パルデアでアイドルを目指す   作:ゾネサー

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技に添えるは心と体

「あらあら〜。そんなことがあったのね〜」

 

 四つ目のバッジを獲得してジム巡りも折り返し。次の街へ向かう途中で、私はセルクルタウンに寄っていた。

 

「ハイダイさんには料理のこと、お店のこと沢山教えてもらってね〜。と〜ってもお世話になったのよ」

 

「そうだったのね……。お母さん以上に料理が上手い人を知らなかったから。想像もしなかったわ」

 

「最初から上手だった訳じゃないのよ〜。少しずーつ少しずーつ出来ることを増やしていったの。いきなり上手くなったりは、しないから。それは料理だけじゃなくて、ポケモンも一緒よ〜」

 

「そっか……。私……アカデミーでネモさんとよく勝負していたのだけど。全然勝つことができなくて……。勝てた時も自分の実力なのか、ネモさんの気紛れで勝てたのかも分からなくて。でも、そうよね。築き上げてきた厚みが違うんだから、いきなり目に見える結果を求めてもダメなのよね。雨垂れ石を穿つ……だったかしら。そのつもりで、私なりに頑張ってみるわ」

 

「ファイトよ〜! 絶対にね、努力は裏切らないから」

 

「うん」

 

 一日だけ、ゆっくりして。また宝探しの旅に出たわ。時に野生のポケモンと、時にトレーナーと触れ合いながら。あまり急がずに目的地へと向かっていったわ。バッジ四つまでは行く人が多いということは、逆に言えばそこから先へ行ける人が極端に減るということ。どれもが難所ならば、焦っても仕方ないと今は思えていた。そういう訳で時間は掛かったけど、無事ベイクタウンに辿り着いたわ。

 

「あっ! ミラだー! おーい!」

 

「あら、ネモさん。なんだか久しぶりね」

 

 どんなバトルコートか見ておこうとしたらネモさんがいたの。もちろんバトルする運びになったわ。

 

「ミラもジム巡り順調みたいだし、今日はちょっと強気なメンバーで行っちゃおうかな!」

 

「……! 望むところよ!」

 

 宣言通り以前よりもレベルが高い相手に徐々に差が開いていったわ。それでも食らいついていくしかない。出来るだけ差を留めて、テラスタルでの逆転を狙う……!

 

「頼んだわよ。オドリドリ!」

 

「えっ! ぱちぱちスタイルだ! やったー!」

 

「……?」

 

 その意味するところはすぐに分かったわ。ネモさんも同じく黄色のオドリドリを繰り出してきたの。

 

「スタイルまで同じなんて奇遇ね」

 

「ね! おそろい勝負だー! 負けないぞー!」

 

 厄介ね……。オドリドリの特性は『おどりこ』。ダンス技に反応して即座に同じ技で踊れるの。お互い『めざめるダンス』を使う訳にはいかない。なら半減はされてしまうけど、もう一つのタイプの技で!

 

「『エアカッター』よ。切れ味を存分に味わって!」

 

「甘いよミラ! 『こごえるかぜ』で反撃!」

 

「……! しまった……」

 

 対面する状況を作り出したのはネモさんの方……弱点を突く策があったのよ。もう少し防御を考えられたら、半減できるウェルカモで受け流す選択もあったのに。先程の戦闘で少し体力を削られていたオドリドリは耐えられずに倒れてしまったわ。ごめんなさい……。

 

「……最後まで諦めずにいくわよ。ウェルカモ!」

 

「チルルー!」

 

「こっちも最後まで気は緩めないからね! 『めざめるダンス』!」

 

「応じましょう! 『アクアカッター』で切れ込むのよ!」

 

「……! テラスタル……!」

 

 差を広げられてしまったけど、一縷の望みを託して私はオーブを解放したわ。ノーマルタイプになったウェルカモなら電気技の『めざめるダンス』を耐えられる。この後は追撃の『アクアジェット』で……!?

 

「んジャカパーン! 私もフェアに使わせてもらったよ! テラスタル! ついにこの時が来たー!」

 

「格闘!? けど水を半減できるタイプじゃ……。……あっ!? 『めざめるダンス』のタイプが……!?」

 

 通常ぱちぱちスタイルの『めざめるダンス』は電気タイプ。けどテラスタルによって自身のタイプを変えることで、技のタイプまで変えてしまうなんて……。タイプ一致の格闘技を弱点に貰ってしまったウェルカモはさすがに耐えられなかった。結局、ネモさんの手持ちを一匹温存されたまま負けてしまったわ。こうして目に見える差を突き付けられると中々に……来るわね。

 

「……やられたわ。まさかテラスタルにそんな使い方があるなんて」

 

「試験のこと聞いてから色々考えた甲斐があったよー! ミラの手持ちに氷や岩がいなかったから別の子にする予定だったんだけど……間に合って良かった!」

 

「氷や岩……そっか。オドリドリの弱点を突けるタイプへの反撃手段だったのね」

 

 ネモさんはウェルカモのテラスタイプを知らなかった。なのに私のテラスタルに反応して、とっさに切ってきた。元々の予定を崩してその場で動いてみせた……。私はその判断力が足りなかった。差を見せられたことで、不足しているものが弾き出されたわ。心が折れそうになる悔しさに向き合えたなら、陰に落としたものも見えるのね……。

 

「そうだ! オドリドリいるなら、これあげる!」

 

「花のミツ……あっ! フォルムチェンジさせることができる?」

 

「さっすが! ジニア先生の授業ちゃんと聞いてたね!」

 

「ありがとう。使わせてもらうわ」

 

「うんうん。私だと思って使ってね!」

 

「……一気に使いづらくなったわ」

 

「あはは! 気軽にで良いんだよ!」

 

「ごめんあそばせ。相変わらずゴイスーね。ネモちゃん」

 

「……! ……あ……」

 

「リップさん! お久しぶりです!」

 

「おひさー。いきなりだけど、この子お借りしちゃうわね」

 

「えー!? もう一回()りたかったのにー!」

 

「エクササイズではすぐバテてたのに、バトルのことになると元気いっぱいね。いっぱい同士キハダちゃんと遊んでいらっしゃいな。いつもの会場にいるから」

 

「はーい!」

 

 ネモさんが素直に退いて、私はリップさんと二人きりになった。

 

「……以前はすいませんでした。大事なことを指摘してくれていたのに……受け入れられず、暴言を吐いてしまって」

 

「あら。随分素直になったのね。……リップの言い方もね、厳しかった」

 

「今なら分かります……。あのままデビューしていたら、取り返しのつかないことになっていたと。だから不足に向き合うか……そうでないのなら、ここで折れてしまった方がマシだと」

 

「……そうね。突き詰められない半端な才能だったら、普通の人より不幸になっちゃうから」

 

 目を閉じて首を振るリップさんはとても辛そうに見えた。きっとメイクアップアーティストとして、挫折する人を何人も見てきたのだと思う。私よりもずっと業界に詳しい人だ……。そんな人が教えてくれていたのに。エンターテイナーとしての心が足りない、と。

 

「ミラちゃんはね。技術は申し分なかった。だけどそれだけじゃ足りない……。心技体を完パケさせないとね」

 

「心技体……ですか」

 

「リップの業界は沢山の人に見られる場所だから。まずは心を、それから技術を、そして最後に体で示してみせるの」

 

「私は最短の道しか見ないで、初歩を飛ばしてしまった……」

 

「そういうこと。よく踏み止まってくれたわ」

 

「ナンジャモさんや色んな人のおかげで、道を逸れることにも意味があるんだって思えたんです」

 

「そうそう。ナンジャモちゃんとの動画観たわ。最高だった……! ちょっと妬けちゃうくらいにね」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

「今のミラちゃんなら、喜んでプロデュースしちゃう。それでね。さっき生でバトル見せてもらったけど……ポケモンの動きはね、悪くないわ」

 

「えっ。本当ですか?」

 

「もちのろんよ。それに体もちゃあんと綺麗にしてるし、美意識も良い感じ。……でもね。ポケモン勝負で見られるのは、何もポケモンだけじゃないのよ」

 

「……! トレーナーも……?」

 

「だって舞台に立っているでしょう?」

 

「確かに……」

 

 足元を確認してみると、四角いバトルコートに接続されているトレーナー用のスペースに私は立っていた。ポケモン勝負の主役は当然ポケモンだと思っていわ。けど、こうしてみるとトレーナーも見られる立場なのだと分かった。

 

「愛想がないから人を楽しませられるようになりたいって言ってたわよね。なら、ちゃんと見られている自覚を持つこと。いい?」

 

「は、はい!」

 

 そんなことまで覚えていてくれたのね……。

 

「よろしい。じゃあリッププロデュースの喜怒驚楽エクササイズ、直々に仕込んであげるわ」

 

「喜怒驚楽……喜怒哀楽ではなく?」

 

「リップの辞書に哀しみはない。あっていいのは驚きの美しさだけ……」

 

 そっか……。見られている自覚があるから、見せないのね。悲しみだけは、共鳴させたくないから。

 

「ああ、でも一つだけ。今も楽しさは体現できてるわ」

 

「……! 良かった……」

 

 変化を求めて、色々やってきて。全てが正解ばかりではなかったかも知れないけど。これからも突き詰めていこうと思った。

 

「いい顔ね。さ、始めましょうか」

 

「はい!」

 

 どうやら喜怒驚楽エクササイズはジムテストでもあるらしい。けれど中々目に見えて上手くはなれなかった。元々……感情が表に出にくくて、だから愛想が良くない。だけどそれで諦めずに、意識して表現しようとしてみることが大事なんだって思えるようになっていたの。リップさんも明らかに忙しそうなのに、時間を割いてくれて。支えを受けながら、私は少しずつ出来ることを増やしていった。

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