長い時間をかけてベイクジムを突破した私は、その後順調にジムを勝ち進んでいけた。順調にというのはあくまで勝ち負けの上での話で、内容は苦戦の連続だったけれど。それでも……
「ターンして『アクアステップ』よ! 私たちの足取りで思いをぶつけましょう! ウェーニバル!」
「チルルッ!」
攻撃を受けたキラフロルの特性で『どくびし』が撒かれる中、リーグ委員長……オモダカさんの拍手が響いたわ。
「……チャンピオンアオイの言った通りでしたね。次のチャンピオンランクは貴女だと」
「ふふっ、嬉しい。でもこれは……あくまでもチャンピオンテスト。そう、テストなのでしょう? 思えば後半のジムも、そうだった。現実を突きつけるという役割が与えられているだけで、必ずしも本気ではなかった。……チャンピオンランクがジムリーダーになるための条件と聞いた時、もっと疑問に思うべきだったわ」
それでも……順調に勝ち進んでこれたのは。チャンピオンランクが現実を乗り越えるために与えられた試練であるからに他ならなかった。
「貴女はジムリーダーカエデのご息女でしたね。ポケモンリーグのシステムについて思うところがあれば、是非考えをお聞かせください」
「嫌いだったわ。あれだけ強いお母さんが負けてばかりなんだもの。でも、実際に巡ってみて感じたわ。強いからこそ誰かを導く道標になれるのだと」
あれだけよく分からなかった大人の感情も今では分かる。みんなも子供の頃から強かったわけじゃなかった。支えられて強くなれたから、次の世代にも受け継ごうと思ったのね。それが自分がしてきたことの証明にもなるって。
「自分を見失っていた私の在処をポケモンリーグのシステムが教えてくれた。だから……ありがとうございました!」
「……それを聞けて良かったです」
「私は……導くには学ぶことばかりで、まだまだ子供だけど。いつか支えられなくても大丈夫なようになってみせる。ジムリーダーを任せられるに足る強さを積み重ねてみせるわ」
「歓迎します。チャンピオンミラ……類い稀な若き才能。共にパルデアのトレーナーを導く光となりましょう」
「はい……!」
後で知ったのだけど、ハッサク先生が予め私がジムリーダーを目指していることを耳に入れておいてくれたらしいの。だからチャンピオンテストをクリアしたことで、オモダカさんは私のことを快く受け入れてくれたわ。
あの日から幾年の月日が流れた。私はレポート——と言っても日記のようなものだけど——を読み返して、宝探しの終わりを懐かしんでいたわ。ペパーさんに誘われてパルデアの大穴に降り立った時のことを。
「エリアゼロすっごいの! 早く行こーっ!」
「……特性『マイペース』なん?」
「そうよネモさん。先が気になるのはみんなも一緒よ」
「こっちは『てんねん』か……」
ネモさんは降りてすぐ先を見に行ってしまったわね。ボタン……あの時はさん付けで呼んでたっけ。彼女にも突っ込まれていたわ。私への突っ込みはよく分からなかったけれど。ボタンとペパーさんは最初はギクシャクしていて……というより、ペパーさんが初めて会った時のように鬼気迫っていたからなんだけど。後に話してくれた事情から仕方なく思えたし、ボタンも納得していたわ。そこからは色々話したな……
「え? アオイ、スター団のこと話したん?」
「うん! 今年入った子も知ってた方がいいなーって。カッシー達のこと!」
「カッシーやめい……」
「……私、アカデミーでネモさんとよく戦っていた時どうも噂になってたみたいなんだけど……」
「え! そうだったの!?」
「そりゃ最年少チャンピオンランクになったばかりの生徒会長と毎日バトルしてたらな。ほとんど来てない俺の耳にも入ったぜ」
「だから悪目立ちというか……話に出てきたような対象になりかねなかったのだけど。全くそういうことはなくて、平和そのものだったの。それがボタンさん達のおかげなんだと知れたから……ありがとうって、伝えたくて」
「……ん。そか……。うん。よかった」
ペパーさんの話の後はボタンの話をして、それから私達の話になって。
「チャンピオン目指そって言ったらチャンピオンになってくれたんだー」
「何それヤバ……」
「それだけで引き受けたのね。らしいと言えばらしいけど」
「楽しそうだったし! おそろい勝負楽しかったよねー!」
「ねー!」
「そう言うアンタは?」
「ミラはジムリーダー目指してるんだよね!」
「ええ。そのためにチャンピオンランクになる必要があったから」
「それでなる辺り大概じゃん……?」
「短期間でチャンピオンランクが三人生まれた1-Aヤバすぎちゃんだな……。誰が一番強いとかあるのか?」
「うーん……ネモさんかしら。あれだけ負けるとね」
「それならアオイじゃないかな? わたしもアオイにそんな感じなんだー」
「でもこの前ミラと約束の再戦してさー。楽しかったけど、負けちゃってすっごい悔しかったなー!」
「「……!」」
「え! そうだったの!? わたし以外に負けちゃヤダー!」
「ごめーん!」
「リーグの傘下に入って勉強させてもらってるから、成果を出せて良かったわ。相性の問題もあったと思うけどね」
「あ! わたし達、三角関係だね!」
「言い得て妙ね」
「いや、言い方妙でしょ……? てかどこかで見たことあると思ったら、オモダカさんに連れてかれた時に……」
「言われてみればすれ違ったような……。ふふっ。案外長い付き合いになるかもしれないわね」
確かLP管理システムの改善のためにオモダカさんがスカウトしたのよね。あの時はかもしれない程度だったけど、本当にそうなるとはね。この後は両親の話になったっけ……。
「アオイのお母さまは優しいよね」
「優しいよー! 大好き!」
「会ったことあるのかよ?」
「うん! 手作りサンドイッチすっごく美味しそうだった!」
「へー、いいなあ……。すっげえ美味いんだろうな」
「チャンピオン祝いに作ってくれたペパーさんのサンドイッチもとても美味しかったわ」
「へえ? 料理するんだ」
「趣味レベルだけどな……」
「お母さんのもペパー先輩のサンドイッチもほっぺた落ちちゃうくらい美味しいよー! そんな話してたらお腹空いてきちゃった!」
「うっし! 次の休憩ポイント着いたら、たらふく食わせてやる!」
「やったー!」
「じゃ、うちらの分もよろ」
「全員分か!?」
「私も手伝うわ」
「ミラもいける口なんだ?」
「この前作ってもらった激辛料理すごかった! 力溢れる! って感じ! デザートまでつけてもらっちゃった!」
「あ! カエデさんに教えてもらってた?」
「以前お母さんに教えてもらったのとはまた別のやつね」
「カエデさんがオカンなんか……。そういや、髪の色おんなじ……」
「ええ。リーグとは別で、ハイダイさんにも協力してもらってスイーツのことも勉強してるの」
「あれ? 確か前は本格的なやつは難しいって……」
「そう思ってたんだけどね。勝手に限界を作って諦めちゃうのは馬鹿らしいなって思い直したの。お母さんが一年に数日だけ『ムクロジ』を離れる日が出来そうなのもあって、やれるだけやってみようかなって」
「その考え方、すごくイイね! ミラならやれるよ!」
「ふふっ。ありがとう」
色々話しながら、たどり着いた最深部であった出来事はあまりに衝撃的だったな……。全てが終わって、私達は寄り道をした。とてもかけがえのない時間を過ごしたの。その時間は、私の宝探しそのものを表しているかのようだった。
「ただいま〜」
「おかえり、お母さん」
「この時が楽しみで仕方なかったわ〜。……ミラと本気でバトルできる日が、来るなんてね」
待ち人がジムに現れた。待ち人とはお母さんであり、ジムの視察担当でもあった。以前は人材が不足していたことを理由に、トップチャンピオン・リーグ委員長・アカデミー理事長を務めるオモダカさんがこなしていたらしいけど、当然ながら多忙の極みだったわ。視察はジムリーダーに導く強さがあるか確かめるためのもの……つまり手加減なしの本気勝負。最強のトレーナーを目指すお母さんにとっては、まさに天職だった。代わりにジムリーダーを任せられるまでになった私も、同じ。ナンジャモさんやリップさんにアドバイスを貰って作り上げたバトルコートで行うポケモン勝負やライブは最高! 私の好きがみんなにも広がっていくのが堪らなく楽しい……!
待ち遠しそうにするお母さんについていこうとしたら、レポートを開きっぱなしなことに気付いた。夢を叶えるために随分寄り道したな……。その足跡で誰かの道標になれたらいいな、なんて思いながら私はレポートをゆっくり閉じたの。