
あまり貴女に支えてもらってばかりだと、自分の足で進めなくなりそうなんだもの。もう十分過ぎるくらいしてもらったから。私は自分と自分のポケモンを信じて正規のジムテストを受けることにした。
かくれんぼの合間にテコ入れと称してジムトレーナーとのバトルが挟まれる。
「『マッドショット』よ!」
まずはリョウタさんのルクシオ……。同じ過ちは繰り返さないわ。ここはポケモンバトルの基本中の基本、相性を重視して地面技で弱点を突いて勝利を収めた。
「もう一度『ポイズンテール』!」
続くヒロユキさんのモココとシビシラス。厄介だったのがシビシラスが『ふゆう』で地面技が当たらないこと。けれどあちらは電気技が地面タイプのウパーに効かないから。ここはもう一つのタイプ一致技の『ポイズンテール』で倒し切れた。
「ジムテストクリア〜! うんうん。教えたことはよーく身に染みてるみたいだね! でもそれだけじゃボクは倒せないぞ〜?」
「分かっているわ。それでも貴女に……勝ってみせる!」
「ほっほ〜? 言うようになったジャン!」
回復を終えて私はバトルコートで待っていた。幾度となくここで負けたわね……。それでも心が折れなかったのは、彼女の塩梅の良い加減があったからなのでしょう。いつか……本気のナンジャモさんとも戦いたいな。そのためにもまず、目の前のバトルに集中よ。手加減といっても、勝たせるつもりでやってはくれないんだから。
「改めまして今回の挑戦者氏はミラ! ……そうそう! 前にジムテストに協力してくれてた子!」
ナンジャモさんがやってきて配信が再開された。私に聞きたいことも沢山あったと思うけど。配信者として彼女はいつも通りだった。私に合わせつつ、私情を挟み過ぎない辺りがプロとしての立ち振る舞いを感じたわ。
「んじゃもー始めよっか!」
「ええ……!」
こうしてナンジャモさんとのジムバトルが始まった。私はオドリドリを、彼女はカイデンを繰り出す。
「ふむふむ。ぱちぱちスタイルか〜! ってことは電気・飛行タイプだ!」
「そう……カイデンと同じくね。その翼をついばんで!」
「掻い潜って『でんこうせっか』!」
直線的に動いたオドリドリにカイデンが曲線的な動きで突撃をかました。互いに飛んでいる状況……より立体的な攻撃が可能というわけね。
「ニッシッシ。さては電気技で攻撃できないな〜?」
「……!?」
電気ジムのジムリーダーとしての彼女の知識、あるいは勘なのかしら。確かに飛行技しか覚えてないわ。けど問題ない!
「『エアカッター』で切り裂くのよ!」
「『スパーク』で突っ込めー!」
「なっ……」
オドリドリが翼を振るって風の刃を放つと、カイデンは帯電しながら滑空するように真っ直ぐ突っ込んできた。当然モロに受けて……!?
「一度翼を休めて!」
「ゲゲッ! 『はねやすめ』ってことは……!」
振るって疲れた翼を休めることで回復しつつ、一時的に飛行タイプじゃ無くなったことで『スパーク』の威力を半減させた……! カイデンは明らかに『じゅうでん』状態だったわ。電気技が無いと見ていたなら、飛行タイプの攻撃に反応してそうなる特性……?
「『オウムがえし』でお返しよ!」
「躱っ……せないかぁ」
休んで体勢を整えたオドリドリは相手の『スパーク』を真似すると、蜂のように舞い蜂のように刺す動きで反撃した。タイプ一致技ということもあって、倒し切れた……!
「さすがに倒せると思ったから深追いしちゃったよ〜! しかもボクの方が電気技でシビれさせられるなんて! 悔しいー!」
「ふふっ。『スパーク』の借りは『スパーク』で返したかったの」
「ミラって結構負けず嫌いだね!? ボクも負けないぞ〜!」
続けてナンジャモさんはハラバリーを繰り出してきた。『はねやすめ』を警戒したのでしょう。『みずでっぽう』で攻め立てられてオドリドリは力尽きてしまう。けれどこちらも『エアカッター』で反撃することができたわ。『でんきにかえる』によってハラバリーも『じゅうでん』状態になった。ここは!
「頼んだわよ。ウパー!」
「ぐぬぬ……。やっぱりかー!」
タイプ相性はもちろんのこと、ナンジャモさんはウパーが『ちょすい』であることを知っている。この時点でハラバリーは実質的に詰みであることをお互いに分かっていた。
「『ドわすれ』でリラックスよ」
「戻って!」
だから迷わずに私はとくぼうをぐぐーんと上げ、ナンジャモさんは交代を選んだ。出てきたムウマージは『ふゆう』で地面技が当たらないけど、とくぼうを大きく上げてしまえばシビシラスと同様の戦法に持ち込める!
「とことん肩の力を抜きましょう。それからでも遅くはないわ」
「やらせないぞ〜! 『あやしいひかり』で惑わしちゃえ!」
ムウマージが発した眩しい光でウパーは『こんらん』して、誤って身体を打ちつけてしまったわ。意地悪ね。貴女のおかげで私は向き合えたのに。それとも試されているのかしら。
「ここでナンジャモの隠し球! 『れんごく』で焼き払っちゃえー!」
落ち着くのよ。トレーナーが『こんらん』を助長させてはダメ。こんな時こそ息を合わせるの。強烈な炎にウパーが包まれるも、心頭滅却すれば火もまた涼し。脱力して受け切れていたわ。ただその代わりに『やけど』になってしまった。こうげきが半減された以上、最初のプランではもう勝てない。
「弱り目に『たたりめ』だー!」
「今度は『あくび』で相手の力を抜いてあげて!」
ウパーの焦点が合った瞬間、指示が重なった。とくしゅ技のたたりめだけど、状態異常を負っている相手には威力が倍になる。さしものウパーでも耐えられなかった。けど、よく頑張ってくれたわ。
「ムーマァ……」
「状態異常をお返しされたー! 起きて起きてー!」
「その前に決めるわよ。クワッス!」
好き勝手に動かれてしまったけど、最後に粘って眠らせてくれたおかげで転じて同様のチャンスがこちらに舞い降りたわ。
「『アクアカッター』をお見舞いよ!」
クワッスが翼に水流を這わせ、ムウマージを切り裂いた。
「ターンしてもう一撃!」
「速い……!」
さらに返す翼がムウマージを捉える。するとムウマージが目を覚ましたわ。
「『チャージビーム』を撃って!」
間に合う!
「『アクアジェット』で吹っ飛ばして!」
電気がチャージされて放たれる前に水を纏ったクワッスの突撃が決まった。そしてビームは放たれなかった。ギリギリ……先に倒し切ることができたわ。
「やられた……! 相性バッチリのウパーが
正直なところ、二度目の『ドわすれ』が失敗して焦ったわ。けど誰よりもナンジャモさんのバトルは肌で感じてきた。そしてあの時足りなかった知識を埋めて、染み込ませてきたから。考えるより早く感じて動くことができた。
「チルッ!」
『じしんかじょう』によってクワッスのこうげきが上がって、力強い鳴き声が響いた。今だからこそ、胸を張って言える。私達は過剰じゃない自信を積み重ねてきたと! これまでも……そしてこれからも!
「……! え……」
「こ、これって……まさか!?」
その時だった。クワッスが光に包まれたの。テラスタルとも違う、眩しい光。けれどその光から目を離せなかった。やがてそれが収まった時、クワッスは背が伸びていて凛々しい顔立ちへと変わっていた。
「進化!?」
「これが……」
話に聞いたことはあったけど、実際に見たのは初めてだった。驚き半分……もう半分は嬉しさだった。
「魅せてくれるね〜! ビックリしちゃったよ! さぁ、いよいよクライマックスだよ! 皆の者応援よろしくねー!」
もう終わってしまうのね。夢中になっていたわ。いつまでも続けていたい、楽しい時間。けどこれが最後じゃない。まだまだナンジャモさんに引っ張られていたけれど。私も、今よりもずっと夢を振り撒けるようになってみせる。そのためにも……!
再びハラバリーが繰り出された。交代を挟んだことで『じゅうでん』は切れている。だからこそ一撃で仕留めたい。私とナンジャモさんは同時にテラスタルオーブを取り出した。
「『スパーク』で突撃して——」
「『きあいだめ』で力を溜めて——」
ナンジャモさんはやはり電気タイプにテラスタルしてきた。けれどノーマルタイプにテラスタルしたことで弱点を突かれず、耐え切った……!
「——『アクアカッター』で解放よ!」
「……そのまま力の限り続けて!」
水の刃がハラバリーを襲う。『はっぱカッター』のようにカッター系の技は急所を狙いやすい。集中力を高めて放たれた『アクアカッター』は急所を捉えていた。そして充電された電気は纏われずに霧散していった。
「勝利したのは挑戦者のミラでしたー! やー、強くなったね!」
「ありがとう。これもナンジャモさんのおかげよ」
「それほどでもあるけどね〜! でも一番はミラが頑張ったからだよ! そこちゃんと認めてね!」
「……! そっか……うん。そうよね!」
「おっ。皆の者〜。スクショタイムだぞ! 脳内フォルダに焼き付けろ〜!」
バトルの終わりに記念写真が撮られた。ナンジャモさんに合わせて襲い掛かるように手を挙げるポーズでのツーショット。気付いたらそうしていたの。きっと今の私は、上手や下手とかじゃなく、素直に笑っていた。