「クイズ! わたしはどこでしょう!? 街角レディをさがせ!」
「……あっ! こんなところにいたー!」
どうやら本来のジムテストの企画はかくれんぼだったらしい。紆余曲折あってお手伝いをすることになったから、パラソルの傘の骨格に収まってみたのだけど、見つかってしまった。
「……ってミラ! カメラの角度的に見えないよそこ! 次は皆の者も探せるとこにして〜!」
かくれんぼなのだから、とにかく見つからないようにしてみたのだけど。どうやらダメらしい。ジムトレーナーのリョウタさんとのバトルが挟まれてから、再びスタンバイのサインが入った。同じ過ちは繰り返さないようにしよう。
「……ええっ!? ここにいた!」
「いや、ポケモンセンターの上って!? チャレンジャーが飛行タイプ持ってたから良かったけど! 下手したら詰みだし、そもそも危ないから降りて降りて!」
スマホロトムの映す範囲内にしっかり隠れたのだけど注意されてしまった。仕方なく木に飛び移ろうとすると、チャレンジャーの方に抱えられて降ろされてしまう。その後、ヒロユキさんとのバトルが終えられる。同じ過ちは繰り返さないようにしよう。
「いた! コート下の船の上!」
「お見事お見事ー! いやー、白熱したゲームに皆の者も大興奮だったぞよ!」
今度は海上にあるバトルコートが舞台だったので、船を借りてスタンバイした。………。……これは良いんだ。大人って、よく分からない。
「本日の挑戦者氏は〜? 能あるウォーグルは爪を隠す——」
どうしてお手伝いをすることになったのか? 発端はナンジャモさんの提案だった。要点を纏めると、手伝いをしながら少しずつ色んなことを知っていけばいいとのこと。それが寄り道の道標になればいいと。
チャレンジャーとナンジャモさんのジム戦が始まった。ただ、私はまだポケモンに対する理解が浅い。結果に対する原因が分かっていない。それでもまずは生で見てみて、肌で感じればいいらしい。分からないことは、後で知れば大丈夫だと言う。とにかく私は光景を目に焼きつけた。
自分で、一つだけ分かったことがあった。彼ら、彼女らはポケモンと息を合わせて戦っている。共に、目指すべき目標がある。私は入学してからクワッスと過ごしてきた。けれど目標を共有しようとはしてこなかった。バトルが終わってから、私はクワッスと話をした。言葉がどの程度伝わっているのかは分からない。それでもクワッスの顔が嬉しそうに見えたのは、気のせいじゃないと思った。
「お疲れちゃん〜」
「あ……お疲れ様です」
「敬語は良いって〜。ボクもミラのこと呼び捨てにしてるし」
「そう? 分かったわ」
少し遅れてナンジャモさんが家に帰ってきた。ジムリーダーはチャレンジャーと戦うだけが仕事では無いから……。本人が言っていたように忙しいのだろう。だから疲れているはずなのだけど。
「今日のドンナモンジャTVのアーカイブ観るよ〜。イェイイェイ!」
今日も元気よく勉強会を開いてくれる。本来学校で学ぶべきこと……もちろん課外授業が為されている今は休校状態。だから学ぶのは帰ってからでも良いと考えていた。その上で彼女は人に教えるのは嫌いじゃないと言って教えてくれる。
「——さてさて〜。最後に残ったのは飛行タイプのウォーグルだ!」
「飛行……水と同じで、電気が弱点だったわね」
「おー! 偉い偉い! 相性覚えてきたね〜!」
「電気周りは何とか……」
せめて私は少しでも多くのことを学ぼうと思った。
「という訳でボクは電気技の『チャージビーム』で攻撃! だがしかーし! 挑戦者氏はここでテラスタルを使用!」
「テラスタル。確か……タイプを変えられる?」
「そうそう! テラスタイプになるんだ。今回は地面タイプに!」
「地面ってことは……そっか。だから電気の技が効かなかったのね」
「そういうこと! これは一本取られた〜! ファンとの試合でも見せなかったし、本当に爪を隠されちゃってたナ〜!」
そう言うナンジャモさんは本当に悔しそう。彼女ほどのトレーナーでも分からないことがある。それがポケモンバトルの片鱗を窺わせているようだった。
「こうなったらゴースト技の『たたりめ』で攻撃! ムウマージも電気タイプにテラスタル済みだけど、元々はゴーストタイプ。テラスタルしてても、同じタイプだと威力が上昇するのは変わらない!」
「ちょ、ちょっとメモをさせて」
「はいよ〜。一旦止めるね」
属するタイプと同じ技は通常より威力が増す。これは前に教えてもらった。それとテラスタルをすると以降はそのタイプのみに固定されることも。けれど元々のタイプが無関係になる訳ではないのね。
「挑戦者氏も負けじと飛行技の『ゴッドバード』の準備に! こんな大技食らったらヤバいから『あやしいひかり』で『こんらん』状態にしたい……! したかった!」
「『こんらん』状態……。相手の行動を阻害する……状態異常? というものね」
「そーそー! 状態異常とか状態変化とか呼ばれてるね。今回は纏めて守れる『しんぴのまもり』で予めガードされてて出来なかったんだ〜。『まひ』対策が最後まで響いたよ……トホホ」
「電気タイプは『まひ』を誘発しやすい属性なのよね」
「痺れるからね〜」
今まで全くポケモンバトルを見てこなかったかと問われると、そうではない。けれど何を考えているのかに思いを馳せたことはなかった。技で攻撃して相手を倒す、そんな程度の認識。今、改めて見ていてもバトルの展開というのは速い。とても今語られているような複雑な思考が絡み合っているとは想像し難いほどに。
「最初はこんがらがるよね〜。ボクもジムリになる前はポンコツの限りを尽くしたなぁ。だからすぐに理解できなくても良いよ。こうやって後から見返して、感じた肌に知識を染み込ませていくの。少しずつ繰り返していけば、いずれ一々考えなくても身体が動くようになるよ」
考え込んでいると袖が肩に乗っかってきた。力は入れておらず、むしろこちらの力が抜けてしまうほど。振り返ると画面を見つめながら語るナンジャモさんの横顔が見える。童顔なはずの彼女の顔が凛々しく映った。
「今はとにかく考えてみます」
「考えちゃえー。
「……あれ? 地面タイプって……やっぱりそうだ。攻撃すれば電気の弱点を突ける。のに、チャレンジャーは試みなかった?」
「気付いたね! それは特性が関係してるんだ〜!」
「特性……?」
「そう! どんなポケモンにも一つだけ特性があるのだよ!」
レポートに新たなページを追加した。特性の項目を作成。ナンジャモさんはどうやら段階的に教えてくれてる。次の段階に進んだことが彼女に認められたようにも思えて、少し照れ臭い。
「ボクのムウマージは『ふゆう』! 浮いてるから地面技が当たんないんだ!」
「当たらないなんてことがあるのね……。そのことをチャレンジャーも分かっていた?」
「バレてたっぽいね〜! 今回の挑戦者氏相当な手練れだったし! でもね。特性はポケモン毎に違うから、いっぺんに覚えようとしなくてもダイジョブだよ!」
「そうなの?」
「タイプの数が比にならないくらいにはあるからね〜。そういうものがあるって留めとくのがオススメだよ」
「そんなに……。分かったわ。まずはタイプ相性を覚えないと」
「タイプ相性覚えるのがポケモントレーナーの第一歩ってよく言われてるからね〜! なぁーんて。ボクが勝手に言ってるのが拡散されたんだけど!」
「ふふっ……」
「……! わ、笑ったー!」
「……おかしいかしら?」
「ううん。いいよいいよ! その調子で笑っちゃえー!」
最近ナンジャモさんはよく頬を撫で回してくる。おかげで随分緩んでしまったみたい。そうしているとバトルが終わってチャレンジャーにジムバッジを渡すシーンが映る。負けてしまった彼女が楽しそうに笑っているのが、印象的だった。
「貴女は人を笑わせるのが好きね」
「うん! 大好きだよ〜!」
「たとえそれが勝負で負けた結果だとしても……?」
「負けるのは悔しいけどねー! イエスかノーなら、イエス寄りのイエス! それがナンジャモスタイル!」
そう言うとチャレンジャーと記念写真を撮るシーンと同様に、襲い掛かるように手を上げる彼女特有のポーズを取っていた。
「……変わっているわね」
「そうかな〜?」
「だって勝負というのは、勝ち負けと書くのよ。そうであるならば、勝たないと」
「そういう考えもあるよね〜! ポケモンバトルで強さを追求する! それも素敵ジャン!」
「……? 先程と言っていることが」
「違わないよ。ボクはポケモンバトルで楽しさを追求する! だからボクにとっての勝ち負けは楽しめたかどうか! 皆の者のコメントや再生数が良ければ良いほど、ボクの大勝利!」
「そんな考え方があるというの?」
「他にももっとあると思うよ。ポケモンバトルって自由なんだから!」
「自由……」
全身を使って自由を表現する彼女を見て、ふと私の脳裏にクラベル校長の演説がよぎった。彼の言葉を借りるのであれば、ナンジャモさんは自分だけの宝物を持っている。彼女の手でも収まりきらない自由の中に、私の宝物もあるのだろうか。
「まーた難しい顔しちゃって! 笑う門にはトゲチック来る! ね?」
「……うん」
多分今の私は先程と違って上手く笑えていない。それでも意識して口角を上げてみると、なんだか気が楽になった。
「という訳で今日の勉強会はここまで! ご飯チンしてシャワー浴びて寝っるぞ〜!」
「ああ、そうだ。ご飯作っておいたから」
「へっ」
「ロトムもありがとう。もういいわ」
逆算していた甲斐あってちょうど炊飯器の知らせが届いた。キッチンに向かうと、鍋を焦がさないようにしてくれていたロトムがスマホに戻ってくる。
「ボクのために料理作ってくれたの!?」
「お礼にこれくらいは」
「わぁ……! アリガト〜! ボクのお嫁さんになって〜!」
「私まだ十二歳よ」
「そこ!?」
彼女は随分美味しそうに食べてくれた。それがなんだか心地良かった。これからも栄養のある料理を作っておこう、なんて思いながら私は眠りに落ちる。その日は、とてもよく眠れた。