カラフジムもこれまでと同様に手心が加えられたジム。三つのジムを突破したのだからここもいけるはず、なんて楽観視することは私には出来なかった。と言うのも今まではいずれも先に戦い方を把握していたから。今回は水タイプ以外の情報がないわ。けどチャンピオンテストではその情報すら与えられないはず。簡単ではないにしろ、行き詰まる訳にもいかないとも思った。とにかく今は水タイプの対策を考えてみる。いずれは肌で感じられるようになってみせるわ。……ジム毎にタイプが定められているのって、そういう意図なのかしら。
「それで貴方はどんなことをされたら嫌なの?」
「チルルッ」
「相性の不利はそうよね。他は……?」
「チルル」
「どー?」
「ドオー……なるほどね。『ちょすい』のように水を防げる特性。水タイプの視点からは確かに攻めづらくて嫌ね」
当事者なら感じやすいかと思ってウェルカモに色々聞きながら、道中のトレーナーに挑んでいったわ。おかげでウパーも進化したの。今までもそれなりにバトルをしてきたつもりだったけど、未知の発見が沢山あった。そうした経験を積み重ねていけば少しずつでも強くなれるかな、とも考えていたんだけど。それ以上に知らない戦術をぶつけ合うバトルが楽しく感じられていた。知らないことに驚かされ、相手の知らない戦術で虚を突く……勝つための工夫を通して会話をしているようで心地良かった。
「ようやく着いたわね。みんなお疲れ様」
今までで一番長い移動だったけれど、その分色んなトレーナーがいて楽しかったな。思わず目的を忘れて寄り道ばかりしたくなっちゃうわね。閑話休題、ジムテストを受けるとしましょうか。
「カラフジムのジムテストは……ハイダイを唸らせろ! です!」
「えっ。ジムリーダーを?」
「はい! 各々のやり方でハイダイをアッと言わせて下さい!」
道中、ここのジムテストは難しいと耳にしていたけど……なるほどね。オリーブ転がしのように明確なゴールがないからか。
「おっ! お嬢ちゃん、新しい挑戦者かい!!」
「ええ。今良いかしら」
「……ちょいと待ちな! そいつはハイダイの大将が『ハイダイ倶楽部』の料理長と知っての狼藉かい!?」
「もちろん」
彼のもとを訪れた私はドウファーという豆腐を使った体に良いスイーツを差し出した。ポケモン達によく作っている料理の一つで、お母さんに教えてもらって作れるようになった数少ない料理の一つでもあるわ。これで割を食わされた『ハイダイ倶楽部』よりうちの技術の方が上だと証明してみせる……!
「聞き分けのない子供だ! 良いかい? 大将は料理にはとてつもなく厳しくて、一番弟子のあっしでさえ……」
「ウオーッ! ない! ないんだい!」
「言わんこっちゃな——」
「この懐かしい味! なんて……思い掛けないんだい!」
「な、なにー!?」
「えっ? 懐かしい……?」
「カエデに頼まれてよく試食したなぁ……!」
「カエデさんって……確かあっしより前にいたお弟子さんの?」
「ええっ!? お母さんが……!?」
「……! そうか! もしかしてミラちゃんかい?」
「え、ええ。そうよ」
「そうかそうか! あーんなに小さかった赤ん坊が大きくなったなぁ!」
……そうだ。確かに言っていた。お母さんは先人に助けられて料理が上手くなれたと。けどまさかハイダイさんに師事していたなんて……。顔が熱くなっていく。割を食ったなんて見当外れもいいところじゃない。
「感慨深いなぁ」
「母との思い出がそれほど懐かしいのかしら」
「それも勿論ある! だからこそ、このドウファーが感慨深いんだい!」
「どういうこと?」
「おじさんが教えたことがカエデを通してお嬢ちゃんに伝わっていた……。オイラがやってきたことが、こうして次の世代に受け継がれていくのが嬉しくてたまらないんだい!」
「……!」
「あっしも継いでいきやすぜ!」
「はっはっは! お前さんはまだまだ修行が必要だい!」
技術というのは独占することもできる。ましてやレストランの料理長なら、それこそ割を食うかもしれない他の料理人に教えるなんて損にしかならないはず。けれど、彼にとっては自分が為してきたことの何よりの証明なのかもしれないわね……。こうして伝えてくれたおかげで、私は学べて、今こうして生かせている。先人に助けられて上手くなれたから……か。
「おっと、忘れてた! ジムテストクリアだい! 早速バトルといくかい?」
「お願いします。今の私の全力を……ぶつけさせてください」
「ヘイラッシャイ! 男、ハイダイ! 鍛え上げた大胸筋はこのために!」
こうしてジム戦が始まった。私はドオーを、ハイダイさんはミガルーサと呼ばれたポケモンを繰り出してきた。いくらジムリーダーでもドオー相手なら攻めあぐねるはず。じっくり間合いを詰めて——
「さあさあドドンと召し上がれえ! まずは『アクアカッター』だい!」
「……!? か、屈んでっ!」
「むっ……!」
一気に間合いを詰めてヒレで切り掛かってきた。とっさに出した回避の指示が間に合った……。攻撃後の体勢が崩れたところで一度距離を取る。チャンスだとは思えなかった。道中のトレーナーのうち何人か『ちょすい』を警戒して攻めあぐねたのを体験していたから、嫌な感じがしたの。
攻防の末、すばやさの差を活かされ『アクアカッター』を決められたわ。やはり『ちょすい』は通じなかった……。『アクアカッター』自体に無視できる力は無いから、恐らく特性。地面タイプの弱点を突かれたドオーはさすがに耐えられなかったけど……
「ミガルーサ……! すまない! 毒抜きをしてやれんかった……!」
最近使い慣れてきた『アクアカッター』だから攻撃の間隔もよく分かったの。おかげで相性不利ながらも粘ることができて、『どく』の状態異常でミガルーサを倒せたわ。これは大きい!
次鋒はオドリドリとウミトリオ。進化前のウミディグダなら戦ったことがある。特性は接触技で攻撃を仕掛けたらすばやさが下がる『ぬめぬめ』のはず。問題ない!
「お次は『ずつき』を食らってくれい!」
「そうはいかないわ! 高みで獲物を見定めて! ……!?」
上空に避難したオドリドリに岩から伸びる三つの頭に叩きつけられた。思っていた以上に伸びるのね……。しかも今ので怯んでしまったわ。追撃も避けられない……!
「そら! おかわりだい!」
「風を味方につけて!」
「デザートに『みずのはどう』だい!」
「もうお腹いっぱいよ! 食後のダンスで発散しましょう!」
二度目の『ずつき』を食らって地面に叩き付けられたオドリドリにリング状の水が放たれたわ。けれど『おいかぜ』を利用した動き出しで躱し、反撃の『めざめるダンス』に合わせ、私はオーブを解き放った。
「来なさいひらめき豆電球! 魅せましょう。私達の底力で!」
「……! ここで来たかぁ!」
電球を象ったテラスタルジュエルを乗せたオドリドリがダンスのフィニッシュと共に電気を弾けさせた。初めてのタイプ一致でのテラスタル……その威力は絶大だったわ。弱点を突いたことも合わさってウミトリオを一気に倒し切れた。
「やるなぁ……! 『どろかけ』の隠し味を使わせてはくれないか!」
「ええ! 電気タイプが地面技を受けないことの厄介さは、十分学ばせてもらったから」
『どろかけ』を受ければ弱点を突かれるだけでなく、命中を下げられてしまう……もし『めざめるダンス』を躱されたら、やられていたわね。この小さくて大きな差を活かすべく、私は最後のポケモンの正体を知らないまま、同時にポケモンを交代した。そしてウェルカモとケケンカニが対峙する。
「『ローキック』の嵐を浴びせて!」
「大変身ぶっ込んで『いわくだき』で迎え撃とうか!」
「……!」
ハイダイさんもついに水タイプにテラスタルしてきたわ。しかも『いわくだき』の威力が思ったより大きい……元々のタイプに格闘が含まれているわね。
「雨垂れ石を穿つ! 小さなことでも積み重なれば、やがて大きなことを成し遂げられるんだい!」
「良い言葉ね。でもそれは貴方だけの専売特許じゃないわ!」
お互い立ち止まって『ローキック』と『いわくだき』の撃ち合いになったわ。手数の多さはこちらに分があったけど、威力の高さはあちらが上。だけど徐々に天秤が傾いてきたわ。『おいかぜ』が止んだ上に、『いわくだき』によるぼうぎょの低下によって押されていったウェルカモは『たたきつける』によって倒されてしまった。
「ありがとう。貴方の積み重ね、活かしてみせるわ。オドリドリ、もう一度ステージへ!」
これでお互いに最後のポケモンがテラスタルした状態で向かい合った。とはいえ余力は残されていない。あっちもウェルカモに使えなかった水タイプの技があるはず……ここはスピード勝負よ!
「フィナーレよ。盛大に決めましょう! 『めざめるダンス』!」
「来たな! 流されんようしっかりしがみつけよ! 『クラブハンマー』!」
ダンスで電気を集約するオドリドリに、拳のように固められたハサミが振り下ろされた。
「ゲッゲッ!?」
『ローキック』の積み重ねで機動力を奪われたケケンカニを強烈な電撃が襲ったわ。ハンマーは力無く地面を叩く。勝った……!
「なんてこったい! 怒涛の攻撃にこっちが流されちまったい!」
「私の全力……受け流されなくて良かったわ。お疲れ様、オドリドリ。とても良いライブだったわよ」
「ピーピー!」
疲れた様子のオドリドリをボールに戻す。なんとか他の二匹でオドリドリの体力を残せるように立ち振る舞えた……。『めざめるダンス』……自身のタイプと同じタイプで放たれるノーマル技。固有の技らしくて知らなかったわ。ナンジャモさんに教えてもらって助かったな。
「いやー、まいったまいった! 強さは母親譲りか!」
「そう言ってもらえて嬉しいわ。本気のお母さんにはまだ叶わないと思うけどね」
「おっ! いずれは勝つつもりなんだな!」
「ええ……! まずは出させないといけないけどね」
「確かにここ最近カエデが本気を出すとこは見てないなあ……。きっとジムの視察くらいだろう」
「へえ……。視察では強さを見られるのね」
「ジムリーダーとして導く強さを持っとらんとな! カエデはもちろん強いぞ! ただ最近はらしくないからなぁ……」
「そうね……だから、私がもっと強くなって。ジムを継いでみせるわ!」
「……! そいつは楽しみだい! ……そうだ! 楽しみついでに、滞在している間はカエデにしたように料理を教えよう!」
「え!? いいの……? そ、それじゃあお言葉に甘えて……!」
母に教えてもらった料理がポケモン用なのは端的に言えばスイーツ系だから。甘さを抑える技術は味見出来ない私には難しくて。対して『ハイダイ倶楽部』で出されているのは海外の辛い味付けの料理。自分も食べられる料理のレパートリーを増やせるのは、長い旅路を考えるととても有り難かったわ。
ハイダイさんに色々教えてもらいながら、私は感じた。上手く、強くなれているのは導いてくれる大人によるものが大きいのだと。ただ負けたくない一心のみでジムが営まれているなら、こうはならないのだろう。少しずつでもやがては沢山のことを学べたなら、こうして誰かの道標になれる素敵な大人になりたいと思った。
厳しいことを示唆されながらも本編では不明に終わるカラフのジムテストの正体が知りた過ぎた。