パルデアでアイドルを目指す   作:ゾネサー

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図々しいわがままを

「だからジムリの裏事情知ってたんだね!」

 

「ええ。そうよ」

 

 ナンジャモさんに別れてからあったことを話した。あまり長く話すのは得意ではないけれど、今日の私は不思議と饒舌だった。

 

「それじゃあ今回は他のジムも行くんだ! 次はどこ行くのー?」

 

「最後のテーブルシティ近辺のジムがあるカラフシティよ」

 

「ハイダイさんのとこか〜。水タイプ専門だね!」

 

「クワッス……じゃなかった。ウェルカモと同じ単タイプなら草と電気が弱点になるのね。ううん……」

 

「あー、ミラの手持ちじゃ覚えてる子いないね」

 

「そうなるわね……」

 

「よーし! ここはボクが一肌脱いであげる!」

 

「嬉しいけど……良いのかしら」

 

「良いの良いの! トレーナーの実力向上に貢献することがポケモンリーグの本懐だって、偉い人も言ってるし! 使いこなせるかはミラ次第だからね〜」

 

「そういうことなら、お願いしちゃおうかな」

 

「素直でよろしい! 技教えお姉さんにまっかせろ〜! ……その間にご飯を作ってくれると、お姉さん嬉しいぞ! っていうか久しぶりにミラの手料理食べたい〜!」

 

「そのくらい、いつでも作ってあげるのに」

 

「わ〜、ありがと! 良いお嫁さんになるよ!」

 

「お、お嫁さんって……そういうのはまだ早いわよ」

 

「おや? 思春期突入か〜!?」

 

「……もう。からかわないで」

 

 とても懐かしい時間を過ごした。あの時と違って色々考えるようになったから、感じ方も違ったけど。それがナンジャモさんの袖のようにこそばゆかった。

 

「行ってくるわ。次は夢を叶えた姿を見せたいな」

 

「その時は是非コラボしてね! まったね〜!」

 

 一期一会、なんて言葉がある。彼女との出会いはそうだと思っていた。だって映像越しに憧れた遠い存在だったから。けど歩みを止めなかったから二度目があったのかなって。だから私はさよならは言わなかった。

 カラフシティはパルデア地方の西側に位置している。しかもここから最短距離で行こうとすると立ち入り禁止のパルデアの大穴に入ってしまうわ。だから北上して東3エリアを通って迂回していたの。

 

「うおっ!? ミラ!」

 

「あら。どうしてここに?」

 

「潜鋼のヌシがいてさ! アオイに協力してもらって、二つ目のスパイスゲットしたんだぜ!」

 

「そ、それでどうだったの?」

 

「聞いてくれよ! 目が見えるようになったんだ……! 順調に回復していってる!」

 

「……! 良かった……。本当に、良かったわね」

 

「ああ! ありがとな……!」

 

 研究所で見つけた本の内容は真偽が確かではなかったけど、ペパーさんが本当だと信じていたのは知っていた。そしてそれが支えになっていたことも。きっと偽りであったなら、心は折れてしまったと思う。だから安心して、思わず力が抜けてお腹の音が鳴ってしまった。

 

「はっはっは! お腹ペコペコちゃんなんだな!」

 

「こっ、これは沢山歩いてきたからで……」

 

「良いって良いって! 飯にしようぜ!」

 

「うう……そうね」

 

 油断したわ……。こんな恥ずかしいところを見せてしまうなんて。

 

「今ジムバッジは何個なんだ?」

 

「三つよ」

 

「おおっ! すげー! しっかり勝ててるんだな! しかもアオイは二個だったから、結構良いペースなんじゃないか!」

 

「私は最初の宝探しで一つ手に入れていたから。ペースとしては他の頼まれごとと並行しているアオイの方が速いわね」

 

「あっ! そっか……わ、悪い!」

 

「別に良いのよ。それにアオイに任せて良かったわ。緊急性があることだから。私ではジムを巡りながらでは間に合わなかった……だから、ギリギリまで私に頼むのを避けてくれたんでしょう?」

 

「……! き、気付いてたのか!?」

 

「気付いていたというか……あの時、気付けなかったというか」

 

 アオイが凄いから何とかなっているみたいだけど、本来なら前に言っていたようにチャンピオンになっている暇はない。私がジムリーダーを目指していることを知っていたから、誘いたいのに誘うことが出来ずにいた……。頬を掻いてはにかむ彼の横顔が不器用な優しさで彩られて見えたわ。

 

「それでそのアオイは? そもそもセルクルタウンにいたはずなのに、いつの間にこっちまで……」

 

「あー、アオイにはアイツがいるからな」

 

「アイツ?」

 

「……ライドポケモンさ。スパイス食べたらすげージャンプ出来るようになってさ。電話の相手の待ち合わせ先に跳んで行ったぜ」

 

「ふふ。文字通りね」

 

「ミラはどこに向かってるんだ? ライドポケモン見当たらないけど」

 

「カラフシティよ」

 

「え? 歩いて……?」

 

「そうよ。脚には自信があるの」

 

「すげーな! でもさすがにそらとぶタクシー使えばいいんじゃないか?」

 

「最近食費が嵩んでいて……」

 

「ああ……分かるよ。栄養を気にするとどうしてもな。そんなミラに『ひでん:しおスパイス』を使ったサンドイッチをプレゼントだ!」

 

「ありがとう。私のも食べてくれる? 辛めの味付けなのだけれど。これでも色々練習してるから、美味しいはずよ」

 

「えっ! いや、けどこれは前にアドバイスしてくれたお礼でもあるし、俺も貰うのは悪いような……」

 

「もう十分してもらったし、それに遠慮されると寂しいわ。私、貴方のこと……友達だと思っているの。もっと図々しいわがままをぶつけて欲しいくらいよ」

 

「そ、そうか? サンキューな!」

 

 彼の律儀さは嫌いじゃないけれど、時に律儀すぎるわ。前にポケモンが摂るべき栄養を聞いた時もそうだった。どうも恩義を必要以上に重く捉えているよう。そうした話をするのは楽しかったけど、そこだけは引っ掛かっていたの。

 

「おおっ! うっめー! 誰かの手料理なんて久しぶりだから、尚更だ!」

 

「本当? 嬉しいわ。こっちも美味しい……。疲れが吹き飛んでいくわ」

 

「へへっ。しおスパイスには手足の負担を和らげる効能があるんだ!」

 

 私はただ好きなものを共有したかっただけ……。貴方にわがままをぶつけたのよ。以前はそれが出来なかった。強さを諦めず、寄り道を選べたのであれば。ジムを巡るのは次の機会として、今回はペパーさんの手伝いをさせて欲しいと私から言い出すことも出来たのにね。

 ピクニックを終えて、前より温かくなっているマフィティフの手を触りながら私は切り出した。

 

「……ねえ、ペパーさん。もし、私がチャンピオンランクになることが出来たなら。その時は遠慮なく頼み事をしてくれないかしら」

 

「え!? チャンピオンランクになったらって……そりゃ応援してるけど、ここ最近だと生徒会長がなったのが久しぶりで……」

 

「そうね……どれほど厳しいのか、想像もついていないわ。だから支えが欲しいの。私の心が折れないように」

 

「支えって……そんなことで良いのか?」

 

「ええ」

 

「じゃあもしその時困ってることがあったらお願いする! だから頑張れ! 絶対諦めちゃダメだぜ!」

 

「……! うん。最後まで貫いてみせるわ。……あっ、そうだ。もう一つわがままを言っても良いかしら?」

 

「どんとこい!」

 

「叶った時には……またこうしてサンドイッチを作ってくれたら、嬉しいわ」

 

「へっ? そのくらい、いつでも作ってやるって!」

 

「ありがとう。きっと良いお嫁さんになるわよ」

 

「……って俺が嫁ちゃんかよ!?」

 

 つい、からかってしまったわ。意外だったのか両手を上げて目を丸くしていた。

 

「あははっ。それじゃあね」

 

「ああ。また今度な!」

 

 グーサインと屈託のない笑顔に見送られて、私は次なる目的地へと歩を進めていった。軽くなった足取りは、スパイスだけのおかげではなかった。

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